小説

小説 レジスタンス オブ ホスト 18

「遅いじゃないか清水!お前のせいで俺の仮眠時間が少なくなるんだぞ!」

警備員に扮した三神竜也は、ホテルの地下駐車場入り口前で、ベテラン警備員から怒号を浴びせられた。勤務交代時間に遅れたからだ。

「・・・すいません。最近下痢気味で。」

「ったく・・・・お前もすぐ辞める口か?」

「へ?」

予想していない質問をぶつけられて、竜也は一瞬口ごもった。

「いや・・・辞めませんよ。でもなんでそんなこと聞くんです?」

「若い奴らは大体すぐ辞めていくんだよ。精神的にも肉体的にもつらいからな。ま、そのおかげで俺らみたいなのが失業しなくてすんでるんだからいいことなのかもな。」

男は、胸ポケットからタバコを一本取り出すと、口にくわえた。

「そ、そうですよ。で、なんか引き継ぐことはありますか?」

竜也はこの男と会話するのがめんどくさくなって、話題を元に戻した。

「ああ。特に何もないよ。」

「了解です。」

竜也は、小さくなってタバコに火をつけている男の前に立つと、目の前にある道路の左右を確認した。

「異常なし・・・・ですね。車も人の影もないなんて・・・」

「んにゃ、さっき一台地下駐車場に入っていったぞ。」

竜也の耳は、男の言葉を聞き逃すことはなかった。

「何時ごろです?」

竜也は素早く言葉を返す。

「一時間前くらいかな・・・黒のセダソがこっちの誘導を無視して、もの凄いスピードで入っていったのは・・・・あれはびっくりしたよ。」

「窓にはスモークは張ってあったんですか?」

「一瞬だったからな・・・・そこまでは・・・・・」

「そうですか・・・・・」

竜也の声のトーンが、低くなった。

「ま、そんだけだ。何か事件でも起こったら、その携帯無線機で知らせてくれよ。ほとんど使ったことはないけどな・・・」

男はアスファルトでタバコの火を消すと、竜也を背に歩き始めた。

「あの・・・・」

「何だ?まだ、何かあるのか?」

男は、竜也に顔を向ける。

「名前・・・・・なんて呼べばいいんですか?あだ名とか嫌いですよね?」

男は、はじめ竜也の言葉の意味がよくわからず、少しの間黙っていたが

「ああ・・・・そうか・・・・そうだな・・・・・飯嶋って何か堅い名前だよな・・・・・・・・康(やっ)さんでいいよ。みんなそう呼んでる。」

飯嶋は、ヤニだらけの歯を見せた。

「康さん、これからもよろしく!」

竜也は そう 答えた。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 17

☆ 前回までのあらすじ ☆

主人公 三神竜也は北海道サッポロ市のグランドホテル「エクス」で警備員に扮して潜入。そこで彼はある人物の犯罪の決定的瞬間を抑えるためにその人物が宿泊している部屋を突き止めようとしていたのだが・・・・

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登場人物紹介

登場人物紹介

三神竜也(26) クラブ「スペースハリアー」を経営している。

三神悠里(29) 

高井晋司(26)

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小説 R・O・H(レジスタンスオブホスト) 16

『・・・・何で拳銃なんて持ってるんだ!?ここは日本だぞ!?』

清水は、背中に突き刺さる突起物の感触に震え、自分から両手をあげて降伏のポーズを示した。

『こ、こんなとこで、こいつ、何をしよってんだ?テ、テロか?』

清水の背後では、男が物音を響かせていた。

「うくっ」

清水の口に何かが押しあてられる。

『口が・・・開かねぇ・・・・・ガムテープか?』

言葉は、清水の脳内で反芻されるだけで、返事は返ってこなかった。

「!?」

清水が気持ちを動転させている間にも、着実に彼の自由は制限されていった。

『何も見えない!!あ!耳に何か入れやがった!!これで何も聞こえなくなっちまった!!』

声にならない絶叫が彼の体中に響き渡り、彼は手をまわして周囲の情報を何とか得ようと必至にもがいた。だがその行動も、一瞬のうちにうしろにいる何かによって、終幕をむかえた。

『業務用のタオルとラッピング用の紐で二重に縛れば、そう簡単にほどけないだろ・・・拘束道具はここにあるものだから足はつかないし、情報をシャットアウトすれば、恐怖と不安で記憶や情報があやふやになるかもしれないしな・・・』

掃除夫山田こと、龍也は、警備員清水の衣服と装備を身につけると、洋式トイレに山田のIDとネームプレートを流し、清水を掃除用具入れに押し込んで男子トイレをでた。

「一晩ぐらい入ってても死にはしないさ・・・・しかしあいつの髪は黒だったな・・・・あとでヘアスプレーで何とかするか・・・」

竜也は、指が拳銃の形をした人差し指のままだったことに気がつくと、それを隠すようにポケットの中に押し込んだ。

「拳銃なんて持ってるわけないでしょ。ま、実際にあったことだし馬鹿に出来ないよな。こうゆうの」

そのとき、竜也のイヤホンから、勤務交代の命令が飛び込んできた。

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小説 R・O・H(レジスタンスオブホスト)15

「そろそろ交代の時間だけど・・・・・変わりますか?」

「いや・・・・・いい。寒いだろ?」

「若いから大丈夫ですよ。こっちは監視カメラの映像と睨めっこし続けて、目が痛いんで・・・」

30台近くの小型テレビ画面が、狭い警備室の暗闇の中で、ぼーっと警備員の顔を青白く浮かび上がらせていた。

「あと一時間したら交代だろ?それまで待てよな。」

「退屈してんですよ。不審者なんてカメラに映りませんから。映画じゃあるまし。」

「こっちも異常なし。いつものことだ。」

「功さんは悪戯しても起きないですしね・・・・よく眠れるよ。」

「寝かせてやれよ。若くないんだから。」

「まったくやりがいなんてありゃしない・・・・・・携帯だって圏外なんだから・・・」

「しりとりでもするか?」

「冗談・・・・あ、ちょっと席はずします。」

「何だ?誰かいたか?」

「違いますよ。トイレです。」

「いちいち言わなくていいよ。そんなこと。」

「へいへい。」

清水は、警備服のまま、部屋をでた。胸には、無線機をつけたままである。

「来週で辞めようかな。契約社員じゃこの先不安だしな・・・・」

男子トイレに入ると、一番奥の個室のドアが閉まっていることに、彼は気がつかなかった。

「30になっても続けられる仕事じゃないな・・・・・まったくさ・・・」

小便の湯気が、顔を覆うのがたまらなく不快であった。

そして彼の後ろで、音もなく、個室のドアがゆっくりと開き始めた。彼は、まだそのことを認識してはいない。

「強盗でも侵入してくれば、俺がかっこよく・・・・・」

最後の言葉は、かき消された。とゆうより出せなかった。

彼は脊髄で、細く長い突起物が当たる感触を感じ取った。

カチャ

声が出なかった。出せなかった。

「!?」

「喋るな!」

低く鋭い声が、清水の耳をとおって脳髄に響き渡る。

「振り向くな、じっとしてろ。」

清水の背中にさらに強く、何かが押し付けられていった。

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小説 R・O・H(レジスタンスオブホスト)14

『グランドホテルの中に潜入できたはいいが、どうする?』

山田隆と明記されたIDカードとネームタグを確認し、それを身に付けて掃除夫として振舞っている龍也には、多少のあせりがあった。

大通り公園で、やつらの不正や賄賂、便宜を図っている現場を抑えて、彼らをメディアや警察、検察に告発するプランが、大幅に下方修正されているのではないかという実感が、龍也に焦燥感を抱かせていた。

「腕の一本でも折れば、俺の気も済んだのにな・・・」

ホテルの監視カメラの死角を意識しながら、龍也は汚れてもいないホテルの床を、山田隆として磨きつづけるのであった。

「フレキシブルアーマーの稼動データもあるし、ここら変が潮時か・・・・・」

腕時計の針を確認する。午前12時を過ぎたあたりであった。

「東館と西館と北館のどこにいるんだ。まさか受付で聞くわけにもいかないしな・・・」

付け髭と黒ぶち眼鏡は、龍也の茶髪に不似合いな組み合わせである。

「ススキノにいけば、情報は手に入るか。何のためにホスト店を経営してるんだよ。あ、キャバクラのほうが良かったかな・・・」

ホテルの廊下は、龍也以外、人間の息吹が感じられないほど静まり返っていた。

廊下の蛍光灯は、永遠に、廊下を照らしつづけているのであろうか?

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小説 R・O・H(レジスタンスオブホスト)13

「おい山田!遅いじゃないか!ごみ捨てるのに何分使ってるんだ!?」

「すいません。タバコ吸ってたんで・・・」

作業帽を深くかぶり、山田は頭を下げた。

「ちっ、アルバイトはいい気なもんだぜ。」

「ま、そんなとこです。深夜手当てがあってナンボですから。」

山田は、自分のロッカーを見つけると、急いで胸に自分のネームプレートをつけることを忘れなかった。

「・・・・・まあいい。今は急な仕事もないから許してやるよ。」

「ありがとうございます。・・・・・し、品穂さん?」

「ああ・・・・・変な名前だろ?」

「そんなことないです。」

「へっ、急におとなしくなりやがって。ニコチンの性か?って・・・・おい!クリーニングマシンを持ってどうする気だ?」

山田は、部屋の隅に置いてあったホテルの床を洗浄するためのマシンをひきずって、部屋を出ようとしていた。

「・・・・・床を磨こうと思って・・・・することないし・・・」

「昼間やったろうが。もう忘れたのか・・・」

「たしか、東館の6階以降にやり忘れた箇所を思い出したんです。」

「今から?仮眠取らなくていいのか?」

「若者は一日くらい徹夜しても大丈夫ですよ。」

「俺もまだ三十だけどな。いいよ。やってこいよ。」

「ありがとうございます。品穂さん。」

山田は、愛想のいい笑顔を品穂に向けた。

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小説 R・O・H(レジスタンスオブホスト)12

「山田!このごみの捨て場所わかってるか?」

「はい。外のごみ置き場ですね?」

緑色のユニフォームを来た茶髪の青年がその声に反応する。

「お前、今日が初仕事か?グランドホテルはどうだ?」

「凄いっすね、ここ。初めてですよ・・・こんなとこで掃除するの。」

青年は、目を輝かせながら答える。

「いいか。まじめに仕事してればこのホテルの宿泊チケットくらいやらないでもないからな?」

上司らしき眼鏡の男が、青年の肩を叩いた。

「本当ですか?」

「ああ。だからまじめに仕事しろよ。最近は辞めるやつが多くて困ってるんだ。時給は安いけど頑張れよ。」

「はい!外にごみ捨てに行ってきます!」

青年は、茶色いごみ袋を両手に抱えて、関係者専用と書かれたドアを飛び出した。

そして、そのあと、彼はしばらく戻ってくることはなかった。

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小説 R・O・H 11

『・・・・・・・・・・・・』

龍也は周りを警戒しながらも、盗聴のために仕掛けておいた録音機の再生ボタンを押した。

「・・・・・あっ・・・・○×~<”!?」

ベンチに座っていた男達と録音マイクとの距離は、およそ10メートル。車のエンジン音や人の声などが多く交じり合っていたが、声を拾えていないはずはなかった。

「・・・・・・・原田さん。場所を変えましょう。どうやら変な虫が公園の中にいたようですぞ。」

ようやく、龍也の耳は、男達の声を認識し始めた。

「!?警察ですか?メディアですか?」

「わかりません。ですがどっちにしろ、このままじゃ迷惑がかかります。また日を改めますか?」

「いえ・・・是非今日中に渡したいものがありまして・・・それを防さんに・・」

「わかりました。なら車を用意してあります。どうぞそちらへ・・」

「行き先は?」

「グランドホテルですよ。予約してあります。そこなら」

「はい。」

龍也は、止めていたバイクのハンドルをねじ込んだ。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 10

「さっきの用心棒にもっと聞いておけばよかったか!?」

龍也の乗ったバイクは、サッポロのイルミネーションの海を、目的もなく回っていた。その間にも時は平等に、人間達の間で、刻まれていくのだった。

「遠くに入ってないはずだ・・・・ああ・・・そのはずだ・・・」

力強くバイクのギアをあげると、龍也はメットの外部に取り付けられた赤外線センサーのスイッチをOFFモードに切り替えた。

「バッテリーを使いすぎる・・・・・何か他にやつらを捕まえる手立てはないのか・・・」

龍也は、目の前の信号機が青に変わるまでのあいだ、自分の所持品をくまなくチェックし始めた。

「ン・・・・集音マイク・・・・・さっき盗聴用に使っていた・・・」

デジカメとセットで持ってきた集音マイクとMD録音機が、龍也の胸ポケットに静かに眠っているのが確認できた。

「・・・・・・・まだ録音モードになっている・・・・切るのを忘れたか・・・・・・・・・・・・・・・・・・これだ!」

龍也は、バイクを路肩に止め、いそいでMDの再生ボタンを押した。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 9

『時間をかけずぎたか・・・』

サングラスの男を振り切り、龍也は公園の隅のベンチに駆け寄った。

『チッ!』

さっきまでいた男達の姿は、ベンチの上から忽然と消えていた。赤外線カメラを使って公園の中を見回しても、動く人影のようなものは、確認できなかった。

『逃げられたか。』

龍也は自分の読みの甘さを痛感すると共に、茂みの中に隠してあったバイクにキーをねじ込んだ。

『奴らが雇っている用心棒の気配を感じ取れなかった・・・・・いくらフレキシブルアーマーを開発したって、これじゃあ何の意味もないじゃないか!!』

龍也は、唾を吐き出そうとするのを必死にこらえると、勢いよくハンドルを切って、公園からパチンコ球のごとく飛び出した。

「タクシーや迎えの車がくる前に見つけ出す!!じゃないと・・・・何もかも意味がなくなる!今日のことも、これからのことも!」

龍也の焦りと不安とは裏腹に、冬のサッポロの街は、深く穏やかであった。

まだ彼の夜は、始まったばかりである。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 8

カメラでシャッターを切ろうとしたその刹那、龍也は何かにつまづいて、地面に激突した。

「グッ!!」

大地との衝撃が体全体を包みこみ、龍也は最小限の悲鳴をあげた。

「こりゃ失礼。私の足が君の足に絡まってしまったみたいだな。」

地面にうずくまる龍也の背中に、男の声がのしかかった。

「・・・・・・・」

「あんた・・・・ここで何してる?見たところ暴走族じゃなさそうだな?」

「・・・・・・」

「喋れるんだろう?日本語通じないわけじゃあるまい?」

男は、龍也のヘルメットをぽんと叩いた。

「やめときな。世の中には知らないほうがいいこともあるしさ。ここで素直にデジカメ渡してくれれば見逃してやるから、な?」

男はタバコに火をつけると、煙を龍也に吹きかけた。

「じ・・・・・」

「あ?なんだ?」

「邪魔するなぁ!!」

龍也は素早く足を回すと、男の右足を引っ掛けた。男はその俊敏な動きに声もあげず、その場に尻餅をついた。

「!?」

「騒ぎが広がる前に、片をつける!」

一瞬何が起こったか理解できていない男の顔めがけて、龍也の拳が一直線に振り下ろされる。

「ま、まて!」

「殺すもんか!」

男がかけていた黒のサングラスが、サッポロの夜空に静かに舞っていった。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 7

『腕をへし折るくらい・・・・・いや・・・・賄賂の証拠さえつかめば・・・』

ヘルメットの男は、ゆっくりと公園のブランコで密談している男達の下へ近づいていった。手には小型録音マイクとデジカメが握られている。

『こんなところでボディガードもつけずに打ち合わせして・・・・・こいつら馬鹿なのか?』

デジカメを握る手がかすかに揺れた。

『龍也・・・・落ち着けよ・・・・証拠の品を出すまでは手が出せないんだからな。』

龍也は、生唾の飲み込む音を聞いた。

「ハァハァ・・・・・」

息は、まだ白くはなかった。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 6

黒ずくめの男は、ポケットから何かを取り出すと、それを自分の座っているベンチのよこにそっと置いた。

「・・・・・・・・・・・」

右手をヘルメットの横に当てて、男はじっとベンチに座ったまま、動かなかった。

「・・・・・・・ですから、私はなにもしていませんよ。これは善意で行っているのですよ?」

男の耳の中に装着されたイヤホンから、人の声が流れ出す。

「ですが、私に見返りを期待しているのではありませんか?」

「そんなことはありませんよ。ただ・・・・」

車の音でかき消されるぐらいの声で、男達は何かを喋っているようだった。

「私達に仕事をくれませんか?あなたの現在の地位なら便宜を図ることも可能でしょう?」

「私が?」

「地方のサッポロ市と言えど、格差は他人事ではないのです。若者は東京に行って帰ってこないし、自衛隊員になる者も多いのですよ。」

「確かに衣食住は保証してくれるでしょうね。」

「ですから我がシング商社の新兵器開発の件をよろしくお願いします。今のままでは社員を解雇しなくてはならなくなってしまいます。」

「善処できるとは思えませんが、できるかぎりは・・・」

「よろしく。」

黒ずくめの男は、立ち上がった。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 5

11月6日 午前1時 サッポロ市大通り公園付近にて

その日、初雪を終えたサッポロの街は、人通りも少なく静かな夜であった。これからやってくる厳しい冬に備え、住人達はやっておかなければならない仕事に追われているのだ。

公園は、そんな事とは無縁のホームレスや酔いを覚ましているサラリーマンや、真実の愛を語りあっているカップルたちの集会所として、利用されている。そんな夜であった。

そんな夜に限って、事件は起こった。

一台のバイクが、公園の入り口に止まったのだ。

そのバイクに乗っていた人影は、しばらくの間、頭を横に振り公園の様子をうかがっているそぶりを見せた。

そして、エンジンをカットしてバイクを公園の木の茂みに入れると、人影は、ゆっくりと足音を立てずに公園の中へ進入していった。

ブラックのつなぎのスーツと、ヘルメットかぶった、その人らしきものは、近くのベンチに腰を下ろして、そのまま動かなかった。

遠くでは、救急車のサイレンの音が、夜の闇を切り裂くように、鳴っていた。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 4

ピンポーン!

龍也のマンションの一室に、チャイムの音が鳴り響く。

「さっきの宅急便の人じゃない?」

ソファの上で、雑誌を片手に女が口を開く。

「そうみたいだな。」

龍也はまっすぐ廊下を抜け、ゆっくりとレバーを引いた。

「三神・・・・・龍也さんのお宅ですか?お届けものです。」

「ああ・・・ご苦労様。印鑑はありますよ。」

「全部で5つ、すべて割れ物ですがよろしいですか?」

「すいません。マンションの五階まで運んでいただいて。」

「い~え。こちらもエレベーターで運んでいたから大した労力は使ってませんよ。」

キャップを被りなおし配達の青年は、にこっと笑顔を返す。

「はい・・・・これでいいですね?」

「ありがとうございました!またよろしく!」

振り子のようなお辞儀をして、青年は大きな音も立てずにドアを閉めた。

「なんか届いたの?店で使うお酒?」

女は、廊下に無造作に置かれたダンボールの山を見て言った。

「そんなもんだよ。ようやく試作品が届いたんだ。」

「へぇ~」

女はそういうと、冷蔵庫の中をまさぐっていた。

「やっと・・・・できたんだ・・・・・俺の・・・・・・・武器が・・・・」

女に聞かれないように、龍也はそっと呟いた。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 3

「ターゲットはKだけに限定する。Sはいい。やつらはどうにでもなるからな。」

龍也は、自宅から3キロ離れた小さな公園で矢崎と顔を合わせた。

「フレキシブル・アーマーの生産ラインはどーなってる?工場と折り合いはついたのか?」

「ああ。最初は信用されなくて大変だったが、袖の下を使ったら黙ってうなずいたよ。」

龍也は、銀のジッポーのふたをゆっくり指で弾いた。一筋の閃光が、彼の顔をゆっくりと照らしていく。

「使いこなせるか?ホストのメンバーだけじゃ東京を占拠することもできやしないぜ?」

「若い連中で世の中に不満のあるやつらをあつめるさ。とくにゲームや格闘技経験のあるやつらをな。」

タバコの煙が、夜のススキノの街をゆっくり通り抜けていく。

「北海道は、地理的にいい。お上の監視が届かない場所は、歴史的に見て反乱勢力が結集するのには最適だな。」

矢崎は、黙って龍也の背中を見つめるだけだった。

「・・・・・・・・」

男達は、しばらく、何も喋らなかった。

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小説 そしてショパンを探す旅へ 二章

薄暗いレストランの店内は、大人の社交場として程よく賑やかで、程よく静かであった。店内の片隅では、ピアノの音色が、人々に仕事の後の心地よいくつろぎと安らぎを与えていった。

「いい曲だね。なんていう曲なの?」

「さあ?俺ピアノよく分からないし。」

男は女の問いに即答で答えた。

「夜想曲(ノクターン) 第2番ですよ。」

ピアノを黙々と弾いていた青年が、そっと彼らに呟いた。彼の身なりは、この店に相応しくない小汚い格好をしていた。

「ねえ、龍也もピアノ弾けないの?男がピアノ弾けるのってかっこよくない?」

「さあ・・・・・そんな暇ねぇよ。やることたくさんあるしな。」

龍也と呼ばれた青年は、さっきから携帯電話の液晶から目を外すことはなかった。

「チッ!納期を先延ばしにしやがって!あのパーツを作るのに一ヶ月以上もかけてるなよ!」

「何の話?仕事?」

「ま、そんなとこかな。それよりもう出ようか?ホテル予約してるだよ。」

「え?ホント!?いこいこ!」

女は龍也の腕にしがみ付いた。

「あ、曲名教えてくれてありがとな。ショパンだっけ?」

「ええ。そうです。」

ピアノを弾いていた青年は、弾きながら龍也に顔を向けた。

「あなたは、もう、後戻りはできないのですか?」

「!?」

龍也は、その言葉を聞いた瞬間、体が硬直するのを感じていた。

「なっ!」

だが、青年は、それっきり龍也の顔を二度と見ることなく、夜想曲を引き続けた。

龍也は、店を、出て行った。

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小説 レジスタンス オブ ホスト 2

「なんじゃこりゃ?何の兵器の設計図だよ。こりゃ」

吉田はメイダラ重工業の地下工場で一人うめいた。彼の眼前ではオートで次々と戦闘機の部品がベルトコンベアの上で生まれていった。

「F-1398Rの部品にしてはおかしいな?揚力を発生するような形状をしてないぞ?」

設計図には、ロボットのアームのようなイラストが詳細に描かれているだけであった。

「さあな。俺達はやることをやるだけさ。上がいったことに意義を唱える権限はないさ。」

津島は、安全第一と書かれた黄色のヘルメットをかぶりなおした。

「死の商人は何をやっても日陰者さ。わかるだろ?」

「ああ。人には言えないことを死ぬ気でやってるんだものな。家族にはほんとのことはいってないし。」

吉田は24時間フル稼働している作業ロボットを見下していった。

「うちの工場では、この部分だけを作ればいいんだな?」

「そうらしい。他のパーツのことは知らんし教えてはくれないだろ?」

「注文をしてきたやつはどんな感じだったんだ?」

「ン・・・・」

吉田の言葉に、津島は言葉を切った。考え込んでいる様子であった。

「どうした?アッチ系だったのか?」

「いやな・・・・・変なんだよ・・」

「変?」

「どうみてもあれはガキだった・・・・・」

「ガキ?」

「ああ・・・・・大学も出ていないような頭の悪そうな男でな。ネクタイもろくにしてない状態でうちの工場長と話していたっけ・・・・」

「・・・・・・」

「あれは・・・・まるで・・・・・・・」

津島は、顎に置いた手を離していった。

「ホスト・・・・・・・だな。」

無機質で冷徹なマシーンが奏でる音は、工場の建物の中で永遠に続いていくようなリズムを刻んでいく。

たとえソフトである人間が死に絶えたとしても・・・・・

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小説 レジスタンス オブ ホスト

「龍也、どこ行くの?こっちに来て飲もうよ!。」

「ごめんね。ちょっと他のテーブル周らなくちゃいけないんだ。またね。」

軽く龍也は手を振った。

賑わう店内を見回し、龍也はお目当ての客がいるのを確認すると、そっとその席の近くに寄った。

「山田草子様、これはこれは来店ありがとうございます。」

「他人行儀の挨拶なんて聞きたくないわね。こっちに来てよ。龍也。」

「はい。かしこまりました。」

龍也の目配せで、他のホストの男達は、一人、また一人ソファーからいなくなっていった。

「・・・・・・今日は大事な話があるんでしょ?お酒は頼まなくていいのね?」

「ええ。ぜひ草子様にしかできないことでして・・・・・例の件大丈夫でしょうか?」

「それは話をつけてあるわよ。私の知り合いにはそうゆう系の人間も多いし、融資は最大限してあげるわ。」

「本当ですか?」

龍也の額にしわが寄る。

「ホスト経営だけじゃ資金が足りないんでしょ?」

「ええ。自分の給料はすべてそっちに回していますから。会計士の監査もある程度は誤魔化せます・・・・」

龍也はあたりを必死に警戒していた。

「私はアンタが気に入ったから融資の話にのったの。アンタじゃなきゃとっくに断っているわ。」

「でも、後々草子様には迷惑がかかります。その時はあなたとのつながりを悟られないように工作します。安心してください。」

龍也は草子の皺くちゃの手をしっかりと握り締めた。その手は微かに震えていた。

「・・・・・・」

「迷惑はかけませんよ。そして、僕は・・・・・」

唾をゆっくりと飲み込んでから、龍也は草子の耳元で

「死にませんから・・・」

確かに、そう、言い放った。

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小説 そしてショパンを探す旅へ

「ピアノを弾かせてもらえないでしょうか?一曲だけでいいのです。」

その男は、突然私の店のアルバイトに、そう告げた。店にある大きなグランドピアノを見つけたのだろう。彼は、シミで汚れたジャケットとボロボロのジーンズを引っさげて、格式高い当店に土足で上がろうとしたのだ。

「お客様、どうかなさいましたか?」

私は、招かれざる客の相手をしなければならなくなった。

「あの・・・・・・もしよろしければあのピアノで何か曲でも弾きましょうか?今は誰も弾いてないように見えますし・・・・」

男は帽子を胸に当て頭をたれて、私に懇願した。

「いや、今日は契約している演奏家が休みでしてね、本日の演奏はすべて中止しているんですよ。残念ですか・・・・」

私は、もう男の姿を直視するのは辞めにしようとした。だが男は私の話が終わる前に、歩き始めていた。

「ちょ、ちょっと!」

彼は、まっすぐ店の中央に鎮座しているグランドピアノに向かい、店で食事をしていた富裕層たちの視界に入り始めていた。

「誰か警備会社へホットラインをつなげ!不審者が我が店内に侵入したと報告するんだ!」

店内が徐々に異様な空気に変わり始める中、男はその周りの人々の視線を気にするそぶりを見せず、ゆっくりと鍵盤に指を滑り込ませていた。

「♪、♪♪、♪♪♪、♪」

男の指から、みずみずしいピアノの音色と旋律が溢れ出すと、さっきまで騒いでいた人々の会話も徐々に消えていった。

フレデリック・ショパン 作曲 「別れの曲

ただただ私は、彼を捕まえる事も忘れ、その曲の旋律の海へ埋没していく自分の感覚に襲われていった。

「・・・・・・・・・」

すべては、彼のピアノの音色だけであった。

「あいつは、あいつはどこへ行った?」

私は、彼の演奏が終わったあと、誰もいないグランドピアノを見つめていた。

拍手は、鳴り止みそうになかった。

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小説を書き終えて

ようやく小説が書き終わったけど、なんか終始グダグダで、テンポも悪く、何が伝えたかったのが自分でもわからないまま終わった感じで

正直ぜんぜん納得していません。

伏線もたいしてはれないまま、SF設定や世界観も崩壊していったような気がします。

次はこのブログで日記でも書こうかそれともこのまま私小説でも書こうか悩んでいるところです。

ま、しばらく考えてからまたブログに何らかのアクションがあると思いますので、読者(?)のみなさん、期待しないで待っててちょ。

セイジ

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終)

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

彼らはヘリの中で大地が裂ける音を聞いた。それは人間達の悲鳴にも似た音であった。

そして光の渦が、裂けた大地から溢れ出し、それは大きな閃光となってアジア連合軍基地をすっぽり飲み込んでいった。

「・・・・・・・・・」

「なんて・・・・・・力だ・・・・・敵も味方もすべて・・・・・飲み込んでしまった・・・」

ラインはヘリの窓からその光景を見て、唾を飲み込んだ。

「これから・・・・どうするんだ?お前はサンブックに戻るのか?」

リドックは、ラインをまっすぐ見つめた。

「・・・・・・・いや、俺は帰らないよ。セシルとともに、静かな場所へ暮らすよ。」

「そうか・・・」

ラインとリドックは、最後の会話を、ヘリの中で済ませた。

彼の戦争は、終わったのだ。

そして、この戦いの一ヵ月後、サンブックをはじめとするアジア連合軍は、降伏し、無条件降伏を宣言した。

Fin

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ⑪

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

「隊長!生きていたんですか!?」

「そう簡単に死ねるかよ!ところでお前がヘリを操縦するのか?」

「こんなの戦車よりも簡単ですよ。義手もだいぶ慣れてきましたしね。」

シンは操縦桿を握ったままリドックに返事をした。

「ライン!早く!」

ヘリはすでに発射リフトに移動して、発射シークエンスを開始していた。ラインは、崩れ落ちるコンクリートの天井の破片を避けながらまっすぐヘリを目指して走っていた。

「チイィ!もう爆発が始まっているのか!?」

ラインは、拳で落ちてくる瓦礫を粉砕しながら進んでいった。

「ライン!」

「リドック!」

リドックは、ヘリの扉から腕を伸ばした。

「間に合え!」

ラインは、力強く床を蹴って飛び上がった。

「!」

2人の腕がつながった。その瞬間、発射台からヘリが勢いよく地上へ押し上げられていった。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ⑩

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

「リドック!!」

シースは、涙と鼻水にまみれた顔のまま、リドックの元へ駆け寄ってきた。

「まだ・・・・死ぬわけにはいかないか・・・・お前と一緒に暮らす約束してたっけな・・・」

リドックの顔に優しい顔が戻ってくる。

「助けてくれたのね?」

シースはラインの顔を覗き込んだ。

「あ・・・・ああ・・・・・リドックは親友だから・・・・」

慌ててラインはシースから目線をそらせた。

「早く行きましょ。時間がないの。ヘリの数も足りてないらしいし・・・・」

3人は、慌てて第2格納庫に滑り込んだ。

「お前の仲間はどうしたんだ?脱出したのか?」

「ええ。でも私は組織から抜けたからもうどうでもいいの。あなたさえ無事なら。」

シースはリドックの肩を自分の肩の上にのせた。

「ライン!セシルの遺体はどうした?サン・ブックの大地に埋葬しないのか?」

リドックは、待機しているヘリと逆方向へ向かうラインの背中をみて叫んだ。

「・・・・・探してくる!」

「ラインさん!セシルさんの遺体はヘリに積み込んだわ。もう時間がないの。早く乗って!。」

「そうか・・・・すまない。」

ラインは、基地全体が大きく揺れているのを感じていた。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ⑨

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

ラインはゆっくりとリドックを抱きかかえたまま、地面に足をつけた。そして方をリドックに貸して、彼の体を支えて歩き出した。

「お前・・・・・何で?」

「セシルを殺したことを悔やんでいるのか?それともそれとも軍内部でやったことを悔いているのか?」

「・・・・・両方だよ。だから俺は死んでもいいと思っていた・・・・」

リドックは、汚れた顔をラインに向けた。ラインは、リドックの瞳が子どものような汚れ一つない穏やかな瞳であることに驚いた。

「本当に死ぬつもりだったのか?」

「・・・・・・・」

「答えたくないのか?」

「いや・・・・・本当は死にたくなかったのかもな。砲弾が俺自身に向かってきたとき、死にたくないって思ったから・・・」

「なら・・・・俺と一緒にここを出よう。第二格納庫でお前の愛する人も待っている。」

「・・・・・俺を許してくれるのか・・・・?リドック?」

「許すもんか。セシルの傷は死んだからって癒えるものじゃない。俺自身の中にも傷はある。死ぬまでな。」

「・・・・・・・」

「だから、お前には生きて罪を償って欲しい。死ぬことだけが罪の償いなんて考え方はナンセンスだ。」

「ライン・・・・・」

「罪を憎んで人間(ヒト)を憎まず。人間自身と人間の行動結果の良し悪しはイコールじゃない。俺は そう考えられるようになった。」

「・・・・・」

「悪いのは戦争や殺人兵器であって、人間じゃない。ましてや敵と呼ばれる兵士でもない。それがわかれば、俺はもう人間には絶望したりしないよ。」

「ライン・・・」

リドックとラインは、煙の中、少しだけ笑った。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ⑧

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

その時リドックは、自分が宙に舞っている感覚に襲われた。しかしそれが皮膚感を越えて現実のものとして脳みそに認識され、脊髄反応するまでに、彼の体はビルから落下し、固い地面の上に叩きつけられるであろう。

そして叩きつけられた瞬間、彼の心臓は止まり、そして彼は永遠の眠りにつくはずであった。

「あっ・・・・・・・」

確かに彼は空中に浮いている間、そう呟いていた。そして、それが最後の自分の遺言になるはずであった。

走馬灯などというものは、彼には見る暇がなかった。

そして、彼はえぐりとられたビルの屋上を尻目に、固い地面に引き寄せられていった。

死ぬという意識はない。ただ、自分の体が落ちているという意識しか持てなかった。

そして次の瞬間、彼の体は地面にたたきつけらるほんの数センチのところで、誰かに体を捕まれ、落下軌道が変化していった。

「!?」

心臓の鼓動が高鳴った。まだ生きている実感が彼の体を突き動かした。

「ライン!?」

口から叫び声が溢れ出す。リドックの後ろには、ラインが必死の形相で彼の腕と体を支えていた。

「まだ、どこも打ってないよな?死んでないよな?」

ラインの超人的な力は、リドックの落下を寸前のところで押し止めたのだった。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ⑦

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

遠くで微かな人の声が聞こえる。そして銃弾や爆発の音とともに、それはかき消されていく。リドックは、ビルの屋上でその音を聞いていた。何をするわけでもなく。

「国のために戦うのも疲れたな・・・・・ま、そんな抽象的な理由で永遠に戦いつづけられるわけもないか・・・・」

自嘲的な笑みを浮かべた。

「捕虜になるのも嫌だし、殺されるのも嫌だし、かといって基地を放棄して逃亡しても死刑になってしまう・・・・・なんで民主主義国家の軍隊は国民を強制的に軍隊に徴兵することが許されているんだ?矛盾しているじゃないか・・・」

アジア連合軍兵士達は、次々とロボット兵士に特攻をしかけ、そして散っていった。

「シースの言っていたことが確かなら、あと5分以内にこの基地地下内部は、閃光と爆風と炎で埋め尽くされるのか・・・・・ま、俺達のやったことを考えれば、因果応報かもな・・・・」

リドックは、ラインの恋人、セシルを拷問したことを思い出していた。

「戦争や軍隊が悪いんじゃない・・・・それを許容して容認して、白雉のようにしたがった俺たちが悪いんだよな・・・」

シースに贈るはずだった結婚指輪を握り締め、自戒の念にさいなまれて、リドックは体育座りのまま、泣き崩れた。

「俺自身は、あの大学時代のまま、学生の頃のまま、何も変わっちゃいない・・・・・変わっちゃいなかったんだ・・・・・でもあんなことをしてしまった・・・・俺は・・・・俺は・・・・・最愛の人と楽しい結婚生活なんて・・・・送れる資格なんか・・・・・ないんだ・・・・ないんだ・・・」

そして、泣き崩れるリドックのその場所へ、敵の戦車の砲弾が、今まさに打ち込まれた。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ⑥

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

ラインの頭に、過去の記憶がよみがえる。

『なあ・・・もし、俺達の大学のキャンパスにテロリスト集団がやってきて、俺達を人質に立て篭もったらどうする?』

リドックは、大学の大きな講義室で、子どものような無邪気な笑顔をラインに向けた。

『漫画みたいな話だな。そりゃ逃げるよ。』

『セシルが捕まったら?』

『助けるさ。俺の命に代えてもね。』

『でも相手はライフルだって持ってるし、自爆用の爆弾も持ってる。勝てるわけないぜ』

フンとりドックは鼻をならした。

『そうだな・・・・・・仲間の一人を盾にして脱出する。うかつに攻撃されないように爆弾を巻いたやつを狙ってさ。』

『現実はそううまくいくもんかよ。俺の場合だったら抵抗もしないで一緒に死ぬね。どうせ恋人もいないし、夢も希望もないさ。今すぐにでも閃光のように散りたいよ。』

『どうやって死ぬんだよ?お祈りでもしながら死ぬのか?』

『・・・・そうだな・・・・・・もし死ぬとしたら・・・・・・・最後に眺めのいい場所で景色をみながら死にたいな・・・・学校の屋上とか・・・・』

「屋上!」

ラインは、自分の記憶の中にあった言葉を吐き出して、急速に足の向きを変えた

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ⑤

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

「リドック!」

ラインの声が部屋中に響いても返事をするものそこにはいない。そして、しんと静まりかえった部屋の中で、ラインはさっきまでいた親友の顔色を思い出そうと躍起になった。

「あいつは・・・・・俺に謝りたかったのかもしれない・・・・・セシルを間違って殺してしまった自分の罪の意識を感じて・・・・でも俺はあいつの気持ちが分からなくて・・・・・」

ラインはぎゅっと自分の唇をかみ締めたまま黙ってしまった。

「でも・・・・・この部屋にいないってことはどこに行ったの?」

シースは、潤んだ瞳でラインを見つめる。

「分からない・・・・・・俺もこの基地のことは詳しく知らないんだ。格納庫の場所も自力で探したけど・・・」

「早く連れ戻さないと・・・・爆発に巻き込まれて死んじゃう!!」

「しかし、敵の軍隊も入り込んでいる・・・・見つけ出すのは至難の業だぞ?」

「二手に分かれましょう。どちらかが彼を見つけたら無線で知らせるの。2人で無理やりでも引っ張って格納庫にある脱出用ヘリで逃げましょう。」

「逃げないのか?」

「結婚するって約束したから・・・・・怖くないよ。」

「強いんだな・・・・・女って・・・・・・行動力もついてきたな・・・」

「受身の人生なんかつまらないわ。運命に逆らっても、彼と結婚するって決めたから!」

シースは、今日はじめて満面の笑みをラインに見せた。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ④

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

ラインは、セシルの遺体をやさしく抱いて、格納庫へと向かっていた。

「2人で戦いのない世界へいこう・・・・俺はもうサン・ブックには戻れないしな・・・」

セシルの顔をそっと撫でる。彼女の顔は、傷一つない美しい顔をラインに向けていた。

「死んでいるように見えないな・・・・・セシル・・・・・・ゴメン・・・・・俺なんかのために・・・・・」

ラインは涙を拭うことも忘れ、顔をゆがませながら、ひとり泣いた。

「俺達には、国やサンブックやアジアやEUなんか関係ない。もう関係ないんだ・・・」

そう決意したラインの前に、不意に人影が横切っていった。

「!?」

「お前・・・・・」

どこかで見たような女性であった。女は煙で汚れた金髪を気にもせず、まっすぐラインのきた道を進もうとしていた。

「あ・・・・・・」

「アンタ・・・・・リドックの・・・・・・」

シースは、ラインの姿を見て、はっきりと誰なのか分かったようだった。

「どこへ行くんだ?」

ラインは、シースに質問をぶつけた。

「リドックを連れ戻すのよ。彼と一緒にこの基地を脱出するの。」

「脱出?基地を放棄するのか?」

「ええ。あと10分で、この基地は時限爆弾の餌食になるわ。」

「なんだって!?」

「エイダスナー達が仕掛けたの。敵をこの基地の深くに進入させて、味方ともども殲滅するためにね。あんた親友なのになんでリドックを引っ張ってこなかったのよ!?」

「だってリドックはそんなこと一言も・・・・・」

「あいつは、この基地とともに死ぬつもりかもしれないわ・・・・」

シースの言葉に、ラインは来た道を振り返った。そこにはリドックの生気は、まったく感じられなかった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ③

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

「EU軍へ亡命するんだよ。俺達2人で。」

「どうゆうことだ?」

「わからないか?彼らのロボット兵士製作技術とお前の超人的な身体能力を生んだアジア連合軍の軍事技術を融合させて、彼女を生き返らせるんだ。彼女の心臓はほとんど傷がないし、脳みそも無事だしな。」

リドックは一気にまくし立てた。

「・・・・・・・」

「どうだ?可能性としてはゼロじゃないだろ?」

「断る。」

ラインは、はっきりとリドックの目を見ていった。

「ライン・・・・・」

「もういいんだ・・・・・リドック・・・・・俺はもう疲れた・・・・・もう、戦争はこりごりだ・・・・・」

「まて、もう少し話を・・・」

「じゃあな・・・・・リドック・・・・最後にお前と話せてよかった・・・・もう会うこともない・・・・」

ラインの背中は、誰も寄せ付けないオーラを放っていた。

そして爆弾に備え付けられた針は、まだ休むことなく動きつづけていた。残り時間10分を残して。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ②

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

『時間はあと15分もないのよ!一人で解除するなんて無理よ!』

シースは、最後までリドックの腕をつかんで話さなかった。

「ごめん。俺は、解除しにこの基地に残ったわけじゃないんだ。あいつと・・・・・あいつと最後に決着をつけるために・・・・・・」

リドックは、ひとり静けさの増す基地の通路を走っていた。もはや爆弾を解除する手立ては彼にはない。そして彼の目指す先には・・・・・

「遅かったな・・・・・リドック・・・・・・・」

死体安置所の扉の向こうに、傷だらけのラインが、立っていた。

「ライン・・・・・来ていたのか・・・・・・」

リドックは、静かに扉を閉めた。

「セシルを返してもらう。お前達の研究の検体にされたら可哀想だ。」

ラインは、ゆっくりとセシルの体を抱きかかえた。彼女はラインの腕の中で眠るように息を引き取ったまま、動こうとはしなかった。

「ライン・・・・こんなこと・・・・・お前に言えた義理じゃないが・・・・・・」

「?」

「俺に彼女を一時貸してくれないか?彼女を軍の研究に使いたいんだ!」

「俺が今言ったこと・・・・・聞いてなかったのか?」

「話を最後まで聞くんだ。彼女は、もしかしたら生き返れるかもしれないんだ!」

「・・・・・・・」

とんでもない言葉が、リドックの口から飛び出した。ラインは、その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。

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小説 戦いの向こう側へ リドックとライン(終) ①

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

「基地内部にある爆弾は全部で8個でいいんだな?」

「ええ。間違いないわ。時限式爆弾よ。クラスター爆弾やTNT爆弾と同レベルの威力といっていいわ。」

「味方も敵も全員巻き込まれるな。どうりでお偉いさんたちは逃げ出すわけだ。」

リドックは小型携帯端末で、基地内部のマップを開いた。

「ライナード。シンたちに連絡を取ってくれ。」

「どうするんです?」

「基地から撤退命令を出すんだよ。巻き添えにはできんからな。」

「隊長・・・・・」

「ライナード。お前も逃げていいぞ。ヤマガタ少将も逃げたんだ。誰も非難したりしないさ。」

「・・・・・・・・」

「シース、お前の仲間のほとんどは逃げ出しているのか?」

「そうね・・・・解除するより逃げるほうがいいと判断した仲間のほうが多いわ。」

「俺は・・・・ここに残るよ。」

「!?リドック!」

「お前も逃げてくれ。何とかしてみる。」

「リドック!」

リドックは、シースの腕を振り払い、闇の中に消えていった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十八

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「そんなわけあるかぁ!!ショウ・ヤマガタ少将達がそんなこと!!でたらめを言うな!」

「私が彼の携帯端末からハッキングした情報だから確かよ。」

「嘘をつけ!そんなことできるわけないだろ!!」

「彼がシャワーをしている最中にデータを盗んだのよ。間違いないわ」

「・・・・・・」

「だから信じて・・・・・・じゃないと・・・・あなたもあなたの親友もみんな何も知らないまま死んじゃう・・・・・」

シースは、床に倒れこんで啜り声をあげた。

「畜生!エイダスナーも俺達に何も知らせないで・・・・・・・いつもいつも情報を知っている連中は俺達を将棋の駒としか思っちゃいなかったのか!」

「ここで捕虜を尋問していたのだって彼らの中に爆弾の解除方法を知っている人間を探すためにやっていたことなの。」

「で、爆弾の所在はわかったのか?」

「ええ。全部で八つよ。全部ある程度拡散しているけどね。」

「シース。」

「何?」

「俺は、お前を助けるよ。」

「え?」

「結婚しようって言ったろ?」

「でも・・・・・私・・・」

「許すよ。俺も酷いことしてきたし。お前を断罪することなんてできないよ。」

リドックは、彼女の手を握り締めた

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十七

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「シ、シース!?」

「リドック!?」

2人の視線が交錯し、意識が愛し合った記憶を呼び覚ます。しかし、2人は、さっきまで殺し合いを続けていた。そう簡単に体はゆうことを聞かなかった。

「ど、そうしておまえはそんな格好をしているんだ!!何で俺達を殺そうとする!」

言葉が、口からこぼれだす。

「私はスパイだから・・・・・あなた達の基地の情報をEU軍に教えるのが任務だから・・・」

シースは、声が弱弱しくなっていった。

「くそっ!何でもっと早く言ってくれなかったんだ!」

「言ったところで何も変わらないと思ったから!ごめんなさい!」

「まさか、その体で!?」

「・・・・・・・」

シースは何も答えなかった。

「・・・・・・・」

リドックは、その沈黙を、YESの意味でとった。そして、持っていたナイフを、床にたたきつけた。

「リドック・・・・・・あなた達の上司達は、もうここにはいない・・・・・・あなた達を見捨てて、逃げたわよ。爆弾という置き土産を残して・・・・」

シースは、顔をふせてうなった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十六

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

『なんでライフルに怯まないの!?まだ闘う気!?』

『味方まで巻き添えにして!?こいつ正気か!?』

ヘルメットを装着していたため、お互いの顔は識別できなかったが、リドックは、手加減をする余裕もなく、一撃必殺の構えで、煙幕弾を、敵の懐に放り込んだ。

バーン!

炸裂音のあとに、空気の漏れる音が、あたりを包む。

シューーー

『催涙ガスの成分も入っている!長くは持たないか・・・』

シースは、煙に巻かれながらも、ライフルの撃鉄に指を置くことをやめなかった。

ドドドドドドドドド!!

光の筋が、煙に巻かれて、行く先を見失っていく。

「・・・・・・いない!どこにいるの?」

ライフルを一旦体に戻し、シースはヘルメットのバイザーをあげた。

「前・・・・・いや・・・・後ろ!」

「遅い!」

ライフルとナイフが交錯し、シースは、リドックの攻撃で、手首から血を噴出してライフルを床に落とした。

「!?」

「!?」

2人の視線が、そのとき、初めて、あ、っ、た。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十伍

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「よし、あと、一人!」

リドックは、拳銃を右手に持ち替えて、もうひとりの影を追った。

「ライナード!周囲を確認しながら、こいつを縛り上げてくれ!逆に俺達がこいつを人質に利用するんだ!」

「了解!」

リドックの後ろで、ライナードがすばやく動き始めた。

「よし、いい動きだ。」

リドックは、目の前の人影が、ライフルの銃口をこっちに向けてきた瞬間、とっさに横へ飛び、コンテナの陰に隠れた。

ドドドドドドッ!!

リドックの横を閃光がものすごいスピードで横切った。

「ライナード!大丈夫か!」

リドックは、後ろにいたライナードに声をかけた。

「・・・・・・・・」

「ライナード?」

リドックは、後ろを振り返る。

そこには、さっき倒した男とライナードが、血の池の中で、息絶えている姿が、あった。

「あ・・・・・あ・・・・・」

さっきまで生きていた人間が、一瞬にして死んでしまう光景は、たとえ過去に経験していたとしても、なれるものではない。

「・・・・・ら、・・・・・・・・貴様らが!!!味方も殺して!!!」

リドックは、腰の煙幕弾を、投げ込んだ。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十四

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「相手は2人・・・・他に仲間はいない!やれるぞ!」

司令室のドアの影にいたライナードにアイコンタクトを送り、リドックはゆっくりとヘルメットバイザーをおろした。

『さっき敵の男がシースとか叫んでいたな・・・・・聞き間違いであってほしいが・・・』

リドックは、敵の一人に向かって突進していった。

『まさか俺が真正面から向かってくるとは思わないだろう?』

リドックは、敵の動きが一瞬止まったのを見逃さなかった。

『それ見ろ!』

慌てて彼は拳銃の照準をリドックに合わせた。だが、リドックは動じずに、彼に向かってくる。

ドーン!

拳銃の音とともに、リドックの胸に弾丸が突き刺さる。だが、リドックは、倒れることもなく、敵の背後に回りこんでいた。

「致命傷にはなるまい。」

腰にあった小型ナイフが、敵の腹部に突き刺さる。

「あっ、ぐっ。な、何故だ・・・・・」

「ン?」

「何故おまえは死なない?」

「ああ・・・・これか・・・・・・防弾服を着ているからだよ。貫通するわけないだろ?」

「・・・・・・・・アジア連合軍はそんなことをしていたの・・・・か・・・・・」

「俺が勝手にやった。何で軍隊っていうのは防弾服着用を義務化しないのかね。理解に苦しむよ。死者が減るってのにさ」

男は、リドックの目の前で、ゆっくりと、崩れ落ちた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十参

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

基地内部では、敵の攻勢に対して後手に回っているアジア連合軍兵士でごった返していた。彼らは指揮官不在の中、指揮系統が混乱し、システマチックに敵の迎撃作戦を行えずに、ロボット兵士や敵の陸戦部隊に各個撃破や拘束されていった。

「西ゲート突破!敵ロボット兵士が侵入してきます!」

「各隔壁閉鎖しろ!これで少しは時間が稼げるはずだ!」

「司令室、管制室応答なし!隔壁を降ろせません!」

「手動でやるんだ!早くしろ!」

リドックは、そんなやり取りをインターカムで聞きながら、まっすぐ司令室を目指した。

「エイダスナー大佐は何をしてるんだ!俺達は必死で戦っているのに・・・・・早くしないとシンたちの機甲戦車部隊も全滅してしまう・・・」

司令室の前にあるのIDを通して、彼は、勢いよくドアを開け放った。

「!?」

部屋の真ん中では、拘束されたアジア軍兵士たちが、拘束され何者かに銃を突きつけられて尋問を受けていた。

「お前ら!」

リドックは、とっさに銃を腰から抜き取ると、銃を持っていた連中に向かって発射した。

ドン!ドン!

不意を疲れた男の一人が、血を噴出して、床に倒れる。

「チッ!まだ全員を拘束できてないのか!シース援護しろ!」

「了解!」

リドックは、2つの影が左右に分かれて自分に向かってくるのを一瞬に理解できた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十弐

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「こちら歩兵部隊、機甲戦車部隊聞こえますか?」

「ピー、こちらシン曹長です。聞こえますどうぞ。」

「至急、上空のヘリを攻撃してくださいどうぞ。」

「ピー、何故ですか、司令部の命令ですかどうぞ。」

「司令部からの命令です。敵の偵察機です。識別信号をだしていないです、どうぞ。」

「ピー、確認しています。・・・・・・了解しました。直ちに打ち落としますどうぞ。」

「ありがとう。それとリドック少佐に連絡したいことがございまして・・・・今どこにいますかどうぞ。」

「ピー、リドック少佐の部隊は、一時基地内部まで後退しています。おそらく基地内部との連絡をとりに・・・・・」

「了解!」

ラインは、隠しゲートから、地下内部へ通じる階段を足早に降りていった。

五分後、一機のヘリが、炎を上げながら、ゆっくりと森へ落下していくのが、基地の監視カメラに目撃されていった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十壱

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

ヤマガタ少将の亡骸を一瞥して、ラインはヘリの中で他の兵士たちの姿を見回した。

彼らは上級職の階級章を制服の胸に着けており、コンテナの中に詰め込まれていたせいか汗だくで、武器も持たずに震えていた。

「・・・・・・・・・」

ラインはそれをみると、ひと息ついて拳を下におろし、乗っていたヘリから飛び降りた。

「・・・・・・・俺は殺人鬼じゃないし、無抵抗の人間をこれ以上殺したらおかしくなってしまう・・・・」

背負っていたリュックから、パラシュートが飛び出し、ラインはゆっくりとしたスピードで、森の中へ落ちた。

「・・・・・・セシル・・・・・・俺・・・・・・・・これで良かったのか・・・・?」

ラインは、ゆっくりと、歩き出した。彼は、もう一人の人間と、最後の決着をつけに・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参十

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「どうして・・・・・あなたが・・・・・こんなふうに・・・・なって・・・・」

父と娘の記憶が、ラインの頭を駆け巡り、過去の記憶が映像となってラインの脳神経と連動した。

ヤマガタは、赤く染まった制服の胸ポケットから、何かを取り出した。

「あ・・・・・・香奈子・・・・・・香奈子・・・・・・」

お守り代わりに持ってきたのだろうか、ヤマガタは胸ポケットからボロボロの娘の写真を取り出した。

「ごめん・・・・・正月までには帰れそうにないよ・・・・・すまんな・・・・・母さんと2人でこれからちゃんと生きるんだぞ・・・・・遺族年金は・・・・お前のものだ・・・・彼を大事に・・・・するんだ・・・・ぞ・・・」

手が、ゆっくりと、下に、落ちる。

そして、彼の人生は、今、終わりを告げた。

ラインは、自分のしたことをかみ締めながら、泣いた。

そして、彼は、床に落ちた写真を、じぶんのポケットにそっと、しまった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十九

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

『徴兵の用紙、市役所から届いたんだって?いついくの?』

少女は、携帯電話を片手に父親に聞いた。

『八月のあたまかな。会社を休すむことになりそうだな。』

『ふーん。』

男はスーツを壁にかけた。

『生活のことは心配しなくていい。母さんと2人でやっていけるくらいの貯蓄もあるし、年金だって政府から支給される。』

『そっか。そうなんだ。』

『お前は今のまま、大学受験だけを頑張ればいいんだ。世の中のことは考えなくて良い。』

『そう。』

男は、居間にあった新聞を広げ始めた。見出しには、日本を中心としたアジア連合軍が、ヨーロッパに宣戦布告、という文字が並んでいる。

『いつ、帰ってくるの?』

新聞をめくっていた指が、一瞬、止まった。

『・・・・・・・・・・正月までには・・・・・帰ってくる・・・・・』

男の声は、少し震えていた。

『私の彼氏、半年前に行ったよ。まだ帰ってこないの。』

その言葉を聞いて、ヤマガタは思わず顔を上げた。

そこには、大粒の涙を目一杯にためた娘が、確かにいた。

『か、香奈子・・・・・・・どうしたんだ・・・・?』

『人が死んじゃうってことはさ、この世界から消えるってことよね?それを考えたら、物凄く怖くなっちゃって・・・・・』

娘の震える手を、ヤマガタは、必死に掴んだ。

「大丈夫。戦争は長くはつづかない。正月までには家に帰るよ。そしたら、お前の彼氏を家に連れて来い。みんなでおせちやお雑煮を食べよう。」

香奈子は、黙って何度も頷いた。

ラインは、目から涙が溢れてくるのを、止めることができなかった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十八

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「なんでRPGを撃たない!?せ、せっかく時間稼ぎをしていたのに・・・」

「だ、だってここで撃ったらここにいる全員が・・・・」

「上官の命令に逆らうのか!」

ヤマガタは、後ろでロケット砲を構えていた仕官を拳銃で撃った。ゴトッという鈍い音が聞こえた。

『そうか・・・・・そうだったのか・・・・・』

もはや目の前のラインに眼もくれず、弱い立場の人間に責任転嫁しようとしているヤマガタの醜悪な姿を目撃して、ラインは怒りを自分の力に転化させていった。

「RPG弾を食らって死ね!この売国奴が!」

「遅いんだよ!あんたら普通の人間のレベルじゃ!」

ラインは、ヤマガタがロケット砲を肩に持った刹那、彼の心臓に指を滑り込ませていた

チン!

ラインの脳で、何かか弾ける音がした。そして次の瞬間に、彼の中に少女と父親のイメージが雪崩れ込んできた。

『・・・・・・何だ・・・?父娘(おやこ)・・・・?』

それは、目の前で血を吐き続けているヤマガタにそっくりな男であった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十七

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「そうか・・・・・部下がすまないことをしたな・・・・・しかし私には、サンブックに妻子もいる。ここで君に殺されるわけにはいかないな。」

「・・・知ったことか。」

ラインは、拳を高く上げた。

「・・・・・いいのか・・・?君は我々を殺したら、どうなるかわからないのか?君は国家連合の反逆の大罪を犯そうとしているのだよ?」

ヤマガタの額に汗がにじみ出ていた。

「お前らを殺して、俺は軍を抜ける。それでサンブックにも帰らずひとりで生きていくよ。」

「できるはずがない。お前には、生身の人間を殺せるはずがない。君のデータは我々は知っているのだよ?」

「・・・・・・・そうか・・・・・・でも人間は時がたてば、変わるものだから・・・・」

「ちょ・・・・待て!話せばわかる!」

「問答無用!」

ラインの脳裏には、昔読んだ歴史の教科書の青年将校の言葉がフラッシュバックしていた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十六

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

苦悶の表情を浮かべ悶絶するエイダスナーの横で、毅然とラインを見つめるショウ・ヤマガタ少将の眼は、ラインに動揺と畏敬の念を同時に与えた。

『なんだ・・・・・?窮地に陥っているのになんでこんなにも涼しい顔をしていられるんだ?』

ラインは、目の前の老人が、ただの老兵ではないことを一瞬で悟った。

「・・・話だと?俺はお前たちと話すことなどないが?」

ラインは、動揺を悟られないように、ゆっくりと言葉を絞りだした。

ヤマガタは、ラインから視線をすらすそぶりも見せず、顔の煤をぬぐう気配もなかった。

「いいや、話せばわかるよ。君だって元々はアジア連合軍兵士だったのだろ?我々と同じサンブックの人間だろ?」

老人は、口元に笑みが現れ始めた。

「だから・・・・・戦うことはないと?」

「そうだ。同じ故郷のもの同士、争うことはない。君にだって待っている家族や恋人くらいいるだろう?」

最後の言葉が余計であった。

「死んだよ。あんたたちに殺された。だから俺は、お前たちを殺す!それで十分だ!」

ラインは、右手に力をこめ始めた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十伍

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

獣のような唸り声をあげて、エイダスナーは痛みと恐怖と苦しみの中で、黙ってラインを凝視する以外にもはや、何もすることはできなかった。

「・・・・・セシルが受けた拷問の苦痛や恐怖は、こんなもんじゃないんだ!!」

ラインは、かつての温厚で優しい彼ではなくなっていた。

「知るか!!俺はそんなこと命令しちゃあいないぞお!!部下が勝手にやったんだ!俺は何も知らないんだよおおおお!」

エイダスナーの吐き捨てるような言動は、ラインの神経を逆撫でするのに十分であった。ラインの拳は、すばやい動きでエイダスナーの頬に吸い込まれていった。

バチーンン!!

「それが、そんな言い訳が通用するとでも本気で考えているのか!?お前らが軍隊の上級職の地位にいるのに、部下のやったことも関知していない、できないほどお前は無能なのか!?組織の中枢にいる人間が知らないの一言でで済ませられるとでも思ったか!」

その時、操縦席のうしろで、何かが動く気配がした。人影が、こっちに近づいてくるのがラインには理解できた。

とっさにラインは、エイダスナーを殴っていた手を、防御のために、引っ込めた。

「・・・・話なら、私が聞いてやる。」

ショウ・ヤマガタ少将の顔は、埃と煤で真っ黒に変色していた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十四

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

ズキューン!

一瞬の静寂が世界を包み、銃声と硝煙の匂いがヘリの中を漂う。エイダスナーは胸ポケットに隠し持っていた拳銃をラインに向けて発砲した。

「馬鹿が!」

唾を吐き捨て、エイダスナーはうめいた。目の前では、眼を白黒させて、微動だにしないラインの姿があった。

「油断したお前が悪い。恨むなよ。」

エイダスナーは、拳銃を胸ポケットに仕舞い込もうとゆっくりと、腕を下ろそうとした。

「お前もな。」

ラインは、にやりと笑った。

その刹那、エイダスナーの右腕は、操り人形のように力が抜けたように折れ曲がり、しばらくして、エイダスナーの絶叫の声が、ヘリの中を駆け巡った。

「ギッ、グッアアアアアアアア!!!」

「拳銃の弾が当たるわけないだろ。今の俺にはな。」

ラインの右手の手のひらから、ゆっくりと銃弾が零れ落ちる。

「お前・・・お前・・・・お前・・・・・オマエ!!!」

狂ったようにエイダスナーは連呼した。

「日本語を喋れよ。大の大人がみっともないぜ?」

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十参

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

それは、ロボット兵士と交戦中のシンたち機甲戦車分隊の真上に現れた。

「何だ?援軍か?」

太陽を背にして、一機の軍用ヘリが彼らの視界に突然割り込んできた。

「・・・・・・ンッ・・・・・ヘリと人影?」

ローターを高速回転させて高度をとっていたヘリの横には、人の形をした物が、ぴったりくっついているように見えた。

「逃げるのが遅かったな!」

ラインは、ヘリのちょうど足場にあたる鉄棒に手を引っ掛けて、空中にぶら下がっている形になっていた。

「振り落とせ!早くしないと味方に気づかれるぞ!」

エイダスナーは青筋を額に浮かび上がらせて、操縦席の兵士に怒鳴り散らした。

「慌てるなよ。もうすでにあんたらの計画は頓挫してるんだからな。よっと。」

逆上がりするような感じで、ラインはヘリの扉をいとも簡単に打ち破った。

ドゴォーン!

「ヒッ!」

扉は、竜のオトシゴのように曲がりくねり、指一本で、簡単に下へ落下して言った。

「何を驚いてる?お前が俺をこんな風にしろと部下に指示したんじゃないのか?」

エイダスナーは口から泡を吹き始めていた。

「皮肉なもんだな。敵のロボット兵士を倒すために技術の水位を決して作った新兵器が、自分たちの命を奪う結果につながるとはな・・・」

ヘリは、すでに空中でローターを回転させたまま、微動だにせぬまま、浮くことしかできなかった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十弐

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

ラインは、ゆっくりと軍用ヘリに向かって歩き始めた。その瞳には、もはや理屈や情けなど微塵もなく、ただ、純粋に、自分のやるべきことを見据えたように澄み切っていたのだった。

「お前たちのおかげで、俺は一個中隊に匹敵する力を得た。それは感謝するよ。」

拳に憎しみの力が注入されていく。

「早く!あいつを何とかしろ!味方の兵士は何で応戦しないのか!あいつら全員軍法会議ものだぞ!」

エイダスナーやヤマガタ少将の乗ったヘリは、発射シークエンスに突入していた。

「復讐が正しいとは思わないが、お前らが基地内部の味方を見捨てて逃げだす蛮行を無視できないからな・・・」

ラインは、サイレン音のなる中、ヘリのすぐ隣にすんなりと移動した。

「!!」

「思ったより時間かかるんだな・・・・発射するまで・・・」

その瞬間、ヘリとラインの体は、同時に軌道エレベーターの力で、地上まで押し上げられた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十一

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

その時、エイダスナーは軍用ヘリの副操縦席から、それを見た。

「!?」

それは、自動ロックしてある格納庫の扉が、轟音とともに、紙切れのように吹き飛んでいく様を。そして、その現象は爆弾や武器によるものではなく、人の四肢が起こしたことであったことを、彼は、しばらくして理解するのであった。

「敵襲か!早くヘリをリフト面へ着地させろ!」

「は、はい!」

軍用ヘリはローターを高速回転させて、軌道エレベーターのリフト面へ緊急着陸に成功した。

「残念だったな。もうこれで我々は地上までエレベーターで上がるだけ・・・」

「どこへ・・・・行くんだ?」

エイダスナーは、男の低く重い言葉が、自分の心臓を叩くような感触に襲われて、思わずヘリの窓の外をのぞいた。

「・・・・・・・あっ・・・・・あああ・・・・・・」

広い格納庫の真ん中に、男が一人、こちらをじっと睨んだまま、動かずに立っていた。男は童顔で髪の毛は金髪に染まり、腕や足には拷問の生傷が刻まれ、目は、復讐の炎で埋め尽くされていた。

「待っていた・・・・・この時を・・・・・お前たちが・・・・・一箇所に集まるこの時をな・・・・」

ラインは、扉を打ち破った拳に、さらに力をこめ始めていた。恋人を親友を奪ったすべての憎しみを、すべてを今、ぶつける対象を、彼は見つけたのだ!

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐十

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

第四格納庫に静寂という霜が降りると、エイダスナーは足早にその場にいた一人に、合図を行った。

「格納庫のすべてのドアを自動ロックしして、我々が軌道エレベーターのリフトに移動したあとに時限爆弾の起動規制を解除するんだぞ?タイミングを間違えるな・・・・・我々が逃げ出す前に作動する事の内容にな・・・」

エイダスナーは物凄く小さな声で部下の耳に声をあてた。

男は、静かに首を縦に振る。

エイダスナーは小さく微笑むと、ヘリの副操縦席のドアをゆっくりと開け、操縦席に座っているパイロットに目で合図をした。

「軍用ヘリ119号機、移動開始。軌道エレベーターのリフト区域に速やかに着陸し、約5分後に地上まで押し上げられます。そのあとは、脱出ルートを確認後、速やかにアジア連合軍広東基地を離脱します。エイダスナー大佐、許可を。」

「許可する。ショウ・ヤマガタ少将ら将官たちは後ろのコンテナにいる。運転はなるべく慎重にな・・・」

エイダスナーは、シートベルトをきつくからだに巻きつけた。

「味方をだますことこそ、敵に悟られない唯一の戦術だからな・・・・」

部下たちは、今だ、彼ら上層部の意図を理解せぬまま、無為な戦いを続け、命を落としていった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十仇

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「物資運搬を急がせろ!この軍用ヘリは、アジア連合軍 堪国基地との連絡をとるための偵察兼輸送機なんだ!準備に手間取っているのはなぜか?」

基地の地上付近にあたる第四格納庫のデッキには、エイダスナー大佐が敵襲で慌てている兵士たちを一喝した。

「何をやっているか!コンテナはあれほ大事に運搬しろといったじゃないか!空気穴だと?当たり前だ!酸素を取り入れなければ食料は腐ってしまうぞ!」

ヘリの後方ハッチには、機械とヒトの手で、灰色のコンテナが次々と収納されていった。大きさで言うと、ヒト2人が体育座りで入れるぐらいのスペースである。

「大佐、武器と食料はすべてヘリに運び終わりました。」

「予定時間を少し遅れたか・・・・・まあいい。」

エイダスナーは腕に巻いてある時計を一瞥した。

「では、2、3人を残してその他のメンバーは基地防衛にあたってくれ。敵の陸戦部隊が基地内部に進入しているからな!」

「ハッ?」

「聞こえなかったのか?お前も早く武器を持って戦え!解ったな。」

「了解しました!」

エイダスナーは、格納庫に人がいなくなるのを確認するまで、一歩もその場を動くことはなかった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十八

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

基地の地下最深部にあるアジア連合軍広東基地司令室に通じる通路では、敵の陸戦部隊と基地守備隊との激しい攻防戦が繰り広げられていた。

仲国軍陸戦部隊は、事前にスパイなどにより広東基地内部の情報を把握しており、基地の脆弱な部分を攻める戦術を取っていたため、それほど彼ら側の犠牲者は少なかった。

基地守備隊員は、敵が自分たちも知らないような場所から現れて攻撃を仕掛けてくることに戸惑いと恐怖を覚え、満足に応戦もできぬまま、敵の銃弾の雨嵐の中で、倒れて言った。

シースたち情報収集先遣隊は、ようやく陸戦部隊と合流を果すと、彼らに更新された新たな情報を伝えていた。

「司令室には誰もいないわ。管制室にもね。彼らはこの基地を放棄する気なのよ」

「この基地をそんなに早く明け渡す気なのか?やつらは。」

「もちろんタダじゃないわ。時限爆弾の置き土産を置いてね。」

「時限爆弾!?」

「威力はTNTやクラスター爆弾の2倍以上と考えて良いな。基地地下に10箇所以上仕掛けられているらしい。」

「!本当か!?」

「我々はまんまと誘い込まれたということさ・・・・」

「どうりで基地内部に簡単に入り込めたわけだ・・・・・くそっ!」

シースたちは、銃声が鳴り止んだあと、四散した基地守備隊の肢体の間を進んで、司令室のドアを開けた。

「本当だ・・・・やっこさんたち、夜逃げのあとじゃねぇか・・・・」

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十七

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「隊長!上層部の指示は、新しい命令は来ているのでありますか?このままじゃ全員各個撃破されてしまいます!」

「大丈夫だ!今、エイダスナー大佐と回線をつないでいるところだ!心配するな!敵の中心にレールガンをぶち込んで敵のフォーメーションを分断すればいいんだ。わかったな?」

「りょ・・・・了解。」

シンは、そういって無線をきった。

リドックは、敵の陸戦部隊の基地進入が、もうすでに成功しているのではないかという懸念を払拭できずにいた。

「・・・・・・陽動と各個撃破を繰り返しているのか・・・・・味方の戦闘バイクの動きもつかめない・・・・・上層部は何をしているんだ!基地司令部との連絡は?」

リドックの足元で、ヘッドホンを片手にライナードが必死でコールを呼びかけていたが、誰かと話しをしている様子はなかった。

その間にもロボット兵士の攻撃が、味方の戦車の装甲部分に集中し、爆発する戦車も現れ始めると、今まで高かった兵士の士気も徐々に落ち始めてくるのだった。

「駄目です!何の応答もありません!司令部には誰もいないということでしょうか?」

「まさか・・・・敵の陸戦部隊が制圧したのか・・・ライナード!戦車を後退しろ!基地司令部に直接命令を聞きにいくんだ。」

「え?」

「いいからこの戦車を後退するんだ!」

「は、はい!」

ライナードは、ギアチェンジをするため、操縦席の横のレーバーを強く後ろにねじ込んだ。

「こうゆう一連の動作は、車と同じなんだな・・・」

リドックは、子供のような感想を口にした。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十六

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル)

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

銃を持った男たちは、基地攻略作戦を成功させるため、どこかへ姿を消してしまった。

その場に残ったラインとシースは、薄暗い通路にたたずんでいた。

「お前はリドックの元へ行かないのか?好きなんだろ?一緒に・・・」

ラインは、シースの瞳の色をじっと見つめた。

「私は・・・・・・もういいの・・・・・・・」

シースは目を伏せた。

「私には、彼を助けるだけの力も自由もないから・・・・・」

シースは、ラインに背を向けるとその場を去っていった。

「俺は、依存心が強く、環境や時代に流されているだけの女なんか嫌いだ。」

ラインの拳は、憎しみと怒りと悲しみで震えていた。

「リドック!俺は、決着をつけるぞ!お前とお前を変えた環境にな!」

「シン!そちらの戦局はどうなっている?ロボット兵士の数は?」

リドックは、戦車内部の天井に吊るされていたアナクロな無線機に向かって怒鳴っていた。

「駄目です!部下が敵の各個撃破戦術の術中にはまって・・・・・・2機やられました・・・・・・こっちは戦車三機で応戦中です!」

シンの不安と恐怖と怒りが混ざり合った肉声が、リドックをさらにいらだ出せていた・・・

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十伍

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「正確にはガーナディアンのリーダーをやっていた。お前たちの持っている端末を使って、俺の名前で検索すれば証明できるはずだが?」

男は、ボロボロのズボンのポケットから、小型のパーソナルコンピューターを取り出すと、おぼつかない手つきでキーを叩き始めた。

「間違いない・・・・シースの言っていることは本当だったのか・・・」

男は目を丸くして、小さな液晶画面を見つめていた。

「でも何で、あなたはこの基地にいるの?」

「うちの仲間のひとりが捕まって・・・それを助けに来て・・・・・」

ラインは言葉を言い終わる前に黙って下を向いた。

「どうかした・・・?」

「いや・・・・・俺は指揮官として無能だと改めて実感したのさ。それだけのことだ。」

「・・・・・?・・・・・」

「ほっとけよ、シース。それより仲国軍陸戦部隊の支援に向かうぞ。どうやら中央管制室を発見したらしい。これでこの基地も終わりだな。」

男は、自動小銃の弾を手で転がすと、それを勢いよく指で弾いて地面に落とした。

「でも・・・・・・・」

「まだこの軍に未練があるのかよ?そのリドックとかいう青年佐官がよほど気に入ったのか?」

シースは、黙ってラインの車椅子に近づいた。

「・・・・・・」

「ええ・・・・・・彼を愛してるかも・・・・・ね・・・」

シースは、針金とナイフを使って、ラインの足かせと手錠を外した。

「あの人を助けてね・・・・・・友達なんでしょ?あなた・・・・」

「昔は、親友だったよ・・・・・学生の頃さ・・・」

ラインは、汗でべたついた手をさすりながら、小さく笑った。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十四

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「・・・もういい。お前は何も悪くない。自分を責めるな。」

肩を落として、全身を震わせながら泣いているシースの横を、一人の男が通り過ぎた。ラインは、シースの突然の号泣や男の出現に戸惑い、自分の置かれている状況が掴めずに、逃げ出す機会を失っていた。

「お前がこの基地にスパイとして情報収集してくれたおかげで、我々はこの基地に潜入できたんだ。そう泣くなって・・・」

男の外見は大きく、腕もラインの太股と同じで、肩に自動小銃を引っ掛け、ボロボロの制服の隙間には、手榴弾が何個もぶら下がっていた。彼はサンブック人のような顔をしていたが、どこが微妙に違うような気もした。

「違うの・・・・違うの・・・・・彼が・・・・・彼が・・・・」

「ああ・・・・・彼らは一生懸命外で戦っているよ・・・・・何も知らずにな・・・」

「彼らは捨て駒なのよ!時間稼ぎのために命を懸けて・・・・」

「我々はこの基地を制圧すればいいだけだ。彼らに同情している時間はない。今地下の管制室と司令室を占拠しているが、上層部の連中の行方はつかめていない・・・・早くしないと・・・」

「でもっ!でもっ!・・・・・・ねえ・・・・あなた・・・・リドックって言う佐官を知ってる?」

女は、傍にいた男から離れて、ラインによってきた。

「・・・・・・それがどうしたんだ?」

「知ってるのね?あの人に伝えて!上層部はあなたたちを見捨てて基地を放棄し、本国に逃げるって。」

「何だと?何でそんなこと知ってるんだ?お前たちは何者だ?」

「そんなことはなしている余裕はないの!早く彼に伝えて、ここから脱出してって・・・・じゃないと・・・・」

女は、そこまで言いかけて男に口をふさがれた。

「何でこんな男にしゃべるんだ。彼はアジア連合軍サンブック兵士だぞ!」

「違うわ。彼はガーナディアンのメンバーよ。」

「ホントか?」

ラインは、静かにうなずいた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十参

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

ラインは、車椅子の越しに基地の内部をつぶさに観察していた。それは、自分が置かれた状況を常に把握し、隙あらば脱出しようとする意思の表れでもある。

『・・・・何か様子が変だな・・・?俺の護送にもこの女性仕官1名しか寄こさないし・・・・この基地で何かあったのか・・?』

通路ですれ違う人たちは、ラインたちには目もくれず、武器や弾薬、食料を抱えて、走り回っていた。

シースは、彼と一言も話もせずに、人気のない場所へ車椅子を押していった。彼は、自分の乗った車椅子が、地下へ通じるエレベーターの場所へ向かっていないことをうすうす気がつき始めていた。

『この女・・・・・何をする気だ・・・・?』

妖艶な容姿とラズベリーの香りを漂わせた彼女の雰囲気は、おとぎ話に出てくる男を色気で惑わす妖怪に見えた。

「・・・・・・・・」

彼女は、車椅子を押すのをやめ、ハンドルから手を放した。彼らは、薄暗い廃屋のような場所へいつの間にか来てしまっていた。

彼女は、ラインの正面にたつと、彼の目を見て言った。

「リドックを・・・・・・助けてやって・・・・・・あの人に人殺しを止めさせて・・・」

彼女の目からは、大粒の涙が零れ落ちた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十弐

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

一方その頃ラインは、リドックの部隊に敗れたあと、彼の手によって基地にある医療所へ移され治療を施された。彼が治療を受けられたのは軍の慈悲や情けによるものではなく、彼が新兵器開発実験体の唯一の生存者であり、成功例に過ぎなかったからである。

医療所の一室に半ば監禁されたラインは、窓の外で繰り広げられている人間たちの阿鼻叫喚の様子をじっと見つめながら、軽く息を吐いた。

『俺がまだ生きていられるのは、まだ利用価値があるってことか・・・』

手と足には、セラミック製の拘束具がはめられ、彼の力を封じ込めていた。

「ン・・・・足音が聞こえる・・・・誰か来るのか・・・?」

コツン、コツンという音とともに、医務室のドアがさっと開いた。

「お迎えに参りました。ラインさん。」

白い制服にスカートという軍人らしからぬ風貌と共に、金髪の女性仕官が、空の車椅子を押してラインの医務室へ入ってきた。

「・・・・・・・」

「怖い顔をしないでください。あなたを死刑台に送るわけじゃないんですよ?」

ラインは、どこか男を惑わす彼女の外見に、警戒感をいっそう深めていった。

「自己紹介が遅れましたね。私はシース准尉と言います。あなたを安全な場所へ護送する任務を受けましてここに来ました。早く、この車椅子に乗ってください。」

「こんな状態でまともに俺に歩けと?」

「あなたの拘束具を外しても、私を殺さないという保障をしてくれますか?」

「・・・・・・」

「さ、ここも時期に敵の砲撃に合います。地下の安全な場所へ移りましょ。肩を貸してください。」

ラインは、黙って彼女のほうへ擦り寄った。彼女から発せられる甘いラズベリーの香水の香りが、ラインの本能を刺激し、判断能力を低下させていた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 十壱

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「EU軍のロボット兵士が、陽動作戦を展開中です。我々はその隙に基地の地下に通じる隠し専用通路から進入しましょう。おっと、くれぐれもサン・ブック兵士としてね・・・」

片言の男は、爆音と血や銃弾が混ざり合う戦場の中を、走り抜けた。後ろからは、アジア連合軍のサンブック士官用の制服を着た男たちが、足音ひとつ立てずに続いていった。

そして男は、今にも崩れそうなトタン屋根の家の前で足を止めると、入り口の前にかかっていた布を避けて家の中をのぞいた。

「・・・・・・んっ・・・・・・ここからは誰も来ていないな。大丈夫です。中に入りますよ?」

男たちの最後尾にも見えるよう合図を送ると、片言の男は、家の中に入り、居間に会ったちゃぶ台をひっくり返した。

「どうかしたか・・・?」

「いえ・・・・・確かこのあたりに地下階段の扉があったはず・・・」

「事前に確認していなかったのか?」

「悪く言わんでください。我々だって昔の仲間のことをすべて知っているわけではないのですよ?」

男は、床の木材を何枚かひっぺがえすと、その奥にコンクリートで固められた部分があるのを見つけ出した。

「ありました!アジア連合軍基地の隠し通路の扉です!」

男は、思わず大きな歓声を上げた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 拾

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主人公:左(リドック)右(ライン) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

リドック率いる第49機甲戦車部隊は、2手に分散し、扇状にフォーメーションを組んで、敵の攻撃に備えた。

敵のロボット兵士たちは、木と木の間を高速で移動しながら基地内部に銃弾を浴びせる形であったため、リドックたちの目には進入口を発見できずに攻めあぐねているように見えた。

「人間だけで構成された敵陸戦部隊は、我が基地周辺に侵入してきているという情報は入ったか?」

「まだです。無線機には何も。それより攻撃はいいのですか?」

ライナードは若干、肩の力が抜けたようだった。操縦だけでなく、計器や操縦の反応速度に余裕が生まれているのが解った。

「連中は戦車のレールガンの射程ギリギリの所で動き回って我らを誘うような動きをしているし・・・・・まったく」

リドックは、レールガンを無闇に発砲できない自分の立場を考えて、唇をゆがませた。

『俺みたいな地位の人間は、中途半端だな。下手に出世なんかするんじゃなかった・・・』

戦場は、一時期、こう着状態に陥った。

「おい!お前どこに行く!?なぜ敵に背を向ける?」

「ハッ、ワタシ、デスカ?」

アジア連合軍の制服を着た男は、自分がいきなり後ろから声をかけられてびっくりしていた。

「お前以外に誰に話しかけているんだよ。さっさと武器をもってロボット兵士を倒しにいけよ!」

「イエ、武器ガミアタラナイノデス、武器倉庫ハドコデスカ?」

「そんなはずあるか!!事前に配給されたやつをなぜ使わん!?」

「イエネ。サン・ブック製の奴は、モウツカワナイトキメタンデスヨ。」

「・・・・・・お前、さっきからなんで片言でしゃべって・・・」

「私らは、もうあなたたちとは、敵同士になったんです。」

片言の男は、すばやく腰のナイフを抜くと、目の前にいた男の首をえぐり取った。男は声をあげる事もなく、血の池の中に自分の体を預けて動かなくなった。

「皮膚の色が似ているからね。昔からサン・ブック人とよく間違われていたっけ。よく差別もされたっけ・・・・・同じ黄色人種なのにさ・・・・」

男は、両手をあげて、大きく円を描くポーズをとった。その合図と共に、草むらの中から、何十人もの男たちが、アジア連合軍基地に足を踏み入れたのだった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 久

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主人公:右(ライン)左(リドック) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

高速ローラーとガトリンク砲を装備したロボット兵士が、弾幕を張りつつアジア連合軍広東基地に迫る中、アジア連合軍陸戦部隊は、隠しゲートから次々と陸戦部隊を発進し、敵の侵攻に対応していた。

アジア連合軍広東基地の司令部は地下の奥深くに置かれ、地上部分は民家や物置場などで構成され、いわば目くらましのダミーとして、敵からの発見を困難なものとしていた。それは例え監視衛星からも地下の戦力の実数を確認することは困難であったため、戦術的に、アジア連合軍広東基地は、敵にとって厄介な存在であった。

銃弾が地上擦れ擦れを交錯する中、砂埃と大きな音を立てて、ゆっくりと大地が裂け始める。

そう、リドックたちのホバー戦車が隠しゲートから、地上にゆっくりと姿を現した。

「方位2時の方向が近いな。落ち着けよライナード・・・・まだ敵はこっちに気がついてないぞ。」

リドックは、戦車の上から頭を少し出すと、双眼鏡を片手に目で敵の位置を確認していた。

「隊長は・・・・隊長は怖くないんですか?」

ライナード伍長は操縦席から弱弱しい声を上げた。

「・・・・・そうだな。怖いという神経が麻痺して怖くなくなってしまったな。怖いというのは知識や経験が極端に少ない時に起こる人間の感情のひとつでしかないとどっかの本に書いてあったぞ?」

「はあ・・・」

「間抜けな返事を返すな。前をちゃんと向いていろ。いつでも回避運動をできるようにな。」

「りょ、了解。」

「シン、聞こえているか?お前たちのグループは、7時の方角の敵を迎撃せよ。我が隊10機のうち半分をそちらに回したんだ・・・・できないとはいわせないが?」

「やらなきゃ死ぬんでしょ?やりますよ。」

「ああ・・・・そうだな・・・死ぬな・・・」

「それに・・・あっ隊長!!ロボット兵士部隊を確認しました。これより交戦に入ります!!」

「わかった!幸運を祈る。」

「もし神様がいるなら、俺たち人間を救って見せろ!!」

シンは、無線機の奥から声を張り上げた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 蜂

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

主人公:右(ライン)左(リドック) ヒロイン:中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「第49機甲戦車部隊は、直ちに軌道エレベーターに戦車を移動し固定せよ。五分後とに地上へ射出する。直ちに第49機甲戦車部隊は・・・・」

格納庫のスピーカーから、引っ切り無しに各部隊への発信コールが流れていた。整備班たちは、軽量化されたホバー戦車の空気調節やリニアレールガンの電圧調節に躍起になっている。

「・・・・で我々の任務は、地上の2時と7時の方向から進行してくるEU軍製のロボット兵士、約300を迎撃・足止めすることだけだ。」

強化服とゴーグルとヘルメットを装着したリドックは、整列している隊員の前で、任務の最終確認を行っていた。

「各自隊長は万全か?よし、質問はある者は?」

リドックの目の前にいたシン曹長が、右手を上げた。

「シン曹長、何だ?」

「EU軍がこの基地まで侵攻してくるというのは、我が軍の防衛線を突破してきたということですか?」

「ああ・・・そうだ・・・」

「そうなると万が一負けて、この基地を放棄した場合、サン・ブックへの侵攻は早くなりますよね?」

「アジア連合軍最終防衛ラインは、堪国にある。心配は要らないさ。」

リドックは、シンの肩を抱くとやさしい微笑を浮かべた。

「シン、みんな、俺たちがここで勝利すれば、サン・ブックの街を戦火に巻き込むことはない・・・・俺たちの後ろには平和に暮らしている家族や故郷がある!それを忘れないでくれ!各員、戦車へ搭乗用意!」

「了解!」

三々五々、隊員たちは戦車へ乗り込むと、軌道エレベーターの台座に進路を変えた。

『結局、今は俺にできることをやるしかない。生き残るためには、この基地を死守する以外に考えようがない。他人や運命の性にしたいのは山々だが、周りのせいにしたところで、俺の人生は良い方向に転がるわけじゃないしな・・・』

リドックは、ホバー戦車「雷神」の操縦をオートに切り替えると、梯子を上り戦車の上部にあるレールガンなどの武器管制を確認していた。リドックの足元では、新兵として最近配属されたライナード伍長が、マニュアルを見ながら震える手つきで、戦車の速度や空気圧のメモリを確認している最中であった。

『この戦車は2人乗りだから死ぬときは淋しくないか・・・・』

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 七

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

右(ライン)左(リドック) 中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

制服の内ポケットに押し込まれた携帯端末が、リドックの心臓の上で激しく振動した。彼はそれを急いで取り出すと、液晶ディスプレイに目を走らせた。

『リドック少佐、直ちに地下三階の第二格納庫へ向かわれたし。少佐の機甲戦車部隊をもって、敵のロボット兵士たちの進行を阻止せよ。』

白黒の画面には、たった二行で、そう書いてあった。

「口で言うのは簡単だよな。あんたらがやるわけじゃないんだから!くそっ」

唾を吐き捨てて、リドックは、階段を急いで駆け下りる。

「ライン・・・・俺は汚れちまった・・・・・・もう・・・・まともな人間には戻れそうにない・・・・でも・・・・お前だけは俺と同じ道は歩むんじゃないぞ・・・」

誰に聞かせるわけでもなく、リドックは、口の中で、言葉を転がした。

敵の接近を知らせるサイレンは、まだやかましく鳴り響くだけであった・・・

「兵器や道具がいくら進化したって、それを使う人間が進化しなきゃ戦争だってなくならないはずだぜ・・・」

若者は、一人、薄暗い基地の通路を、ただ闇雲に通り抜けた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 六

F9a62597_240_2

右(ライン)左(リドック) 中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「こんな事を言えるのは、恥知らずだと思うし、お前にとって俺たちのしたことは一生消えないとは思うが・・・・・・力を貸してくれ・・・・お前とお前の家族の命は、我がアジア連合軍が保障させてもらう。」

リドックは、何度もラインのほうへ頭を下げたが、ラインはそれに反応せずに、窓の外を見つめていた。

「・・・無理やり俺の体を拘束できないから、泣き落とし作戦か?まったく・・・軍隊という組織には、反吐が出るな・・・・手のひら返しして、俺に媚を売るとはな・・・」

「他の実験に参加した人間は全員死亡した・・・・・お前だけが唯一の成功例なんだ・・・」

「・・・いつから軍関係者の対弁者になったんだ?」

「・・・・・・・・」

ラインの言葉に、リドックは何も返すことができなかった。

「・・・・・?煙・・・・・・?」

「え?演習でもやっているのか?」

急に外が人の声で騒がしくなって、リドックは窓の外へ目を向けた。遠くのほうで、森の間から白煙が天に昇っていくのが、はっきりとリドックの目に映っていた。

「俺たちじゃない・・・・まさか・・・・・・」

「どうやら・・・・第二ラウンドの始まりの合図かもな・・・」

ラインは、皮肉たっぷりに言葉をひねり出す。

「くっ・・・・・」

リドックは、ラインにかまわずに部屋を出ようとすると、突然、部屋にあるスピーカーからサイレンが鳴り響いた。

「緊急警報発令!兵士総員は第一種戦闘配置につけ!目標は基地に急送接近中!数300!ロボット兵士部隊の可能盛大!これは演習ではない!」

ラインとリドックは、顔を見合わせた。まだあたりには、人の悲鳴は聞こえなかった。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 伍

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右(ライン)左(リドック) 中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

ベットの上で、ラインは静かにまぶたをあけた。目の前には、かつての親友リドックが、静かにラインの顔を凝視している姿が見えた。

「・・・・・・・」

もはやラインは。リドックに言うべき言葉が見つからなかった。彼はリドックのせいで、人生を台無しにされたも同然だからである。ラインは黙ってリドックを睨むとすぐに視線を窓の外に向けた。

窓の外では、戦闘バイクや戦車がひっきりなしに演習を行っている姿が見えた。

「ライン、お前はあのこと・・・・覚えているか・・・?」

リドックは、窓の外を見ながら突然口を開いた。

「・・・・・・・」

「ああ・・・・覚えていないだろうな・・・・・・お前がこの基地に潜入して軍に捕まり、拷問を受けたとき、お前の牢屋に傷薬が転がっていたこと・・・」

「・・・・・・・」

ラインは黙っていた。

「そういえば食料もあったな・・・・・あれは誰が差し入れたと思う?」

「・・・・・・・・」

「俺が、軍の倉庫から横領したのを、お前に渡したんだぜ?ま、信じてもらえないだろうがな・・・」

ラインは、何も答えない。

「・・・・・・・なあ・・・・・・ライン・・・・・・今から言うことは、お前にとって屈辱以外の何者でもないと思うが・・・・静かに聴いてくれ・・・・」

リドックは、ラインに顔を向けた。

「俺・・・・いや・・・俺たちはお前にとんでもないことをした・・・・・お前の体を弄繰り回し、新兵器の実験台にした。それにお前の恋人を陵辱し、殺した。これは俺が100回死んだところで償えるようなレベルの罪じゃない。」

「・・・・・・」

「だけど・・・・起こってしまったことをいまさら変えられるほど、俺は神様でもなければ聖人君主でもない・・・・が・・・・・・俺はお前のためにこれから尽くして生きたい。いや・・・・お前のためになんでもする・・・・・だから・・・・」

「だから・・・・?」

ラインは、重い口を開いた。

「だから・・・・・・・力を・・・・・・お前の力を・・・・貸してくれ!」

リドックは、頭をたれて、ラインに哀願をした。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 斯

「リドック隊長、どうしたんです?」

シンは、自分の左義手の調整をしていた。

「なんだ?何かあったのか?」

リドックは急に声をかけられたので、動揺していた。

「こっちは何もないですよ。隊長は何かあったんですか?」

「いや、別に・・・・・・・・部隊の全員は待機しているな?」

「隊長の指示があるまで、部屋に待機してます。」

「わかった。俺は少し用事で席を空けるが、俺がいない間でも整備や武器の点検は怠らないように仲間に言っておいてくれないか?」

「隊長はどこへ?」

「ン・・・・・・・ま、いいじゃないか・・・」

リドックは、シンの作りの物の肩をポンと叩いた。

「リドック少佐、これは、これは。」

白衣を着た科学者たちが、やりなれない敬礼をリドックに向ける。

「ン・・・・・被験者に面会は許されているのかな?」

「ライン元兵士ですか?」

「ああ。」

「彼はまだ電気によるショックで昏睡状態のままですが・・・お会いになりますか?」

「そうか・・・・・なら目覚めるまで待たせてもらう。」

「そんな・・・・・・何時間かかるかわからないのですぞ?」

「我々の運命は、彼が握っている。そんな時間なぞ苦にはならんさ。」

リドックは、パイプ椅子に腰をすえて、博士たちの顔を順番に眺めていた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参

「仲国軍が我々に反旗をひるがえしたと?」

「まあ・・・・そうゆうことだな・・・・・これで世界は、アメリカ連合勢力と反アメリカ勢力の戦争に突入したといっていい・・・・我々は、アジア連合軍ではなくアメリカ連合軍の傘下に入ったことになる。」

会議室にいた佐官たちは、黙ってエイダスナーを見つめていた。

「我々は、これからどういった戦略を立てていくべきなのですか?我々のこの基地は、中国大陸のど真ん中に位置しているのですぞ?いつ敵が襲ってくるかわからないではないか!」

エダ・リュウ中佐が、エイダスナーに詰め寄る。

「・・・・・・・まだそのことについては返答を差し控えさせてもらう。ショウ・ヤマガタ大将からは、なんの命令も下されてはいない・・・」

リドックは、会議室の雰囲気に呑まれて、何ひとつ言葉を発することができなかった。

「・・・・・・・・しかし・・・・我々にはアメリアという大国の軍隊が味方についてくれた。これは素晴らしいことではないかね?あの軍事大国世界第一位の国と手を結べたことは、我々の実質的な戦争勝利への道につながっていくと私は考えている・・・・それに・・・・」

エイダスナーは、ちらりとリドックに視線を向けた。

「リドック少佐、君があの我が軍の新兵器である「新人造人間」を取り戻してくれた。たいした怪我もなく、部下の犠牲も最小限で抑えてくれた功績は、私は高く評価しているよ。人造人間は、ロボット兵士に対抗できる、我が軍の切り札だからな。」

リドックは、ただ、黙ってエイダスナーに頭を下げた。

「・・・・・うん。今日は、これだけを君たちに伝えるために集まってもらった。詳しいことは、後日に改めて報告する。以上!」

エイダスナーは、そういって、会議室を足早に出て行ってしまった。

残された佐官たちは、まだ突然のことで動揺しているのか、席を立つものは、いなかった。

『・・・・・・結婚式どころの話じゃない・・・・・・・これから俺たちはどうなってしまうのか・・・・・』

リドックは、震えの止まらない右足を、手で力いっぱい押さえつけた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐

リドックは、シースにキスをすると、彼女の部屋を後にした。

「上手くいっているのか、いないのか・・・・・・」

これまでの自分の人生を振り返って、リドックは一人、、自嘲的な笑みを浮かべていた。

親友の恋人を殺し、親友を組織に売り渡し、自分は恋人と共に安穏とした場所で安全を確保している。

「神がもしいるとしたら、これから罰を受けるのは間違いなく俺だな・・・・・しかし・・・・・・神は、人間のやることなどいちいち反応しているわけにもいかないか・・・」

晴れて少佐となった彼には、第95機甲戦車中隊という部隊指揮官という名誉と30人ほどの部下の命を預かる責任者という立場が両方襲ってきた。

「十分な功績を残した君は、我が軍の誇りだ。中傷なぞ気にする必要はない。」

「ありがとうございます。」

任命式でショウ・ヤマガタ大将からそう言われ、リドックは少し憂鬱な気分が抜けたような気がした。

任命式の後、彼は佐官クラスがあつまる午前会議に出席を命じられて、会議室の門をたたいた。

「いいニュースと悪いニュースがある。まずいいニュースから言ってもよろしいか?」

エイダスナー大佐の目は、遠くを見つめているようだった。

「まず・・・・・アメリア連邦軍との共同戦線をはる条約が結ばれた。まあ、そうせかすなマイス少佐・・・・・このおかげで、軍事技術や物資、補給の面でアメリア軍からの十分な提供があるといっていい。彼らもEU軍やロシアが怖いのだろう・・・・そして悪いニュースは・・・・・仲国が・・・・・アジア連合軍から正式に脱退を表明し、EU軍やロシア軍と手を結んだのだ・・・・」

苦虫を噛み潰したように、エイダスナーは口もとをゆがませながら話を続けた。

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小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 壱

「リドック大尉・・・・じゃなかった、リドック少佐だっけ・・・?」

「ああ、今日からな。なんか実感ないけど。」

「任命式は午前九時からだよね?ならまだここにいてもいいんだ?」

「そうだな。まだいるさ。」

「士官学校も出ていないのに、24歳で少佐にまで出世できるなんて、なんか不思議だよね。軍隊も変わってきたのかな?」

シースは、鏡の前で金髪のロングヘアーを紐でまとめていた。リドックはその後姿を眺めて、ずっとこんな風に彼女を眺めていられたらどんなに幸福。なのかをひとり考えていた。

『金髪で、胸が大きくて、太もももボリュームがあって、色白で、俺にとって理想の女性だよな。』

昨晩の情事後にもかかわらず、リドックは、体中から湧き上がる欲情の感覚を必死で振り払おうとしていた。

「どうかした?」

リドックの熱い視線を感じ、シースは振り返った。

「いや何ね、君が生きていてくれて良かったなって・・・・そう思ってね・・・・」

急いでリドックは制服の襟を整えた。階級章は彼の制服の肩や胸に並んでいた。

「初めて会った時は、頼りなくて男らしく見えなかったけど、こうやって制服を着ている姿は、なんだか素敵に見えるよ。」

シースは、リドックの肩にあごを乗せた。

「昔は素敵じゃなかった?」

「う・・・・ん・・・・可愛くてほっとけないタイプだったかな。」

「今は少しでも威厳が出てきたとは思わない?」

自分の顔を見て、やけに皺が多くなったとリドックは痛感した

「そう言っている間は無理ね。人を威圧する眼光がないもの。」

「鬼軍曹じゃないからな。俺は。」

「そうね。体育会系のノリはちょっと苦手なタイプでしょ?」

2人は、静かに笑いあった。

『そうだな・・・・人は愛し合っているからセックスするのであって、セックスしたから愛し合うわけじゃないと思っていたが、俺たちの場合は違うみたいだな。男は後者の考え方が多いみたいだが、少なくとも俺たちは愛が生まれたのはセックスをしたあとであった気がする。体を重ねてお互いに必要な存在となっていったのは・・・・』

「んとさ・・・」

「ん?」

「結婚しないか?」

「え?」

シースは目を大きく開けた。

「君を失いたくない。安全な場所で俺の帰りを待っててくれないか?」

「・・・・・・」

「駄目か?」

「・・・・・・・」

「今すぐ・・」

「いいよ。」

「え?」

「うん。ありがとう。ずっと、その言葉を待っていたの・・・・・・」

シースは、大粒の涙を流し、リドックの胸になだれ込んだ。

「もう私・・・・・迷わない・・・・・・・あなただけ信じているから・・・・・」

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小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

時は西暦2057年

島国、サン・ブックに住んでいた青年リドックラインは、第三次世界大戦下で、政府が決めた徴兵制で、アジア連合軍(仲国、サン・ブック、堪国、フィリピーナなどの同盟国)の陸軍に配属された。

彼らは戦場で生き残っていくが、ある日敵のEU軍兵器との戦闘中にラインが行方不明のまま死亡扱いとなる。ひとり生き残ったリドックは、アジア連合軍の中で少佐へと昇格。部下を引き連れて戦闘の指揮をとるまでに。

そんな中、リドックは非政府組織「ガーナディアン」の女スパイ、セシル(実はラインの恋人)の尋問を担当。彼女から組織の情報を聞き出そうとするが、そこへ死んだはずのラインが現れる。

ラインは、ガーナディアンのリーダーとしてアジア連合軍基地を襲撃・捕虜奪還作戦を敢行するが失敗。逆に囚われアジア連合軍の新兵器開発の実験台として体を改造される。

人体実験後、ラインは超越的な力を得て、セシルと共にアジア連合軍基地を脱出しようとするも、セシルリドックに撃たれて絶命。ラインは単身、リドック率いる機甲戦車部隊を攻撃するもあと一歩及ばず、彼はまた軍に拘束される。

そして、中国軍がEU軍との停戦・共同を発表。広大な中国大陸の中で、アジア連合軍サンブック基地は窮地に追い込まれることに。

EU軍のロボット兵士軍団に基地を襲われて、孤立を余儀なくされるリドックたち。果たして彼らを待つ運命は?

続きはWeb・・・・じゃなくて本編でね♪\(^w^)/

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ ⅩⅠ

「お前が・・・・セシルを殺したのは事実だ・・・・・・俺は、お前をもう親友だとは思わない・・・・・」

ラインは、憎しみの炎で、自分の理性を焼き尽くしていた。

「がはっ・・・・・・」

リドックは、苦しみにもだえながらも、暗闇の中で何かが自分たちの近くによってくるのを目の端で捉えていた。

「そう・・・か・・・戦場なら仕方がないとは思わないか・・・・?お前の言っていることは詭弁だぞ・・・・?」

フフッとリドックは笑った。

「何ぃ!!」

「戦争・・・・・行為に人道的も非人道的も・・・・・ない・・・・・・と・・・・神は・・・・・・・そう・・・・・俺たちに・・・・・教えてくれた・・・」

リドックは目で、後ろに回るように合図をした。無数の人影が音もなく、ラインたちの後ろに周った。

「俺は・・・・・俺は・・・・・・」

「思い・・・・あ、が・・・・・るなよ・・・・・お前は・・・・・神様にでも・・・・なったつもりか・・・・・・・その力で・・・・・戦争をなくせるほど・・・・・世の中は・・・・・・わかりやすく・・・・・ないってこと・・・・さ!」

リドックは、残っていたすべての力を、肘の神経に伝達した。

「ごほっ!!」

みぞおちに、綺麗にリドックの肘かヒットする。

「今だ!飛び掛れ!」

その声に呼応するように後ろに控えていた影が、ラインとリドック飛び掛った。

「大尉はどいてください!スタンガンを使用します!」

「OK!死なない程度に浴びせてやれ!」

「了解!」

スタンガンの火花が、ラインの体に次々に押し当てられる。

「ぐああああああああああああああああああ!!!!」

魂の絶叫とともに、ラインの体は身動きをすることなく地面に横たわった。

「個人の力がいくら優れていても、平凡な人間のたちの組織力に負けるのとは・・・・数の論理ってやつか・・・・・」

「一万ボルトの電流を流しました。生きているのが不思議なくらいです。どうしますか?」

「とりあえず・・・・・・基地に戻るぞ。」

リドックは、失神したラインの体を、優しく抱きかかえた。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅹ

そして夜の静寂が、再び彼らの前に戻ってくると、森や木や動物たちは、いつもの平静な顔で、再び眠りにつこうとしていた。

「空手・・・・・習っていたのか・・・・・?」

「プロレスの首固めを自分なりに解釈したもんだ。亜流だよ。」

「お前がプロレスなんて見てるとはな。初対面の時は、真面目で面白みのない奴だと思ってたがな。」

「軽い奴だと思ってた。女を食い物にして平気な顔をしてる。」

「俺がか?」

「処女を奪うのが楽しみとかいってなかったか?」

「理想はな。もっと純情なやつだぜ?俺は。」

「自分で言うな。」

人間の蛮行に、他の動物たちや自然が付き合う必要などは、どこにもなかった。

「セシルが死んだよ。」

「!?」

リドックは、ラインの手が急に自分の喉ぼとけに食い込んでいくのがわかった。

「く、空襲で死んだのか・・・・・俺も彼女のこと好きだったな・・・・肌が白くて眼が大きくて、胸はそんなにないけど、黒髪が良く似合う子だったな。茶髪が似合わない・・・・いい・・・・・子で・・・」

「お前が殺した・・・・」

「なっ・・・・」

静かにゆっくりと、ラインは言葉を続ける。

「お前らの捕まえた捕虜の女・・・・・・・セシルだった・・・」

「まさか!彼女が・・・・こんな戦場に・・・・・・・来るわけ・・・・・・ない・・・・」

「身分を偽って・・・・・お前・・・・・・・捕虜を・・・・・・虐待・・・・・したよな・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「神様は、お前を許してくれると思うか・・・・?」

ラインの腕が、小刻みに震えた。

「くっ・・・・・・か、神がもしこの世にいるならば・・・・・人間の業など関知するはずがない・・・・と思うが・・・・・」

「人の生き死に興味がない・・・・と?」

「ああ・・・・・・動物の数が減ったほうが・・・・・地球にとっていいことなんだ・・・・だからみんな・・・・・・し、死ぬべき・・・・・なんだ・・・・」

「なら、先にお前を!」

ラインは、すべての力を、両腕に預けた。数分もたてば、リドックの命は、この世から消え去るはずであった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅸ

「目標、十字砲火ポイントまであと10m切りました!リドック大尉、一斉砲撃の合図お願いします!」

リドックは、インターカムのマイクをゆっくりと口元まで下ろした。

「了解!全砲塔の角度を水平に維持した後、目標が動かないうちに全機、砲弾を叩き込め!跡形もなく何回でも打ち込むんだ!!生きている状態で捕虜にする必要はない!!」

「OK!」

部下たちの士気と戦意は、リーダーの鶴の一声でひとつになった。

「目標確認!広場に出てきました!」

「よし、打てーーーー!!」

その瞬間、左右に三機ずつ待機していた機甲戦車の砲塔が、中央の広場にいたラインに砲弾を浴びせていた。閃光と煙の渦が雨のように一人の人間に集中していく。そしてかつての親友の姿は、閃光と中へ消えていった。

「よし!もういい。一時撃ち方止め!状況を確認せよ!」

「大尉、目標は熱センサーや赤外線センサーにも反応がありません!やりました!作戦は成功です!」

「・・・・・・・そうか・・・・・みんな・・・・・よくやった・・・・」

「大尉!我々は正しかったから勝てたのですよ!我々に大義があったから・・・」

「正しいとか間違っているとか、そんな高尚なことは神様にでも聞いてくれ・・・・いるならな・・・・」

リドックは、乗っていた戦車上部にある扉を開けて、外へ顔を出した。

「・・・・・・死ぬのって・・・・・・あっけないものだな・・・・・」

月の綺麗な夜空を、リドックはひとり仰いだ。が、その静かな時間は、もう終わりに近づいていた。

「まだ俺は死ねない・・・・人間の業の深さを後世の人に伝えるまでは!!」

リドックの視界の上から、人間の影がまっすぐ舞い降りた。

「指揮官を潰せば、後は烏合の衆でしかない!それは戦術の基本的中の基本だ!」

「おまえ・・・・・・上空に逃げて・・・」

「俺の跳躍力を甘く見たな。」

ラインは背後をつくと、リドックの首を両腕でがっちりと固め、眼では戦車の動きを逐一頭で処理し始めていた。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅷ

『ん・・・・?戦車の動きが変わった・・・・陽動でこっちを包囲殲滅しようというのか・・・リドックのやつ・・・・いつからそんな戦術の勉強なんかしたんだ・・・・あいつ、大学の授業もろくに聞かなかったくせに・・・』

ラインは、戦車の動きに呼応することなく、砲塔をむけたまま後退していく機甲戦車の一団を眺めていた。

「なぜ俺が素手で戦車をやれたのかはわからないが、この力、利用しない手はない。」

そばには、車輪と砲塔を潰された戦車の残骸が、身動きできずにラインがいなくなるのをじっと待っているかのようであった。

「外に出たら俺に殺されるからか・・・・?」

そんな風に思っていた、その刹那

『!? 砲弾が11時の方向から来る!!』

と思うと同時に、すでに体は回避運動をとっていた。

ドゴーーーーーン!!!

すさまじい破裂音と振動と閃光が、同時にラインを襲った。彼は即座に頭を地面にこすり付けるように下げ、鼓膜を守るため耳をふさいだ。

「さすがに・・・・・戦車砲にはかなわんかな・・・・・」

煙が舞う中、頭を上げて辺りを見回すと、ラインが潰した戦車のひとつが、砲撃で炎上しているのが見えた。

「確か・・・・・・中に人がいたな・・・・・」

燃え盛る炎は、容赦なく戦車すべてを飲み込んでいった。そして、鉄の棺野中からかすかな人の悲鳴のようなものが、ラインの耳を通って、脳髄に伝達されていった。

「味方の誤射で人生を終えることも、戦場では当たり前の光景・・・・・・ドラマや映画のようには・・・・・いかないか・・・・」

炎は、生物の命を吸って、さらに勢いを増したようだった。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅶ

「体が軽い・・・・砲塔を殴ったのに怪我ひとつしていない・・・・・いける!」

ラインは、セシルの遺体を森の中へ隠しおわると、リドックたちへ突進していった。

「こんな狭い場所で、戦車の機動力を生かせるとでも思ったのか!!」

呆然と立ち尽くしたリドックを尻目に、ラインは次々と機甲戦車のフロント部分へ突撃していった。その姿はまるで、壇ノ浦の戦いで八双飛びで武勲をあげた、源義経のように・・・・

「リドック大尉!我々に指示を!このままだと機甲戦車八機が、たった一人の人間に潰されてしまいます!!あれは、一体何なんですか?」

リドックの装着しているインターカムの奥で、部下の兵士の悲痛な叫びがひっきりなしに響いた。

「・・・・・・これが・・・・・・アジア連合軍の技術の結晶である限界を越えた人間とマシーンの融合体・・・・・なのか・・・・」

瞬時に銃弾の進入角度を首の頚椎センサーで感知し、アウトボクサーのごとく最小限の足のステップで回避運動をしながら、敵のもっとも脆弱な部分を一撃で破壊できる力と速さ・・・・・

「まさに人間の臨機応変能力と機械のような正確さを極限まで追求した新兵器・・・・・・・なのか・・・・・?」

リドックは、ただラインの動きを眼で追うことしかできなかった。その間にも、2機の戦車が、車輪を自動小銃で打ち抜かれて、身動きの取れないまま中に乗っている兵士たちは、顔を出した瞬間にラインに首の骨を折られたまま、息を引き取っていった。

「・・・・・・・リドック大尉!!早くしないと!!」

「・・・・・くっ・・・・全機、距離をあけながら散開し、機銃をつかって奴をけん制せよ!その間に十字砲火のフォーメーションにやつを誘い込め!一発でも当てれば、それで十分だ!」

「でもそれでは生かして捕らえるという命令を無視することになるんじゃ・・・・」

「もう5人も部下が死んでいる・・・・・四の五の言っていられるか!」

戦車対人間の戦いは、若干戦車側がおされているという様相を呈していた。その事実に、リドックは、苦虫をかみ締めるように、インターカムに怒鳴りつづけていた。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅵ

「逃げなかったのか・・・・・・ライン・・・・・・」

セシルの亡骸を抱きかかえたラインの周りは、リドックの率いる戦車部隊にいつのまにか囲まれていた。

「・・・・・・・・・」

リドックの指示で、照明の光がラインひとりに集中した。

「・・・・逃走ルートはこちらが押さえた。」

「初めからから逃げられるとは思っていない。それに彼女をひとりで置いていくわけにはいかなかった・・・・・」

ラインは、ゆっくりと彼女のまぶたを閉じてやった。

静かに、ゆっくりと、涙雨が、空から降ってきて、ラインたちを包み始める。

「個人の力で、社会や世界を変えることなんて理想論だよ。俺は・・・・・そうできないからここにいる・・・・お前も・・・・・」

リドックは、戦車から降りて、ラインに歩み寄った。

「俺は・・・・・絶望と不幸の味を知っている・・・・・・この意味が解るか?」

「味・・・・・・?」

「もはや俺は、神以外の存在を恐れはしないということだ!」

ラインは、空へ舞い上がると、まっすぐに機甲戦車のひとつに取り付いた。

「あいつ・・・・・何を!?」

「戦車は砲塔と車輪を潰せば、単なる鉄の棺おけにしかならない!」

肘を、砲塔の長さのちょうど半分の場所へ振り下ろした。

ガツン!

金属音とともに、U字に砲塔が曲がっていった。

「馬鹿な!漫画じゃあるまいし!」

リドックは、ラインのその一連の行動に、人間に秘められた超越的な力の存在を認めざるを得なかった。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅴ

「出血が止まらない・・・・・・どうすればいいんだ!!」

セイナを抱きかかえながら、ラインは夜の闇をかけていった。

「・・・・・・・早く止血と輸血をしないと・・・・・体温が下がりはじめている。」

彼女の顔から生気がなくなり、みるみる青く黒く変色していった。

「バイク・・・・・・そうだ!戦闘バイクを盗み出せば・・・・」

ラインは、戦闘バイクが隠してある納屋のほうへ向かっていった。

「君を死なせるわけにはいかない・・・・君は・・・・僕にとって・・・・」

そう言いかけて、ラインはハッと我に返った。

「僕は何を・・・・・僕にはサン・ブックにセシルがいるじゃないか・・・・・」

久しく忘れていた恋人の名前が、急にラインの頭によみがえる。

「似ている・・・・・君は・・・・・セシルに似ている・・・・そうか・・・・・だから・・・俺は君を・・・・・」

「ライン・・・・・・」

「起きていたのか?」

「うん・・・・・私ね・・・・・隠していたことがあったの・・・・・」

「何?」

「私・・・・・・セシルよ・・・・・・」

「え・・・・・?」

「名前を偽って、あなたの元に来ちゃった・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「だって名前を明かしたら、すぐに強制送還されちゃうんだもん。女は足手まといだし、あなたならそれくらいするでしょ・・」

ラインは、突然の彼女の発言に、狼狽した。

「いままで・・・・俺は・・・・・君になんてひどいことを・・・・・・・ごめんね・・・・」

「泣かなくていいよ・・・・・私が選んだ・・・・・人生だから・・・・・・誰のせいでもないの・・・・」

セシルの体が、どんどん冷たくなっていく。

「早く・・・・・病院へ行こう。ベッドで輸血しなくちゃ・・・・・・・そして僕がずっと君の手を握っててあげる・・・・・もう絶対に離しはしないよ・・・・」

セシルの手は、今にも折れそうなくらい細く、そして脆く見えた。

「私の人生は・・・・・・ここで終わりだけど・・・・・・あなたは生きていて・・・・・私の変わりに・・・・・この先の未来を見てきて・・・・・・そして死んだら・・・・天国で私に話してほしいの・・・・・」

「ああ・・・・・・ああ・・・・・・」

ラインは涙で、前が見えなくなっていた。

「・・・・・・・・・・」

そして、彼女は眼を開けることは、一生なかった。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅳ

ダン!

銃声が鳴り止んだ後、ラインの腕の中にいた彼女の体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

「あ・・・・・」

彼女の体から流れおちた血液が、血の海へと変わり、ゆっくりと床を侵食していくのが、はっきりとラインの網膜に認識されていった。

「くっ・・・・・・リドック!」

彼女を抱きしめながら、野獣のような眼でラインはリドックを睨み付けた。

「あ・・・・・・・いや・・・その・・・殺すつもりはなかった・・・・まだ医者に見せれば助かるかも・・・・」

リドックは、自分が引き金を引いたことをすっかり忘れているかのように、狼狽していた。

「おまえたちはいつもそうだ!自分は悪くない。自分は命令されただけ。拒否すれば殺されていただの何だの・・・・それが子供の上に立つ大人の言うことか!!」

彼女の血は、ずっと止まることなく流れつづけた。

「俺を・・・・こんな風にした軍隊が悪いよ・・・・俺は学生の頃、虫だって殺せなかった・・・・・」

リドックは、拳銃の向きをラインに修正していた。

「まだ言うのか!」

ラインは、物凄い速さで、ラインに突進していった。

「!?」

その人間を超えた足の速さに、リドックは拳銃を撃つこともできずに固まっていた。

パシーン!

暗闇の中で、何かが転がっていく音が聞こえた。

「・・・・・リドック・・・・・俺はお前は殺さない・・・・・」

「・・・・・・」

「もう・・・・行くよ・・・・・」

悲しい声と共に、ラインは、彼女を抱きかかえて、夜の闇に消えた。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅲ

「どこへ行くんだ?ここは2階だぞ?」

リドックの手の中の拳銃はまっすぐラインの右にある心臓に向けられていた。

「・・・・この高さなら死にはしない。」

ラインは窓の外の闇を凝視し、窓の淵に足をこすり合わせた。

「よせ。お前が逃げたら親友だった俺が真っ先に疑われる。俺の責任になるんだぞ。」

「・・・だからなんだ?」

「だからこのままここにいろ。お前たちは死刑にはしないと約束する。俺が上層部に嘆願してやる。だから・・・」

リドックは、ラインと目を合わせることはしなかった。

「リドック・・・・もういい・・・・俺は人間に心底、絶望した。だからお前たちとは一緒にいられない。」

「お前だって、人間だろうに!!」

銃弾は、ラインの頬をかすめた。

「・・・・・・・・」

「そうだな・・・・俺も人間さ・・・・・でも俺はただの人間じゃなくなったんだ・・・・」

「どうゆうことだ?」

「お前たちの軍隊のモルモットにされた。人体実験のモルモットにな。」

「まさか・・・・新兵器のために捕虜を利用すると・・・」

「お前はそれを知ってて止めようともしなかった。」

ラインは、頬に流れる血を、親指で拭いた。

「俺だって・・・・・俺だって・・・・・・・軍隊で生きていくためには・・・・こうするしか・・・」

「ああ・・・・・その生き方はある面では必要悪かもしれないが、倫理的には許される行為だと思うか?」

「人間が悪いんじゃない!悪いのは人間が生み出したシステムだ!欲望や本能をベースにした資本主義や軍国主義が悪いんだよ!」

そして二発目の弾丸が、ラインの心臓に向けて発射された。

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅱ

「セイナ・・・・無事だったか・・・」

「ライン・・・・どうして・・・・・?」

ラインは、セイナの手首に巻きついていたロープをほどき、部屋の隅でうずくまっている男たちの服を脱がずと、セイナにそれを着せた。

「寒かっただろう?痛かっただろう?ごめんな。助けるのが遅くなって・・・」

ラインは、体の震えが止まらないセイナの体を、服で包んだ。

「もう・・・・こんなの嫌・・・・・はやくうちに帰りたい・・・・・あったかい世界に帰りたいよぉ・・・・」

セイナは、ラインの腕の中で、静かに震えていた。

「ああ・・・・そうだ・・・・・こんな虚栄と強欲と欺瞞の世界から抜けだそう・・・俺は、もう、人間という動物が、こんな生き物だったことに、正直がっかりしたんだ。もう、この世界を捨てて、2人で人間のいない場所で暮らそう。」

ラインは、両腕でセイナの体を支えると、歩き出した。

「出口は、あっちか。」

もはや、強靭な肉体と精神力を手に入れたラインを止められるものは誰もいないだろう。

「ライン!」

建物の窓の手すりに足をかけた時、後ろでラインを呼ぶ声がした。

「・・・・・・・リドック・・・」

彼らを阻むもの。それは拳銃を向けたかつての親友リドック以外には以内であろう・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅰ

「遅い!!」

ラインは、拘束具を一瞬にして粉砕すると、目の前で自分の脈を計っていたアンドリュー博士の背後に回り込み、最小限の声が出る程度に首を絞め上げだ。

「博士!?」

隣にいたゲルス助手は、ラインの一瞬の行動に、ただ声を上げるだけであった。

「騒ぐな!動くな!騒いだらこの男を殺す。」

ラインはゲルスを睨み付けた。

「・・・俺に何をした?」

ラインは短い言葉をアンドリュー博士の耳元で囁いた。

「うぐっ・・・・は、放してくれ・・・・息が、できな・・・い」

「嘘をつくな!俺はそこまで力を入れちゃあいない!」

眉間に皺を寄せてアンドリュー博士はうめいた。

「お前を・・・・手術した・・・・・・」

「何だと!?」

「軍の命令でな・・・・何の手術かは言えんが・・・」

ラインは、首を絞める力が無意識に強くなっていくのを感じだ。

「アグッ・・・・・ぐるじぃ・・・・」

「何の手術をしたんだ!!俺の体に何をしたんだ!」

「アンドリュー博士を放せ!死んでしまうぞ!」

「うるさい!俺の体をいじくりまわして、何をしたんだ!」

「答えて・・・やるものか・・・・・俺たちは・・・・仕事で手術をしたまでだ・・・・別にしたくてしたわけじゃない・・・」

アンドリューは、ラインを見下すような目で見つめていた。

「っ!お前らにだって自分のゆずれない理屈や信念ぐらいあろだろうが!?」

「・・・・・そんなものはこの欺瞞の社会で生きていくために必要ないんで、とうの昔にゴミ箱に捨てた。」

ラインは、アンドリュー博士を突き飛ばした。

「・・・・・女は、捕虜の女はどこにいる!?答えなければ、お前らを殺す。」

「・・・・第二実験室だ。この建物の二階の突き当りの部屋で・・・」

2人の白衣を来た人間たちはラインが部屋を出て行くのを、ただじっと見守ることしかできなかった。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 22

そして話し疲れた2人は、公園にあるベンチに腰を下ろした。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

彼らは、時計を気にする素振りも見せず、自分たちの家に帰るつもりもなかった。明日の朝には、彼らは、国を出て、戦争にその身を投じるのである。

いつ終わるともしれない戦いに、今まで築き上げた日常を捨ててまで・・・

「俺たちが言葉をいくら積み上げても、この現実が変わるわけでもない・・・か・・・・」

季節はもう春なのに、ひんやりとした風が、彼らの皮膚を刺激していた。深夜1時をまわっても、彼らはベンチから動こうとしない。

「いいのか・・・・?」

リドックはラインの顔を見た。

「何が?」

ラインは、顔を動かさず返事をした。

「自分の家に帰らなくて。俺は一人暮らしだから・・・」

「大丈夫だよ。母さんには連絡してある。もう子供じゃないんだ。」

「そうか・・・」

リドックは口をつぐんだ。

「チカラ・・・・・・」

「え・・・・?」

急に、ラインから口を開いた。

「チカラが・・・・欲しい・・・」

「チカラ・・・?」

「すべての世界をリセットさせるチカラが・・・・・人間の悪行や欲望を・・・ねじ伏せるだけのチカラ・・・・・が・・・・欲しい・・・・・」

『チカラ・・・・・・戦争を・・・・欲望を・・・・圧制を・・・・・搾取を・・・・すべて自分の全身全霊をかけて・・・・・打ち破るチカラ・・・・・・!!!』

ラインは、目が覚めた。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 21

「・・・もともと、この世の中なんてすべてが公平中立であった試しがないのは理解してたけど、こうも露骨に兵役免除の事実があるとはな・・・」

リドックとラインは喫茶店を後にして、夜の川原沿いの道を、とぼとぼと歩いていた。時刻はちょうど夜の10時を回っていたところである。

「悔しかったら、お前らも権力側や搾取(さくしゅ)側にまわってみたらどうだ?ってね・・」

「ああ・・・・やつらは心の中でそう思ってるだろうな・・・・まったく人間の本音の建前、二枚舌の使い分け方も徹底されているよな。口で国民に対して愛国心や家族や大切な人を守るために、兵士として戦場で戦うべきだと煽っておきながら、自分たちは後方で家族と共に、安全な場所で悠々自適な生活を送っていやがる。畜生め!」

リドックは、道路に転がっていた小さな石ころを蹴飛ばした。

「いつも割を食うのは一般庶民ってこと?」

「この石ころのように蹴飛ばされてな。やつらは、自分たちの生きるシステムを確立するのに躍起なんだぜ。一般国民をないがしろにしてもな。」

「既得権益・・・か・・・」

「ああ・・・・インテリとかエリートは生きる力が弱いから、自分たちで特権を確保しないと生きていけないんだよ。」

「学閥とか天下りとか?」

「そうだ。エリートはリスクを負って仕事をしてるわけじゃないし、なんらイノベーションを生み出しているわけでもない。パートのおばちゃんの方が機転も利くし要領もいい。しかし、エリートの方が収入は段違いだ。」

「それは・・・・一定の努力を認めて特権を与えているんでしょ?学力に対しての。」

「努力というものは、人間誰でもしている。スポーツや仕事や恋愛やコミュニケーションなどなんでもいい。しかし、彼らインテリは学歴という結果で自分たちの生活能力の無さを補おうとした。それが学歴至上主義の蔓延さ。」

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 20

「・・・・・海軍は止めておいた方がいいと思う。母艦が撃沈されたら、余程のことがない限り、サメの餌になっちまう。海は逃げ場がないしな。」

リドックは、アイスコーヒーを何度もお代わりしていた。

「・・・・空軍はどうなの?戦闘機乗りって生存率高いのかな?」

「そうだな、知り合いの話だとパイロットは視力が裸眼で1.5以上ないとなれないって。それにほとんど航空専門学校卒で占められるから、俺たちには無理だな。整備士免許でもあれば別だけどな。」

いつの間にか喫茶店には、リドックとラインの2人だけしかいなかった。

「・・・・・・陸軍は一番死亡率が高いって聞くけど・・・・・」

「当たり前だ。兵士動員数が他とは桁が違うって。戦争の基本的戦略は占領による領土拡大にあるわけだからさ。でも現代戦だと主力は戦闘バイクやホバー式戦車に移行してるしミサイルもあるから、戦場に歩兵がいらなくなるって話聞いたぜ。今時、肉弾による突貫作戦なんてアナクロ(時代錯誤)なんだと。運がいいよな俺たちさ。これも生まれてきた時代のおかげだぜ。」

リドックの左手は、アイスコーヒーのグラスを血管が浮き出るまで握ったままであった。

「ははっ・・・・・そうだね・・・・」

ラインも乾いた笑いを返した。

「戦いってさ、刺激があって案外楽しいかもしれないぜ。こんなサン・ブックで、フリーターやつまらない仕事をするよりも、兵士になってアジアを守るっていう崇高な理想に自分が参加できることのほうがさ。軍人年金や負傷手当だってあるし、健康保険だって入れる。福利厚生なんか派遣社員よりいいもんな。」

「・・・死んだら、関係ないけどね。」

リドックは、黙って窓の向こうを眺め始めた。

「・・・・・・政府や官僚や知事の子供はさ・・・・」

「ん・・・・?」

「・・・・・出征・・・・免除らしいぜ。戦場に行かなくていいって裏で根回ししてんだよ・・・」

「・・・・・・・・」

「あの都知事のクソヤロー・・・高額の退職金と年金もって、サン・ブックを出やがって・・・・どこにいるかわかりゃしねぇ・・・・」

「・・・・・・・・」

リドックの独り言を、黙ってラインは聞いていた。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 19

「・・・今日は、お前に会って話したいことがあったんだ。」

喫茶店の中は賑わっていて、主婦や定年を過ぎた年寄りの姿で溢れていた。

「僕もだよ、リドック。君には出征する前に一度会いたいと思っていた。」

こんな時間に、20歳を過ぎた若者が喫茶店にいること自体、異様な光景であった。

「・・・・・・昨日・・・・・ネットで、「ジョニーは戦場に行った」を見たんだ・・・」

周りに聞こえない声で、リドックは言葉を絞った。まわりの主婦たちは、自分たちの生活や趣味の話をして、現実逃避をしているようだった。

「ああ・・・・僕もその映画は知っている・・・・・・知っているよ・・・・・」

唇をかみ締め、ラインの唾を飲み込む音が、静かに鳴った。

「・・・・・・・・・なあ・・・・人を殺す覚悟と、自分が死ぬ覚悟・・・・・できたか・・・?」

その言葉は、それほど大きな声ではなかったが、喧騒渦巻く喫茶店の中で、確実にラインの耳をうった。

「・・・・・・・・・・」

その質問に、ラインは22年生きてきた自分でも、答えられる次元の質問ではないと悟った。コーヒーを一杯、胃に流し込んだ後、ラインは重い口を開いた。

「・・・昨日、母に泣きつかれた。セシルも口を聞いてくれないし、電話にも出ない・・・・・リドックは?」

「・・・・・・・母さんは、何も言わなかった・・・・俺に何も言わなかったんだ・・・・」

このサン・ブックより遥かかなたで、確実に、人の生命の息吹が消し去っている事実を、青年たちは、かすかな頭で、想像して、身体が震えた。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 18

「この検体の精神や肉体、脳味噌は、我々の実験で進化するのでしょうか?」

ヤスタテは、恐る恐る、アンドリュー博士の目を覗き込んだ。

「進化?それは、何を基準にして進化するという意味か?」

白衣の男たちは、手術台の上で眠り続ける青年を見下ろしながら話をしていた。

「いえ・・・・その、我々のやっていることが、自然の流れの中での人間の進化ではなく、敵の兵器に対抗するための、人為的に人間の肉体や精神を、極限まで強化する事というのは、若干の抵抗がありまして・・・・」

メスやハサミ等の金属の音が、絶え間なく鳴り響いていた。

「・・・・・神の領域を汚す行為だとでも?」

アン博士は、医学助手に汗を拭いてもらっていた。

「これは・・・・・人間の進化の可能性を試すものではなく・・・・・・人造人間や強化されたサイボーグを作る実験・・・・・なのではないか・・・と・・」

ヤスタテは、ジッとラインの肉体の繊細な部分を凝視していた。

「・・・・・我々には拒む権利などない。戦争による非常時だからこそ、いくらでもサンプルが手に入るのだからな。感謝こそすれ、軍を非難する資格はないと思うが?」

「成功するなんて保証はないのですよ?失敗したら、我々は世界から非難が集中します。成功しても・・・・」

「それは・・・・・手術が終わってから判断すればいい。今は、目の前の手術に集中しろよ。次は、骨の関節箇所に小型サスペンションを導入し、機能チェツク。」

「・・・・・はい。」

「その次は、ハイブリット・シナジー・センサーを、首の頚椎部分にインプラントして、脳神経との結合作業だ。急げよ。」

「難しい手術になりそうですね・・・」

「ああ・・・・まだ彼には、夢を見ていてもらわないといけないな・・・・」

表情一つ変えず、ラインは、まだ、幻想の中で、彷徨っていた。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 17

「ねえ・・・・・戦争に行くって、本当なの?」

「・・・本当だよ。出征届けも市役所に出したし、兵士用の荷物もうちに届いた。」

「いつ・・・・・行くの?」

「・・・・来週かな・・・・。君には黙っていようと思ったんだけど・・・・」

「・・・・なんでそんなに平気でいられるの?死ぬかもしれないのよ?」

セシルは、持っていたフォークをテーブルにそっと置いた。

「・・・なんでって・・・・・仕方ないよ。政府の命令には逆らえないし、まだ死ぬとは限らないし・・・・」

ラインは言葉を慎重に選んでいった。

「あなたの夢は、どうするのよ・・・・弁護士として、虐げられている人や弱い人たちを助けるのがあなたの夢じゃなかったの?そのためには、国だって敵にまわす覚悟をしてたんじゃないの?」

セシルは、周りの客に聞こえない程度の声で、ラインに語りかけた。

「・・・・・仕方ないよ・・・・・・諦めるよ・・・・・時代が時代だから・・・・もっと平和な時代に生まれてくればね・・・」

「・・・・・・・・・帰る・・・さよなら・・・・・」

「え・・・・・?ちょっと・・・・・・・セシル!」

彼女は席を立つと、そのまま振り返りもせず、どんどん遠ざかっていった。

「待って!セシル、話を聞いてくれ!俺は、俺は弁護士の夢を完全に諦めたわけじゃない!だから・・・・話を聞いてくれ!セシル!」

暗闇の中を、必死にセシルの影を追い求めて、ラインはもがき苦しんでいた。

手は、今まで殺してきた人間の血で、真っ赤に染まっていくのが見えた。

彼は、人体実験を受け、無意識と意識の中で、彷徨っていた。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 16

登場人物紹介

ライン (23) 

元アジア連合軍伍長。戦場で行方不明だったが、非政府組織のリーダーとして、捕虜となった仲間を助けに、アジア連合軍基地を襲撃するも捕まり、尋問を受ける日々をすごしていたが・・・・・

麻酔を打つ瞬間を、彼が目撃しなかったのは、幸福かもしれなかった。

彼は、自分の周りの世界が、ゆっくりとなめらかに動いていく眩暈(めまい)にも似た感覚に襲われた。そして恐怖も感じずに、意識をスイッチを切った。

「・・・・・・・・・・・」

ベットに運ばれ、手術台の上で、ラインは、自分の運命を切り開く権利を永遠に失ったのである。

ラインの目の前には、公園のベンチが見えた。彼は、そこに座ると、恋人のセシルを待ち続けた。

「1時に待ち合せだったけど・・・・まだ来てないな・・・・あいつ・・・」

暖かい日差しの中、彼は、行きかう人々の歩く姿を目で追いながら、考え事をしていた。

「都会の人って、何でこうも不機嫌そうな顔をしながら、いつも急いでるんだろうな?そんなにいつもいつも、急がなきゃいけない理由でもあるのだろうか?」

せわしなく動き回る人を、不思議そうな目で彼は見つめた。

その時、彼の肩を誰かが、2回、叩いた。

「やっ!」

「おお、仕事だったの?」

「うん。派遣先が遠くてさ・・・・ちょっと遅れちゃった。」

彼女は、紺のスーツのまま、彼の元へやってきたのだ。

「今日は、どうする?俺のおごりでなんか食べようか?」

「いいよ。前もおごってもらったし、給料少ないけど割り勘でいいよ。」

彼女の笑顔は、世界中の誰よりも、僕の心を暖かくしていた。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 15

「・・・・目隠しをとってやれ。」

男の声に答えるように、ラインの顔に付けられた黒い布が、ゆっくりとまわりの男たちの手で、剥ぎ取られた。

「・・・・・・!?・・・・・・・」

顔の前にあるライトの光に、ラインは目を細めた。

「眩しいかね?」

「・・・・・ええ・・・・・顔の近くにありますからね・・・」

「ハハッ、すまないね。」

「・・・・・・・・・」

「今日は君の尋問はしないつもりだが・・・・・そんなに不機嫌な顔をしなくてもいいんだよ。」

その声の主は、白い白衣を来ているのが見えた。

「何を・・・・するんですか・・・・?」

「なあに・・・・ちょっとした検査だよ。すぐ終わる。君があんまりに尋問にたいして黙秘をし続けるんでね・・・・ちょっと今日は趣向を変えてみようかと思うんだ。」

「趣向・・・?」

ラインは、手や足が鎖で固定されていることが、分かった。

「我々は、敵のロボット兵士を凌駕した新兵器を開発したんだが、それをまだ実践に応用できるような段階ではないんだ・・・・それでね・・・・・そのための実験に君の協力が欲しくてね・・・・」

男のメガネが、キラリと光ったように見えた。

「実験・・・・・だと・・・・・?」

「ああ・・・・そうだ・・・・・我々は、ロボットのような応用の効かない、柔軟性がない兵器には未来はないと思っている。あんな人形よりも、柔軟性があって素晴らしい素材を、我々は知っている・・・・・」

「・・・・・・・・」

「それは・・・・・・人間だよ・・・・」

「に、人間・・・・?」

「ああ・・・・・人間の脳味噌のほうが、スーパーコンピューターよりも遥かに演算能力が高く、出力と入力のスピードも並大抵ではない。記憶のデーターベースも物事に対しての考え方の柔軟性もコンピューターより素晴らしい。これは証明されている!」

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 14

それは、突然、やってきた。

朝の光が、窓の格子から、ラインの傷だらけの身体に降照らし始めたころ

そう、朝の7時を回ったちょうどその時、

ラインの収監されている牢屋のドアが、突然、開け放たれたのだ。

そして、ドアが開くと同時に、2人のやせ細った男たちが、車椅子とともに、牢屋の中へなだれ込んだのだ。

彼らは、床に倒れて、満身創痍のラインを抱きかかえると、持ってきた車椅子に押し込み、持っていた手錠を、ラインの手にはめた。

ラインは、意識が朦朧としながら、頑強に抵抗する術も力もなく簡単に車椅子に拘束されると、見知らぬ男たちが、自分をどこかへ輸送するつもりだということに気がついた。

『・・・・・今日は拷問はしないのか・・・・・何だ?・・・・・あの手紙の意味深な言葉とはこれのことか・・・・・?』

男たちの風貌はTシャツに色落ちした短パンという、とてもラフな服装であった。彼らの後ろには、ライフルを携帯した護衛兵らしき人物が、監視していた。

『・・・・・・そうか・・・今日で俺自身の運命が決まるのか・・・・・・。死の十三階段を登っていくのか・・・・・それとも・・・まだ生き続けられるのか・・・・母さん・・・・セシル・・・・・・俺は・・・・・俺は・・・・・』

男2人と、護衛兵につれられて、ラインは、薄暗い基地の通路を、病院に入院している末期患者のように、車椅子で運ばれていった。

『・・・・・・レクター博士みたいに連れてかれたら、おもしろいのにな・・・・・』

そんなことを発想できる自分は、まだ精神的な余裕があるとラインは思い、フフッと口から笑みがこぼれてきた。

『このTシャツの男たちも、軍関係者じゃないのかな・・・・・俺と同じ捕虜なのか・・・・?』

これから待つ、運命という名の地獄も知らずにリドックは、ふと車椅子を押している男たちを観察していたのだった・・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 13

そして今日もまた、ラインのいる牢屋に、物が置かれていた。

『今日は、モルヒネ以外にも何かあるな・・・・・』

ゆっくりと右手を伸ばし、暗闇の中で差し入れのある場所、くまなく手で触っていった。

『柔らかくて弾力がある・・・・・・パンだ・・・・・・この感触は・・・・・メモ用紙・・・・だな・・・・』

ゆっくりとパンを手でちぎって、口にほおばる。その瞬間、口に広がるパンの食感と小麦粉の匂いが、ラインの生きる活力を呼び覚ました。

『こんなにパンが美味しいなんて!!!』

パンを持つ手が震えて、しばらくパンの食感を口の中で楽しんでいたが、ラインはすぐにパンを胃に押し込めると、床に置いてあったメモ用紙を、牢屋の窓格子から差し込んでいる月の光に、照らした。

『・・・・・モルヒネは、一回毎に約六時間の感覚で痛みをやわらげてくれる。大切に使って欲しい。治療薬は塗り薬しか調達できなかった。これで止血はできるかどうかわからないが、ないよりはましだと思う。君にメモを渡したのは、牢屋の中で、僕が迂闊に喋ることができないからだ。この牢屋も盗聴されているし、いつ誰が来るかわからない。この手紙は、読んだらすぐに破り捨ててくれ。モルヒネも治療薬も隠しておいてくれ。それと、近々、君に対して何らかの処置が加えられる可能性がある。それは拷問ではないとだけ言っておく。その内容は僕もわからない。から用心して欲しい。追伸、セイナという女は、今のところ無事だ。生きている。安心していい。」

ラインは、月の光の中で、人の温かさを、身にしみて味わっていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 12

暗闇の中で、黒い影がゆっくりと周りの様子を警戒しながら、ラインの牢屋の前で立ち止まった。

「・・・・・・・・・・・」

物音ひとつしない、静寂の時間が、ゆっくりと、この空間を支配していた。

「・・・・・・・・・・・」

影は、あいもかわらず、ラインのいる牢屋を凝視して、彼の身体の状態を調べている様であった。

「・・・・・・・・・・・」

呼吸の音を、あたかも寝ているように装い、ラインは、静かに彼がこの場を立ち去ってくれることを、願った。

影は、ラインの様子を一通り観察し終えると、彼のいる牢屋の中に、何かモノを転がした。

それは、ラインの肩にぶつかって、向きを変えて、その場で動きを止めた。

コロコロ・・・・コロコロ・・・・・・

今度は頭や手に、ものがぶつかってきた。全部で3つくらいだろうか?

「・・・・・・・・・・」

彼は、ピクリとも動く素振りを見せなかった。

「・・・・・・・また・・・・・来るよ・・・・・・」

影は、ラインに声をかけると、静かにその場から姿を消した。

牢屋の中では残されたラインが、モルヒネ2つと、治癒薬を握り締めて、涙をこくこくと流している最中であった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 11

薄暗い牢屋の中で、人の呼吸する息遣いが聞こえた。

必死に生きようとする、命の息吹の音が、闇の中で、生命の尊さを訴えいていた。

ラインはボロボロの身体を、冷たいコンクリートの床に預けながら、一生懸命、呼吸することを、止めなかった。

息を吸い込むことにより、酸素を体内に呼び込み、それが血液と結合し、拷問で受けた傷を自然治癒力で少しでも癒すことが、今の彼の最大で最善の行動であった。

「このままで、俺の人生が終わってたまるか!!!」

その叫びは、声にはのらない。

彼の魂の絶叫である。

彼は、セイナを守るために、自ら率先して、尋問を受けることを申し出た。

そして軍はそれを受託し、彼1人だけに、拷問を加えたのだった。

それは、熾烈さを極めた。

しかし、彼は、ずっと口を割ることはなかったのである。

深夜一時に、2回目の拷問が終わると、彼は即座に失神した。そして目が覚めると、セイナの姿もなく、拷問を加えていた兵士もいなくなっていた。

「・・・・・・・誰か・・・・・来るのか・・・・?」

腫れ上がった目を、一生懸命こじ開けて、暗闇を見渡すと、ドアの向こうから、靴音が近づいてくるのが聞こえた。

こつ、こつ、こつ、こつ・・・・・

心臓の音が、激しくつきあげてくるのがわかったとき、ラインはまだ自分が死んでいないことがわかって、うれしくなった。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 10

「ええ・・我々軍人は人を殺してるわけじゃないんですよ。国を、祖国にいる家族を守るために、そしてアジアという広大な地域の平和と秩序のために、EU軍やロシア軍と戦争をしているのです!」

広報室の扉を開けると、TVカメラを前に満面の笑みを浮かべて、リドックはリポーターのインタビューに答えていた。

「なるほど・・・・それが我がアジア連合軍の大義というわけですね?」

「そうですね。まあ、スローガンといったところでしょうか。」

『あなた方に、義は、あるのか?』

「どうかなさいました?気分でも悪くなりましたか?」

リドックは記者の前で、頭を抑えてしばらく黙っていた。

「いえ・・・・・ね・・・最近ストレスのせいか、頭痛が頻繁に襲ってきましてね。変な単語が私の頭を駆け巡るのですよ。ホントしつこくて・・・・参ります・・・」

それは、リドックの頭の奥底に眠る、最後の良心の抵抗であったかもしれなかった。

「我が軍が、敵の捕虜に対して、虐殺や拷問をしているとの報告が、我々、記者クラブに届いたのですが、その情報は、本当なんですか?」

「そんなわけありませんよ・・・・・事実無根です。我々は、国際条約に反するような・・・・非人道的で、人間にあるまじき反社会行動を・・・・行っているわけがない・・・・なんなら・・・・・この基地を案内しましょうか?拷問された捕虜なんていないことが証明されるはずです。」

『そしてすべてを知ってしまっても、あなたは自分を見失わないで・・・』

「また頭痛ですか?」

「・・・・・そうみたいです・・・・ちょっと失礼・・・・・」

制服の内側に忍ばせていた頭痛薬を、急いで飲み込んだ。

「ですから、ここまで説明すれば、私たちが戦争の継続を望んでいないことも、虐殺をしていないこともお分かりいただけましたか?」

『たとえ戦う毎日に明け暮れたとしても、昔の自分自身を忘れないで・・・・』

「今日は・・・・ここまでで会見はよろしいですか・・・・・?』

「あっ、は、はい・・・・」

あまりにも苦悶の表情を浮かべるリドックに、リポーターは言葉を詰まらせた。

「では・・・・・失礼します。」

彼は、挨拶もろくにせず、足早に広報室から消えた。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 9

「君はもう捕虜尋問はしなくていい。部屋で待機していてくれ。」

エイダスナー中佐の部屋に呼び出されたリドックは、開口一番、そう告げられ目を丸くした。

「少し質問があります。」

「何かね?」

リドックは、目の前のエイダスナーの鼻あたりを凝視していた。

「ライン元伍長の尋問は、誰か担当するのですか?」

「専門の兵士に任せるよ。君だと元同僚として情が移る可能性もあるし、何より時間がかかりすぎて効率が悪いからな。」

「彼は・・・・・・どうしてあんなことをしたんでしょうか?」

「基地襲撃と捕虜奪還作戦のことか?」

「はい。」

「・・・・・まだ尋問をしていないので詳しいことは答えられんな。今、確かなのは、彼が寝返ったという事実だ。彼は非政府組織のリーダーとして、いろいろ情報は隠し持っているはずだろうな。それをすべて吐いてもらうよ。どんな手を使っても・・・・あの女もまだ生きているしな・・・・」

エイダスナーの言葉のひとつひとつに、ラインという青年の運命が握られていた。

「情報を引き出した後は、彼はどう処理されるのですか?」

リドックが、一番聞きたかったことである。

「・・・・・そうだな・・・・・・女は死ぬか、兵士の慰みモノになってもらうか2つくらいの選択肢はあるが、ライン伍長には・・・・・・結局死んでもらうしかないのかな・・・・あるいは・・・・」

「あ・・・・・・・・あ、あるいは・・・・?」

「ああ・・・・・この先は軍事機密だから・・・・迂闊に喋るわけにはいかないな・・・」

感情を表に出すこともなく、エイダスナーは人間を事務的にかつ効率的に、抹殺することに躊躇する様子は皆無であった。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 8

「ああ・・・・リドック隊長・・・・ご無沙汰してます。」

久しぶりにシン伍長のいる病室を、リドックは訪ねた。彼は部隊の生き残りの1人で、リドックの気心のしれた仲であった。

「シン、腕の痛みはどうなんだ?まだ駄目か?」

病室のベットの上で、シンは右手だけを使って食事をしている最中であった。彼の左手は、肩から下、全部を戦場で失ったばかりである。

幻肢痛って知ってます?それに今苦しめられている最中ですよ。でも運が良かったって医者が言ってますよ。利き腕が右手だったし、今は義手のテクノロジーも進歩してますから、本物と見分けがつかないくらい精巧なやつがあるらしいですよ。いや~左手を失くした直後は、相当凹みましたけど、今は、何とか前向きに考えられるようになりました。」

シンは、包帯だらけの顔をくしゃくしゃにしながら笑っていた。

「ああ、そうだな。お前は運がいいよ。敵の新兵器にやられて、手足すべてを失くした仲間もいる。それに比べてお前の怪我はまだマシなほうさ。よく生きて帰ってきてくれた。」

リドックも、顔に皺を作りながら、笑った。

「そうですね。生きて帰れただけでも良かったです。母親にEメールも送ることができましたし、まだ戦争が終わった後に、ミュージシャンになる夢もありますしね。」

「そうか・・・・・絶対に叶えられるさ・・・・・お前ならな。もうすぐで体は全快するのか?近々また部隊編成が行われるから、お前にも知らせておこうと思って・・・・」

リドックは、手に持っていたファイルに目を通していた。

「あと一週間で傷はふさがるそうです。それからリハビリをして・・・・・2週間はかかるかな・・・・」

「そうか・・・・ま、今はちゃんと寝て身体を休めることだな。それに喜べ!お前専用に、軍が片腕でも撃てるライフルを特製で作ってくれたんだぞ!嬉しいだろ!?」

「ええ・・・・・」

「それじゃ、また夜にでも顔を出すよ。じゃあな!」

「また来てくださいよ。」

リドックは、シンの肩をポンと叩くと、病室のカーテンを閉めた。

ガッシャーン!

病室を出た直後に、鋭い金属音が部屋の中で鳴ったような気がした。

「・・・・?・・・・・」

「畜生・・・・・・畜生・・・・・ちくしょおおおおおおおおおお!」

戦場や争いにおいて、人間が死のうが生きようがどんな姿になろうが、神様にとってそれは、他愛のない動物の、弱肉強食のほんの一コマにしか過ぎないのである。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 7

「・・・・・・どこへ行くの?こんな時間から・・・・」

制服に着替え、1人で部屋を出ようとするリドックの背中に、シースの柔らかい声が響く。

「・・・・仕事なんだ。少尉に昇進してからさ、いろいろと責任が生じてさ。」

ほとんど寝ていないリドックの目は、目元が腫れ上がり、充血していた。疲れているのだ。

「ねえ・・・・一緒に寝てくれないの?まだ私・・・・・あなたのぬくもりを感じていたいの・・・」

シーツで自分の体を隠しながら、シースはリドックに擦り寄ってくる。

「ごめんね。今は重要な任務についているんだ。だから・・・・・・」

そうリドックが言い終わる前に、シースの指が、リドックの制服の裾を掴んだ。

「・・・・・・どうしたの・・・・・?」

「お願いが・・・・・あるの・・・・・」

「お願い・・・・?」

「さっき・・・・・あなたが言ってたこと・・・・」

「俺が・・・・言ったこと・・・・・?」

「ええ・・・・・・私を守るって・・・・・・・」

「あ・・・・ああ・・・・・君を守るよ・・・・・・・・・」

「その約束・・・・・絶対に破らないで・・・・」

「え・・・・?どうゆうこと・・・?」

「私を・・・・・死ぬまで守って・・・・・ずっと一緒にいて欲しいの・・・」

「・・・・・・・・」

「私と結婚して。そして、私をこの世界から解放して欲しいの・・・・」

シースの目は、悲しみに満ち溢れていた。

「こんな生活から・・・・・私を救って・・・・・いつ、死ぬかもしれない戦場にずっといるなんてもう沢山・・・・それに・・・・私は・・・・・依存して生きていく以外に、生きる術を知らないから・・・・・だから・・・・あなたの・・・・あなたと・・・・」

彼女は、下を向くと大粒の涙をこぼして、声を上げてないていた。

そんな彼女を見ていたリドックは、かける言葉を失っていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 6

リドックは、体のけだるさを引きずったまま、彼女の隣でゆっくりと煙草に火をつけた。

そして横で静かに呼吸を整えている彼女に、そっと毛布をかけてあげた。

時計の針は、深夜4時を回ったところである。窓の外の闇は、そろそろ姿を消そうとしている時であった。

『兵士になる前は、煙草なんて吸いたいとも思わなかったのになぁ・・・・・手の震えを押さえるために吸い始めて、もう半年か・・・・』

煙草の煙が、部屋を静かに覆い始める。

「ゴホッ、ゴホッ!」

隣で、咳き込む声が聞こえる。

「ごめん、煙かった?」

リドックがあわてて、灰皿に煙草をこすり付ける。

「ううん・・・・・そうじゃないの・・・・・ちょっと激しい運動した後だから・・・寒気がしたの・・・・・」

「服・・・・着ていいよ?このままじゃ本当に風邪をひくぜ?」

「ありがとう・・・・心配してくれて・・・・でも、もう少し肌を重ねていたいの・・・・とっても暖かいから・・・・」

リドックの肩に、シースの鼻が当たっていた。

「くすぐったいよ。」

「あなたの煙草吸っている仕草・・・・・・好きよ・・・・・・男らしくて・・・・・・」

「君は吸うの?」

「・・・・・・うん・・・・・・少しは・・・・・ね・・・・・」

「そうか・・・・・」

「煙草吸う女は・・・・・・嫌い・・・・?」

シースが、リドックの胸に、自分の手をのせた。

「・・・・・・・女の人には・・・・・吸って欲しくないな・・・・・」

「どうして?」

「煙草吸っている姿が、魅力的じゃないんだ・・・・・なんか精神的に疲れている風に見えるからさ・・・・それに子供を産むときにも影響があるし・・・」

リドックは、遠い目をしていた。

「そっか・・・・・・・私・・・・・止めようかな・・・・・・」

「ああ・・・・・・君には・・・・・煙草なんて必要ないよ・・・・・僕が・・・・君を支えてあげるから・・・・」

2人の、顔が、また重なっていった。

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 5

「ハァハァ・・・・・ンクッ・・・・・」

吸いつくような彼女の柔肌とラベンダーの匂いが、リドックの意識を錯乱させた。

もう、2人に言葉を交わしている余裕などはない。

ただ、お互いがお互いの体をむさぼりあう、音だけが、この空間を支配していたのだ。

そこには、理性的な人間の意思などは、皆無である。

『レイプというものも、子孫を残すためのオスの性衝動の一種ならば、とどのつまり神様に許されるのではないか?様はメスが受け入れるか、拒否するかの違いでしかないのだから・・・・』

そんな御託を並べたところで、現実には何の意味がないのはわかっていたが、リドックは目の前の彼女の、恍惚とした表情を見ていると、愛のないセックスは、意味がないのではないかと感じたりもする。

が、今は、そんなことはどうでもいい。

彼女とひとつになれる幸せさえあれば、今までの自分のしたことは、同だってよくなってしまう。

「いいよぉ~・・・・・・・凄くいいよぉ~・・・・・いっぱい・・・・感じるのぉ~」

たとえ演技だとしても、そう言ってくれるシースの顔が、とても愛おしく思えた。そんな彼女の唇に、またキスをする。

「君は・・・・・・俺が守るよ・・・・・・」

彼女の耳元で、リドックは、そう呟いていた・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 4

「君のカラダ・・・・綺麗だ・・・・・・・どこにも傷なんか見当たらないくらいに・・・・」

生まれたままの姿で、シースはリドックの目の前に自分の体をさらけ出した。彼女は、まっすぐリドックを見つめると、彼の首のうしろに手を回して、キスをした。

「・・・・・愛してる・・・・って言ってくれないの・・・・・?」

「・・・・・好きだよ・・・・・・君のこと・・・・・会ったときから、ずっと好きだった・・・・いつかこうなれたらいいなって・・・・思ってた・・・」

リドックは、彼女の胸に顔をうずめた。弾力があって、気持ちよかった。

「・・・・・・・・・私も・・・・好きよ・・・・・リドック・・・・・・始めてあった時、可愛いなって、素直にそう思ったの・・・・・初めて会った時も、今のように疲れた顔をしていたわ。いつも眉間に皺を寄せて、目は眠そうだったわ・・・・今も・・・」

「そうかな・・・・・君は・・・・いつも涼しげで、冷静な顔をしてるね。戦場で戦ってないみたい・・・・・」

胸から下へ、リドックは顔を移動させて愛撫を続けていた。時折聞こえる甘い声は、耳に心地よかった。

「あっ・・・・・・わたしは・・・・・いいん・・・・・の・・・・・・・行かなくて・・・・・いい・・・・の・・・」

「・・・・・・え・・・・・・・?」

シースの呼吸が荒くなっていくき、部屋は、2人の熱い交わりによって、熱がこもり始めていった・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 3

リドックは、無我夢中でシースの唇を奪うと、そのままベットに押し倒した。

それは、現実逃避であったかもしれないし、彼女を抱きたいと言う純粋な欲望であったかもしれない。彼は、いつかは彼女を抱きたいと思っていたが、まさかこんなにも早く、彼女を抱けるとは思ってもいなかった。

時々、鼻をくすぐるようなラベンダーの香りが、リドックを戦場の死臭から一時開放した。

『ああ・・・・これだ!・・・・・これがなくちゃ・・・・生きている意味がないじゃないか!』

戦場にいて、何回、季節が巡ったのだろうか?

自分の手があり、足があり、目があり、口があり、鼻があり、身体があって、頭がある。そして僕を愛してくれて、僕に抱かれてくれる人がいる。それはすばらしいことだとリドックは実感する。

「・・・・・・・・・・・・」

きごちない愛撫にもかかわらず、シースは黙ってリドックに精神と身体を預けていた。彼女の潤んだ瞳が、サラサラの髪が、湿った唇が、制服の隙間からのぞく胸が、傷ひとつない2つの太股が、リドックの下半身をさらに刺激し、脳味噌を沸騰させた。

「あっかいよぉ・・・・・」

自分の指を絡ませ、甘い吐息をリドックの頬に吹きかける。

「ああ・・・・・暖かい・・・・君のカラダ・・・・まさか抱き合ってるだけで・・・・こんなに幸せな気分になれるなんて思ってなかった・・・・」

「本当ぅ・・?」

「うん・・・」

リドックは、女に触れるのは、初めてではなかったが、ぎこちなさを払拭するために、しきりにキスをしてシースの注意をごまかしていた。

「・・・下着・・・・・・・・・」

「・・・・・急いできたの・・・・早く会いたかったから・・・・」

「そっか・・・・・・」

「軽い女じゃないょ・・・・・私・・・・・・・」

「そんなこと・・・・・」

「だって・・・・・顔でわかるよ・・・・・・・」

「そんなことない・・・・・・信じてる・・・・・」

「・・・・・・ぁっ・・・・・」

額に皺を作る彼女を見て、本当に感じていると確認できるまで、リドックは、しきりにシースの顔を横目で見ていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 2

「ねえ・・・・昨日はどこに行ってたの?この基地で何があったの?」

リドックの部屋で、久しぶりにリドックとシースは、夕食をとっていた。

「ああ・・・・・・何でもないよ。」

リドックの目には精気がなく、頬はこけ、顔にはたくさんの皺ができていた。老人のように。

「ここ2、3日、あなたおかしいわ。どうしたの?何かやっているの?」

シースは、スープを一口すすったまま何も食べようとしないリドックを心配そうに見つめた。

「ちょっと重要な任務についてて・・・・・プレッシャーで胃がやられたみたいだ・・・・・食欲がなくて・・・・・・困っちゃうよ。」

右手に持っていたスプーンをゆっくりとトレーに載せたまま、しばらくの間、リドックは黙って部屋の壁を見つめていた。

「本当に・・・・・どうしたの・・・・・?」

「何でもないよ・・・・本当に・・・・・何でもないんだ・・・・・君には・・・・関係ないことだから・・・・・本当に・・・・・関係ない・・・・・」

リドックの目から、涙が、自然と流れてくるのに、時間はかからなかった。

「・・・・・・・」

目の前にいたシースはそんな彼に対して、かける言葉を失っていたが、意を決したように椅子から立ち上がると、彼がいる場所の隣にゆっくりと腰を下ろした。

「・・・・・・・・・・」

「ねぇ・・・・・・・」

「?」

「・・・・・・今日、あなたの部屋に、泊まっていい?」

シースは、リドックの手のひらを、自分の手で包み込んだ。

「シース・・・・・」

「リドック・・・・・」

服のこすれ合う音が部屋を包むとき、2人の愛の時間が、ゆっくりと動き始めた・・・

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小説 戦いの向こう側へ 粛清、そして、粛清 1

「まずは・・・・・・君には死体を処理してもらいたいな。君の部下が基地に奇襲を仕掛けてこなければ、こんな事にはならなかったんだよ?おかげで基地内部のあちこちに、死体が山が出来てしまって困っているだ。死臭を嗅いで嘔吐している兵士を増やしたくない。わかるね?」

夜明けて太陽が顔を出しても、目の前に死体が運び出されて来る光景は、ラインの心を、奈落のそこへ突き落とすのに十分であった。

作戦は失敗し、奇襲をかけた組織のスタッフは、ラインと女を残して、全員死亡した。殺されたのだ。

今、その仲間の死体が次々と外へ放り出され、荼毘(だび)にふされることもなく、冷たい大地の上に折り重なっていった。

ラインは、足かせと手錠をはめられて、その死体の山をじっと凝視していた。

苦悶の表情を浮かべる仲間の顔を見ないよう意識しても、視線が外れないのだ。自分の立案した作戦が招いた最悪のケースであった。

「事前に想像できても、・・・・・し、死ぬということは・・・・・慣れないもんだ・・・・な・・・」

しゃっくりをあげるのを必死でこらえていた。

「早く手を動かせよ。お昼までには全部の死体を埋めなきゃならんからな!」

目の前にいた監視兵の自動小銃が、朝日を浴びてキラリと光っていた。

ラインは、ゆっくりとスコップを大地に突き刺した。

これが終わったら、自分に対しての尋問が、待っているのだ。

それは、地獄の始まりであるということを、彼は、想像するのをやめた。

想像してしまったら、発狂するしか、ないのだから・・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 青年に何が起こったか 7

リドックは、女のこめかみに銃を突きつけると、ゆっくりと引き金に手をかける。

「お前は・・・・この女を助けに来たのか?」

「・・・・・そうだ・・・・」

「なら・・・・助けてやる」

「どうゆうことだ?」

「お前が変わりに捕虜になれ。そうすれば女は解放してやる。」

「・・・・・・」

「それが嫌なら、今ここで俺が女を殺して、お前も殺す。」

「・・・・・・2人とも助かる道は?」

「・・・・・・ほとんどないな・・・・どっちみち、この基地を逃げられるはずがない。軍という存在を過小評価するなよ。」

「俺がかわりに拷問を受けるのか?」

「こっちが情報を得るためだ・・・・仕方がない・・・・」

そんな言葉を喋っているリドックの口が震えているのがわかった。

「さあ・・・・・・2つに1つだ・・・・・選んでくれ・・・・」

バターン!

その時、後ろのドアが勢いよく開く音がした。ラインは振り向くと、そこにはエイダスナー中佐が、立っていた。

「久しぶりだな・・・・・・確か・・・・ライン伍長・・・・だったかな・・・」

エイダスナーは、2人の護衛兵を脇に抱えていた。

「時間稼ぎご苦労だったなリドック少尉。君のおかげで少しは役に立つ情報が手に入ったよ。」

エイダスナーはラインの方に顔を向けた。

「君が連れてきた仲間たちを全員射殺してしまってすまない。捕らえるつもりだったんだが部下の不手際でな・・・・」

「!?」

ラインは言葉を失った。仲間が脱出できなかったのだ。

「君たちにはいろいろ聴きたいことがある。できれば協力してくれるとありがたいな・・・」

ニターと笑うエイダスナーの顔に、ラインは言い知れない嫌悪感を覚えた。

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小説 戦いの向こう側へ 青年に何が起こったか 6

人は、永遠に解り合えないのだろうか?

かつて親友だったリドックとラインは、敵の襲撃を受けて、一時、離れ離れとなった。そして戦場で再び彼らは出会った。が、2人には、自分たちの間に埋めようもない溝ができていることに気がついたのである。

「レイプは、戦時中において、必要悪とでも言うのか?!」

「過去の歴史を勉強すればわかることだろう!俺だけがやっているわけじゃない!」

2人は、部屋の床を転げまわりながら、拳銃を奪い合うのに必死であった。

「あれだけ戦場に出兵するまでに2人で戦争について話し合ったじゃないか!あの討論はどうしたんだよ!?」

「あんな綺麗事の議論なんて、今どきの大学生でも話さないぜ!世の中を知らなかったんだよ!俺とお前が考えることなんて、とっくにみんな考えている!」

「過去の歴史と同じ過ちを繰り返すなんて、学習能力がないじゃないか!俺たちは!」

「そんな理屈、大人は理解してるんだよ!理解してても世の中、そう簡単に変わるものか!過去の大人たちの作った社会は、伊達じゃない!」

リドックの拳が、ラインの顔をかすめ、拳銃で撃たれた傷あとに命中した。

「グッ!」

ひどく低いうめき声が、ラインの口から聞こえると、ラインは肩をおさえながらその場にへたり込んだ。

その隙にリドックは、床の隅に転がった拳銃をゆっくりと拾うと、うずくまっているラインを尻目に、女のほうへ歩み寄った。

「まさか・・・・・そんな不意打ちをするなんて・・・・・予想外・・・・・かな・・・」

冷や汗がラインの額からこぼれ落ちる。

「ハァハァハァ・・・・」

リドックが、女のこめかみに、ゆっくりと拳銃の銃口を突き付ける。

「・・・・・リドック・・・」

「ライン・・・・・すまない・・・・・もう俺は・・・・・・・後戻りできない場所に踏み込んでしまった・・・・・落ちるところまで落ちたよ・・・・・だからもう何も失うものなんかない。」

うっすらとリドックの目に水の膜が、広がっていくのがわかった。

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小説 戦いの向こう側へ 青年に何が起こったか 5

そして2人の青年たちは、最悪の形で再会した。

「あっ・・・・・・・・」

リドックは声にならない声をあげ、持っていた拳銃が小刻みに震えているのがわかった。

「ライン・・・・・生き・・・・・てた・・・・・・の・・・・か?」

昔よりも、身体も顔つきもずっとたくましくなった青年が、リドックに対して怒りに満ちた視線を投げかけていたのだ。

「ああ・・・・・そこにいる彼女に助けられた・・・・」

「・・・・・・・・・・」

リドックは絶句するしかなかった。

しばらくの沈黙が流れた後、先に口を開いたのはラインのほうであった。

「どんな命令が上からあったかわからないが・・・・どんな環境の変化があったか知らないが・・・・・最初に会ったころと変わったな・・・・・リドック・・・」

ラインは、撃たれた肩を必死に抑えていた。

「・・・・サン・ブックにいた頃・・・・・一緒に俺の家でゲーム・・・・・やったよな・・・・・確か、マリオだったっけ・・・・・あれな・・・」

「・・・・・・・」

「大学にいたとき・・・・・一緒に女の子誘ってディズニーランド行ったりしたよな・・・・俺は当時、口下手だったから、女の子がいつもつまんなそうだったよ・・・お前も彼女いなかったしな・・・・俺がセシルと出会う前だったっけ・・・」

縛られていた女が、ピクッと反応した。

「・・・・・もう・・・・・やめろ・・・・」

リドックは、突然昔話をするラインに銃口を近づけた。

「お前が・・・・あのお前が・・・・・女を強姦したなんて信じられるかぁ!!」

ラインはリドックに飛び掛ると、左手で拳銃の向きを変え、右手でリドックの手首をつかんだ。

「人間っていうのはな、環境や周囲に流されるイキモノなんだよ!ゆるぎない主義・主張や信念なんて、初めからあるわきゃないだろうが!」

リドックの左手が、ラインの顔に覆いかぶさる。

「ヒトとしてやっちゃいけないことをしたんだ!お前は!!」

「オスなら、一度はそうゆう衝動に駆られたことくらいあるだろうが!!」

「好きでもない奴に犯される女の気持ちが、お前にわかるのか!?」

「経験してないことを想像できるわきゃねーだろ!俺以外の大人もやっているんだ!必要悪だろうが!」

「唾棄すべき醜い大人の仲間入りをするんじゃない!そんなもの言い訳になるか!」

かつて、親友だった2人の青年は、今、進これからの運命が決まろうとしていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 青年に何が起こったか 4

ラインは、リドックに導かれるままに、錆付いたドアをゆっくりと開けた。

「!?」

目の前に飛び込んできた現実に、ラインは全身が硬直した。ロープで吊るされ、裸にされ無残にも陵辱された命の恩人の姿が、そこにあったからだ。

「・・・・・・・」

リドックは、この部屋に他に人間がいないことを察知すると、リドックのほうに顔を向けた。

「捕虜に対しての強姦・拷問は戦争条約で禁止されていたはずだが、誰がこんなことを?」

左手を力いっぱい握り締め、怒りをこらえていた。

「済まないな・・・・・情報を聞き出すためには仕方がなかったんだ・・・・」

諦めにもにた表情で、リドックが答える。

「・・・・まさか・・・・・?」

「ああ・・・・・俺が上に命令されたんだ。」

その言葉を最後まで聞き終わる前に、ラインの拳はリドックの頬を捉えていた。

バァーン!

リドックの身体が、部屋の壁に吸い込まれる。

パァーン!

同時に、ラインの肩に激痛が走った。

『クッ・・・・・硝煙の匂い・・・?迂闊だった・・・・』

目の前にうずくまっていたラインの右手には、しっかりと拳銃が握られていた。

「動くなよ・・・動いたら女を殺すぞ!」

リドックの口からは血が流れていても、本人はそれを拭う素振りは見せなかった。

「お前の今までの態度でわかったよ。お前はこの基地の人間じゃないってな・・・・・手を挙げながらマスクとゴーグルを外せ!」

ラインのほうに顔を向けつつゆっくりとセイナの元へ駆け寄ると、拳銃を左右に振ってラインに合図を送った。

「どうしたんだ!?早く変装をといて手を挙げろ!」

ラインは二度目のリドックの言葉に反応して、マスクとゴーグルを床へ落とし、手を垂直に挙げた。

「!?」

そこには、優しく純粋だった頃の親友の顔はなかった。リドックの前に現れたのは、大切な人を守れなかった怒りと憎悪の炎に焼かれた、一人の戦士の表情がそこにはあった。

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小説 戦いの向こう側へ 青年に何が起こったか 3

運命という言葉が、彼らの再会にはぴったりな言葉であったかもしれない。

暗闇の向こうに立っていた男は、紛れもなく過去に、一緒に戦場で駆け抜けた、戦友のリドックであったのだ。見間違えるはずがない。

ラインは、その場から足を動かすことができずに、しばらくリドックから目を話すことができなかった。リドックのほうはというと、目の前のゴーグルと酸素マスクを被っている男の不振な挙動を目撃し、迂闊に動くことはしなかった。

『・・・?・・・・武器を・・・・・・探しているのか・・・・?俺だって気がついてないのか・・・ま、当然かな・・・』

しばらくして、リドックが自分の腰周りをまさぐっていることに気がついた。

「・・・・あんたは誰だ?なぜゴーグルなどを装着している?」

先にリドックから声をかけてきたので、ラインは少し動揺した。

「基地に敵が侵入した。やつらは催涙弾や煙幕を使って内部を混乱させているんだ。だから装着している。」

冷静にラインは答える。

「本当か?」

「間違いない。上に行けばわかる。」

「お前は何でここに降りてきたんだ?ここは関係者以外立ち入り禁止区域だぞ!」

リドックの言葉遣いが、以前よりもきつくなっている事に、ラインは驚きを隠せなかった。

「捕虜を安全な場所へ移す命令があったんだ。だからここへ来た。捕虜はどの部屋にいるか?」

ラインは、周りの通路を見回したが、ここには照明がついていないせいで、何も見えなかった。

「ん?場所も聞いてないのか?妙だな?」

リドックは、右手を背中に隠すような素振りを見せた。

「ああ・・・・・急いでたんだ。現場もだいぶ混乱しているらしいからな。」

ラインは、リドックのその挙動に気がつかなかった。

「そうか・・・・・なら、こっちだ・・・・・」

リドックは、ゆっくりとラインに背を向けると、暗闇の中をまっすぐ歩いていった。

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小説 戦いの向こう側へ 青年に何が起こったか 2

「セイナが持っていたヘアピンの中に発信機が取り付けてあったはずだが、場所はどこだ?」

「待ってください・・・・・どうやら地下5メートルの場所から電波が出ています。この下にいます!」

「・・・地下に閉じ込められているのか・・・。なら俺が1人でそこへ行くから、他のみんなは敵に陽動を張りつつ、各個に離脱するように伝えてくれ!」

「1人でセイナを助け出すんですか?無理ですよ!」

「死んだらその時はその時さ。俺が運がなかっただけ。一度死の味を知った人間に怖いものはないよ。」

ラインは、合流した仲間と数分のやり取りをしたあと、ひとり煙の中へ身を沈めた。他の仲間は、彼の背中を見送り、彼と反対の方向へ出口を探していった。

「地下へ通じるエレベーターは・・・・あれか!」

急いでエレベーターに進入すると、ラインは、ゴーグルと酸素マスクを装着しながら、携帯用受信機のディスプレイに目を走らせていた。

「・・・・・この距離だと・・・・地下五階だな・・・」

地下五階のボタンを押して、その階に到着するまで、ラインは、しんと静まり返ったエレベーターの中で、思いをめぐらせていた。

「あまりにも基地内部の警備が手薄すぎるな・・・・・こんなにこっちのシナリオ通りにうまくいくなんて・・・」

追っ手がほとんど来ないことに、極度の不安を感じていた。

チンと音が響くと、目の前の扉が、ゆっくりと開き始めた。

「ついたか・・・・」

急いで、そこから出ようとした時、ラインの目の前に信じられない光景が飛び込んでくるのがわかった。

「・・・・・・・リドック・・・・・・か?」

そこには、数ヶ月前に戦場で別れた、親友がそこに立っていたのだ・・・

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小説 戦いの向こう側へ 青年に何が起こったか 1

1回目の爆発は、陽動である。

兵士の危険意識が、その場所に集中している隙に、アジア軍兵士に扮したメンバーが基地内部に潜入し、仲間を奪還するのが、彼らの目的である。

「敵襲だ!敵のロボット兵士が攻撃を仕掛けてきたぞ!」

ラインたちは、消火器を持ってきた兵士がドアを開け外へ飛び出したと入れ違いに中へ進入することに成功した。

「どこへ行くんだ!お前たち!敵は外にいるんだぞ!」

すれ違った兵士の一人が、ラインの肩をつかんだ。

「これはこれは仕官殿!小生は、今から武器を調達しに、武器庫へいくところであります。」

「はあ?何を言っている!携帯している小型拳銃でもいいから応戦しろ!」

「・・・・・ないんですよ。武器がね。」

ラインは、素早く男の背後へ回り込むと、両手を男の首の前で交差し捻りこんだ。

「グギッ!ガハッ!」

「これって空手の技だけな・・・・・・それとも柔道だっけ・・・・?ま、どうでもいいか・・・」

先に基地内部に侵入した仲間は、内部に煙幕弾や時限式爆弾などを次々にセットしながら、捕虜が閉じ込められている場所を散策していった。

「・・・・まったく・・・・戦争に慣れる自分が嫌になるな・・・・・昔は、虫だって殺さなかったのに・・・・」

誰かがやってきたら、人質としてこの目の前の男を使おう考えている自分自身に少し嫌気がさしていた。

「グッ・・」

「やばい!」

男は、泡を吹いて息をしていないことを確かめると、あわててラインは両手を離した。男は、そのまま、黙って床に倒れたまま動かなくなった。

「死んでないよな・・・・・・ま、大丈夫だろ。それより、セイナを助けなくちゃ・・・・・あいつのために、こんな危険な任務を仕掛けなくちゃならなくなったんだ。全員生きて帰れるなんて思ってないが、あいつだけは、殺させはしない!あの時、あの場所で死ぬかもしれなかった俺を助けてくれた恩人だからな!」

ラインは、力強く、コンクリートの床を蹴りだしていた。

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 11

「嘘を言うな!あいつが生死不明になった戦場は、味方の地上砲火とロボット兵士の十字砲火で、死体の殆んどが肉片になるほどの激戦だったんだぞ!生還した人間なんているはずがない!」

戦闘後の、あの粉々になった仲間の肉片を拾い集めた記憶がリドックの頭をよぎる。あの環境の中で、あの場所にいたあらゆるすべての生物が露と消えたとリドックは思っていたのだ。

「本当よ。彼は死んでないし、今も生きている。私は彼とともに活動しているわ。」

「そんなはずはない!俺の中でラインは死んだんだ!あいつのために遺書だって送ったし、恋人にだって年金を受け取れる手続きをしたんだ・・・・彼女は給料の安い派遣社員だから、自分の遺族軍人年金を生活の足しにしてくれって俺に頼んだんだから・・・」

「ええ・・・・・彼は優しい人だから・・・・・もし軍人になってなかったら法律を勉強して、将来恵まれない人たちのために弁護士になるつもりだったのに・・・・」

女は、目をふせて、そっと涙をこぼした。

「・・・・・・・・お前・・・・・・?」

「そんな彼を助けたくて、そんな彼のそばにいたくて彼女は、サン・ブックを脱出して彼のもとへ来ようとしたのよ。今までの貯金と彼の所属部隊の詳細を調べてね・・・・・」

「お前・・・・何を・・・・・言ってるんだ?」

「そして突き止めたのよ。彼はアジア連合軍広東基地にいることが・・・・・そして彼女は、そこから連れ出すために、ある組織に所属したの。非政府組織(NGO)のフェース・リグ・ユエクトロズという組織に。」

「お前・・・・・・・・まさか・・・・・」

「時間よ・・・・・・・彼らが来るわ・・・・・」

部屋にあった時計の針が、深夜3時ちょうどを指したとき、建物全体が、縦に大きくゆれ始めた。

それは地震ではなく、外部からの圧力であった。

「何だ!何が起こっているんだ!」

「あなたは、私たちと、くる?」

女は、まっすぐ、リドックの目を見つめた。

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 10

「・・・・あな・・・・グッ!ゴホッゴホッ・・・」

女が口を開くのと、リドックは女の腹に拳をねじ込んだのは、ほぼ同時であった。女が迂闊に自分の名前を喋るのをリドックは恐れていたのだ。

「ゲホッ、ゲホッ!」

女はみぞおちの衝撃によって、しばらく喋ることができずに嗚咽を漏らすだけであった。

リドックは、女の顔の触れるほどの近くまで自分の顔を近づけると、盗聴マイクに拾えないほどの声で囁いた。

この部屋は盗聴されている・・・・・・だから余計なことは喋らないほうが良い。拷問が長引くだけだ。」

「ゴホッ、ゴホッ・・・・・何を・・・・」

「お前は自分の知っている情報だけを喋ればいいんだ。組織の活動や全体構造などをな。」

「・・・・・・そうゆうことか・・・・」

「なんだ?なんのことだ?」

「所詮、人間なんて環境によってコロコロ変わるってこと。あなたも過去の自分の信念や者主義主張を変えたんでしょ?」

「俺は・・・・俺のままだ・・・・戦争にくる前から何も変わっちゃいない・・・・・」

「捕虜を強姦をしている今の自分が?」

「・・・・・・・・・」

「目つきや表情がおかしくなっていることに気が付かないなんて・・・・・親友や母親が見たらどんな顔をするでしょうね。」

「別になんとも思わないさ。外見は変わっても中身は変わっちゃいない。それに親友はもう死んだ・・・・・いなくなったんだ。」

吐き捨てるように、リドックは言った。

女は、そのリドックの表情を見ながら、口もとに笑みを浮かべていた。

「笑っているのか?おかしいことを言ったか?」

「何にも気づいてないのね。あなたは・・・」

「・・・?・・・」

「彼ね・・・・・・生きてるわよ・・・・・・」

そういった女の顔に、死んだ親友のラインの顔が重なって見えた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 9

「あっ!ああああああ!」

緊張と興奮とあせりと気負いが交じり合い、リドックは女の体へ覆い被さろうとしていた矢先に、大きな声をあげてうずくまった。その姿は、幼いころにおしっこを我慢しすぎて漏らしてしまった子供のような格好であった。

そして、彼は、再び、冷静になった。

そして冷静に、目の前に吊るされた女の元へ寄り添うと、彼女の唇に語りかけた。

「君はどこの部隊に所属しているんだ?答えろ!」

不思議とさっきまでの身体の火照りが消え、頭が冴えてくると、リドックは裸の女を目の前にしても尋問をする余裕があらわれてきた。オスとは性交の直後に狩りに出て行けるプログラミングがされているというのだろうか?

「拷問は・・・・・・しないのねぇ・・・・・・・・もっとひどいこと・・・・・・されると・・・・思って・・・・た・・・」

「返答次第では、続ける。拷問もな。」

「続けられるの?もう出しちゃったんでしょ?」

「黙れ!」

リドックは、振り上げた拳を女の顔の前で止めた。

「いいか!お前がすべて喋ってくれれば、軍は悪いようにはしない。アジア連合軍はな、EU軍やロシア軍や昔の軍隊とは違うんだ!お前が黙秘しつづけるのが悪いんだぞ!強姦や拷問なんていう非効率的な情報収集手段なんて、とっくに絶滅しているんだ!」

「私は、どこの軍隊のメンバーでもないわ。」

「なんだと?」

「非政府組織(NGO)よ。」

「その証明はできるのか?それになんでお前があの戦場にいたんだ。軍関係者以外立ち入り禁止区域だぞ!」

「・・・・・・・・・・」

「どうした!何で答えない!?」

女は、一呼吸おいて、口を開いた。

「あなた方に、義は、あるのか?」

「なっ・・・・!」

その瞬間、女の目を覆っていた布かほどけ、床に落ちた。

「!?」

2人の視線が交錯し、瞳には動揺の色が濃くなっていく。彼らは気づいてしまったのだ。

お互いが何者であったかを・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 8

リドックにとって、今やるべきことは、女を抱くことであった。

目の前の女の身体を、手や舌で愛撫すると、その器官から伝わる快感がリドックの脳髄の中枢を刺激し、血液を下へと送り込んでいた。

女の艶のある髪の匂い、ぷっくり膨らんだ形の良い胸、くびれている腰周り、上向きのお尻、むっちりとした二本の太股・・・・

彼は、それらを順番にむしゃぶりつくように愛撫していった。

それは、彼の自我がさせていることではない。

人間の、オスの性衝動がさせていることだといっていい。子孫を残すためなのだ。

そこには、人間の理性も哲学も倫理も宗教も入れない

動物としての性(サガ)が、脳みその根幹にプログラムされているのだ。神様が与えたシステムなのだ。

「ああああッ!」

女が、愛撫の力強さに苦渋の声を上げても、リドックの耳には届かない。彼の目は充血し、うなるような声を上げ、血管が浮き上がり、よだれを垂らしても、彼は、彼女の身体から、顔を上げなかった。

「じっとしてろ!じゃないと手首が鬱血するだけだぞ!」

「くうううう~」

見るものすべてが、彼の股間を刺激し、彼は、そろそろ自分のアレが持たないことを実感していた。

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 7

「俺はな、レイプというもの自体に、物凄い嫌悪感を持っていたんだ。だって愛してもいない人間に無理やり犯されることが、どれほど苦痛であるかを、俺は漫画やドラマを通して、想像していたんだ。吐きそうになっていたよ。」

女の唇から自分の唇を離すと、リドックはもうためらうことなく、ブラジャーの紐に手をかけていた。

「ハァハァ・・・・・・まさか、そんな自分がレイプする側になるなんてな・・・・・・環境が人間を変えるのかな・・・・それとも俺の本能が命令してるのか・・・」

昔読んだ漫画に、男に無理やり犯されてその子供を出産した女が、その子供を育てるためにその男と同居して、好きだった男が自分の下をたずねてきても、告白も出来ずに泣き崩れるシーンを読んで、なんてこの世は不条理なんだ!と激高した自分自身は、もうこの場にはいなかった。

女は黙って、リドックの興奮した息遣いに、額に皺を寄せていた。

彼は力の加減も分からず、雑にブラジャーのホックをこじ開けた。パチッと音がすると、そこには、デジャブに似た、懐かしいものが、そこにはあった。

「ッツ・・・!」

彼は、それにむしゃぶりついた。それは条件反射であった。何故かそれを吸うと、物凄く安心した気持ちに慣れるのだ。その感触は、母親に包まれているような、そんな安堵感が彼を襲った。

「痛ッ!」

女が、歯を食い縛る様な声を上げると、リドックは、ゆっくりと、赤い中心の部分から、歯を当てるのをやめた。

「ハァハァハァ・・・・」

この部屋が、外部から一部始終を盗聴されていることも知らずに、リドックは、自分の初体験をこの場で、すべて済ませようと思っているのだ。

「・・・・・・・何を・・・・・・・でも・・・・・・止まらない・・・・俺は・・・・・俺自身を制御できないッ!」

胸を命一杯揉みしだいた感触が、手のひら一杯に伝わると、彼は、一人部屋の中で、恍惚の表情を受かべるのであった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 6

「・・・・・怖いの?」

リドックは、女に背を向けたまま、肩を揺らしながら震えていた。彼は、自分がまだ、本当の男ではないことに、きづいていたのだ。だから、女を前に、何をしていいかわからず、壁によりかかったまま、何をするわけでもなく、女を見つめていた。

「・・・・・何が?」

精一杯の返事であった。動揺していることを悟られたくなかったのだ。

「・・・・・・さっきから黙ってるけど、緊張してるの?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・私は、とっくの昔に覚悟ができてる。どんなことをされてもしゃべらない。強姦くらいじゃね・・・・」

「・・・・・・・うちにはその筋の専門家がいる。そいつがやれば、一発で吐く気になるさ。それでも耐えられるのか?」

「あなたは、私に触れないの?」

女は、ニヤッと笑った。

「・・・・・・・俺は野獣じゃない。それに、女なら誰でもいいわけじゃない」

「EDなんでしょ?それともチェリーボーイ?」

女は、白い歯を見せて笑った。

「・・・・・・・」

「・・・・・なぜ黙るの?あたり?」

リドックは、その言葉をふさぐように、女の唇に自分の唇を重ねた。

「ウッ・・・」

目隠しをされた女が、うなった。

「ウッ・・・・・ウウッ・・・・・」

リドックは、初めての女の唇の感触に触れ、頭に電流が走るような感覚を覚えた。それは、甘い誘惑の世界への扉であった

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 5

そして、理性がリドックの頭を飛翔(リーブ)した時

僕の手足は、僕の人知を超えて、目の前にいる女の衣服を引き裂いていた。

止まらなかった。止めるつもりもなかった。

そして、次々と僕の網膜に入ってきたのは、欲情を喚起させる女の匂いと、女の無垢な柔肌であった。

彼女は、衣服を引き裂かれても、悲鳴ひとつあげず、じっと口の中にねじ込まれた布をかみ締めていた。

徐々にその布が、朱色に染まっていく。

リドックは、久しぶりの、女の身体を目の当たりにして、オスとしての本能が、ムクムクと自分の身体のそこから湧き上がる感覚に酔いしれていた。しかし、彼は女を下着姿のまま、天井からロープでつるし上げてから、そのまましばらくの間、何もしなかった。

「・・・・・まさかこれで終わりなわけじゃないでしょ?」

目隠しされたまま、女はリドックに対して、強気な姿勢を崩さなかった。彼女の心はまだ折れてはいない。

「・・・・・・ああ・・・・・そうだ・・・・・・・そうだよ・・・・・」

リドックは、ひとさし指を唇に押し当てると、同じ言葉を二度繰り返した。

「・・・・・・怯えてるの?拷問したことないの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・まさか・・・・・・・女を知らないんじゃないでしょうね・・・・」

その言葉に、リドックは、反応した。

「俺は・・・・・俺は・・・・・俺は!」

彼は、彼女を放置したまま、男としての不甲斐なさに慟哭していた。

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 4

何度話しかけても、女は、口を開こうとはしなかった。

それどころか、食事すらも拒否し続けている。

「水はいらない。自白剤が混入してるかもしれないから。」

3日目で、ようやくそれだけを彼女は喋って、また沈黙した。

リドックの顔に、焦りの色が広がっていくいく。

「拷問専門の軍人がいる。要請があればいつでも尋問室に送ってやる。お前も拷問に立ち会って女から情報を聞き出せ。ただし強姦はするな。お前自身が道具を使ってもいい。早く聞き出せ!」

胃が、悲鳴を上げていた。食べたものをトイレで吐いてて、最後は胃液しか出なくなっていた。

『普通の生活が、僕の目の前から遠ざかっていく。目をそらさないで。』

幻聴は、あいかわらず耳から離れようとはしない。

「この台詞、昔アニメで聞いたようなフレーズだな。何だっけな・・・・」

自分の頭をめぐっている言葉に、リドックは反応した。

「ああ・・・・・・SFロボットアニメだった・・・・そうだ・・・・・」

彼の手にはいつの間にか、アーミーナイフとロープが握られていた。

『時代というメカニズムが、忘れさせた人間の心・・・・』

「ああ・・・・・俺は悪くない。悪いのは戦争を始めた大人たちと時代のせいだ・・・」

ゆっくりと尋問室のドアを開ける。

『自然に生きていくことも、素直に生きていくことも、出来ないなんて、もう僕は思わない。』

リドックは目の前の女の首に、ナイフを突きつけた。

「・・・・・・・・拷問なんてしたくない・・・・・・お願いだから・・・・・・・・君の知っている有益な情報を教えてくれぇぇ・・・・・」

リドックの下唇から、鮮血が滴り落ちる。歯ぎしりをする音が、部屋にこだました。

彼の理性はまだ、拷問という残虐行為を自分の中で許せないギリギリのラインで戦っているという意思表示であった。

「早く拷問でも強姦でもしたら?」

彼女はリドックを挑発した。

『人生は、終わらない無限のプレッシャーとマスかき・・・・・・』

そんな歌詞を思い出したとき、リドックの理性は、とっくに消し飛んでいた。

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 3

「リドック、今日は夕飯一緒に食べないの?」

「ごめん。食欲がないんだ。それに今、重要な作戦会議中なんだ。ごめんね。」

シースの部屋を訪れたリドックの目は充血し、目の下には厚いクマができていた。だいぶ疲れているらしい。コップを持つ手が時々震えているのがわかった。

「・・・・・・・・・俺に拷問器具なんか使かえるかッ!・・・・

「え?」

「いや・・・・・・なんでもない。少し疲れているのかな?昨日から徹夜していたからさ・・・・・ベットに入っても眠れなくてね。」

「そうなんだ。でも無理しないでね。何か目つきが鋭くなってて、何かこわいよ。」

「そうかな?そんなに怖い?」

「うん。昨日、何かあったの?シン伍長の容態はどう?」

「命に別状はないってさ・・・・・」

「ね、だからリドックも無理しちゃだめだよ。明日はどうなの?」

「ごめん、ここ一週間は一緒に食べられそうにない。悪いな。」

「そう・・・・・」

「仕事が片付いたら、また誘うよ、じゃあ」

足早に、リドックはシースの部屋を出た。

彼には、時間がないのだ。もし、彼が捕虜から新兵器の有力な情報を聞き出せなかった場合、もっとも危険な最前線に送られる運命が待っているのだ。

『ここで階級をあげる功績を残しておかなければ、次の戦場で確実に死んでしまう!』

目の前で、何人もの死体を見てきた彼にとって、戦場から遠ざかる千歳一隅のチャンスが巡ってきたのだ。

『蚊でさえも、殺せない子供だったのに!!』

ひどい耳鳴りが、リドックの足を止めた。

「くそっ!また幻聴か!」

精神が不安定になると、いつも頭の中で言葉が駆け巡ってくる。

『お前は正しいのか?間違ってるのか?どっちなんだよ!?』

「うるさい!うるさい!俺はまだ人の道から外れてないぞ!」

壁を叩いて、リドックは自分自身の良心と葛藤していた。

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 2

軍の命令に背くことなど、今の彼にはできそうになかった。

「君には、ライン曹長の分までスパイ任務を遂行してもらいたい。君の部隊が提出した敵の新兵器の映像はあまり参考にならなかったのでな・・・・・戦場にいたその捕虜に尋問して聞きだしてくれ。どんな手を使ってもいい。期限は一週間だ。それまでに一定の成果を挙げてくれ。」

ブリーフィングルームでエイダスナーと小一時間説明を受けると、エイダスナーに言われるがままに、リドックは捕虜尋問室の扉を開けざるを得なかった。

そこは、椅子が部屋の真ん中にひとつ置いてあるだけの、窓のない無機質な空間であった。

『い、息が詰まりそうだ・・・・・・・部屋の出口は一箇所しかないのか・・』

椅子に手錠をはめられて、黒の目隠しをされて、セイナはその部屋に、確かにいた。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

何を、どう話していいかわからず、リドックは、しばらくの間、彼女の姿を見つめていた。彼女は囚人服のような縦じまの服を着せられていて、唇には青いあざの様な痕が見られた。

「・・・・・・・・・気分はどう・・・・・・かな?」

リドックは、囁くように語り掛けた。

「誰?」

彼女の小さな唇が、かすかに動き始める。

「アジア連合軍、第44バイク中隊指揮官のリ・・・・・・・少尉だ。君は?」

思わず本名を言いそうになって、リドックは口をつぐんだ。

「・・・・・・・・・・・・ねぇ・・・・・・・これから私はどうなるの?」

セイナはリドックの質問には答えず、自分のこれからの運命をたずねた。

今夜は、長くなりそうだ・・・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ 闇が近づいてくるのは 1

「そっかぁ・・・・・・エリン少尉の変わりに隊長代理をしてたんだ・・・・・大変だったね。」

「ああ・・・・・みんなを死なせないために必死で頑張って指揮したけど・・・・・・向いてないんだな、やっぱ。」

シース准尉の部屋で、2人は遅い夕食を取っていた。リドックは、あの地獄のような戦場から無傷で戻れた自分の境遇がまだ信じられないでいた。

「そんなことないよ。シン伍長だってリドックのこと褒めてたよ。」

「そうかな・・・・・・だって部隊の大半の仲間が、俺のせいで・・・・・」

カレーライスを食べていたスプーンを、ゆっくりとテーブルの上において、リドックは、シースの瞳をじっと眺めた。

「俺は、死ぬかもしれないって思ったときに、君の顔が頭をよぎったんだ。君と食事する約束も。それを思い出したらこんなところで死ねない。死ぬもんか!って急に身体が動いたんだ。無我夢中で・・・・・・仲間のことはあまり考えていなかった。」

リドックは、せきをきったように話し始めた。

「それって・・・・・・口説いてる?」

シースは言葉の語尾を上げて、リドックに聞いた。

「・・・・・どうだかな・・・・・でも君にまた会いたいと思ったのは確かさ。それだけは間違いない。」

「正直ね。」

「嘘をつけるような性格じゃないんだ。もともとさ。だからいつも貧乏くじを引いてる。損な役回りばっかで疲れるよ。」

シースのついでくれたミネラルウォーターが、やけに美味しかった。

「あっ・・・・・そういえば用事があったんだ・・・・・・・じゃあ、僕はこれで・・・・」

リドックが席を立って部屋の出口まで行こうとすると、シースが袖を引っ張った。

「え?」

「明日も、一緒に夕食・・・・・・食べる?」

「ああ・・・・・・次の出撃まで食べよう。俺も君と食べたい。」

「よかった。」

彼女の笑顔は、リドックに生きる意志を植えつけていた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 30

最後に時計を見た時、深夜1時半をまわっていた・・・・・・

ひとり基地の食堂にいたシース・レイナード准尉は、リドックたち第44戦闘バイク中隊の帰還を寝ずに待っていた。

「あっ・・・・・・雨・・・・・・・・」

窓の外に斜めから降り注ぐ雨水を見つめると、シースは、ぎゅっと自分の胸を締め付けた。

「あの少尉、まだ死んでないよね・・・・・・」

自分に言い聞かせるように、シースは誰もいない食堂でつぶやいた。

「あの人に、サン・ブックのアラステマ神のお守りを渡しておけばよかった・・・・」

シースの手のひらの中で、お守りがきらりと光ったようだった。

「ん?何だろ?」

食堂の外で、人が慌しく動いている姿をシースは目撃した。

「動かすなよ!いくら止血してたって重傷を負っていることには違いないんだからな!」

そんな大声と共に、担架で何人もの人間が救急医療室の部屋へ吸い込まれていった。

シースは、急いで食堂ドアを開けると、人の流れに逆らって、外へ飛び足した。

「あっ!」

「やあ・・・・・」

そこには、ボロボロの制服を着、肌は埃(ほこり)や炭で真っ黒になり、出撃前より少しやせた、あの青年が雨に打たれて立っていた。

「・・・・・・・手も足もちゃんと・・・・・ちゃんとあるね!」

「ああ・・・・・・君と約束した・・・・・・ちゃんと生きて帰ってきたよ・・・・・・だから・・・・・・一緒に食事して・・・・・・くれる?」

「うん・・・・いいよ。」

リドックは、シースの肩に寄りかかって、そのまま意識が飛んでいった。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 29

『なんで俺はこの女を助けているんだ・・?自分の立場が危うくなるだけなのに・・・・・』

今にも、空から降ってくる爆弾で死ぬかもわからない状況で、リドックは女を放り出す事はしなかった。それどころか、彼女を戦闘バイクまで運ぶと、自分の体と彼女の体をロープで縛って落ちないようにさえしていた。

『俺は結局、ひとりで死んでいくのが怖いんだな・・・・・ああ・・・・・・誰にも意識されずに死ぬのが本当に怖いんだ・・・・』

自分の身体が、まだ五体満足であることを確認しつつ、リドックはバイクのアクセルを踏んだ。

「動く・・・・・・動くぞ・・・・・!」

燃料漏れもなく、バイクのエンジン音がなった。

「隊長・・・・・・待ってください・・・」

ゆっくりと、左から黒い影が、近づいてくる。

「・・・・・・シンか?」

「はい・・・・・・乗せて・・・・・ください・・・・・」

彼は、肩を抑えながら、リドックのバイクに腰をおろした。

「イイダ軍曹は見なかったか・・?」

「知りません・・・・あくっううう・・・・」

「どうしたんだ・・・・・・?」

「わかりません・・・・・気がついたら・・・・左手がなくなってて・・・・」

見ると、シンの左肩から下が全部無くなっているのが、リドックの目に飛び込んできた。

「お前・・・・左手が・・・・・」

「あっ・・・・・・はい・・止血しましたから大丈夫です。それよりも早くこの場から全員このままだと死んじゃいますよ・・・・」

「ああ・・・・・・そ、そうだな・・・・・今のテクノロジーなら義手も良いのがあるし、遺伝子技術で右手ぐらいすぐに培養できる。心配要らないな」

「そうゆこと・・・・・・・です・・・・」

シンはそういうと、肩をおとして気絶した。

「気休めが上手くなったもんだな、俺も。そんな大人になるつもりはなかったんだけどな・・・」

リドックは、暗い闇の中をバイクで駆け抜けた。

いつの間にか、敵の新兵器の姿も消えていたのだった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 28

黒い鷲が、リドックたちの姿を覆いつくした時、何かが上から落ちてくるのが確認できた。

「くそおおおおおおおおおおおおお!」

リドックの絶叫が、爆撃機からミサイルや小型クラスター爆弾が地上へ投下されたのは、ほぼ同時といっていい。

味方の爆撃機は、空中を旋回しながら、円を描くように爆弾を投下していった。

リドックたちのいる場所が地獄と化すのに、時間はかからなかった。

炎の火柱があがり、爆音と轟音がまじわり、憎しみも悲しみも痛みも不安も恐怖もすべて飲み込んでいってしまうのだ。

しかし、この攻撃も、敵を殲滅する事はできないであろう。

なんせ、敵は、あの衛星レーザーさえも弾き返してしまうテクノロジーをようした兵器なのだから・・・・・

リドックは、炎の世界で、ひとり、うっすらと目を開いた。

あたりは爆弾の炎で、森が引き裂かれていく様子が映っている。

足元に誰かが、倒れていた。

「シンか・・・・・?」

顔をゆっくりうごかしてみると、それはあの女であった。

「女か・・・・・そうか・・・・」

リドックは、何も言わず彼女を背中に背負うと、ゆっくりと歩き出した。

近くに自分の仲間がいれば、助け出すつもりだった。彼は、彼女を自分のバイクに乗せると、ゆっくりとあたりを見回した。

「みんな・・・・・・・・・・どこへいったんだ・・・・・?」

爆撃は、まだ、止みそうになかった・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 27

「戦闘バイク各機!ジグザグに走行しながら散開し、敵の的にならないように注意するんだ!敵は戦闘バイクの武装では歯が立たない。シン、イイダ!わかったか?」

「了解!」

「了解!!」

三機の戦闘バイクは、敵の新兵器の追跡をかいくぐりながら、待機している仲間の下へ戻る最中であった。リドックたちの後ろから何か巨大なものが追走してくるのはわかったが、みな、後ろを振り返る勇気は持ち合わせてなどいなかった。

「いいぞ!やつら俺たちが予想以上に速度が速いから、攻撃の的を絞れていないはずだ!イイダ!煙幕弾を敵に浴びせるんだ!確か最後の一個があったはずだ!やつらのセンサーに浴びせてやれ!」

リドックは、イイダが乗っているであろう戦闘バイクのライトの方向を向いていた。

だがイイダは、暗闇の空を見上げたまま、何も喋ろうとしない。

「どうした?!イイダ軍曹!早く煙幕弾を!」

イイダはリドックに顔を向けると、神妙な面持ちで言葉を喋り始めた。

「隊長!自分の無線機に味方からの通信が入りました!・・・・・・・・・この一帯を今から爆撃するにあたり、今すぐこの場から退避せよとのことです。」

「今すぐにだと?」

「はい・・・・・・今すぐに・・・・・」

「敵に追われている状態で、この場から逃げれるとでも思っているのか!」

リドックは下唇をかみ締めて唸った。その唇からはうっすらと血が滲み出している。

「味方に殺されるか、敵の新兵器に殺されるか・・・・・どっちか苦しまずに逝けるのだろうかな・・・・・・・ハハッ。」

自虐的に笑うリドックの顔は、疲れきった老人のようであった。

後部座席にいた女は、男たちの無様な姿を見て唾を吐くと、漆黒の空に浮かぶ黒い影の存在に気がついた。

「正面12時の方向、爆撃機がきたよ?どうするの?」

女は、リドックに吐き捨てるように、言葉をぶつけた

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 26

「確か、爆撃予定ポイントはここら辺だったよな。」

「ああ。モニターで確認している。間違いない。」

戦闘爆撃機のパイロットたちは、バイザー越しに地上の被害状況を確かめていた。彼らが一番先に目にしたものは、クレーターのように放射線状に広がった巨大な穴であった。

「何だあれは?核兵器でも使用したのか?」

「聞いてないぞ。そんな情報は。」

自分たちが今から行う攻撃の前に、地上の被害が物凄く甚大である事に、パイロットたちは動揺した。

「こんな地域に、核クラスの兵器を使う理由なんてあるのか・・・・・」

「かまうものか。俺たちは地上にミサイルや弾をありったけ叩き込むだけだ。いくぞ!」

パイロットは透明のカバーをはずし、赤いスイッチを押した。

「安全装置、解除シマシタ。オート爆撃モード二移行シマス。攻撃場所ヲ設定シテクダサイ。」

無機質なコンピュータの声が操縦室に響く。

「NE-129、457ポイント地点っと・・・・・・・・・システム・オール・グリーン・・・・大気補正よし、角度よし、距離1271キロ・・・・・」

もう1人のパイロットが、地上に何が動くものを発見するのに、多少の時間がかかった。

「おい、何か動いているものが見えるぞ。」

隣で、コンピューターにプログラムをインプットしている兵士の肩をゆすった。

「動かすな。敵だろ?どうせ。」

「いや・・・・我が軍の戦闘バイクが三機、何かに追われているような動きだ・・・・・」

「何か?」

「よく見えない・・・・・・・援護するか?」

「もう爆撃モードプログラムに入っちまった。無理だよ。」

「しかし、このままいけば下の連中も巻き込んじまう!」

「その時は、その時さ。俺たちは命令に従ったまで。たまたま味方の兵士を巻き込んで殺してしまっても、事故として処理されるよ。戦場は味方に撃たれることもある。連中が運がなかっただけさ。」

「設定は解除はできないのか?」

「無理だ。安全な場所まで逃げろとでも言うか?」

「無線機をかしてくれ。まだ間に合うかもな。」

「正気か?」

「ああ・・・・・・・俺の考え方のほうが、まだ正気だと思うね・・・・・少なくとも・・・」

パイロットは、無線機に口を近づけた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 25

シンがリドックたちのもとへ合流してきたのは、午後6時を少し過ぎたころだった。彼は、ヨウ・ヤザキの遺品を回収するために、敵を陽動で撹乱しながらの回収作業だったため、かなり疲労の色が見えた。

「隊長・・・・・・・なんとか敵をまきましたよ。あれは馬鹿ですね・・・・・人を認識する能力がまだまだですよ。限りなく人に近いものと人間を区別できないんですから・・・・・でも、一緒にいた仲間は俺以外みんなやられちゃって・・・・あれは死神ですよ。EU軍のロボット兵士のほうが、まだ可愛いモンです。あと、手土産に・・・・・・怪しい女を見つけたんで・・・・・・確保しました。」

シンは一枚のディスクと戦闘バイクの後部座席で後ろに手を縛られてうつむいている女をリドックに見せた。

「民間人・・・・・・じゃないですよ。こいつ。こんな時間にアジアの僻地でうろついている人間なんておかしいですよね。」

シンは小型ライトを女の顔に当てた。女は眉をしかめ、怪訝そうな目でリドックたちを凝視した。

「・・・・・・・!?・・・・・・」

「どうしたんです?隊長、何かわかったんですか?」

シンが、リドックの動揺した顔を見逃さなかった。

「い・・・・・いや・・・・・・・美人だなと思っただけさ・・・・・アジア系かな・・・?ま、あとで基地に帰還したときに尋問すればいいか・・・・・」

口を手で覆い、目線は宙を舞っていた。

『確か・・・・・ラインの怪我の療養のために、かくまってもらった組織の女に顔が似ているが・・・・・・確かセイナ・・・・・・とか言ったよな・・・・・なんでここにいるんだ・・・?』

あたりが暗闇であるために、仲間に自分の動揺している顔が悟られないのが救いであった。

「よ、よし・・・・・・もう用事は済んだし、早く基地に帰還するぞ。ヨウ以外の遺体もできるだけ回収したいし、他の仲間のことも気になるしな・・・」

ディスクを制服の胸ポケットに納め、リドックはバイクの座席シートに腰を下ろした。

グォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

ギュルルルルルルルルルルルルルルルルルル!ズギャン!

木々を切り裂くように、マシーンの轟音が 人の心を振るわせる。

「そう簡単に逃げさせてはくれないか・・・・」

その音の主が、何なのかは、闇にまぎれてわからない。

ただ、人間ではない 何か であることは 彼らには理解できた。

後ろを振り返らず、リドックたちは、全速力でその場を離脱したのだった。だが・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 24

「どうゆうことなんだ?」

「ですから、味方である仲国軍の兵士の姿がまったく見えないのは、おかしい話じゃないですか。我々の仲間の死体はゴロゴロそこらへんに転がっていますが、仲国軍兵士の死体はないんですよ。」

「君が見落としているだけじゃないのか?」

「リドック隊長は、無線で連絡を取ったんですよね?」

「ああ・・・・・仲国軍が衛星レーザー砲を使うから、お前たちサン・ブックの部隊は安全圏まで後退しろと・・・・」

「でも、ロシア軍の新兵器には何の被害も与えていません。ヨウ曹長が戦闘バイクで応戦したらしいのですが・・・・・・・・駄目でした・・・・」

「・・・・・・・」

「戦闘バイク・・・・・いつでも発信できるようにしておきます。」

「シン伍長が戻ってくるまで・・・・・俺はここにいるよ・・・」

2人の会話が途切れると、急に風のなびく音が大きくなったような気がした。

敵は、姿を隠し、夕闇の間を縫って、アジア軍兵士たちを襲っては、姿をくらました。それは、人間なのかマシーンなのかそれすらも判断できぬまま、兵士たちは死神の洗礼を受けるだけであった。

「仲国軍の不審な行動は、あとで上に調査してもらうとして・・・・・シン伍長は生きてるか?」

「ちょっと待ってください・・・・・・・・あ、今、映像媒介を回収したようです・・・・・・え・・?何だって・・・・・?」」

「どうしたんだ・・・・?」

イイダ曹長は、インカムでシンの言葉に耳を傾けていた。

「シンが人間を捕虜にしたそうです。それも女・・・・を。」

「女・・・・・・?」

闇が近づくにつれ、言い知れぬ不安があたりを包み込んでいた

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 23

涙はもう枯れ果て、希望は絶望へと変わり

恐怖と不安と虚無感だけが、生き残った人間たちに降り注いだ。

リドックが、仲間の下へ駆けつけてきた時には、もうすべての事は終わっていた。何もかもが遅かったのだ。

「・・・・・・・・止血するのが遅すぎたんです・・・・・・・血液さえ止めていれば・・・・・」

イイダは、声をあげずに泣いていた。じっと仲間の死という現実を耐え忍ぶように。

リドックは、ヨウの顔にかかっていた白い布切れを、そっとめくった。

「・・・・・・・・こんなに・・・・・・・・顔が歪んでしまっていて・・・・・あの優しくてたくましい顔が・・・こんなにも・・・・」

あとからあとから込上げて来る憎しみの炎に、全身が包まれていく感触が、リドックを襲う。

「俺を・・・・・俺を待っててくれたのか・・・・・俺の作戦を信じて・・・・・・・」

人を、敵を憎む事が、こんなにも簡単な事であったとは・・・・・・

「なあ・・・・・・こんな事ができる人間を憎むべきなのかな・・・・?それともこんな戦争という非効率的で、残虐な行為を兵器で行える俺たちオスを憎むべきなのかな?それとも・・・・・戦争自体がおかしい事なのかな?」

独り言のように、リドックはつぶやく。誰も、その答えに返事なぞ返すことはなかった。

「ヨウが・・・・・・・敵の兵器の映像を記録した記録媒介は?どこにある?」

「シン伍長が戦闘バイクで捜索中です。」

「そうか・・・・・・・・それを回収したら、即座に撤退するぞ。ここにいたら、俺たち全員殺されるのは目に見えているからな・・・」

人は、どんなにつらい事があっても、不幸な事があっても

生きていかなければならない。生き続けなければならない。

自分が 命を落とす その日まで

リドックは、ヨウの遺体を、自分の戦闘バイクの荷台に括りつけた。

「こんな場所で寝たら、風邪引くぞ。」

そんな言葉を、ヨウの遺体に語りかけていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 22

「どこへ行くんですか?指揮官は持ち場を離れてはいけないんですよ?」

背中越しに、通信兵の冷静な言葉をかけられても、リドックは振り替えようとはしなかった。ただゆっくりと服の袖で目をこすると、彼は自分用の戦闘バイクを目の端で探していた。

「俺の戦闘バイクを用意してくれ。至急だ。」

「何を・・・・するんです?」

「ヨウ・ヤザキ曹長を助けに行く。彼はまだ死んでいない。今すぐ救出すれば助かる。だから・・・・」

リドックの拳が、震えているのを通信兵は見逃さなかった。

「やめてください。指揮する人間が前線に行く必要はないでしょ?それにあなたはイイダ軍曹に救出の指示をさっき出したばかり・・・・」

バァーン!!!

「!?」

リドックの手の中にあった拳銃の銃口から硝煙が立ち上る。彼が空へ銃弾を発射したのだ。

「頼む。イイダ軍曹やシン伍長たちを死なせたくないんだ・・・・・・・・俺は、権力も地位も名誉もお金も要らない・・・・・俺は・・・・・俺はひとりぼっちになりたくないんだ・・・・・・・ラインやエリンが死んでから、俺は心許せる友達が欲しかったんだ・・・・・・俺は孤独になるのが嫌なんだよ・・・・・」

通信兵が呆然とリドックに視線を送っている中、リドックは彼に見向きもせず、待機スペースの高台から下山すると、下にカモフラージュしてあった戦闘バイクのキーを回してエンジンに火を入れた。

ブオオオオオオオオン!

「よし、動くな・・・・・・・」

目の前にある大きな森の向こうに、今までの軍事兵器を超越した新兵器が人間を襲っている現実に、リドックは死への恐怖よりも仲間を失ってしまう後悔をしたくはなかった。

「俺に万が一何かあったら、次は君が指揮官になってくれ!」

「知りませんよ。どうなっても!」

「どうにでもなるさ。たぶんな・・・・・」

苦笑いを浮かべると、リドックは太陽が沈む地平線に向かってハンドルを回した。

仲間を助けるために・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 21

「歌・・・・・?俺の耳に歌が聞こえてくるのか・・・?」

リドックの頭の中で、また言葉がラジオのように溢れ出すと同時に、インカムから仲間の悲痛な声が溢れ出した。

「リドック隊長・・・・・・・!レーザー砲の着弾中心部近くに接近しましたが・・・・・・敵の新兵器の残骸が見当たりません!それだけじゃないです。EU軍のロボット兵士も、味方の仲国軍の兵士たちも・・・・・これはどうゆうことですか・・・・?」

『----そして僕は理解する。誰も僕という存在を見ていないことを---』

ヨウ・ヤザキの声は震え、心底怯えきっていた。

「大丈夫だ!あと少しで第二攻撃チームもそこへ到着する。それまで・・」

『----そして僕は気づく。他人を誰ひとり信用していないことを-----』

「あっ・・・・・・何だ・・・・・・・・・な、なんなんだああああああああああ」

「おい!ヨウ曹長どうしたんだ!?状況を説明しろ!どうしたんだ!?」

『----僕は君を抱きしめる。君は僕に哀願する。私を一生守ってくれと---』

インカムから、ヨウの絶叫がこだまし、リドックの頭からは、昔聞いた、流行の歌が流れ出した。

「助けて!助けて隊長!敵の新兵器は、なおも顕在中!レーザー砲はまったく効いてな・・・・囲まれて、身動きがっ・・・・・・・・・ああっ!・・・・・・隣のヘイシー伍長が・・・・・・・・逃げ・・・」

『----君の甘い声が僕の耳を打つ。あなたは私を抱いたんだから、私を死ぬまで守ってね。じゃないと、あなたを一生許さないから。あなた、男なんでしょ?女を1人きりで、置き去りにするつもりなの?』

インカムを持つ手が汗ばみ、リドックは、イイダ伍長へ回線を切り替える。

「イイダ軍曹ッッ!・・・・・・・急いでくれ、ヨウ曹長たちの下に急いでくれッ!俺では間に合わん!早く、もう敵戦力の情報収集や攻撃なんて動でもいい。あいつを・・・・・あいつをかついで逃げてくれッ!!」

「はっ・・・・・・・・・・・了解!」

『な、何なんだ!この耳鳴りのような歌は!!俺の脳みそは、この狂った戦場のせいでおかしくなったのか!』

『----早く逃げて、早く逃げて。友達はもうどこか遠くへ行ってしまうから・・・・あなたはひとりぼっちになるのよ。最後は、私しかあなたを支える人はいなくなってしまうのだから・・・・』

「ごぼっ・・・・・・・隊長・・・・・・・・・・・攻撃が、無効化されて・・・・・新兵器の映像・・・・・・・カメラ・・・・・・・・映しまし・・・・・・・回収・・・・・・・・腕が・・・・・・消し飛んで・・・・・・」

「もう・・・・・・もういいんだ・・・・・・・・ヨウ・・・・・・・逃げて・・・・・くれ・・・・逃げて・・・」

涙があとからあとから溢れ出しても、それをぬぐってくれる人はここにはいなかった。

『-----ねえ・・・・・昔死んだ友達のこと、いつまでも忘れないでね。あなたは、彼といつか再会できる日が、きっと来るはずだから・・・・』

「ヨウ!死ぬなあああああ!死ぬんじゃないぞおおおおおおおおおおおおおお!!!」

リドックの魂の絶叫は、いつまでも いつまでも鳴り止むことはなかった・・・

そして、この歌も・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 20

「リドック隊長、何をしてるんですか!早く指示を出してください!!」

リドックは、頭の中の雑念を振り払い軍用のインカムを装着すると、移動中の戦闘バイクチームに一斉に呼びかけた。

「・・・・・すまない。聞こえるかみんな!まず第1偵察チームは、HI-Dカメラで敵兵器の情報を収集し、また敵兵士の所在を逐一報告してくれ。第2攻撃チームは、敵の新兵器に、遠距離からロケット砲を一点集中で攻撃してくれ。第3かく乱チームは、そのまま待機せよ!」

「こちら第1偵察チームのヨウ・ヤザキ曹長です。了解しました。隊長、俺やるよ。」

「こちら第2攻撃チームのイイダ軍曹です。隊長らしい口調になってきたぜ。リドック隊長。」

部下の頼もしい声に、リドックはうれしくて涙がこぼれそうになった。さっきまでの自分の闇の声が、いつまた頭を支配するかわからない。そんな中で、自分を一応信頼してくれる仲間の存在は、有難かった。

『男ってやつはな、権力と競争しか頭にないんだよ。お互いの足を引っ張り合う事しか生きがいがない可哀相なやつらさ。同情するよ』

心の声が、再びリドックの頭の底からわきあがってくる。

『人間は、同じ過ちを何度繰り返せば気が済むんだろうな。一体、戦争で何億という人を殺せば気が済むんだ?お前聞いているのか?ああ?』

「俺はもう、みんなを死なせはしない。お前に何がわかる?俺たちは、信頼が芽生え始めているんだぞ!」

その言葉と同時に、第1偵察チームから緊急の連絡がリドックのインカムに届いた。

それは、死の協奏曲の序奏の始まりでもあった・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 19

それは、まさに光速の世界の出来事であった。

リドックたちが、衛星レーザー砲の安全圏内にある高台で、作戦開始時間を確認していた、その刹那

一筋の光が大気の層を分断し、地球の大地に、神の雷という名の制裁を加える光景が、青年たちの目の前に出現したのだ。

衛星レーザー砲は、森を一瞬にしてチリチリの灰に変え、大地のプレートに強大な力の打撃を加え、その場にいた動植物を消し去り、人間から視力を奪っていた。

レーザーは大地に着弾すると同時に膨張し、ドームのような形に変化しながら、徐々にではあるが、その範囲を広げて、周りに被害を拡大させていった。

ロボット兵士や新兵器や敵の兵士を、跡形もなく消滅させるために・・・・・・

「・・・・・・俺はここで・・・・・一体何をしてるんだ・・・・?」

リドックは、目の前の人間の人智を超えた兵器の被害を目にして、呻くように言い放った。

「俺は・・・・・・俺は・・・・・・・・・ただ、平凡に人生を生きたかっただけなのに・・・・・だけなのに・・・」

胸を締め付ける非現実的な光景に、リドックの心臓は、激しく波打った。

『剣は凶器。剣術は殺人術。所詮、どんな理屈を述べようが、これだけは変わらない。』

『軍事兵器っていうのは、結局、人を殺す以外に使い道はないんだよ。』

「だから・・・・・・だから何だというんだ!今更何言っても遅いんだよ!!」

頭の中に、次々と人の言葉がフラッシュバックしてくるのがわかった。

『国を守れるんだから、命をかけて戦うのが男の役目だろ?』

『貴様らは、軍人として生まれ変わったのだ。それまでの人生はすべて忘れろ!』

「俺は、俺はリドック・マアスだ!俺の人生は、他人に決められるような、そんな簡単なものじゃないぃぃ!」

『ミッキーマウス!ミッキーマウス!僕らは、楽しい仲間たちさ!』

『そんなことないですよ。僕より才能のある人なんてたくさんいますよ。』

『お酒、強いんだ?それ、かわいい!見せて!』

『みんなに迷惑をかけちゃいけない。それだけはわかる。』

『どうせ、何もできやしない。世の中変わりっこない、俺が努力をしたって』

『世の中不公平だよな。金持ちに生まれてくれば・・・・楽して生きられたらな~』

「現実逃避をしたいわけじゃない。俺は、今、戦場にいるんだ!非効率的で、非現実的で、非生産的な場所だけでも、俺は、ここで生きなくちゃいけないんだ。誰を殺しても、殺さなくても!俺は、生きていかなくちゃ!」

『お前は、時代や環境や社会に流されて、自分で物事をきっちり判断したことがあるのか?』

その言葉に、リドックの頭の中で何か弾けとんだ。そして、彼は、幻想の世界から、現実を直視することを決めた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 18

「いいか?俺たちの部隊は敵の新兵器の詳細を確かめる必要がある。中佐の直々の命令が降りた。作戦は援護作戦から敵兵器把握のための偵察任務に移る。全員、時計合わせ!」

さっきまでの怒号はどこかへ言ったのか、リドックはヨウたちの救出に成功したことで、何かが吹っ切れていた。逆に隊員たちに冷静に振舞っていた。

「リドック隊長代理、敵の新兵器は、並ではありません。迂闊に近づくと瞬殺される恐れがあります。ここは、戦闘バイクの砲撃を利用して陽動をかけてみてはいかがですか?」

「いや、我々の陽動に引っかかるほど容易な敵ではないと俺は思う。なんせ仲国軍の陸戦部隊を手玉にとって、約半数を死傷させている。敵は我々を各個撃破するつもりだろう。それに、さっき仲国陸戦部隊と無線で話したが、彼らは高高度から、多目的衛星レーザー砲を使用して、敵兵器の動きと力を同時に見る作戦に出るといってきた。我々は、衛星レーザー砲の射程範囲からはなれた場所から待機して、レーザー掃射とともに全機、奇襲をかけるぞ!!いいな?」

地面に地図を広げて、レーザー砲の被害範囲と具体的な奇襲ルートを矢印で説明した。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 17

アジア軍 広東基地の作戦司令部の一室では、無数の液晶ディスプレイが壁に設置され、前線に配置している兵士たちの生死を、逐一画面に映し出していた。しかしそれは、兵士たちの絶叫や死体の惨たらしさを伝えるものではなく、戦術や戦略を練るための戦場の全体図でしかなかった。

「仲国北東部地区は、今の所、兵力は十分確保されています。南東も大丈夫です。サン・ブックの防衛戦力はいかがなさいますか?」

じっとディスプレイを眺めていたエイダスナーに、ひとりの仕官が尋ねてきた。

「とりあえず、アメリア軍以外が攻めてくる気配はないし、それほど本国の防衛に割く必要はない。我々は、アメリアとは中立条約を結んでいるのだからな。」

エイダスナーは、ゆっくりと、コーヒーポットに手を伸ばした。

「それが・・・・・ロシア軍が、EU軍と共同でわが軍を攻撃しているとの情報が入ってきましたが・・・」

「どこの兵士からだ?」

エイダスナーの眉毛が、不自然に浮き上がる。

「仲国軍の援護任務についている第44戦闘バイク中隊のリドック曹長であります。本日13:00時において、EU軍以外の新兵器と遭遇し死傷者は五名で、上空からのF-65爆撃機による空襲を求める連絡がありました。いかがなさいますか?」

眼鏡をかけた仕官は、ゆっくりと書類を読み上げた。

「そうだな・・・・・・・」

エイダスナーは、点滅している液晶ディスプレイを凝視し、少し間があってから

「・・・・・彼らに伝えろ・・・・・・その新兵器の調査を十分にし終わったら、爆撃機を戦場に向かわせるとな。それまで敵の新兵器を死に物狂いで解明しろと。君ら若者の手に、この戦争の勝敗が握られていると思え!」

仕官は、エイダスナーに敬礼をすると、すぐさまリドックの部隊にそのことを伝えるように指示した。

『敵の新兵器の力が解明するまで、お前らは生きて帰れると思うな』

というエイダスナーの裏の意図を、彼ら自身は知る由もないが・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 16

確かに、あれは戦車ではなかった。ロボットでもなかった。

しかし彼らは、あれが人間の力を超越した存在であることはわかった。だから彼らは、逃げ出したのだ。

後ろは振り向かず、死んだ仲間に目もくれず、青年たちは、生きる場所を求め、バイクの速度を上げた。

ヨウは、自分の無線機が点灯していることに今、気がついた。慌てて、回線を開くスイッチを押した。

「ヨウ・ヤザキ曹長か・・?」

声の主は、あの隊長代理である。

「・・・・・・そうであります。」

リドックの声は、低くゆっくりとしたものであった。

「何で単独行動をした?今、どこにいる?」

「・・・・・・・・・」

ヨウは、口から何も言葉が出ない自分に、驚いた。

「言いたくないのか?」

「・・・・・・・・・・はい。」

しばらく、2人の間に沈黙が流れたあと、リドックが口を開く。

「俺はお前と同い年で、階級も同じだから、お前に部隊の指揮を任せてもいい。どうなんだ?」

リドックは、ひとつ、ひとつ、言葉を選びながらヨウに話しかける。

「一方的に俺が決めてすまない。それは謝る。俺もエリン少尉がいなくて動揺していた。お前の気持ちを知らずにな。不満があるなら、直接エイダスナー中佐に俺が話をしてもいい。」

「・・・・・・・・・いいよ。お前で・・・・・」

「え?」

「そこまで俺のこと考えていたなんてさ・・・・・・・リドック・・・・・・・俺は、お前が気に食わなかっただけなんだ。ただ・・・・それだけなんだ・・・・・指揮を取りたいわけじゃないんだ・・・」

ヨウは、恐怖と優しい言葉が交互に襲ってきて、無線機越しに嗚咽を漏らした。

「わかった。お前ら三人は、今から、リドック隊長代理の指揮下に入る。多少の不満は覚悟してくれ。いいな?今、そっちに向かっているからな。」

三人の顔に、少しだけ笑顔が戻った。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 15

ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!

ヨウ・ヤザキたちの周りから、不気味な振動音が鳴り響くのに、そう時間はかからなかった。彼らは、仲間の死体を眺めていて周りに敵が近づいていることに、反応が遅れていた。

「あ・・・・・・・・ああっ・・・・・・」

シンは、戦闘バイクのハンドルを握ったまま全身が震えていた。少しちびったのかもしれない。ズボンの股間部分が、ジワリと濡れてきたのだ。

「どうやら・・・・・・あの優男の勘は・・・・・・当たってたかも知れねぇな・・・・・・・畜生!」

イイダ軍曹は、密林の向こうから、仲国語の悲鳴のようなものが聞こえてくるのを耳で感知していた。あれは、強大な力に蹂躙されている人間の恐怖と絶望の悲鳴・・・・・・

「俺たちの運命もここまでってか・・・・・・・・・冗談じゃないよ!俺は、フリーターになるために生きてきたんじゃないぜ!なあ!」

脂汗を流しながら、ヨウは、後ろの2人に精一杯の声をかけた。彼は、リーダーになりたいという願望は、リドックよりも強かったが、極端に臆病になる一面ももっていた。

「か・・・・・・・・・帰りたい・・・・・・サン・ブックに・・・・・・・イースト・シティに・・・・・ゲームを徹夜でやってた・・・・・・あの学生時代に・・・・・・戻りてぇ!!!」

シンは、目の前の現実から目を背けた。

「やめろ!現実逃避をするのは、まだ早いだろうが!」

イイダは、シンの方に、マシンガンを向けた。

「でもよ・・・・・・・・敵さん・・・・・もう・・・・・・・こっちにくるぜ・・・・・」

シンの声と同時に空から、仲国兵の死体が、バラバラに振っくるのが見えると、シンは、フルスロットルで、来た道を逆走した。

「うわああああああああああああああああああ!」

「くそ野郎が!!一人だけにげるんじゃねぇ!」

イイダとヨウは、近づいてくる強大な黒い影を背に、シンのあとを追走した。

死神の到来である。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 14

グウオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!

林を、森を、そして風を切り裂いて、三機の戦闘バイクが轟音と撒き散らしながら疾走する。アジア軍兵士のヨウ、シン、イイダの三人は、トライアングルの陣形をとって単身、ロシア・EU軍に押されている仲国軍の援護に向かう途中であった。

「リドック隊長は追ってこないぜ!やったな!」

「あのウスノロ優男に、俺たちが見つかるわけないぜ!」

「そうだ!手柄をあげりゃ、俺だって明日から隊長だろうが、少尉だろうが!」

三人は、時速150キロで、中国大陸の密林地帯を駆け抜けていた。久しぶりの戦闘バイクの機動性に、彼らは素直に感動しているのだ。

「このバイク、タイヤが三つあるから姿勢も安定してる!まったく・・・・・シン伍長!お前の武装は?」

「ああ!俺の機体は30ミリカノン砲が二門ありますよ!」

ヨウの呼びかけに、シンが答える。

「イイダ軍曹は?」

「こっちは、マシンガンとロケット砲が装備されてる!やったぜ!」

イイダ軍曹は、バイクのハンドルから手を離し、ヨウに向かって手を挙げた。

「結構!あと十分で戦場に到着すっぞ!小便はもう済ませたかよ?」

ヘルメット越しに、ヨウがにやける。

「餓鬼じゃないんだから、平気平気!オナニーはいつでもできるぜ!」

「こっちもさ!リドックの能無しは、今頃どんな顔してるのかな?」

「ははっ、部下の管理能力がないって上に怒鳴られてるとこだぜ!きっと。でも明日からは、俺たちが隊長代理だ!」

ヨウは腹のそこから声を挙げ、恐怖に駆られそうな自分を奮い立たせた。

「おい!ヨウ曹長、ちょっと見てくれ。」

シンの声にヨウは反応した。彼の目線の先に、黒っぽいものが横たわっているのが見えた。

「あれは・・・・・?」

「人だ!死んでるんじゃないのか?」

「近くによってみようぜ。」

三人は、道の真ん中にうずくまっている人間らしきものの前に、バイクを停止させた。

「あっ・・・・・・・」

ヨウは、倒れている人間の制服をみて唸った。

「どうした・・・・?」

「俺たちの・・・・・部隊にいたやつだ・・・・・・顔を見たことがある・・・」

「何だって?」

その人間は、息をしていなかった。近くに壊れたバイクも転がっている。

「眉間に・・・・・・穴が・・・・・・・」

苦悶の表情を浮かべる人間の眉間に、小さな穴が開いているのを、ヨウは見逃さなかった。

「・・・・・・・・・・・偵察に行ったやつだ・・・・・・・!」

彼らは、もう自分たちが、戦場の中へ踏み込んでいることに、気づき始めていた・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 13

「おい、あんな隊長代理なんて無視して、俺たちだけで仲国軍の援護に向かわないか?」

俄然士気の上がった第44戦闘バイク中隊の中で、ヨウは、目線が合ったシンとイイダに声をかけた。それは偶然ではなく、リドックのことをよく思わない人間が、自然と固まっていったようだった。

「でもさ、偵察が帰ってくるまで、待ったほうがいいよ。敵の状況を把握した後でも攻撃できるだろ?」

「馬鹿!それじゃあ遅いんだよ。他のやつに手柄を横取りされるぞ。」

「ああ・・・・・それにあの隊長代理が、何言い出すかわからないからな。俺たちでこの戦闘の突破口を開くんだよ!上手くいけば、次の隊長がこの中から出るかもな。」

戦闘バイクを囲んで、3人の男たちが静かに、プランを練っていた。

それの様子に気がつかないリドックは、仲間の死や周りに飛んでいる虫や密林の湿気の性で、極度の情緒不安定に陥っていた。

「くそっ!まだ偵察隊は帰ってこないのか!!」

歯を食いしばり、指は上下に揺れ、足は貧乏ゆすりをはじめていても、彼は指揮官らしく振舞おうと必死であった。

「ヨウ!みんなに水分補給をしてやってくれ!脱水症状を起こしたら大変だから・・・・・・・・・ん?ヨウ?」

ヨウ・ヤザキの返事がないので、後ろを振り返ってみると、もうそこには、シンとイイダとヨウ・ヤザキの姿と戦闘バイク三台が姿を消していた。

「えっ・・・・?あいつらは・・・・?」

「3人で新たに偵察してくると・・・・・さっき戦闘バイクを起動させましたが・・・」

隣にいた兵士が答える。

「何で早くそれを!!!!」

リドックは、自分の隊長としての人望と信頼のなさに、ほどほど呆れていた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 12

「冗談じゃないぜ!ロシア軍が参戦してくるなんて聞いてないぞ!」

シン伍長は、持っていたバンダナを地面に叩き付けた。彼は、アジアの未来のために軍に志願した元フリーターであり、やりたい事を見つけるために戦争に参加した青年である。

「俺もだ。確かにサハリンのエネルギー資源を巡ってロシアと揉めてはいたが・・・・まさか敵対勢力になるなんて・・・」

イイダ軍曹は、元プログラマーで、軍事コンピュータの開発部門からこの部隊に移ってきた理系兵士である。

「どっちにしろロシアは、資源でも領土でも大国である事は違いないし、反アメリカ勢力である以上、こっちの戦争に本格的に参戦してきたかどうかはわからない。それに彼らは仲国軍の本隊が苦戦している相手だ。俺たち戦闘バイクに毛の生えた部隊が援護できるはずがない。サン・ブック本隊とつないで、戦闘機を出してもらうべきだ。」

「そんなこといって、自分の指揮に自信が無いだけだろ?」

ヨウが、横から茶々を入れた。

「・・・・・・・そうだ・・・・・・・」

「認めるのか?」

リドックの素直な発言に、ヨウは少し驚いた。

「偵察部隊に送った兵士が、1人死亡した。死体確認をしていないから憶測出しかないのだが、返答がない。おそらく死んだのであろう・・・・・俺の指揮がマズかった・・・・」

「だったら、そいつの弔いのためにロシアとEU軍に戦いを挑むべきなんじゃないのか!?隊長さん?」

部隊のすべての戦闘バイクは、いつでも発進できるように整備されていた。彼らの士気は、富士山のように高いままであった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 11

「隊長代理・・?」

「・・・・もう1人の偵察している兵士に回線をつなげるか?早くしてくれ。」

「え?今連絡とってたんじゃ・・・・」

「いいから!もう1人とつなぐんだ!」

あまりの大声に、通信兵は黙ってGPS無線機キーを叩いて周波数を合わせた。

「おい・・・・・どうしたんだよ?」

「俺の采配ミスが・・・・・」

「あ?」

「殺した・・・・・」

「誰を?」

「就任して10分で・・・・・・もう1人の人間を殺してしまった!!」

周りの人間が一斉に、リドックに視線を送った。

「どうゆうことだよ。隊長代理さん。」

「詳しくは後だ。回線がつながった?かしてくれ・・・・・・ああ、リドックだ・・・・状況が変わった。すぐに第一待機場所へ帰還してくれ。いいな?敵と交戦するんじゃないぞ。俺たちには荷が重過ぎる・・・・・いいな?早く戻って来い!」

部隊の兵士たちは、只ならぬ状況が起こっている事を、リドックの話し方から察知するのだった。

死神は、もうすぐ傍まで、忍び寄っているという事に・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 10

「シン伍長、君は戦闘バイクのマニュアルは熟読したかい?ああ、イイダ軍曹は煙幕弾をセットしておいてくれ。敵に狙われたらすぐ周囲に展開させるんだ・・・・ええ?偵察部隊の連絡はまだ来てないのか!?ヨウ!君に、隊長代理の俺の補佐をしてくれる予定だっただろ?無線機の故障?君と僕は曹長なんだから。みんなより階級が上なんだから・・・・しっかりしてくれよ・・・」

周りの兵士に、おっかなびっくりの指示をリドックが出すたびに、彼らの舌打ちがリドックの心に響いてきた。

『お前の指示を聞いてたら、生き残れるのかよ?』

もともと彼らは、チームワークというほどの社会経験を積んでいない者が多数いたため、外見が優しく、強そうに見えないリドックの言う事を、素直に聞くものは、あまりいなかった。

「22歳だって・・・・リドック隊長代理は若いんですね。エリン隊長は本当にあなたに指揮を任せたんですか?」

イイダ軍曹は、戦闘バイクに搭載されている100ミリ砲の銃口を、リドックに向けた。

「冗談でも銃口をこっちに向けるなよ。イイダ曹長。エリン少尉は今まで一緒に生きてきた仲間だったんだ。だから、彼が俺を選んだのは実力じゃなくて義理なんだよ。」

リドックは、苦笑いを浮かべた。

「そうでしょうね。リドック隊長代理からは、オーラを感じられないですよ。」

シン伍長は、自分と同い年のリドックが隊長代理をやっている事が面白くないのだ。

「ま、不満があるやつは上にいるエリン少尉に聞いて来るといい。が、今はいつどこから敵の攻撃がくるかわからない。だから第一戦闘配備のまま、偵察隊が帰ってくるまで周囲を警戒しつつ、戦闘バイクにいつでも乗れるようにしておけよ。」

指揮のマニュアルを片手に、リドックは仲間の顔をひとりひとりずつ、確認していった。

「すっかり隊長面かよ。昨日までエリン少尉の金魚の糞みたいなやつがさ・・・」

ヨウ・ヤザキは、敵の攻撃よりもリドックが隊長に昇格した事が気に食わなかった。

「リドック隊長代理、無線が入ってます。偵察隊の一人からです。」

通信兵がリドックの前に現れた。

「了解。どうした?仲国軍と接触できたか?」

ノイズがひどくて、向こうの声が聞き取りにくい事に、リドックは少しいらだった。

「はい。先遣隊の仲国軍は、今、EU軍とロシア軍の連合部隊に押されている模様です。至急援護されたし と言ってきています。」

「ロシア軍?EU軍はロシアと手を組んだのか?」

「はい。たぶんEUはロボット技術をロシアに提供するかわりに、ロシア軍をこの戦争に派遣したのでしょう。ロシアのHI-TANK(戦車)とEU製ロボット兵士に味方の仲国軍がかなり苦戦・・・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁl!」

「どうした?おい!」

「ガガガガガッ・・・・・・・ピーー・・・・・・・・・・・・・」

無線機の向こう側からから、人間の声が消えた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 9

「ヨウ・ヤザキ曹長・・・・・ちょっといいか?」

リドックは、第一待機場所で戦闘バイクを整備しているヨウ・ヤザキにそっと耳打ちをした。

「どうかしたのか?」

「・・・・・・・・エリンが死んだ・・・・・・・・敵のロケット弾で、俺以外の仲間が全員やられた・・・・・」

「・・・・・・・・」

戦闘バイクを点検する指が、一瞬止まった。

「なっ・・・・・?」

「上の監視ポイントを見てくればわかる。味方の死体の肉片で、思うように歩けなかった・・・」

ヨウは、ゴクッと唾を飲み込んだ。

「肝心な話はこれからだ・・・・・エリンが死んだ後、誰がうちの部隊を指揮するのか、それを決めなくちゃいけない。」

「俺はいいよ・・・・・まだ戦闘バイクに慣れてないし・・・・・」

ヨウは、戦闘バイクの車輪に目を移した。手が震えているのが、リドックにもわかる。

「さっきな、仲国軍と連絡用と周囲の敵の索敵に、2機のバイクを発進させるように、命令しておいた・・・」

ヨウは、ギョッとした目で、リドックを見つめた。

「お前が・・・・・・?」

「ああ・・・・・・無線でな・・・・・咄嗟に隊長代理って言葉が出ちまった・・・・」

リドックは、近くにいる仲間にも視線を移した。みんな、まだエリンが死んだ事を知らない。

「お前が指揮を?」

「現に2人、偵察に行ってくれた・・・・・・俺がやるしかないだろう?うちで階級が上なのは、俺とお前しかない・・・・お前は、無理なんだろう?」

戦闘バイクの位置を、リドックは確認していた。

「いいけど・・・・・・・・他のみんながなんて言うかな・・・・・・すぐにお前に従うとは思えんが・・・・・」

「エリンはまだ生きているという設定にする。そしてエリンから指揮を頼まれた事にするよ。俺が隊長代理だ。」

ヨウは、リドックの顔を、上目遣いでじっと見つめているのだった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 8

「リドック曹長、今の爆発音は何ですか!?上の監視場所で一体何が起こったんですか?」

無線機から唐突に、味方の声が響いてきた。リドックは、エリン少尉の亡骸に手を合わせて、地面に転がっていた無線機を拾い上げた。

「RPG弾を受けて、ここにいた五名の兵士がやられた。そっちの状況は変化なしか?攻撃はないか?」

無線機を握り締めた手が、痙攣しているのがわかった。今、次のRPG弾が襲ってくるかもしれない状況で、リドックは無線機の向こうにいる兵士に向かって冷静に喋っていた。

「我々の第一待機場所は大丈夫です。第二待機場所は連絡していないのでわかりませんが・・・」

「高速機動式バイクはそこにあるか?」

「はい。それが何か?」

「そうか。ならそれを使って君が偵察に行ってくれないか?仲国部隊と連絡を取りたい。それに近くに敵がいるかもしれない。その場所も特定したい。いいな?」

リドックは口から胃液がでるのを必死でこらえていた。

「自分が・・・・でありますか?エリン少尉は?エリン少尉の指示を仰がないと・・・・」

「少尉は、今負傷していてそれどころではない。自分が隊長代理をしている。わかったな?」

「いえ・・・・・エリン少尉はなんと言っているのです?」

無線機の向こうの兵士は、やったこともない偵察任務に躊躇しているようだった。

「わかった!もうひとり連れて、2機のバイクで偵察任務を行え!第二待機場所にいる兵士たちにも行かせる!だから早く行くんだ!ここはもう戦場なんだぞ!!」

携帯無線機のマイクが壊れるくらい、リドックは声をあげた。

「了解しました!!直ちに偵察を行います。」

「そうだ・・・・・それでいい・・・・30分経って仲国軍と接触できなかったら。すぐ戻ってくるんだ・・・・」

リドックは、ゆっくりと、岩の影に隠れると、遮蔽物を利用して攻撃を受けない場所に移動した。

「ああ・・・・・・高速式バイクを当てにしていい・・・・・あれはTOYOUTAとSONEYが共同開発した戦闘バイクの最新式だ・・・・・RPG弾なんかにあたるものかよ・・・・」

リドックは、RPG弾の威力を目の当たりにして、ショックで足が動かなくなっていた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 7

RPG手持ち式、ロケット推進弾。映画 ブラックホーク・ダウンでゲリラがよく使用していた対戦車兵器。

リドックが、助かったのは奇跡というほかない。

なぜなら、リドックの後方に待機していた部隊の仲間は、RPG弾の直撃をくらい、爆音とともに四散したのだから・・・

チリチリチリ・・・・・

砂ボコリが中を舞い、肉の焼ける音と火薬の匂いがリドックの鼻に付きまとう。彼は、とっさに身をかがめ、耳を塞いだ事により鼓膜が破れるのを防いでいた。

超人的な反射神経が、彼の身体を守ったのである。しかし彼は、自分で意識してやったわけではない。彼はRPG弾を目視した瞬間に、死を防ぐための最善で無駄のない動作をしろという命令を、体の神経に伝えていたのだ。

「グッ・・・・・エリン隊長・・・・・・どこですか・・・・・?敵に自分たちの場所がばれました・・・早く高台の下にある戦闘バイクで、応戦を・・・・・」

嗚咽をこらえながら、炎に包まれた仲間のもとへ、リドックは駆け寄った。

「・・・エリン少尉!・・・」

「り・・・・・リドック曹長か・・・・・あっつ・・・・どうかしたのか・・・・?」

「・・・・・・・・」

リドックは黙ったまま、エリンを上から見下ろした。

「大至急、救護部隊を要請します。」

「そんなにひどいのか?」

「・・・・・・・・・頭・・・・・・」

「・・・・頭・・・・?」

エリンは、自分の頭を、ゆっくり触った。

「あっ・・・・・・あああああああああああ」

エリンは、自分が過去に味わった事のない感触が、手から伝わってくると、声にならない声を上げていた。

「リドック!何とかしてくれ!左目も、かすんで来ている!早く救護部隊を!」

「何とか!今、GPSで確認しています!大丈夫。」

「他の仲間は?みんなは?」

「ここにいた5人は、やられました。即死です。下に待機している人間には知らせますか?」

「た・・・・・のむ・・・・・・・・」

エリンは、それを言った後、目を開けてることは無かった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 6

「だから、仲国軍第444陸戦部隊と共同で、EU軍の補給ラインを叩けという任務はわかりますが、我々の戦闘バイク部隊だけで十分な援護なんてできるんですか?

我々の部隊は、2週間前に残存兵力を再結集したけの寄せ集め部隊ですよ!それに兵士は15名で、M-弐戦闘バイクも10機しかないんですよ。せめて銃機甲戦車の一機でもこちらにまわしてもらえまっ・・・・・・くそっ!」

エリンは、相変わらず自分の立場が、それほど変わっていない事に愕然として、無線機をたたきつけた。

そして彼ら第25戦闘バイク中隊は、仲国軍の部隊と共同で、EU軍の補給ルートを抑えるために、第444陸戦部隊の後方援護を、仲国地方の密林地帯で展開していた。

「今回は・・・・・・人間が敵だな・・・・・ロボット兵士じゃない・・・・・な」

「ああ・・・・・・違うな・・・・・」

「エリン隊長・・・・・・仲国第444陸戦部隊は、いつ援護を要請してくるんですか?」

「わからん。確か合図は煙幕で知らせるはずだが・・・・な。彼らはゲリラ戦が得意だから、我々はまた陽動作戦をやらされるかもな・・・・・」

リドックたちは、別な角度で崖の下の補給ルートを監視し、EU軍の輸送車が通ることを注意深く見ていた・・・

「民間用の大型トラックを見たら、俺に知らせろよ。戦闘バイクのエンジンは切っておけ。音で敵に気づかれるからな。」

リドックは、エリンの言動のひとつひとつが、鼻につき始めていた。

『4日後には、今回の作戦は終わります。そしたら、一緒に飯を食べませんか?返事は、自分が帰還してからで良いです。』

リドックは、あの金髪女性兵士を作戦前に食事に誘っていた。

『うん・・・・・・・わかった・・・・・・あとでね・・・』

女は、すこしうつむきながら そう答えた。

『彼女が・・・・・・慰みものだなんて・・・・・何かの間違いに決まっている!俺は、君を抱くまで、死ぬもんかよ!』

心の中でリドックは絶叫した。

その時監視カメラに、何かが近づいてきた。それは赤くて細長くて、よく戦場で見たものであった。

「RPG!」

絶叫は、口を通じて、周囲にこだましていた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 5

ライン曹長(二階級特進)が行方不明・死亡認定がされてから一週間が経っても、彼の死を気にとめたり、悲しんだりする人間はいなかった。

以前、同じ部隊であったエリン少尉もヨウ・ヤザキ曹長も、自分用の戦闘バイクが軍から支給された事に狂喜乱舞し、それに没頭する事で、戦友の死も、明日にでも自分のそばに近づいてくるであろう死神の存在も忘れ、子供のように、おもちゃにはしゃいでいるのだった。

俺はというと、ラインの遺品や彼女・母親宛ての遺書の整理と郵送をし、戦死における二階級特進時の遺族手当てと軍人遺族年金の申し込み手続きを、遺族の代わりにやってあげる事にした。こんな事をしても、彼を放置して見殺しにした罪滅ぼしになるわけではないが・・・・

そんなことを続けていると、急に俺は、あの救護室であった金髪の女兵士シース・レイナード准尉に無性に会いたくなった。

彼女に会ってからというもの、あの金髪と形の良い唇が、俺の頭から離れなくなってしまったのだ。

『彼女と会って話がしたい、あの唇と金髪をもう一度見たい。俺は、俺は!』

気がつくと、俺は、基地の内部で、無意識に彼女を探していた。

目はうつろい、呼吸は荒く、動悸も早くなっていく。

『どこだ!どこだ!どこにいるんだよぉ!?』

救護室も、食堂も、サロンも、射撃場にも、彼女の姿はない。

暗闇の中、足がふらつき、壁にぶち当たりそうになるのを、必死でふんばり、彼女の幻影を探していた。

その刹那

「!?」

遠くで、何か声らしきものが聞こえた。それは甲高く、猫の泣き声によく似ていた。

「また・・・・・だ・・・・」

空耳ではないとわかった時、リドックは自分の中に何か嫌な予感がムクムクと湧き上がるのを覚えた。と同時に徐々に、自分が冷めていくのがわかった。

「そうか・・・・・俺は親友が死んで、その辛さを女で解消しようとしていたのかもな・・・・・マシンではなく女という生き物に・・・・・自暴自棄になって、どうでもいいやって投げやりになっていた・・・・・」

彼は、女の声のする方向を凝視すると、そのままその横を通り過ぎて、静かに自分の部屋にもどった。何も聞かなかったという不利をして・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 4

一夜明けたヒロエア山の地表は、アジア連合軍の砲弾のシャワーによって、山の形を留めないまま無残な姿を晒している。山の大地はえぐりとられ、木々は木っ端微塵に吹き飛び、使用されたクラスター砲弾は、そこらじゅうに環境汚染を発生させていた。

リドックたち、第25機動バイク中隊は、戦場となったヒロエア山攻防戦の戦闘記録および後処理の任務で、ヒロエア山の調査を行っていた。

「ロボット兵士の残骸は、どんな部品でも回収しろ。人間の遺体もな。あとで兵士遺族に訴えられた時に厄介な事になるから。」

部隊を指揮するエリン少尉は、黒く変色し、ガスがそこらじゅうから噴出する大地を怪訝な顔をして眺めていた。

「これでやっと俺にも最新式の戦闘バイクが支給されるんだな。少しは生存率が上がったってモンさ。この前の軍の試験にもとっくに受かってたんだから、昇進も当然だよな。」

自分のサン・ブック国での非正社員だったころの地位も忘れ、エリンは自分の運の良さをひとり喜んでいるのだった。

「エリン少尉、ライン伍長の遺体や識別用のストラップが確認できませんが、どうしますか?」

リドックは、ラインを置き去りにして彼を殺したのかもしれないという疑惑を払拭できずにいた。

「ああ・・・・・M,I,Aの報告書は提出したんだろ?なら良いじゃないか・・・」

「何がいいんです?」

リドックは、自分の出世や命にしか興味のないエリンに食って掛かった。

「彼は・・・・・ロボット兵士に殺されたか、味方の一斉攻撃で木っ端微塵になったかもしれない。多分死体はないかもしれないな。」

エリンは、サングラスを胸ポケットから取り出すと、ゆっくりと耳に押し当てる。

「戦争の歴史の中で、味方の砲撃で撃ち殺されるなんて話は、良くある事さ・・・」

彼はそういうと、リドックに背中を向けて離れていった。

リドックは、赤茶色の大地の真上にある空を、ずっと眺めていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 3

どう見ても同じアジア人種に見えない金色の髪をもつ彼女は、放心状態でベットに寝ているリドックの横を通り過ぎると、冷蔵庫にあったミネラルウォーターを、リドックの横にそっと置いた。

「よかったら・・・・・飲んで。」

「あっ・・・・・・ありがとう・・・」

ここが軍隊の地下基地である事も忘れ、リドックは、目の前の女性のしなやかな動きから目が離れなかった。

「水・・・・・この辺りじゃろ過しても飲めないから、補給物資のミネラルウォーターに頼るしかないの。それ、大切な水だからね。」

リドックは、急にのどの渇きが襲ってくるのを感じていた。

「ここは?どこです?」

「基地内部の唯一の救急医療室・・・・だけどね。補給がこないとまともに機能しないの。」

「あなたが、自分をここまで運んでくれたのですか?」

「ううん。士官の人と2人がかりで。あなたが廊下で気絶していたのを見てね。多分どこも異常は無いと思うけど・・・」

そんな彼女の話を聞きながら、リドックは、彼女の匂い、唇の動き、女らしい仕草、そして身体のラインをさりげなく目で捉えていた。性というものに飢えていたという意識は、彼には無かったのだが・・・・

『ふ、不謹慎だけど・・・・・不謹慎だけど・・・金髪をかきあげる仕草が・・・・・堪らなく良いな。男にはない異性のフェロモンというやつなのか・・・』

「・・・・・・?・・・・・・・」

彼女との沈黙がしばらく続いていた事に、リドックは気づいた。

「あ、いや・・・介抱して頂いてありがとうございます。」

『魔性の女のというのは、こうゆうのをいうのか・・・?』

リドックは、自分が男であるという事を悟られないように、身体の状態を折り曲げて、ベットから起き上がった。

「あの・・・・そろそろ・・・・部屋に戻って・・」

「年・・・・・聞いていい?」

彼女は、軍人教育を受けていないかのようなフランクな言葉遣いをした。

「・・え・・・?ああ・・・・・22歳になります。」

「じゃあ・・・・・私と同じだ!私も大学卒業と同時に、徴兵されたの。それでね・・・・・」

「本当ですが!?出身はどこです?」

そして、リドックは一晩中彼女と語り明かした・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 2

三人で食事をとった後、リドックはひとりでエイダスナー中佐の部屋に呼び出され、スパイ調査報告書とライン伍長の捜索要請書の記入手続きを済ませた。エイダスナーは、陽動作戦の成功については、評価していたが、スパイ任務については、あまりいい顔をしなかった。

「・・・・・・・ライン曹長の分まで、君には頑張ってもらわなくてはな・・・」

エイダスナーの頭の中では、ラインは戦死したことになっているらしい。

その帰り道、リドックは戦闘による肉体的疲労と精神的疲労で、上手く歩く事ができないでいた。

「次からはバイクでの戦闘か・・・・・・少しは楽にな・・・・・れば・・・・」

通路の壁に寄りかかり、コンクリートの冷たさが、皮膚を通して伝わってくる。

「ここで・・・・・・寝たら・・・・・風邪を・・・・引くな・・・・」

そういい終わる前に、リドックの脳みそのブレーカーが落ちる音がして、彼はその場で、夢の中へ落ちていった。

そして、リドックの脳みその機動スイッチが入いり、彼が目を開けた瞬間

目の前にひとりの女の顔があった。

「!? 誰だ、あんたは!?」

久しぶりに異性の顔を見た衝撃で、そんな言葉がリドックの口から咄嗟に出ていた。

「え、私?」

女は自分の顔を指差した。

コク、コク

リドックの顔が、二回ほど上下に揺れる。

「私は、シース・レイナード准尉です。あなたは?」

「じ、自分は第25機動バイク中隊へ配属されたリドック軍曹であります。」

リドックは、金髪の女性を見るのは久しぶりで、少し慌てている自分に気づいた。

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小説 戦いの向こう側へ すべてはあの戦いの夜に 1

そして親友のラインは、一ヶ月経っても行方不明のままだった。総攻撃の後の山中を探したが、死体は出てこなかった。

ロボット兵士の亡骸以外はあとかたもなく・・・・

第304陸戦部隊はというと、あの陽動作戦でほとんどが戦死し、生き残ったのはたった三名しかいなかった。

生き残った三名は、新たに第25機動バイク中隊へと配属が決まった。

「ああ・・・・・君も生き残ったのか・・・」

帰還した三人の兵士たちは、基地の食堂で、お互いの顔を、改めて見直していた。

「必死で逃げたんだ。必死で・・・・・」

名前も知らない彼は、疲れきったしわくちゃの顔で フッと笑った。

「ハハッ・・・・運がいいな。俺たち・・・・」

ぼそっとエリン少尉がつぶやく。リドックも、乾いた笑い声を上げた。

「ヨウ・ヤザキ・・・・・」

「え?」

エリンとリドックは、真正面に座っている男をじっと見た。

「俺の名前だ。ヨウってあだ名で呼ばれてた。サン・ブックにいた時はフリーターだった。その日暮らしで、夢なんて無かった。希望も生きていく気力も無かった。銃も撃った事は無かった。」

彼はうっすらと涙を浮かべていた。

「ここに来るまで、家族と毎日口喧嘩ばかりして、両親も嫌いだったし友達もあまりいなかった。でも家から出る勇気も無かった。今、戦場にいて初めてわかった。俺、ひとりで死ぬのが怖いんだ。誰にも気づかれずに死ぬのは嫌なんだ!俺、俺・・・・・」

彼の食べかけのカレーライスに、大粒の涙が零れ落ちた・・・

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小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ♪

リドックとラインは、謎の組織から盗聴器を渡され、スパイとしてアジア連合軍に復帰したが、すぐに最前線へ送られてしまう。

第304陸戦部隊(別名 元フリーター達による捨て駒部隊)に配属される。

彼らは、ヒロエア山でEU軍のロボット兵士を有効射程範囲まで陽動する任務を受け、エリン曹長指揮のもと、煙幕弾を使いながら必死に後退するのだったが・・・・・・

その後退途中で、ロボット兵士の奇襲に合い、ラインは行方不明に。

そして、必死の思いで本隊のいる待機地点まで下山したエリンとリドックは、ラインの安否を気づかいながらも、自分が五体満足で生きていると言う実感に打ち震えるのだった・・・・

そしてその直後、ヒロエア山に、アジア連合軍の総攻撃が始まったのだ・・・

山は赤く燃え、機械も人間も消滅させる軍事兵器の圧倒的な力の前に

若者たちは、ただ、目の前の珈琲を眺めることしかできなかった・・・・・

次回からは、小説 戦いの向こう側へ すべての運命は あの戦いの夜に!編が始まるよ!

お楽しみにね♪

え?楽しくないって?

それは言っちゃダメ!絶対!

相当カレ凹むから(^w^; )

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小説 戦いの向こう側へ ロボット編 6

「メイダスナー中佐聞こえますか?エリン曹長です。陽動作戦は上手くいきそうです。リドック伍長も一緒です。」

エリンは、ヒロエア山地の下で待機していた本隊との合流地点を確認すると、リドックに最後の煙幕弾をセットさせた。2人は山道を早足で下ると、ASIA式機動戦車やJーK66戦闘バイクの横をすり抜け、アジア連合軍第209陸軍戦車大隊の司令官がいるテントを目指した。

「失礼します。先ほど無線で連絡した第304陸戦部隊のエリン曹長であります。メイダスナー中佐はいらっしゃいますか?」

登山用のテントの奥で、大型液晶ディスプレイを眺めていた男の一人が、エリンたちのほうに顔を向けた。

「ああ・・・・・君たちか。何か?」

エイダスナーは、青年たちの帰還にも、冷静だった。

「え・・・・・・いや・・・・ロボット兵士を約3機・・・・もうすぐこっちに来ます・・・・陽動に引っかかりました。あと部下のライン伍長が行方不明になりまして・・・」

エリンは、指揮官たちの異様なまなざしに、言葉が詰まった。

「そうか・・・・・・ご苦労だったな・・・・・・とりあえず君たちは休みを取りたまえ。後ろのテントで珈琲を用意してある。ライン伍長の件は後で報告書にまとめるんだ。わかったな?」

そういうとエイダスナーは、他の指揮官とまた液晶ディスプレイに顔を向けた。小声で彼らは何かを話し合っているようだった。

「あ・・・・・・・りょ、了解しました。」

2人は自分たちの役目を終えて生きている実感を得るため、まだ夜明けには時間がある闇の世界で、体を休めるテントを探した。2人は言葉を交わさず、黙ってテントを探していた。

「あ・・・・・・・あれだ・・・・」

火の光か漏れ出したテントで、一人の男が黙って何かを飲んでいた。

「・・・・・・・・・・」

テントに入ると、エリンは珈琲も飲まずに、ゆっくりと後ろに体を倒して目を閉じた。

リドックは、珈琲をすすっている男の横で、ステンレスのカップにゆっくりと珈琲を注ぐ。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

戦場を駆け抜け、五体満足で生きている実感が、リドックの背中から頭に昇ってくる。

『今は、サンブックの事も、ラインの事も、お袋の事もどうでもいい。何も考えられない。俺はまだ生きている・・・・・生きているぞおおおおおおおおおお!』

隣で珈琲をすすっている男は、食堂で会話をした名無しの男に似ていると、リドックは思った。

程なくして、アジア連合軍総攻撃を告げる音が、若者の心を切り裂いた。

その音は、山を 機械を そして まだ山の中で必死に逃げている味方をも呑み込んで、ヒロエア山の地形を変質させるのに十分な力を、発揮していた・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ ロボット編 5

頬のから大量の血が流れ出しても、ラインは動揺しなかった。

だが頬の傷の痛みと、時々襲ってくる眩暈(めまい)に、上手く歩く事ができなかった。彼は、いつのまにか、仲間のいる場所から自分が離れている事に気づき始めた。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・」

ロボット兵士に襲われ、頬を撃たれてからの記憶が飛んでいた。ラインは慌てて自分の携帯している所持品を確認してみる。

「自動小銃と救護用品と煙幕弾一個か・・・・・」

自分の頬に、カーゼをあてた。すぐにカーゼが赤く変色した。

キュイイイイイイイイイイイイイイイイン!

「!?」

闇の森を切り裂く機械音がラインの耳をうつ。やつだ!ロボット兵士だ。逃げなきゃ!

負傷した体で応戦する力は、彼には残っていない。必死で山を降りて、味方の砲撃を待つしかない。

だが足がもつれて上手く走れなかった。眩暈は容赦なく彼の方向感覚を狂わせる。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」

息が苦しい。足も動かない。畜生!

彼は、夜の森で完全に下山するルートを見失っていた。

「アウッ!」

突然彼は、地面に顔を出していた木の根っこに足をとられ、人形のように円を描きながら転がっている自分に気づがついた。

地面の上に仰向けに倒れ、手や足が棒のように動かない。

近くでロボット兵士の機械音がやみ、ロックオンをするシークエンスの動作が始まっているようだった。僕にはわかる。

「セシル・・・・・セリス・・・・・・僕は、僕は・・・・・・君を好きだったよ・・・・大好きだったよ・・・・・」

目を開けず、涙を流し、彼は現実世界からの別れをつげた・・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ ロボット編 4

銃弾の雨嵐が闇を切り裂き、閃光が木々を、緑を打ち砕いていく。ロボット兵士たちは、感情を表に出す事は無く、遠隔操作で人間が作ったプログラム通りに、敵軍の兵士を皆殺しにしていった。

リドックは地面に伏せて、銃弾がやむ時をじっと待った。

「ロボット兵士のカメラセンサーさえ破壊すれば・・・・・」

自動小銃を持つ手が、ゆっくりと上がる。

「エリン曹長!・・・・・ライン・・・・・・俺は後ろのロボット兵士をやる!援護してくれ!」

スコープの中に、ロボット兵士の機体の影が映った。

「神よ、いるなら俺に力をかしてくれ!」

彼は、引き金を、引いた。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

閃光が、ロボット兵士の身体に次々とぶつかって行く。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

初めて銃を撃った衝撃で、リドックの脳は、アドレナリンが大量に放出されていた。

「エリン曹長!援護してくれ!ロボットのカメラは潰した!やつら攻撃目標を見失ったぜ!」

「了解!」

エリンは手りゅう弾を、ロボット兵士の下へ放り込んだ。

ドフッ!

砂と煙が舞い上がり、ロボット兵士の機械音が消えた。

「もう一機のロボット兵士は?」

「ああ・・・・センサーを潰してガトリンク砲を無力化したよ。それよりラインの手当てが先だ。どこにいるんだ?」

「ライン!どこにいるだ?」

2人は、頬を打たれたラインを探していた。

だが、彼はリドックとエリンの捜索もむなしく、見つかることはなかった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ ロボット編 3

正面にいたロボット兵士のカメラが、三人の隠れている森に向いた瞬間、何かイメージが弾けるような感覚が、リドックの脳髄をうつ。

ピシューン!

『何だ!?気のせいか?』

リドックの目の前にある木の表面が、えぐれているのがわかった。

ピシューン!

『気のせいじゃない!後ろから攻撃されている!?』

そう感じた刹那

ババババババババババババッ!!!

彼らの後ろから、無数の光の粒が、物凄い速さで通り抜けていった。

ロボット兵士が、闇の中から彼らの隠れている場所へ攻撃をし始めたのだ。

水平に飛行したガトリンク砲の銃弾は、枝や木の葉を貫き、あたりに無数の弾痕のアートを描いていた。

「エリン!正面のロボットは囮だ!」

ロボット兵士は、木や枝の障害物を銃弾で排除しようとしていた。

「なんだって!?ライン!聞こえるか?攻撃を避けつつ、左右に散開しろ!」

「了解!アッッ!」

「どうした!?」

「頬を・・・・・頬を撃たれました・・・・・血が・・・・・出ています・・・」

ラインの弱弱しい声は、銃声にかき消されようとしていた。

そして、正面にいたロボット兵士も、ガトリンク砲を、森に打ち込み始めた。

ズガガガガガガガガガガガッガガガアッ!

「クソッ!これじゃあ、ラインの元にいけやしない!」

二機のロボット兵士は、ゆっくりと移動しながら、森のなかのにあるすべてを銃で駆逐しようとしていた

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小説 戦いの向こう側へ ロボット編 2

アジア連合軍第304陸戦部隊の放った煙幕が、山の頂上を包み込むと同時に、ヒレオア山は機械と人間が命のやり取りを行う修羅場に変質した。

ロボット兵士は煙幕の渦を飛び出し、下山し、誘導しようとする人間たちを容赦なく狙った。

二門のガトリング砲が、闇の中で人間に火を噴いた。

ババババババババババババッ!

悲鳴は、銃声にかき消されたようだった・・・・

あたりに、血の川ができ始めても、ロボット兵士が狂うことはない。

彼らには良心も理性もはじめからないのだから・・・

その血の饗宴の中で、三人の若者は、道なき道をひたすら走っていた。

リドックが先頭を走り、できるだけ走るのに安全な道を探り、二番目にラインが木や枝に注意を払い、後方のエリンは、ロボット兵士の追っ手を警戒していた。

遠くでガトリンク砲の轟音が響き渡る度に、エリンの顔が青くなっていくのを、ラインは目の端で捕らえていた。ひょっとしたら月の光のせいかもしれなかったが・・・

「俺なんかに指揮を任せるから!・・・・・・山を下山するまでに・・・・何人の仲間が生きているかわかりゃしない!・・・・・こんな部隊じゃ・・・・明日の命だって保障されないんだ!くそ!俺たちは全滅するかもしれない・・・」

そんな声がエリンの口からこぼれた。

ラインは、黙ってリドックの背中を見た。彼の背中は、この最悪な状況においても1㌫でも自分たちが生き残るための手段を模索していることを語っているようだった。

「エリン曹長、森の中なら例え攻撃されても木や枝が盾になってくれます。それにEU軍のロボット遠隔操作の技術はまだ未知数です。大丈夫ですよ。まだ人間のほうが自然に対しての知恵が上です。」

ラインは、自分もエリンに引っ張られる気持ちを抑えるために、そう明るく言った。

「しっ・・・・しかし・・・・・・・機械に人間が勝てるのか・・・・?」

エリンは、真っ赤になった目をこすって、再度後方を確認したその時だった。

赤い光が、自分たちの歩いている20メートル後方で、動きを止めた。まるで何かを発見した車の運転手が、ブレーキを踏んで停車し、あたりを確認しているかのように・・・

「リドック・・・・ライン・・・・・・」

エリンは、口が上手く回らない自分にあせった。

「予想以上に速く来たぞ!ロボット兵士だ!」

その声に、リドックは自動小銃を構えて伏せ、ラインは手りゅう弾をもって木の幹に隠れた。

ロボット兵士のカメラセンサーが、3人のいる森の中の方向に、ゆっくり向きを変えるのが見えた・・・

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小説 戦いの向こう側へ ロボット編 1

エミル曹長は、暗視カメラでロボット兵士が索敵をしているのを確認すると、時計の針を確認した。

「あと10秒で・・・・・煙幕弾を打ち込むぞ・・・・・・・よし・・・・・・5秒前・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・」

ドン!シューーーーーーーーーーーーーウ!

煙の筋が、山の頂上付近に伸びていった。辺りには火薬のにおいが充満していた。

「誰だ!誰がもう煙幕弾を使えと言った?!」

エミルの叫び声もむなしく、それからまもなくして兵士が隠れている塹壕の中から次々と煙幕弾が撃ち出せれていった。

「くそっ!あいつら・・・・・時間も待てないのか!」

エミルも自分の砲弾発射機のスイッチを押すと、イヤーパットを急いで装備した。

ピューーーーー!ドォーーーーーーーン!

「いいか!2、3発タイミングをずらして撃てよ!撃ち終わったら、各自散開して、後退しつつ煙幕弾をロボット兵士に撃ち続けろ!あの上空にいるヘリも気をつけろよ!遠隔操作しているのはあれかもしれんからな!」

煙と炸裂音が鳴り響く中、エミルは砲弾発射機を担ぎながら、リドックやラインのいる塹壕へ走り始めた。

「おい!リドック伍長、ロボット兵士の移動速度はどれくらいだ?」

「ハッ、戦闘バイクよりも若干遅めですが・・・・・30キロくらいかと・・・・」

「30キロか・・・・・・・・足は無理か・・・・・・・よし、煙幕装置を地面に設置しながら時間差で起動させ時間稼ぎをしたほうがいいな。」

「ハッ!しかし自動小銃で応戦しないのでありますか?」

「交戦はしない。ロボット兵士の情報収集が完璧になるまでな・・・・・そういえばアイザック・アシモフが書いた・・・・ロボット三原則って知ってるか?」

「はい。ロボットは人間に危害をくわえてはならない・・・・・ですね。」

「ああ・・・・・・そうだ・・・・・・ロボットは人間の助けになる機械のはずが・・・・俺たちは、殺される立場になるとはな・・・・・・アシモフも予想できなかっただろうな・・・・」

月の光に照らされたエミルの横顔は、青く透き通っていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ スパイ編 6

暗闇の中で、山の頂上に降下したロボット兵士の機械音が、鳴り止む事は無かった。

彼らは、降下した場所から一向に動こうとはしなかった。敵を索敵している様子は感じられない。

だが、ロボット兵士の顔にあたる部分が、赤く光り始めると、遮蔽物を利用して放物線上に待機している第304陸戦部隊の兵士たちは、煙幕弾を小型砲弾発射機にセットし始めた。この煙幕弾は、機械のセンサーを一時的に妨害する粒子が含まれていて、赤外線センサーにも有効であることが実証されていた。

そして10分後に全員でロボット兵士の周囲に煙幕弾を発射したあとに、各自散開して下で待機している戦闘バイクや戦車の有効射程範囲まで引きずりおろす。

その目くらましが失敗した場合は、第二、第三の作戦に移行する。そして最小限に被害を食い止めてロボット兵士を壊滅させる。

今回の作戦のシナリオは、もうすでに筋書きが決まっていた。

上手くいけば、一人も死なずにすむ。

上手くいきさえすれば・・・・・・

ロボットたちは、赤い光を、顔に当たる部分からから放射し、あたりに人間らしき生物の標的を探しているようだった。

首を回転させ、ゆっくりとホバーリングし、頂上付近の様子を確かめている。

史上初

表情も心も理性も無い機械と

有機体で欲深い人間との戦いが

今、始まろうとしていた・・・・

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小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ 2

リドックは、命からがら戦場を脱出し、ラインの安否を気遣っていた。

そこへ、ホバー式バイクに乗った謎の女性が現れる。

彼女に進められるまま、謎の組織のアジトで治療を受けた二人。

そしてその謎の集団は、リドックとラインにアジア連合軍のスパイをやってくれと持ちかける。

ラインは、足の治療の恩と恋人によく似た女性のためにスパイ任務を引き受ける。リドックもそれに応じて、2人はアジア連合軍広東基地へ帰還する事になった。

謎の組織から渡された盗聴器を装備して・・・・

そして、軍隊へ復帰した彼らを待っていたのは、アジア軍内部のスパイ調査任務であった・・・・・

彼らは、第304陸戦部隊に配属され、最前線の中で、スパイを捕らえることができるのか?・・・・・それとも・・・?

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小説 戦いの向こう側へ スパイ編 5

「先手を取られた!全員、山を下山しろ!戦車や戦闘バイクの有効射程範囲まで引くんだ!いいな!?」

アジア連合軍、第304陸戦部隊は山の頂上よりやや低い斜面でEU軍のロボットが、山の反対側から進行してくることを想定して、放物線上に待機していたのだ。

だが、現実はアジア軍の思惑通りに事は進まなかったのである。

EU軍の輸送ヘリが、頂上付近にロボット兵士を次々と降下させてきたのである。

エリン曹長は、岩や塹壕に待機していた仲間に必死に呼びかけた。

「いいか、よく聞くんだ!逃げるときはロボット兵士の進路を確認しながらにげろ!それに固まって逃げるんじゃない!的になるからな。ジグザクに移動して、かく乱するんだ。」

エリンは、自分が頂上付近にいることを確認すると、降下したロボット兵士の数を指で数え始めた。

「・・・・・・1、2,3、・・・・・・・・・・4・・・・・・・・567・・・・・・8,9・・・ハァハァ・・・・逃げ出したい・・・・・でも・・・・」

指が小刻みに震え、数を何度も何度も繰り返して、口に出していた。

「・・・・・全部で九機だ!いいか!下山して森を抜けて、崖を越えればいいんだ!あとは、待機している連中に任せればいい!俺らは、逃げるだけでいいんだ!わかったな!?」

エリンに言われなくても、皆、ロボット兵士とまともにやりあう兵士は、リドックとライン以外は、一人もいなかった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ スパイ編 4

「・・・・であるから第304陸戦部隊は、アジア連合軍広東基地から30キロ地点のヒロエア山地付近で待機。EU軍はその山の向こう側からロボット兵士を投入してくるはずである。君たちは、その山地でロボット兵士に陽動をかけ、山のふもとまで引きずりおろしてくれ。それが成功すれば、後は戦闘バイクと戦車で、各個撃破できる。わかったな?」

「了解であります。メイダスナー中佐。」

「うむ。君たち歩兵には期待している。戦争はまだまだ人間同士で戦う時代だ。君たちはロボットよりも優れていることを自分たちで証明したまえ。エリン曹長」

「機械になんて負けませんよ。絶対・・・・に・・・」

男は、無線機を持つ右手が震えているのを、必死に左手で押さえ込もうとしていた。

「リッ・・・・リドック伍長・・・・・君はロボット兵士と交戦して生還したんだってな・・・?」

エリンは、自分の隣でM-114自動小銃の弾倉をチェックしていたリドックに話しかけた。

「ハッ!ライン伍長と戦闘バイクで交戦しました。それが何か?」

「ああ・・・できるだけロボット兵士の情報が知りたい。教えてくれ・・・・やつの武装は?武装の数は?移動能力は?オートで動いているのか、それとも遠隔操作で・・・」

エリンは、自分たちが死ぬという不安を掻き消そうと、必死でリドックに話しかけていた。

「武器はガトリンク砲が二門。腕にマニュピレイター代わりについていたと思います。小型のやつが。移動能力はホバーリングかと。キャタピラでは素早く戦場を移動できませんからね。ほかに武器はないと思います。」

「弱点と言うか・・・・ロボット兵士の死角はないのか・・・?」

「そうですね・・・・機械も人間も万能ではありませんし、ガトリンク砲はおそらく戦車の装甲は貫通できる代物ではない・・・・・あくまで推測ですが人間だけを殺すのに適した兵器かと・・・・・攻撃範囲も直線的で、右方左方を攻撃するには、若干のタイムラグがあると思います。」

恐ろしいくらい、リドックは冷静にロボット兵士を分析していた。

「あの機動性を封じることができれば・・・・・・もしくは遠隔操作で動いていた場合・・・・・指揮している車両や装置を全員で叩けば・・・・・」

リドックはそこまで言いかけたとき、暗闇の中で、何かが唸る様な音が辺りを支配し始めた。

「ヘリ・・・・・・?」

無数の旋回音が、暗闇の中にこだまする。

「あ・・・・・・・あれ。」

音のする方向に目を向けると、巨大なエイのような物体から、小さな人のようなものが落下しているのが見えた。ほどなく落下したものからパラシュートが開いていった。

「ま、まさか・・・・・やつら空からロボット兵士を投下してきたのか!」

暗黒の空を、マシーンの降下部隊が埋め尽くしていった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ スパイ編 3

アジア連合軍広東基地にて

メイダスナー中佐から我が軍内部の敵スパイ調査の任務を言い渡されたリドックとラインは、階級は伍長として、軍に復帰した。

ここは、仲国人部隊やサン・ブック人部隊、漢国人部隊など、人種別に部隊が振り分けられており、リドックとラインはサン・ブック人第304陸戦部隊に配属された。

この第304陸戦部隊は、戦闘バイクを使わない、いわば歩兵部隊であり、ほとんどが、実戦経験もないフリーターやニートの寄せ集めの部隊であった。

捨て駒部隊である。

戦闘バイクが最前線に到着するまでの、時間稼ぎをするためだけの部隊だった・・・・・

「君たち・・・・今日からこの部隊に配属されたの?」

「ああ・・・・・よろしく。こっちは同期のライン伍長だ。」

「よろしく。明日から第304陸戦部隊の一因になる。みんなの顔も覚えなくちゃな。」

リドックとラインは、地下にある基地の兵士食堂で、対面に座って食事をしていた青年に話しかけた。

「・・・・・・いいよ。あいさつなんて。必要ない。」

「えっ・・・・・?」

対面に座っていた青年は、目も合わさずにスープをすすっていた。

「・・・・・・僕らはもうすぐいなくなる・・・・・・。捨て駒部隊だから・・・・うちは。国にいても役立たずの人間は、弾よけくらいにしか役に立たない・・・・その専門部隊なんだ・・・・・ここは・・・・」

リドックとラインの目の前にいた青年は、最後まで目を合わすことはなかった・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ スパイ編 2

「君たちは、最前線や基地内部で不審な行動をとるもの、外部と通信しているもしくは電波を発しているものを見つけたら、すぐに我々に教えてくれ。アジア連合軍のEU軍のロボット兵士対策情報が外部に漏れるのは絶対に避けなければならない。核・水素・中性子爆弾兵器が条約によって禁止された今、マシーンによる殺戮兵器は脅威なのだ。わかるね?」

メイダスナーは、窓のない個室の壁側にいた士官に手招きをした。

「詳しいことは、彼から聞いてくれ。FDと書類を一応君たちに渡しておく。マニュアルどおりに遂行してくれればいい。君たちにでもできるレベルに調整してある。」

眼鏡を掛けた士官はゆっくりリドックとラインに近づくと、手に持っていたファイルの中からFDと2、3枚の書類を渡した。

「君たちにマタ・ハリやゾルゲのようなこと働きを期待してはいない。この基地の内部と、作戦遂行中の挙動不信な人物を摘発、報告するだけでいい。あとの処理はこちらでやる。異議はないな?」

眼鏡の奥の瞳が、ギラリと2人の青年を呑み込む。

「も、もちろんであります。スパイ摘発に全力をつくします!」

2人は声を揃えて士官に敬礼をした。

「それでは、リドック伍長、ライン伍長、もう部屋へ帰っていい。」

「失礼します!」

2人は、くるりと背を向け、窓のない部屋から退出した。

「彼らに我が軍以外の盗聴器が仕掛けられています。電波は微弱でしたが間違いありません。」

眼鏡の士官が、メイダスナーの耳元で囁いた。

「EU軍のものか?」

「そこまでは・・・・・で、彼らと盗聴器はどうしますか?」

「尻尾を出すまで、泳がせろ。我々が盗聴していることも伏せなければならんしな。」

「スパイにスパイを監視させるのですか?」

「ああ・・・・一石二鳥だ。蛇が出るか蛇が出るか。とりあえず、彼らの盗聴器ははずすな。スパイ組織に怪しまれるからな。」

目の前にあったコーヒーの煙が、メイダスナーの顔の皺を包みこんでいた。

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小説 戦いの向こう側へ スパイ編 1

「貴様たち、所属部隊はどこか?今まで何をしてた?」

アジア連合軍広東基地は、周りが川に囲まれている高台にあった。一見村の集落のように見えるその場所の地下には、兵器や司令部が置かれていた。地上はカモフラージュなのだ。

「ライヤー戦闘バイク部隊です。戦闘中に本隊とはぐれてしまい、ライン伍長も足を負傷して身動きが取れませんでした。彼の足がある程度治ってから、動いたほうがいいと考えてこの時期になりました。」

2人の青年たちは、窓のない士官室で、メイダスナー中佐に帰還報告をしていたのだ。

「足はもういいのか?ライン伍長。」

「ええ、おかげさまで・・・・・・すぐにでも前線で働ける所存であります。」

ラインは、メイダスナーに敬礼をした。それを見たリドックも慌てて、右手を振り上げる。

「それはありがたい。君たちのいたライヤーの部隊がな、エリィツア橋防衛線で全滅したのは知っているか?」

リドックのゴクリとつばを飲む音が、よく聞こえた。

「え・・・・」

「残念ながら補給ルートは敵に奪われたが、君たちが生きていてくれてうれしいよ。敵は無敵の兵士、ロボット兵を戦争に投入している。わが軍はまだまだそこまでの技術はない。だからどうしても生きた人間が必要だ。君たちのような若者がな・・・」

メイダスナーは、自分の髭をゆっくり丁寧に触っている。

「ロボット兵士対策も、我が軍でも日夜研究しているから心配するな。で、諸君らは、早速一週間の待機任務のあと、任務に参加してもらう。」

2人は無言でうなづいた。

「うむ。その作戦はな、我が軍のスパイを見つけ出すことだ!」

ラインは足が震え、リドックは胃液が口から出そうになるのを、必死でこらえていた

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小説 戦いの向こう側へ 君の名は Ⅳ

「君たちは、我々の提供した盗聴器を身につけているだけでいい。それが発信機代わりにもなる。電波は微弱だ。戦場ではキャッチされることは難しいはずだ。」

男は、リドックとラインにスパイマニュアルと偽装された身分証明書などを入ったバックを渡した。

「万が一の時は、自分で自殺するんだ。そのための毒薬も入れておく。証拠隠滅のためにな。」

「了解。」

2人は、お互いの装備を確認しあった。小型拳銃もアジア連合軍の登録番号が掲載されている。

「原隊へ復帰する時は、行方不明(M,I,A)の審査を受ける。その審査は簡単な事務手続きだけだ。心配するな。」

中年の男性は、2人の背中をホバー式バイクのほうへ押した。

「あとは、まかせたぞ。」

「わかったわ。」

3人の人間を乗せたバイクは、アジア連合軍基地を目指して北上した。

「ライン、死ぬ覚悟は決めたの?」

「ああ・・・・君と今朝話したことで、なんとかね。まだ、震えは止まらないけど。」

「そう。よかったね。」

「最後にひとつ、聞いていいかい?」

「何?」

ラインは、一番後ろに座っているリドックに聞こえない小さな声で、女に話しかけた。

「君の名前・・・・・・教えてくれないか?」

「・・・・・・・」

バイクのうなる音が、しばらく3人の間を支配していた。

しばらくして

「・・・・・・・・・セ・・・・・セイナ。」

「セイナか・・・・・そうか・・・・」

「また、あなたと会いたいな。会えるかしら?」

「会えるよ。僕は、絶対に死ぬもんか!」

「あとで、おまじないしてあげる・・・・・」

「え?」

「死なないおまじない・・・・・私のとっておきなんだから・・・」

バイクは山岳地帯をつきって、仲国をアジア連合軍基地を目指していた

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小説 戦いの向こう側へ 君の名は Ⅲ

「外に出てもいいの?ここは、中立地帯じゃないんだろ?」

「ここはどちらかと言えば仲国よりね。でもそう簡単にアジトは見つからないわ。安心して。」

女は、縛った髪を揺らしてラインに笑みを浮かべる。2人は舗装されていない道路の道端に座って星を眺めていた

「・・・・・・・・・・・・」

「どうかした?」

「いつのまにか・・・・・戦争という環境に慣れていってるなって・・・・・この間まで法律を勉強していた学生だったのにさ・・・・」

「頭良いんだね。夢とかあったの?」

「弁護士になって・・・・・虐げられている人を・・・・救うこと・・・・だった」

「だった・・?」

「ああ・・・・・・もう駄目かもな。いつ終わるかわからないんだ。それに自分の国にも帰れそうにない。」

「・・・・・・・」

「怖いんだよ・・・・死ぬのが・・・・。スパイだって本当はやれるなんて思っちゃいない・・・・。捕まったら死ぬまで拷問を受ける・・・・・俺の人生めちゃめちゃさ・・・」

ラインは、腕の中に顔をうずめた。

「何で引き受けたの?」

「足の治療をしてもらった恩がある。でも・・」

「でも?」

「君を見て、故郷にいる恋人を思い出して・・・・・それで、また逃げるわけにはいかないと・・・思ったんだ。恩給は2年以上軍に在籍しなきゃ支給されない。それまでは、かっこ悪くても嫌でも、母や恋人のために軍にいなきゃって思ったんだ・・・・スパイだろうとなんだろうと」

「うん。」

彼女はラインの話を黙って聞いていた。

「そうしなよ。君は、君の考えて生きていったほうがいいよ。」

「ああ。選択するのは俺だもんな。時代とか戦争のせいにしちゃ駄目だよな。」

2人を太陽の光が、やさしく暖かく包んでいた。

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小説 戦いの向こう側へ 君の名は Ⅱ

「僕たちに、いったい何をやれと?」

「一言でいうと、スパイだ。アジア連合軍に帰還して、なるべく情報部に潜入してもらいたい。作戦の報酬はちゃんと支払う。」

リドックとラインは、洞窟の会議室というべき場所で、中年の白髪の男と話していた。

「なぜ僕らがそんなことを?」

「君たちだけではない。われわれの組織の派遣員は、EU軍にも潜入している。」

「リスクが大きい。スパイには人権も命もない。それに俺たちには荷が重過ぎる。昨日まで学生に毛が生えた程度だ。無茶だ。何もかも。」

リドックは、自分の環境があまりにも変わりすぎて、気が動転していた。

味方から攻撃され、死ぬ思いで逃げ回って、捕まったと思ったら、スパイをやれと強要してくる組織が目の前に現れて・・・・

「君は?」

「僕ですか・・・・・足を治療してもらった恩はあります。」

一週間前まで、引きずっていたラインの足は、少しずつ良くなっていた。

「私のバイクに乗った時点で、もう選択の余地はないはずだけど?」

2人のうしろで、女の声がした。

「1つ条件があります・・・」

ラインが、口を開く。

「何か?」

「スパイ活動を引き受けます。そのかわり、僕らの所属部隊と名前とIDカード偽装を・・・・・完璧にしてください。」

「わかった。スイスにある口座番号もあとで教える。いいな?」

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小説 戦いの向こう側へ 君の名は Ⅰ

バイクは、森の中にあった廃墟の前で止まった。

「この洞窟に?」

「ええ。早くしないと、お友達さん、手遅れになるわよ。」

「中で俺たちを殺すんじゃないのか?」

「外でロボットに殺されるよりは、マシじゃないの?」

「どっちも嫌だ。」

「私が足を持つから、あなたはお友達の腕をもって。ゆっくり運んでね。」

「ああ。わかった。」

「足の具合どう?痛む?」

「少しね・・・・ねぇ・・・・傷口を見てくれないか・・・?自分じゃ怖くて見れないから・・・・」

「・・・・・・・・大丈夫よ。これなら一週間ってとこね」

洞窟入り口は、廃墟の真下に設置されていた。

洞窟の中は、電灯変わりのたいまつが、赤々と三人の人間を照らしていた。彼らは、EU軍のロボット兵士の攻撃を避けるために、一時謎の女性の指示で、洞窟に非難していた。

「ああ・・・・ここは、敵に見つからないのかな・・・?」

ラインをゆっくり地面に下ろすと、女性は、ラインの床にシートを敷いて寝かせた。

「大丈夫。ダミーの隠れ家が、ここら辺にたくさんあるもの。」

「君はなんで俺たちをここへ?君の目的は?」

リドックはまだ緊張をといてはいない。

「リドック・・・・・もう・・・いいよ・・・・彼女は僕の足をさすってくれたんだ・・・いい人だよ・・・」

謎の女性は、ラインの額に流れ落ちる汗を必死にぬぐっていた。

「私は、EU軍じゃないわ。それにあなたたちを助けた理由はまだ言えない。」

「まだ・・・・?」

「ええ。まだね。詳しいことは他の人が説明してくれるはずよ。」

「俺たちを、EU軍に引き渡すことは?」

「しないかもしれないし、するかもしれない」

「チッ!」

「リドック・・・・すまないな・・・・足手まといになってしまって・・・・・」

「いや、いいんだ。あのままあそこにいても、2人とも死んでいた・・・」

『しかし・・・・・これからどうするんだ・・・・?自軍に帰還しても、下手したら銃殺刑だぞ・・・?この女の目的は何だ・・・?何を考えている・・・・?』

「・・・・・・・・ぁ・・・・・・」

「・・・何・・・?」

「いや・・・・国にいる彼女と・・・・雰囲気が・・・・似てるかも・・・・って・・」

「彼女・・・・・なんて言うの・・・?よかったら教えてくれる?」

「・・・・・・・・・・・セシル。」

「いい名前ね。」

いつまでも、たいまつの火が、三人の若者たちを照らしていた。

戦争はまだ、始まったばかりだった・・・

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小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

前回までのあらすじ

アジア連合軍に徴兵されたリドック・マアスとライン・マイアナの2人の青年は、初めての戦いでEU軍のロボット兵士と遭遇した。彼らは戦闘バイクで戦いを挑むも次々と仲間は殺されていく・・・・

彼らは指示を仰ぐために、上官のもとへ後退するが、その上官に敵前逃亡だと勘違いをされ、見方の戦車の銃弾を浴び、彼らは戦場から姿を消した。

味方からの攻撃をくらい、身も心もズタズタにされた2人は、突如現れた一機のバイクに拾われる。

彼らは敵か?それとも味方なのか?

世界は アジア連合軍、EU軍、中東・アフリカ勢力、アメリア連州軍の4つ巴の第三次世界大戦の真っ只中にあった・・・・

いったい彼らを待ち受けている運命とは・・・・・?

期待して待て!現在製作順調!

連載スタートは17日から!

お楽しみにね?

えっ?全然楽しみに待ってない?

それはお互いいいっこなしよ。冗談はよし子さん♪(^w^ )

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戦いの向こう側 あの橋を落とすな ⑤

ホバー式高速バイクが、リドックの横を通りぬけた。

「速い!戦闘バイクよりも動きが速いぞ!」

バイクは、リドックの姿を見つけるとUターンして戻ってきた。

「駄目だ・・・・身体中が痛くて・・・・逃げる気力もない・・・・捕まったか・・・」

リドックは両手を挙げて、降伏と投降のサインをバイクに示した。

「乗れ!」

バイクはそう叫んだ。

「え・・・・?」

「早く乗るんだ!EU軍のロボット兵士たちが、アジア軍掃討戦へ移行している。早くしないと殺されるぞ!やつら命乞いなどに関心はないんだ!」

暗闇の中で、バイクがゆっくり上下に浮遊していた。

「あんたは・・・・?俺が何でアジア軍の兵士だとわかる?」

「お前の仲間が教えてくれた。もうこのバイクに乗っている。早く乗れ!」

よく見ると、バイクには2人の人の輪郭があった。

「あんたを信用していないが、EU軍投降する身だ。」

リドックは、バイクにかけよった。

ホバー式バイクは、フルスロットルで、この場所を脱出した。

「ライン・・・・生きていたのか?」

「リドックか・・・・?足折れている・・・・・もう駄目かもな・・」

「五体満足じゃないか・・・・まだいける。」

青年たちは、橋防衛戦からアジア連合軍から姿を消した。

その日、アジア陸軍は、全滅した。

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戦いの向こう側 その橋を落とすな!④

「ゲホッ、ゲホッ・・・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・」

リドックは、大量の川の水を吐き出した。

「おれ・・・・・・・生きてる・・・・?のか・・・・・?」

じっと手のひらを見てみる。血がついていない。足もある。

「一瞬の光が戦車から放たれたとき、俺の体が宙を舞って・・・・・・気がついたら川に流されて・・・・・頭が混乱する・・・・・ここは・・・・陸地・・か?」

リドックたちは、上司の戦車の砲弾をうけ、その衝撃で河に叩き落されたのだ。

「ライン・・・・?ラインいないのか?」

闇の中、友人の名前を呼んでも、返事は返ってこない。

「死んだのか・・・・・?ライン!死なないでくれ!俺を一人にしないでくれ!」

リドックは、重い体を、おこした。不思議と痛みはなかった。

「どこにいるんだ?ライン・・・・ロボット兵士にやられたのか?それとも味方に・・・・・?」

リドックは、歩き出した。もう一人の自分を探すために。

遠くで戦車の移動する音と砲弾の音が聞こえる。

「ライヤーの奴、俺たちを殺そうとした・・・・敵前逃亡をしたわけじゃないのに・・・・」

人の悲鳴や苦悶の声は聞こえない。ただ無機質な金属音と閃光が、橋を包んでいるように感じられる。

「このまま逃げて、俺だけEU軍の捕虜に・・・・いや、あいつを追いて逃げるなど・・・しかし、ロボット兵士が・・・・」

もはや戦争はゲームとなり、EU軍の軍事技術はアジア連合をとっくに凌駕していたのが、リドックにもわかった。

「もはや自分の軍にも戻れそうにない・・・・どうする?」

そのとき、後ろから音が近づいてきた。

「まさか、ロボットか?」

リドックは、ラインを探すことも忘れている自分に気がついた。

「逃げなきゃ!早く逃げなくちゃ!」

足が思うように動かない。

金属音が、彼の背後に忍び寄る。

「うあああああああああああああああああ!!」

それは、リドックの前にまわりこんでいた・・・・

続く

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戦いの向こう側 その橋を落とすな!③

「ロボット・・・・・・兵士・・・・・・・・?」

彼らの前に現れたのは、足がキャタピラで、腕にガトリンク砲を2門装備した銀色のロボットであった。

「ライン早く出せ!次の攻撃が来るぞ!」

リドックは、目の前で味方が死んでパニックに陥っている操縦席のラインを叱責した。

「え・・・・・・・・あっ・・・・・・・ああ・・・・」

ラインは、視線がロボット兵士に吸い込まれ、手や足を動かそうとはしなかった。

ウィーーーーーーーーン!ガッチャン!

ロボット兵士のカメラが赤く光ると、彼らの戦闘バイクにガドリンクの照準を合わせてきた。

「きっ・・・・」

「だせ!オート操縦に切り替えろ!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

「クッ!」

リドックは、ラインに変わって運転席のアクセルとハンドルを同時にまわした。車体は銃弾を間一髪で斜めによけると、一直線に橋の中に入った。

「映画の世界じゃないんだ・・・・ロボットが、戦争の道具に・・・・・」

「リドック、橋を守らなくていいのか?逃げるのか?」

「違う。指揮官の指示を仰ぐんだ。このままじゃ一時間もたたずに俺ら死ぬぞ!」

戦闘バイクは、反対側の橋の入り口付近に待機しているライヤー大佐の戦車に近づいていった。

「ライヤー大佐!敵は人間ではありません!EU軍がロボット兵を戦争に投入して来ました!どうすればいいでありますか?」

バイクの無線機で、戦車に呼びかけた。

「ライヤー大佐?聞こえていますか?」

無線機からは、何の応答もない。

その時、

前方の戦車が、一瞬光ったように見えた。次の瞬間

ドオーーーーーン!

リドックとラインは、バイクから投げ出され、中に浮いていた。

「うわあああああああああああああああ!」

戦闘バイクと2人は、橋から落下していくのが、戦車からも確認できた。

「敵前逃亡は死刑である。軍法会議にかけるまでもない。ロボット兵士だと?だから何なのだ?お前らは消耗品だ。うちはロボット兵士は経済的に使用できないからお前らを使っているにすぎん。役立たずどもが!」

2人の絶叫は、闇と炎の中に消えた・・・・・

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戦いの向こう側へ その橋を落とすな ②

戦闘バイクに乗車した2人の青年は、敵の兵士が来るのを待っていた。

ラインが操縦用のマニュアルとオート操作を短時間で覚えている間に、リドックは、バイクの先頭にある30ミリ砲の点検と、M-110自動小銃の確認を行っていた。

「対空用兵器は自動小銃だけか・・・・・30ミリ砲は対戦車用兵器・・・・・まさか小回りのきくバイクに、戦車並みの威力のある兵器を積むなんて・・・・」

「燃料はガソリンがすべてじゃなくて、電気と空気の熱も利用しているよ。あとてんぷらの油も。」

ラインが、ここが戦場だということを忘れてはしゃいでいた。

「テクノロジーを、現代科学をこんなことのために・・・・・・」

「・・・・・どうして、平和維持のためにテクノロジーを利用しないんだ!」

2人の青年は、敵が来る森林の出口付近に戦闘バイクを位置づけた。敵は、針葉樹の森から進行しているという偵察部隊からの情報が無線機に入ると、あたりに人間の話し声が消えていくのがわかった。

「助けてください。助けてください。神様でも誰でも、僕を夢から覚まして・・・」

どこかで、念仏のようなものが聞こえてくるのが不気味だった。

そのとき、空が、一瞬、明るくなった。

「敵!」

ラインとリドックは、脳味噌のギアのスイッチを入れた。

男の本能に火が入った瞬間だった。

「高速で何かが近づいてくる・・・・」

チュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!

前にいた戦闘バイクが、30ミリ砲を正面の森に、放った。

ドゴーーーーーン!

煙と闇を切り裂く爆弾の音が、脳髄を打った。

「馬鹿やろう!お前ら素人か!自分たちで敵を見えにくくしてどうする!敵を引き付けてから打つんだよ!」

ライヤー大佐の怒号が飛び、その刹那、

銀色の物体が森から飛び出した。

ドドドドドドドドドドド

ガトリング砲の弾が、先頭に位置していたバイクに直撃した。

「あ・・・・・・・・え・・・・・・・?」

自分がどうゆう状況になったかもわからず、戦闘バイクに乗っていた人間は、四散した。

「あ・・・・・・あれは・・・・・・?」

「り、リドック・・・・・あれ・・・戦闘・・・・・・ロボット・・・・・か?」

アジア連合軍の前に、銀色の無差別殺戮量産兵士が、現れたのだった。

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戦いの向こう側へ--その橋を落とすな--①

アジア連合の陸の補給ルートを担う、スエッサ橋。

アジア連合軍陸戦部隊は、ここで補給ルートを守るために、EU軍とこの橋を巡って戦っていたのである。

そのアジア陸戦部隊の中に2人の青年がいた。

リドック・マアスとライン・マイアナである。

彼らは徴兵され、訓練を終えると、陸戦部隊の第121小隊に配属されたのである。

「この橋は、EU軍のロツィア都市を攻撃するための、大事な補給線である。EU軍の中でも一番の大国はロツィアだ。そのためにも陸路の補給線は絶対に死守しなければならない。諸君らは、実戦経験は皆無なのは知っている。だが恐れることはない。

やつらもこの橋は欲しがっている。だからこの橋を壊すような兵器は使用してこないだろう。彼らは、肉弾で攻めてくるはずだ。戦車や自走砲車は使わないはずだ。君たちには、2人乗り弾砲バイクを使用していい。これなら高速で敵の兵士を殺せる。君たちは死ぬはずがない!

2人乗り弾砲バイクは操縦はオートだ。全力で橋を守り。敵を倒してくれ。以上だ。」

アジア連合軍陸戦部隊の指揮官である。ライヤー・レン大尉は、座りながら震えている元フリーターやニート、派遣社員たちにそう叫んで、尻を一人づつ叩いて回った。

「やつらは足で特攻してくる。戦闘バイクで蹴散らしてやれ!ゲームの操作方法の要領でやればいい!」

ライヤーは、自分で橋の出口に止めてあった戦車に乗り込みながら、おのおのの配置につく新兵を怒鳴りつける。」

「お前らは、サン・ブックにいたってごく潰しで税金も払わない連中だろうが!少しは国の役に立つくらいのことはするんだな!」

ライヤーは、防御位置に着くまでに手間取っている新兵たちを見つけて。ぶん殴りたくなる気持ちを必死に堪えていた・・・・・・

「ライン、バイク・・・操縦できるか?」

「なんとか・・・・・マニュアル免許とってたから。」

「俺がキャノン砲の照準を合わせる。なるべく揺れないでくれ・・・」

「殺すのか・・・・・?人を」

「鹿だろうが、犬だろうが、ヒトだろうが、森から出てきたら討つ・・・」

「そう・・・・か・・・・」

あたりの森に囲まれた橋の出口で、アクセルを吹かす音が、木霊した。

午前2時を過ぎたところだった・・・・

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小説 戦いの向こう側へ ⑥

今日、ラインと同じ部隊になった。

俺らは家畜用のトラックでアジア連合最終防衛ラインまで輸送されている。

「リドック・・・・生きてたか」

「基礎訓練中だぞ。死ぬかよ」

「新人は、補給部隊から始まるって説明は嘘だったのか?」

「新兵はいきなり最前線に行っても足手まといになるって説明してたのにな・・・畜生め!」

「大きな声を出すなよ。盗聴されてるかもしれない・・・」

「ああ・・・・今日、隣のベットにいたやつの死体を見た・・・リンチされて裏の密林に捨てられてたよ・・・」

「!?」

「チクったか、盗聴されたかわかんねぇ・・・・オレ、頭がおかしくなりそうだよ・・・」

「・・・・・・・・」

「死体を見たの初めてだったんだ・・・・苦しそうに顔が歪んでたよ・・・昨日まで家で飯食って、ゆっくり寝てたやつがな・・・」

リドックは、手で涙を拭いた。

「まったくさ・・・・サン・ブックにいた時にも思ったが、元派遣やアルバイトの連中は何も文句言わずに安い給与で長時間働いて、そして今や政府の命令で今度は最前線で命を落とす危険にさらされている。奴隷体質が染み付いてしまったんだな・・・俺たちは・・・」

「奴隷のような扱いをされても暴動ひとつ起こさなかったな。サン・ブック人の美徳だよ。まじめで勤勉で、権力者には立てつかないのさ。」

「それで死んだら何のために生きてきたんだよ!俺たち若者は・・・・何のために・・・・」

リドックはそれっきり黙ってしまった。

家畜を乗せた輸送車は、アジア連合軍の橋頭堡、ロィシアと仲国の国境に位置するエリターガ橋付近に到着した。

この橋を守りきるのが、僕ら使い捨て兵士の任務であった・・・

そして・・・夜なった・・・・。

|

小説 戦いの向こう側へ ⑤

セシル、母さん・・・・ちゃんと毎日食事していますか?

ラインです。

僕は、今、フィリピーナ・アジア連合軍基地にいます。

暑いです。蒸し暑くて・・・汗が止まらないんです・・・

脱水症状になりかけても、上官は水をくれません。

水のない人生がこんなに苦痛だとは思いませんでした。

肩にM-112自動小銃のベルトの痕ができました。痕がヒリヒリします。

軍人訓練は相変わらずで、不条理で過酷な訓練が毎日僕に襲い掛かってきます。

敵の急所を確実に狙い打つ訓練、泥沼に24時間待機し、密林で食料を調達する訓練・・・・森林を伐採し、一人で20トン分を運搬する訓練・・・・

サン・ブックのイーストシティーにいた時よりも、5キロ痩せました。もうガリガリです。皮と骨しかないやつもいます。

僕の部隊の仲間は、みんな・・・もともとフリーターやニートだった人たちです。

政府は、国勢調査で、定職についてない人間から片っ端に戦地に送っています。みんな昨日まで、ガンダムなどの戦争ゲームの話をしていました。戦争は遠い国の遠い出来事だと。

「戦争は嫌だ!でも防衛のために憲法を改正するのはいいよ。」

その結果、改正した人間のために、僕ら若者が、戦場へと送られたのです。

僕も、サービス残業強制法案が可決した頃から、正社員を止め、勉強をしながらアルバイトをしてたんだよね。

で、僕は、ここにいます。

昨日、軍や政府の悪口をいった人が、基地の修正室に連行されました・・・・

寝ている時に、彼の悲鳴や苦悶のうめき声が聞こえて眠れません。

仲間が、僕らの寝室や服に盗聴器や監視カメラがあると疑っています。

僕らはその日から、時計仕掛けのオレンジになったのです。

EU連合軍との戦闘まで、あと3日・・・・・

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小説 戦いの向こう側へ ④

母さん、元気ですか?

僕は、三ヶ月の基礎訓練を終えました!

僕はやったのです!あのつらい基礎訓練をやり遂げたのです。

35度の照りつける太陽の下、見知らぬ土地で僕は倒れず逃げ出さなかったのです。

僕は、初めて僕を誉めてあげたいと思います。

サン・ブックにいた頃は、毎日、日雇いバイトをしていた頃よりも、僕はひと回り大人に成長しました。

俺は軟弱なフリーター共と同じじゃないと!やつらはお国のために戦わない卑怯者です。ごく潰しです。

最近は、そう思えるようになりました。

この戦争は意味があるんです。

国が借金を抱えて、貧困層が拡大したのも、国が悪いんじゃないんです。

他の国がサン・ブックの国益を奪ったから、格差が拡大したんです。

だから大増税も社会福祉費用の廃止も、年金費用の削減も新治安維持法も新徴兵制度も、僕ら軟弱なサン・ブック人には必要だったんです。

軍でそのことを勉強して、わかりました。

僕らはアジア連合軍として、EU連合やアメリア連邦州軍と中東軍と戦わなければならないのです!

僕は、サンブックの若者として、国民の生活のために、戦います。

リドック・マアス 

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小説 戦いの向こう側へ ③

「あなたが戦争にいくなんて、おかしいわ!弁護士になる夢はどうするのよ!ライン!行かないで・・・」

セシルは、タリーナ空港でも僕にしがみつきながら、泣いていた。僕も泣きたかった。だが、泣いたら母さんもセシルももっと泣くだろう。だから僕は、泣くのをこらえた。

「これ・・・お守り・・・。きっと弾丸も弾いてくれるよ。百度参りを毎日するから」

「願掛けか・・・・ありがとう。」

「人を殺しちゃあいかんよ、ライン。絶対に人間を殺しちゃあいかん。」

「セシル、僕の出征中に母さんを頼むよ。」

「うん。わかった・・・」

僕の軍人としての恩給は、セシルや母さんに年金と言う形で入る手続きをした。これで僕が死んでも、派遣をやっているセシルには、このお金は彼女の貧困生活を少しは楽にするはずだ。

軍人として召集される前まで、弁護士になって虐げられている人たちを救うという僕の夢は、開戦とともに握りつぶされ、夢は爆弾とともに砕け散った。

幼い頃に父と別れ、母と一緒に暮らしていた僕の生活は、とても苦しかった。

政府は、母子家庭における生活援助金を、僕が小学4年生のときに打ち切った。国の借金に当てると言っていた。しかし現在も借金はとうとう1000兆円を突破している。

それまで月三万円の補助金がなくなってからは、母は夜のアルバイトをせざるを得なくなった。

「母さんね・・・仕事が慣れてきたら、資格をとって税理士にでもなろうかしら・・・」

母は疲れを顔に出さない人だった。しかし母が資格の勉強をすることはなかった。

恋人のセシルは、不況の煽りで、就職大氷河期の時に正社員になれず、仕方なく派遣労働者として、安い賃金で朝から晩まで働いていた。最近は介護士としての勉強をしているが、彼女が隠れて風俗の仕事をしていることを僕は知っている。

僕は、そんな状況を打開したくで、死ぬ気で勉強をした。弁護士になるためにロースクールに行くための貯金もした。

しかし・・・・時代は・・・戦争は僕の夢を踏み潰したのだ。

「権力者の都合で・・・・僕は戦争で死ぬのか・・・・・?大人の都合で死んでいくなんて狂ってる!何もかも狂っているんだ!!」

声には出ない叫びが、僕の中で湧き上がった。

空港には、召集された僕と同い年の若い連中が、アヘンらしき薬を渡しているのが見えた・・・・

僕もいずれ薬を受け取るのかと思うと、寒気が背中を這い登った・・・

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小説 戦いの向こう側へ ②

2025年 12月24日 サンブック・ターリナ空港にて

時計は、午前10時を回っていた。

俺は今、フィリピーナ第13アジア連合基地の便に乗ろうとしている。

13番ゲートだ。それらしき奴らが一列に並んでいるのが見える。

空港には、誰も俺の見送りには来ていない。

ヤスヒロくらいは来てくれると信じていた。

勝手にそんな風に考えてた自分が情けなくなる・・・

「俺は・・・ヤスヒロのこと・・・親友だと思ってたな・・」

周りは、恋人や家族と抱き合って楽しくすごしていた。

なんかやるせなかった・・・

母には、留守番電話に録音しておいたから、当分は寂しくはないと思う。

遺書みたいなもんさ。

何か書類を渡された。

今日の予定スケジュール表だ。

13:30 基地到着

14:00 入隊式

15:30 健康診断・適正テスト

18:00 夕食

19:00 訓示

20:00 就寝

まるで、修学旅行だな。トランプでも持っていくればよかった。

「携帯電話や電子機器などは、原則禁止である。持ってきたものは、即刻没収する。わかったか!」

僕が、殺人マシーンになる日も、そう遠くはない・・・・

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小説 戦いの向こう側へ ①

第一章 君去りしあと

2023年 12月23日 アジア サンブック

眠れない。眠ろうと思っても、頭が眠ろうとしてくれない。

睡眠薬代わりにワインを飲んだ。気持ちがいい。頭がボーっとしてきた。

明日は、朝6時に家を出なくちゃならない。空港に行かなくちゃならない。

戦場に行かなくちゃならない。

ついに僕の所にも、召集令状と軍事誓約書が送られてきた。

3日前に、入隊するための手続きを市役所でしてきた。

帽子、制服や書類などの最低限度の物が自宅に届く。

友人のラインのところにも書類が来たらしい。

あいつは自分の夢をちゃんと持ってるし、可愛い恋人がいたから、僕よりも可哀想だな。

「笑えるよな。運がよければ僕も戦車に載れるかも。お前と一緒の部隊がいいな。」

そう話すラインの足は、小刻みに揺れていた。

ふと、時計を見る。

夜中の二時を回っていた。

ああ・・・・・母さんに・・・・

メールするの忘れてたっけ・・・・

電話じゃ今の時間・・・・ダメだよな・・・

夢なら覚めてくれよ・・・・・もう・・・・

もう・・・・・遅いじゃないか・・・・・・

声を、母さん・・・・・母さんの声が聞きたい・・・

携帯電話を掴んだ。

「携帯の電源が入っていないか、電波の届かない場所に・・・」

はっ、はっ、はっ

苦しい・・・・か、過呼吸の症状が・・・・始まっちゃった・・・・

はっ、はっ、はっ

誰か、今日だけでいい・・・・

誰か俺のそばに・・・・いてくれ・・・

ひとりで死ぬのは嫌だ!!!!!!!!!!

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小説 血と正義(後編)

「レーダー解析入りました!第二射程内に敵影入ります、どうぞ!」

「謎の軍隊どもに、宇宙ステーションを好きにさせるなよ!!各艦一斉射!!撃てぇーーーーーーーーーーーーーー!」

「政府軍が迎撃してきました!!」

「慌てるな。我らは予定どうりに陽動作戦をすればよい。間違っても宇宙自治体の建物や宇宙公社のステーションを狙うなよ。我らの敵は中央政府軍だけだ!」

「どうしたんだ?」

「敵が攻めてきたらしいの・・・みんな迎撃任務についているわ!」

「なんだって!このステーションは軍事基地じゃないんだぞ?」

「知らないわ。でも黙ってたって死ぬだけだから、ここにある武器でみんな応戦するつもりよ」

「なんだって?俺らは軍人じゃないんだ!政府軍の救援信号を出せば良い!」

「すぐ来てくれないわ!それより、対空砲の銃座があるからそれを使って、敵の船を落とすのよ!」

「セシル、待って」

背中を向け去っていった彼女は、軍人よりも軍人らしくこの異常な状況に適応していた。

その時である。

チーーン

何がが、当たる音がした。

敵の流れ弾が、ステーションの内壁に触れた。

爆炎と内壁の破片が、容赦なく内部にいる人々を飲み込むのが、わ・か・っ・た。

セシルは、その現場にたまたま居合わせてしまい、悲鳴を上げることなく、身体を炎に焼かれ、身体はひきちぎられて絶命した。

ほんの一瞬である。

「あ・・・・・ああっ・・・」

さっきまで彼女と話していた青年は、変わり果てた片思いの相手と対面しなければならなかった。

「こっ・・・・・・こういうのは・・・・・よ、よくない・・・・・。女の子を・・・・こっ・・・殺し・・・うっ・・・」

「やっ・・・・やつら・・・・・・やりあがったなああああ!!!」

青年は、最愛の人の肉片を握り締めて、銃座がある方角へ走った。

しかし、彼はセシルの敵を取れる事はなかった。

銃座に座って迎撃を取っていた矢先、ミサイルの直撃をくらい、彼の身体は四散してしまったのだから・・・・・

残酷さが彼らの戦う目的ではなかった。だが正義と信念こそが、この世でもっとも流血を好むものである。

最高指導者が主張する正義を実現するため、無数の兵士や一般人が生きながら焼かれ、足や腕を亡くさなければならない。権力者たちが戦場から遠い安全な場所にいる限り、彼らは正義と信念は命より貴重だと主張し続けるに違いないだろう・・・・

戦いはまだ、始まったばかりである・・・

銀河英雄伝説より一部文章を抜粋

銀河英雄伝説外伝 螺旋迷宮 1

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小説 殺戮の前で(中篇)

「ホワイトソックス隊は前へ!以後、有視界戦闘に入る。全機、無線は封鎖せよ!繰り返す・・・無線は封鎖せよ。」

謎の軍隊は、政府直轄の宇宙ステーションを目指して、侵攻コースを維持していた。

宇宙空間に戦場が形成されつつあった。

彼らに、失敗は許されない。

失敗すれば、艦隊ともども、すべての戦闘機は、自分たちの家でもある潜伏先に帰投することなく、個々に撤退するしかないのである。

どこへ?

それは、おのおのが個々に終結した艦艇なり、サバイバル手段によって辿り着ける宇宙のどこかへ・・・・・・であった。

その時点で、軍隊は消滅する。それが、この作戦の最悪のケースであった・・・・

しかし成功すれば、政府直轄の宇宙ステーションを橋頭堡(きょうとうほ)にし、地球侵攻の前線基地として利用できるのである。

「なんだ・・・・?」

「どうした・・・・?」

「大量の隕石が、こっちに向かってきます!!」

「・・・・隕石だと・・・?大きさは?速度は?」

「・・・こ、これは戦闘機です。この熱源はスペースファイター特有のものです!!」

「所属を明らかにせよ!政府軍のものか?」

「応答なし!」

「緊急警報発令!!第一種戦闘配備だ!」

「了解!第一種戦闘配備!各員は速やかに持ち場に配置せよ!」

「・・・・・な・・・何を企んでいる・・・・ここを制圧する気か・・・蛮族め!!」

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小説 個人と国家の力の差(前編)

「カウントダウン開始!3・・・・2・・・・1・・・・」

「進路クリア!ホワイトソックス隊、発進します!」

「了解!偵察部隊は戦闘大隊より先行した後、進路を確保!」

「第一、第二小隊出ます!!」

「どうぞ!ここまで来て、戦死するなよ!」

「当然でしょ!!」

宇宙戦闘機は、個々に編隊を組みながら、次々に宇宙空母から発進していった。

空母のフロントガラスの下から、戦闘機の推進剤の光が、闇の中に光のアーチを描いているのが確認できた。

「我々は、武力制圧や戦争をしたいわけではない・・・・・。人類を正しき道に導くために、社会をよき方向に改革するために軍を動かしたのだ。」

軍の総司令官は、これから発生するであろう殺戮行為を、正当化するためにそうつぶやいていた。

「政治的な改革をしようとは思わなかったのですか?」

「わが息子を、議員にしたて出馬させたが・・・・・過激で無思慮な政策が裏目にでてな・・・・暗殺されたよ。」

「!・・・・・それで実力行使を・・・?」

「そうだ・・・・・もはや政治的な改革を待つ時ではない!官僚機構は腐敗し、経済システムも地球環境を悪化させた。システムに取り込まれた人間を排除し、粛清(しゅくせい)するしかない。人の欲望が過剰になってしまったからな。」

「これは・・・・中央政府に対しての奇襲作戦・・・・」

「・・ああ・・・わが私設軍隊は、多くの企業の支援で、日の目を見ることができた。みなには感謝しているよ。」

「・・・・・・・・」

「どうした?」

「いえ・・・・」

個人の力で、政府軍と対決する事ができると本気で考えているのか?

Xbone

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今、この宇宙に思うこと テロ編 再開編

前回までのあらすじ

時は2050年。宇宙事業団の宇宙支部であるステーション「ロイド」を襲ったレジスタンス集団は、機関室や管制室を制圧し、人質を確保。先に宇宙事業団の従業員として潜入していたライン=マイアナは、本隊と合流しようとしていた。

登場人物 紹介

リドック=マアス 宇宙事業団スタッフ。宇宙漂流後、シャトルを駆り、テロ行為を阻止するため、ステーション帰還を急ぐ。

ライン=マイアナ 元宇宙事業団スタッフ。レジスタンスメンバーとして、ステーションの内部情報を提供。本隊との合流を目指す。

セシル=シルフィーユ 事業団スタッフ。ラインに拘束され人質となる。

オメガ レジスタンス集団のリーダー。虐げられていた人間を救うために、政府を相手に交渉をしようと画策

エンゲスト=ウルス リドックやセシルの直接の上司。28歳。

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今 この宇宙に想うこと テロ編 5th

監視カメラの死角をついて、潜入したレジスタンスグループの支援を行ってきたラインは、拘束されているセシルの部屋に戻ってきた。

「・・・・・・・仲間は第一機関室を占拠しました。アマチュアでも結構プロに反抗してますよね?」

「軍が関与してないからだわ。こんなの時間稼ぎにしかならないわよ」

「僕を・・・・・軽蔑しないんですか?」

「私を助けてくれたんだもの、軽蔑はしないけど尊敬もしないわ」

「あなたと喋ってると気が紛れます。テロをやっていることを忘れそうですよ。」

ラインは、仲間と合流するチャンスを伺っていた。

「とっ、投降しましょう・・・・・・まだ・・・いまなら・・・・」

「投降したら、仲間は全員死にますよ?僕も・・・・・」

ラインは、ヤングのことを思い、唇をぐっと噛み締めた。

「テロは成功しない。断言できる。それより政治的な部分で反抗すればよかったのに・・・・どうしてしなかったの?」

「地球で開催される議会に、宇宙市民の声が届きますか?地球出身者が大半を占める議会で、宇宙出身者の提案は黙殺されるんですよ」

「武力で改革するやり方は、フェアじゃないわよ。」

「理屈ではそうですね・・・・でも人間は感情の生き物です・・・・・僕が・・・・・あなたを好きと思っているように・・・・」

セシルは、黙ってしまった。

「あなたは・・・・ここに隠れていてください・・・・あとで動乱が収まったら、迎えに来ます。あなただけは・・・・・絶対に死なせない!!」

ドアのロックを開け、変装したラインは、オメガとの合流ポイントを目指していた。

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今、この宇宙に想うこと テロ編 4th

「何聞いてるんだよ?任務遂行中によお。」

「あ?ショパンの別れの曲だよ・・・・・」

ポケットから小型爆弾を取り出し、シャッターに貼り付ける。

オメガにどやされるぞ。ここを突破すれば第一機関室だからよ。占拠したあとに聞けばいいじゃねえか」

ドーン

「親父の好きな曲だったんだ。あの優しくて、家族に辛い顔みせずに働いていた親父の・・・・」

シャッターに穴を開けそこを通り、彼は第一機関室の暗証番号を入力していた。

「別れの曲なんて縁起でもねえだろ?もっと戦意高揚の曲にしろよな。」

「ああ。中央制御室を占拠したら、宇宙事業団のやつらに、親父の死のつらさを思い知らせてやる!人命よりも利益を優先する企業や社会が、今の考え方を改めない限り、俺は何回だって復讐してやるよ!

青年の脳裏には、朝、父の部屋を開けたときの、父の苦しみぬいた顔を思い出していた。

急性心不全

第一機関室のドアが開いた。

その刹那、彼らにまっすぐ向かってくる人影が見えた。

「なっ・・・・・・・待ち伏せか!」

「野郎!おとなしく人質になればいいものを・・・」

レジスタンス組織の連中はまだ、若い。

ましてや、宇宙での長期に渡る潜伏期間中に、体力が衰えているものも少なくなかった。

「・・・・おまえら海賊なんかに、このステーションをいいようにされてたまるか!」

「くっ・・・・・・奴隷のようにこき使われて・・・何が・・・・何が楽しくて生きてんだよ!!おまえらは!」

レーザー銃を奪い合いながら、4人は地面を転がりつづけた。

そして

「・・・・・・ごほっ・・・・・ガキが・・・・大人に・・・・逆らうか・・・・・」

「ハァ・・・・ハァ・・・・・俺たちだって・・・・・・本気になりゃ・・・・世の中変えられるかもしれないんだぜ・・・・ハァ」

別れの曲が、2人の事業団社員の鎮魂歌になった・・・・・・・

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今 この宇宙に想うこと テロ編 3rd

「このステーションで何が起こっているんです?」

警報の音に起こされ、ブリーフイングルームに集まった管理職の人たちを一瞥しながら、エンゲストは、ハーム主任に尋ねた。

「わ・・・・・・・・私・・・・にも・・・・初めての経験ですので・・・・わかりかねます。」

事務的な会話は、緊急のときには、聞きたくはなかった。

「警報が鳴った場所は管制室からで、こちらからコールをしても誰もでないのです。一応警備隊が来るまで通路のシャッターは全て閉鎖しますがよろしいですか?」

セキュリティー課の責任者が、冷静に、ここにいる人たちに説明した。

「ええ。多少の時間は稼げますからね。監視カメラには何か映っていましたか?」

「催涙ガスの煙で部屋の様子はまったく・・・・わかることは管制室の機能が手動で停止しましたことだけです。」

「外部からの進入者の可能性が高いですね。賊か・・・・あるいはテロか・・」

「・・・何のために・・・・・・・?どうしてうちのステーションに・・?」

ハームは、今にも泣きそうな顔をしていた。

「・・・・・・・わかりませんが、平和的な連中ではなさそうですよ・・・・」

「・・・・くっ・・新入社員が三名行方不明になり、生死もわからない・・・・挙句の果てには、海賊のようなやつらにこのステーションを襲われるとは・・・・・・ああ・・・・・地球のリゾートが・・・・家族と地球で暮らす夢が・・・・・」

周りに人がいることも忘れ、自分の夢が崩壊したことを恥ずかしくもなくしゃべるハームに、エンゲストが釘を刺すように言った。

「出世コースはあきらめましょう。もともと宇宙事業公社に入らない限り地球には住めませんよ。ま、それも連邦大学を卒業していなきゃ無理でしょうけどね。それより、生き残るほうが後の人生、家族と一緒に宇宙にすめる可能性があります!そっちに賭けてみませんか?」

エンゲストは、自分の不甲斐なさや新人教官のプライドと職を捨てて、海賊まがいの連中と戦う決心を今、したのだった・・・

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今 この宇宙に想うこと テロ編 2nd

その異変に気がついたのは、管制室に居てハーム主任にいつもどやされていた男だけだった。

窓の外に、光が走ったのを、目の端で捉えていたのだ。

数秒後、一人のシャトル整備士が宙に浮いたまま動かない。

『ブラックカラーの宇宙服・・・?どこの連中なんだ?』

シャトルの中から出てきた連中は、手にワイヤーガンの様なものをもって、他の仲間に指示をしていた。中にはリュックを背負っている者も見えた。

「誰か対応に当たってるんだ?あそこの整備士が変なんだよ!はやく救護室にいれないと・・・・え?」

連中は真っ直ぐここの入り口を目指していた。何かの理屈で。

「緊急警報を!早く!やつら、ここの地理をなぜか知っているみたいだ!ハーム主任に連絡と指示誰かしてくれ!」

その青年の大きな声に、談笑していた他の仲間はギョッとした顔をするだけであった。

「どうしたの?なんか真剣な顔しちゃって・・・・・」

「最近疲れてるんだろ?映画の見すぎだよ。」

彼らは、外のベイブロックで起きていることに誰一人気づいていなかった。

「・・・・・・・・・もう遅い・・・・・・・・・・・・・・・」

ドアの隙間から催涙ガス発生器が投げ込まれ、あっというまに管制室は機能を停止せざるをえなかった。

視界も涙や煙でふさがれた状況で、青年は必死に警報装置の場所までたどり着いていた。

「主任・・・・・・・気づいてくれよ・・・・・・・あんたがいくら無能でも、人間殺されるかもしれないと思ったら、どんなことだってできるはずだ!!」

青年の拳は、ガラスを突き破り、命の音をステーション中の人に届けていた・・・・・

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今 この宇宙に想うこと テロ編

「こちら・・・・・シャトル0908・・・・ステーション聞こえるか・・・・ザー・・・推進剤のトラブルで地球まで帰還できない・・・・ザー・・・・一時当ステーションで着艦許可を求める・・・・修理と補給をできるか・・・・?」

宇宙でシャトルがトラブルを起こすのは、日常茶飯事である。

だからオメガ率いるレジスタンスグループを乗せたシャトルが、ロイドに堂々と着艦できたのも、漂流船を装ったからに他ならない。

「OK!ハーム主任から着艦許可が出た。第二ベイブロックに係留せよ!今、空きがあるのはそこだけだ?わかったな?」

「了解。済まない。お礼は後でたっぷりとするからな・・・・」

オメガはマニュアル操作をしながら、そう通信を送った。姿勢制御の噴射を弱め、ワイヤーで固定される場所に到達すると、ゆっくりとシャトルの速度を0に抑えシャトルを空中に浮かせて見せた。

ぴたっと止まったシャトルは、壁のワイヤーで固定され、係留に成功した。

そして、ここから彼らの作戦が始まった・・・・

「レーザー銃と爆弾と催涙ガスの用意はできました・・・・まず、ここから一番近い管制室の機能を停止させます・・・・・外からの軍や警備隊の進入を防ぐためです。」

ヘールは、全員の携帯用パーソナルコンピューターにロイドの内部地図と情報を転送しながら指示をしていた。

「そして、第一機関室、第二機関室を占拠、機能を停止させます。そしてセキュリティー室を占拠したあと中央制御室に人質とともに篭城し、政府高官と交渉に移ります・・・・ここまでにかかる時間はおよそ上手く言って12時間はかかりますね・・・」

シュミレーション映像で何度もヘールは確認をした。

「十分さ。捕虜から情報は聞き出したし、ラインが内部でやつらの武器を使用不可能にしてるみたいだしな・・・・ヤングとは連絡をとれないのか・・?わかった。ラインが捕獲した人質は利用価値がある・・・・絶対に逃がすんじゃないぞ!」

作戦の最終確認が終わろうとしていた・・・・

そして

シャトルのドアが開かれ、目の前にいたシャトル整備士は、運悪く最初のテロの犠牲者となった・・・・

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今 この宇宙に想うこと~セシルとの決別~

『・・・アリー助けてくれ・・・・・僕は人を何十人も殺した・・・・・・殺したんだ・・・・・君は・・・・それでも僕を・・・・この僕を好きだといってくれるのか・・・・?セシルさん・・・・あなたの顔を・・・・・僕は・・・・思い出せなくなってしまった・・・・思い出せないんだ!!ああ・・・・僕は・・・・悔しいほど一人ぼっちだ!!』

ひとり、宇宙の闇の中にいるリドックは、良心の呵責に押しつぶされそうになっていた・・・・

シャトルは、自動的に宇宙ステーション ロイド 航行ルートがインプットされて、リドックを家に帰す約束をしていたのだった。

『・・・・・これもテロに使われる予定のシャトルだったのか・・・?首謀者は・・・オ・メ・ガ・・・・?まさか・・・・僕を拷問にかけた連中か・・・・!!なんてことだ・・・・!アリー・・・・君も・・・・・・テロに加担するのか・・・?どうしてさ・・・・・?テロなんかしなくたって・・・・・』

老婆の死ぬ前に見せた、濁りの無い瞳がリドックの脳髄を打つ。

『・・・・・・死の前には・・・・人は・・・・・平等なのか・・・・・?あの優しい瞳は・・・・・この世のすべてを・・・・悟った瞳・・・・・わからない・・・・・死は・・・生き物にとって・・・・悪ではないのか・・・・・?僕は・・・・想像力がないから・・・神様にすがるしか・・・・・できそうにない・・・・・アリー・・・君はセシルさんの代わりじゃないよ・・・・好きさ・・・・・・・今、僕が・・・・テロを止める理由ができた・・・君と・・・生きたいから・・・・僕は・・・・・君達を止める!!」

年をとることの切なさ若さだけの気負い幼い恋愛ごっこ

人は、明日死ぬかもしれないという想像をしないで、幸福に一日一日を過ごしている。

それが、何の問題解決になっていないことを知りながらも・・・・

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今、この宇宙に想うこと 青年に何が起こったか編 4

「動ける者は、宇宙ステーションロイドに向かいました。ここの地下にシャトルをお使い下さい。あと・・・ワシらを・・これで・・」

隠し持っていたレーザー銃と爆弾を差し出した。

「お好きな方で・・自殺はためらってしまうから・・・・・」

ドウシテ?

ナゼ?

「人を愛せないカラダになってしまった私達を、綺麗に死なせてください。」

リドックは、泣いた。 泣いて、泣いて、泣いた。

そして・・・

言われた通りにした。 できるだけ、苦しまないように。

そして誓った。

『あなた達を一生忘れない。人を思いやり、報復の道を選ばなかったあなたたちこそ、誰よりも人間だったと・・・』

リドックが見つけたシャトルは実家への帰路へ進路を向けていた。

オメガやラインを止めるために・・・・

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今 この宇宙に想うこと 青年に何が起こったか編 3

部屋にいる人間は、ほとんどが人間の形をなしてはいなかった・・・・・

ただ、彼らはなんとか宇宙の片隅で、残り少ない食料と酸素をなんとか持たせて命の灯をけさないように、生きているだけであった。

しばらく経って、この状況に慣れ始めたリドックは、また老婆に言葉を投げかけた。

「あ・・・・・なたがたは・・・・・一体・・・・・どうしてここにいるのですか?」

じっとして、ここから逃げようともしない彼らは、生きる屍のであった。

「わ・・・・・・わしらは・・・・・・戦争や・・・・・・病気で・・・・・からだが利かなくなった人間の集まりですじゃ・・・・。社会に役に立たないわしらは・・・・こうやって目の届かない場所でしか・・・生きては・・・いけんのです・・」

「・・・・・しかし・・・ここにいても・・・・・時間の問題です・・・・助けを呼びましょう!誰か・・・・動けるものはいないですか?」

「動けるものは・・・・・復讐しにってしまった・・・・・」

「・・・・復讐・・・・?誰にです・・・?」

「・・・・・動けなくなって足手まといになった・・・・わしらを切捨てた・・・・・人間達に・・・・です。」

「・・・・・・・・・」

「お若いの・・・・老人に情けをかけなさんな・・・・・わしらは・・・年を取りすぎた・・・・若い連中を抑えることも協力することもできぬ。わしらは、死ぬこと意外に道は無いのです・・・」

「・・・・・・でも・・・・生きてさえいれば・・・・・・幸せは・・・・つかめるはずです・・・」

「・・・・・・生きる辛さを・・・・・・死ぬまで・・・・・味わってもかえ・・・・?」

拷問を受けたリドックには、その言葉の持つ重さを痛いほどわかった。だから老婆のために涙を流していた・・・・

アリーがリドックのために流したように・・・・・・

「お願いある・・・・・お若いの・・・・」

「なん・・・・ですか・・・・?」

「復讐をしにいった・・・・連中を・・・・止めて・・・・欲しい・・・・。そして・・・・・私達を殺して欲しい・・・・・」

老婆もまた・・・・・・目から・・・・涙を落としていた・・・・

テロ決行まであと3日と15時間・・・・

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今 この宇宙に想うこと 青年に何が起こったか編 2

身体が固まる感触をリドックは、感じていた。

ドアの向こうには、生き物の気配が感じられたからだ・・・・・

ドアを開けるのをためらった。できれば見ないにこしたことはない。

しかし、アリーセシルの下へ帰るためには、今はどんなものでも必要だった・・・

だから部屋のドアを開けるしかない。

ゆっくりと、ドアのレバーを回す。

部屋に光は無い。

ただ、生き物が部屋の中央で寄り添って呼吸をしていた。

この空間には酸素がある。

だから、生き物は生きていけたのだ。

「・・・・・・・・だ・・・・れで・・・・す・・・か?」

生き物の一人が声をかけた。

「・・・・・・漂流者です。ここに流れ着いて・・・・酸素や食料を分けてもらえませんか?」

よく見ると、声をあげたのは老婆であった。

「・・・・・・食料は底を尽きました・・・・・水と酸素なら分けられますよ・・・」

「すいません・・・・・あなたがたは・・・・・どうして・・・・ここ・・」

言いかけて、リドックは次第に老婆の姿を鮮明に目に焼き付けていた。

老婆は老婆であって老婆ではない・・・・・

目は片方しかなく、手は右手を残したのみであり、皮膚は焼けただれ、皮膚が垂れ下がっていた・・・・

「あの・・・・・・・・ど・・・・・・・・う・・・・・し・・」

言葉が上手く口にのらない・・・・

リドックは言葉よりも、自分の心の中にある、正義や倫理の感情がこみ上げてくるのを感じていた。

『どうして!!!誰が・・・・・・・誰がこんなことを・・・・・・してくれってたのんだんだあああああ!!この人が、悪いことをしたのか!!身体をめちゃくちゃにしてくれって!頼んだのか!!!!!』

魂の絶叫

『お袋だったら・・・・・・・・・・悪いのは誰だ!人か?病気か?戦争か?この老婆か?それとも神、あなたなのか?人間さえ・・・・・人間さえ創りださえねけれ・・・・僕だって・・・苦しまなかったのに・・・』

忘れていた拷問の記憶は一生、リドックを苦しめた・・・

テロ決行まであと3日と22時間・・・

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今 この宇宙に想うこと 青年に何が起こったか編

リドックを載せた脱出ポッドは、何かに激突して、動きを止めていた。リドックはポッドの中の空気が漏れていない事を確認すると、ゆっくりと外の空間へ、這い出していた。

辺りは、何か人工の建物で覆われていた。宇宙空間ではない・・・・・

宇宙廃棄物の中にリドックは迷い込んでしまったのだ。

『・・・・・・幸か不幸か・・・・ここにもしかしたら推進ロケット燃料や食料があるかもしれない・・・・探してみるか・・・・』

辺りを見回して、保管庫らしき場所をあてもなくさまよっていた。

人の部屋らしき場所、食堂やフィットネスルーム、サロンなど自分たちの宇宙ステーションと似通った部分を見つけ、かつてこの建物がそうゆう用途で使われていたことをリドックは直感した。

『・・・・・しかし・・・・・食料や酸素を見つけ出さないと・・・・僕はここで死んでしまう・・・・僕の運よ・・・・・尽きないでくれ・・!!』

祈るように部屋らしき場所を訪ね言った・・・・・

そして最後の部屋にたどり着く。

ここに何も無ければ・・・・・リドックは・・・・・終わる・・・

『・・・・・・・・・・アリー・・・・・・信じてくれ!!』

女の名前を呼んで、部屋のドアを開ける。

そこには・・・・リドックの想像を超えた現実が待ち受けていた・・・・

テロ決行まであと4日・・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅹ

生命が散る瞬間を、セシルは目撃した。

頭に2発の銃弾を埋め込まれた男は、空中に浮かんだまま、もう目を開けることは一生なかった・・・・・

ラインは拳銃を握ったまま、自分のやったことを理解するのに必死だった。

『僕が・・・・・・・こ、ろ、し、た、の、か、?ぼ、く、が、?うそ、じゃ、ないのか?』

セシルを助けたいと思った行動が、結果的にヤングを亡き者にしてしまったという事実だけが、現実を支配していた。

『ああ・・・・・もう・・・・僕は・・・・修羅の道を歩いてしまっているのだな・・・ははっ、駄目だ・・・』

胃から何かが上がってくる感覚を堪えていた。

「あ・・・・・・ありがとう・・」

突然そんな声がセシルから発せられた。

「え・・・・・?」

「だって・・・・私を助けてくれたことは事実でしょ?今なら、罪をこの人に覆いかぶせることができるじゃない・・・・死人に口なしってゆうでしょ?」

「彼は・・・・・あなたにとてもひどいことをしようとしていました・・・・けど、優しい一面もあったんです・・・・だから・・・だから・・・」

「もういいよ。あなたも優しいからいまだに私を殺したりしないんでしょ?」

「それは親友のためです・・・・リドックは・・・・あなたのこと・・・好きだから・・」

「・・・・・・・・・」

「ヤングは僕のほうで処理します。セシルさん・・・リドックのことも気にかけてください・・・あいつ・・・・優しいですから」

テロ決行まであと4日と8時間・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅸ

「へへっ、目が覚めたか・・・俺を覚えているか?」

セシルが目を覚ますと、目の前にはラインと話をしていた男が座っていた。

ヤングって言うんだ。ま、名前なんてどうでもいい。これから楽しい事する俺達には名前なんて意味がないな。」

「・・・・・・・・何をする気?」

「声を出しても無駄だぜ。お前さんを部屋から移動したんだ。あの野郎にすぐに見つからないとこにな。ここは人だって滅多に来ない場所なんだ。」

「・・・・・・・・」

「目線をそらさないのはいい覚悟だ・・・ま、すぐに気持ちよくしてやるからさ・・・そう嫌がるなよ?」

ヤングはズボンをゆっくりと脱ぎ始めた。毛深い足や男の体臭が、セシルの鼻や目に不快な感覚を与えるだけであった。

「こないで!!触らないで!!」

「嫌がる顔も素敵だよ・・・ラインの野郎に邪魔されなければ、こんなまわりくどい事はしなかったんだがな・・・怨むなら奴をうらめよ」

「あなたには、レジスタンス組織の誇りはないの?こんなことをして!」

「ハン!俺達のやってることなんてたいした事じゃねえ!過去の戦争犯罪にくらべりゃあな!宇宙事業団だって何人もの人間を過労自殺に追い込んでるんだ!殺人罪だよ!俺は、あんたさえ抱ければ命をうばうつもりはねえんだ!大人しく感じていればいいんだよ!」

『・・・・・・どっちもどっちだわ・・・・』

セシルは涙を流すことしか、抵抗の意思を示せなかった。

ヤングが服をナイフで切り裂こうとした刹那、

部屋のドアが開かれ、息の荒いラインがヤングに銃口を向けた。

「止めろといったはずだ・・・・・」

「好きに生きちゃあいけねえのか?」

「駄目だ。全員好き勝手に生きたら、世の中めちゃくちゃになってしまう」

「お前・・・・もしかして好きなのか?こいつが・・・」

「・・・・・・・・・・ああ。だから止めろ。」

「なら、俺がお前の前で汚してやる・・・・その後はお前が好きにしろ」

バーン バァァアーーン

ゆっくりと、ヤングの身体から、力が抜けていった。

部屋の中には 血の塊が 浮遊しているのがわかった。

テロ決行まであと4日と13時間・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅷ

ヤングは、仕事の合間を縫って行方不明になった2人の捜索隊に参加していた。

もちろん、一秒でも発見される時間を稼ぐためだ。

「2人は見つかりましたか?」

「それが・・・どこにも姿が見えないんだ。監視カメラに姿さえ映らない。もしかしたら事故にあってここにはいないかもしれないな」

「・・・・・・そうですか。でも諦めちゃいけません。私は、立ち入り禁止区域を重点的に探して見ます。」

「すまない。頼む。」

ヤングは、軽快に無重力の中を進んでいった・・・・・

「差し入れだ。当分ここの通路にも人は来ない手はずになっている。だからお前は寝てていいぞ。」

「すいません。」

「誰もいなかったって報告すれば、裏で何やってるかも想像できない現代人には見つからないさ。すべてコンピューター任せだからな。」

コーヒーを飲みながら2人は、小声で話していた。

「なあ、この女は結局どうするんだ?殺すのか?」

その言葉に、セシルは自分の命の軽さを実感していた。

「いえ、人質として利用します。利用価値はまだありますから」

「その前に・・・・2人で犯さないか・・・?今なら大声出しても気づかれないぜ?」

拘束されたセシルに欲情したヤングは、舌なめずりをしながら不気味な笑みを浮かべていた。

セシルの運命は、ラインの次の一言に託された。

「僕は・・・・・できません。彼女を・・・・慰み者にしたくありませんから」

「なら・・・・俺だけ楽しむとするか・・・宇宙勤務は退屈でよお~こんな美人とは口もきけやしないからなぁ?へへっ」

「・・・・・・・あなたには感謝しています。仕事ができる人です。ストレスが溜まっていることも理解できますし、美人を前にしてそうゆう気分になることは、男として否定はしません。ですけど、レイプだけは自分の中で一番最悪で下劣な行為だと思っています。それにセシルさんの身体を汚すことは、僕も、リドックも許しはしないでしょう。仕事場へ帰ってください。休み時間は終わりですよ?」

ゆっくりと出口のドアを開けた。

「けっ!コンプレックスのない人間は、そうゆう余裕のある口の聞き方ができていいよな」

ヤングは、仕事場へ戻っていった。

テロ決行まであと4日と20時間・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅶ

関係者以外立ち入り禁止のプレートをドアにつければ、ほとんどの人間は部屋に入ってこなかった。

監視カメラの映像は、ヤングが監視室のモニターに細工をして、別の部屋の映像を24時間流しているのだから、部屋の異常は確認されない。

ラインは、セシルをこの部屋に監禁し、オメガがステーション ロイドを占拠するまでの時間を稼ぐつもりだったが、所詮はアマチュアのレジスタンス組織が頑張ったところで、たかがしれているのはわかっていた。

発見されるのも時間の問題だろう・・・・

その時は、セシルを人質にさらに時間を延ばすだけのこと・・・

ラインは、24時間ずっと気を張っていなければならなかった。

結局、3人とも死ぬ運命が待ち受けているかもしれない・・・・最悪のケースが後から後から、ラインの頭の中で浮かんでは消えた。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「ここのセキュリティーをどう思ってるの?伊達で仕事してるわけじゃないのよ。」

「わかってます。静かにしてください」

ラインは、宇宙服の内側に手を忍び込ませていた。

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・ごめんなさい。親友や上司や会社を裏切って、こんなことをしている自分はどうかしています。でも何も疑問を持たずに、社会の言いなりになることは、僕にはできそうにもないんです・・・あなたを殺したくはない・・・僕も・・・・まだ生きていたいんです・・・」

「どうして・・・・こんなことを・・・・?」

「ぼくは・・・・父を・・・・亡くしました。その父の死の原因を作ったのが、宇宙事業団だとしたら・・・僕はもう憎しみを抑えることはできなかったんです・・・」

「復讐・・・?」

「安っぽい感情ですよ。ドラマみたいでしょ?でもね、復讐以外に答えを見つけ出すことができなかった・・・僕が納得できなかったから・・・」

宇宙ステーション テロ実行まであと5日と3時間・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅵ

拷問から逃れられたことよりも、このまま漂流して宇宙の塵になる可能性を考えると、リドックは眠れそうになかった。

脱出ポッドには五日分の酸素と食料と宇宙服が載せられていた。

アリー・・・・・大切に使うよ・・・・・僕は・・・・・まだ・・・神様のもとには逝きたくないんだ・・・』

死を呼ぶ刈り入れの神は、リドックの目の前を通り過ぎていった・・・・

意識がはっきりとしている時、死神は自分の首を取ったりはしない・・・・・

『ああ・・・・・セックスをするまでは・・・・死にたくない・・・・死にたくないんだ』

窓に映る、自分の歪んだ顔をみて、アリーの愛を噛み締めるリドックだった・・・・

「リドック・マアスは・・・・死亡しました・・・遺体は確認していませんが・・・宇宙で漂流すれば90%の確率で助かりません。私の責任です。今日限りで宇宙事業団を辞めるつもりですので、ハーム主任と話をさせて・・・・・え?ラインセシル行方不明なんですか?ええ・・・・・2日前から・・・・まさか・・・彼らも事故にあって・・・宇宙ステーション内部を捜索中ですか・・・わかりました。僕達も協力します。」

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅴ

アリーは脱出ポッドの確認をすると、拷問の終わったリドックの部屋を訪ねた。彼は、三回目の拷問から解放され今、寝床につく所であった。

「・・・・・・・・・・・」

彼の目に、精気はない。

ただ、この世の地獄を見たような目で、アリーをずっと凝視していた。

「・・・・・・来て・・・・・救いたいから・・・」

その声は、リドックの耳にはっきりとと、ど、い、た。

「・・・・・・・・ど・・う・・・し・・・て・・・・?」

「あなたの優しい顔を・・・・もう一度見たいか・・・・ぁ・・」

リドックをおぶると、音がしないように部屋を出た。

「・・・・・また・・・・・泣いてるの?」

「ええ・・・・・自分でも・・・感情を上手くコントロールできなくて・・・・ごめんなさい・・・・」

「・・・・・なんで・・・あや・・・まるの?」

「あなたを私達の私怨につき合わせたから・・・・・」

アリーはしゃっくりをあげた。

「・・・・・優しい人なんだね・・・君は・・・・・ぼくを・・・・逃がしたら・・君が同じ目にあう・・・かも・・・しれない・・・・のに・・・」

リドックの声は、優しく、暖かく、透き通るような声に変質しているようだった。

「・・・・・・・だから・・・・おろして・・・・いい・・・よ・・」

リドックのその言葉に、彼女は息を呑んだ。

「・・・・あなたは・・・生きて・・・・・ここで死んだら・・・・私が後悔する・・・あなたのこと・・・・好きになっちゃったみたいだから・・・」

船の奥にある、脱出ポッド射出口までたどり着いた時、彼女はもう泣いてはいなかった。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

無理やり脱出ポッドへリドックを押し込んだ。

警報が船内に、響き渡る。

「・・・ああ・・・・・・・・・」

「もう・・・来るわ・・・・・早く・・・・」

「なま・・・・え・・・きいてな・・・い」

「・・・・アリー・・」

「アリー・・・・・忘れない・・・・迎えにいくよ・・・だから君も・・・・生きて・・・」

「リドック・・・・大好き・・・・」

ポッドは射出され、リドックの二度目の漂流が始まった・・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅳ

今日は、5時間で終了した。

途中失神してしまい、男が何を言っていたのかわからなかった部分があった。唯一、彼らが宇宙ステーションの情報を知りたがっていることだけは、わかった。

何のために?

今日も僕の傍で泣いている彼女は、何も喋ってはくれない。

ただ、涙を流すことしかしてくれない

神様・・・僕はあなたのもとへいくのでしょうか?

何も悪いことをしてこなかった私に、生きる苦痛を与えてくれた意味はな ん で す か ?

「もうやめましょうよ?オメガ・・・彼は何も知らされていないよ・・・」

アリーはオメガの部屋に来ていた。

「なぜわかる?あいつは貴重な情報源なんだぞ?」

「あいつは民間人だよ。軍人じゃない・・・・だから・・・拷問する必要はないよ」

「しかし、俺達は小さい組織なりの抵抗をしなくちゃならない・・・・こんなアナクロなやり方でしか今日、情報は手に入らないんだぞ!」

「だけど・・・・ラインヤングだってステーションに潜入してるじゃないか・・・これ以上何が不足だって言うの?」

「復讐だよ。あいつが憎いんじゃない。資本主義の名の下に、奴隷のように働かせて、父親や友達を過労死に追いやった企業や社会に復讐するんだ!!

オメガの目は、鬼のように光っていた。

「そのために、あいつに犠牲になれってこと?」

「同じ死のつらさを味合わせてやる・・・・・もちろん、地球にいる企業や政府全てに、だ!あいつら・・・人を殺しといて、謝罪の言葉すらないんだぞ!自己責任の範囲って一言いっただけで・・・・・だから抵抗するしかねぇだろ!」

女は、オメガの部屋から出て行った。

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅲ

殴られた痛みは、とっくにひいていた。殴られすぎて感覚が麻痺したといっていい。

『SMってゆうプレイが昔流行ったっけ・・・・・・・・・僕が変態なら感じていただろうか・・・・?いや、頭のいい人間だからこんな事まで趣味にしちゃうんだろうな・・・・・蜂やライオン以下だよ・・・』

ベットの上で涙を流そうにも、さっき嫌というほど出してしまったので、出そうにもなかった。

隣には、拷問をずっと監視していた女が、一言も喋らず座っていた。

『痛みにここまで自分が耐えられるとは思わなかったけど・・・・自白剤を使われていたら・・・なんで僕が!!!!軍人じゃないのに!!』

憎しみ、怒り、悲しみ、不条理な現実に対しての感情が今、一気に噴出した。

「・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・」

突然、女は謝りの言葉を口にしてきた。涙を流しても謝っても、心や身体の傷は癒えるはずもないのに・・・・

「・・・・・・・どうして泣いているの?」

女の言葉に、リドックは冷静になった。

「だって・・・・・あなたの顔が・・・・こんなにも歪んでしまって・・・・昨日までの優しい顔が・・・・こんなにも・・・」

首を曲げ、手を押さえて泣いていた。直接女は手を下したわけじゃない。彼女は、拷問という現実を否定したいのだ。

「・・・泣かないで・・・・傷はいつか・・・ふさがるから・・・・」

リドックは、精一杯の強がりを、彼女に返すだけであった。

拷問は明日も明後日も続くのだから・・・・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅱ

重力のある部屋で、リドックは目隠しをされ両腕を椅子に括り付けられて、誰かが来るのを待つよう、女に指示された。

誰かが、部屋に入ってきた音がした。

ゆっくりと足音が近づいてくるのがわかった。

耳元で男が囁いている。

「・・・気分はどうか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「フン・・・・・返事ができねぇのか?」

僕は・・・・どうしたんだろう?ここはどこだ?

「IDカードは見せてもらったぜ。リドック=マアス」

ピクッと身体が反応した。

「宇宙事業団の一員であり、宇宙ステーション ロイド に勤務しているみたいだな。本当か?」

「・・・・・・・・・・そうです・・・・」

「口はちゃんとあるみたいだな。なら宇宙ステーションの内部情報をしゃべってもらおうか。システムや従業員の数、事業内容まで全て!」

男の声は、途端に大きくなった。

「・・・・・・・・・なぜですか?」

「・・・・知りたいからさ・・・・俺達には必要な情報なんでね」

「・・・・・・・なら目隠しをほどいてください」

「駄目だ。お前はただ内部情報を話すだけで良いんだよ。言うことを聞けば宇宙ステーションに帰してやるよ」

嘘である

「・・・・・・・・企業情報は話せない決まりです」

男が闇の中で、ニヤリと笑ったような気がした。

「そうだろうな。アリー、C-05を持って来い!」

女が部屋から出て行った。

嫌な予感がした。

「怖がらなくてもいいんだぜ・・・・・何も殴ろうってわけじゃないんだ・・・・ただ少し、チクッとするだけだからよぉ~」

嬉しそうに、リドックに男が話しかける。

女が戻ってきた。

「ま、これから長い付き合いになるんだ・・・お互いたのしもうぜぇ~」

腕に激痛が走る。

その瞬間、リドックの意識は深い闇の奥に消えていた。

拷問の時間は、まだ始まったばかりであった・・・・・

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今 この宇宙に想うこと ポイント オブ レジスタンス編 Ⅰ

「・・・・・・人・・・・・だよな・・・・?」

「・・・・・人・・・・・だよね・・・・・?」

リドックを回収した連中は、闇の中で漂流して生きていた人間をはじめて見たのだった。

「これ、宇宙事業団のエンブレムじゃないか?こいつ、メンバーだよ。」

「IDカードを探して、身元を割り出すんだ。もしかしたら、宇宙ステーションの内部情報がわかるかもしれない。」

「こいつはどうするの?ほっといても死にそうだけど?」

酸素マスクをつけられているリドックを見て、女がいった。

「そうだな。人質としての価値もあるが・・・・本人の口からの直接情報を引き出すんだ。」

「それって・・・拷問する・・・ってこと?」

女からオメガと呼ばれた男は、

「ああ。」

と一言いって、部屋を出て行った。

女は、リドックの額の髪をあげて素顔を見ていた。

「・・・・・優しくて可愛い顔してるのに・・・・・」

彼女は涙を流していたかもしれない・・・

ラインが地球に帰されるまであと3時間・・・

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今 この宇宙に想うこと ~君が去ったあとで~ 2

『なあ・・・ライン。お前の夢ってなんだ?』

『そうだね・・・・父さんの代わりに宇宙を感じることかな』

『・・・・自分の夢なのか・・・?それは・・?』

『うん。父さんは宇宙が昔から好きでね。宇宙で仕事をするのが夢だったんだ。だけど、僕が二十歳になる前に病気で亡くなって・・・・僕が父さんの仇をとるってわけじゃないけど、宇宙を見てこようと。父さんの分まで。』

『いいな。俺は出世することしか頭になかったから・・・・そんなこと考えもしなかったよ。』

リドックは恵まれてるよ。僕のようにならなくて・・・・・・・

『ん?どうゆうこと?』

『なんでもない。寝ようか。』

『そうだな。生きる目的がなくても、寝たい時は寝たいもんな』

オメガ・・・・何か人らしきものが・・・・流れてる・・・・・回収したほうが・・・いいかな?」

あと少し遅ければ、リドックは脳に重大な障害が残るところであった。

ラインが地球に帰されるまであと6時間20分・・・

神との対話―宇宙をみつける自分をみつける Book 神との対話―宇宙をみつける自分をみつける

著者:ニール・ドナルド ウォルシュ
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今 この宇宙に想うこと ~君が去ったあとで~

エンゲストアーブロはステーションに着くまで、一言も口を開かなかった。船内コンピューターに15時間で着く最短ルートを入力すると、何をするでもなく窓の外を凝視していた。

彼らは、漂流したリドックを、見殺しにしたのだった・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・・・・・

『・・・・苦しいな・・・・・計算ではあと2日は持つのに・・・・・』

『・・・・・気を失ってくれないかな・・・・・・俺のアタマ・・・・・苦しみたくないよ・・・母さ・・・・・ん。』

「あんた、どうして嘘をつくの!嘘ついたってあとでばれるのに!」

『だってさ、怒られると思ったから・・・・仕方ないじゃん。そんなに怒らなくても・・・』

「どうした?やりたいのか?どっちなんだ?はっきり言ってくれなきゃわからないぞ。どうなんだ!」

『僕にも・・・・どっちが良いか選べないんだ・・・・ごめんなさい・・』

「どうして君のリコーダーは色が違うの?」

『転校してきたから・・・・何で僕のリコーダーはみんなと色が違うんだろ?みんなと同じが良いのに!』

「泣くんじゃない!男の子は女の子みたいにすぐ泣いちゃだめでしょ!」

『痛いから・・・仲間はずれにされたから・・・・でもどうして?恥ずかしいこと?』

「みんなと仲良く遊ぶのよ?仲間はずれはしちゃ駄目よ?」

『はい。』

「他の子に負けちゃ駄目!良い?勉強して、良い会社に入るのよ?友達と遊んでる暇なんてないんだから!」

『僕だけが頑張れば良いの?みんなと仲良く遊んじゃだめ?』

「他人の子がどうなろうと知ったことじゃないわ!あなたが元気にでいてくれさえすれば・・・・友達を気にかけるのは止めなさい。夢が叶わないわよ」

ラインは良い奴なんだ・・・・身体がすこし弱いけど。父親がいないから淋しいんだよ。あいつと同じ宇宙企業に就職できたらいいな・・・』

ラインが地球に帰されるまであと9時間・・・・・

L059

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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ⑪

身体よりも、ひとまわりも大きいコンテナをシャトルのデッキに固定させる作業は、思ったよりも難航した。

リドック達のシャトルは、ステーションの帰還コースに乗っており、加速をかけて残り少ない時間との戦いに移行しなければならない立場にあった。

だが、作業が終わるまでは、容易に加速をかけることはできなかった。

アーブロは姿勢制御プログラムをコンピューターに打ち込む作業に没頭していて、エンゲストは最短帰還ルートの確保を標識や目印のない宇宙で探す羽目になり、デッキではリドックがエンゲストの指示を仰ぎながら、ワイヤーで固定をしていた。

「いいか、貨物室は一杯だからデッキに載せるんだぞ?コンテナの真ん中でクロスさせるように縛るんだ!ボルトでワイヤーの先端をひとつずつとめるんだ」

今になって、宇宙にいるという恐怖が襲ってきたリドックは、エンゲストの指示だけが頼りになっていた。

音がないと落ち着かないのだ。

何もしなければ、後ろにある闇に吸い込まれそうな気がした。

だから、今はエンゲストの声だけがリドックをつなぎとめていた。

最後のワイヤーをボルトでちゃんとしめたのを確認したリドックは、エンゲストに声をかける。

「お・・・・・終わりました。もう、中に入っていいですよね?」

「よく頑張ったな、リドック。まさかここまでやれるとは想像してなかったよ。セシルにちゃんと俺からお前の活躍を報告するよ。上がっていいぜ。」

「はい。ありがとうございます!」

ちゃんとお礼が言えたのはこの時が初めてであった。

「ねえ・・・・どこ行くの?」

リドックはシャトルを降りようとした時、後ろからか細い声が聞こえた気がした。

ここは宇宙だ・・・・・人の声が・・・聞こえるわけがない・・・・・でも・・・・

後ろを振り返りたかった。早くみんなの下に帰りたかった。

だが、好奇心がリドックをふり返させた。

そこには・・・・・・・

「キャプテン・・・・・エンゲスト・キャプテン。聞こえますか?」

「おう!早く中に入れよ。疲れただろ?よく頑張ったな。」

「・・・・・・キャプテン・・・・・僕・・・・帰れそうにないです・・・・・」

「どかしたのか?おい!何かあったのか?」

「・・・・・・・・・声が・・・・したんです・・・・・そしたら・・・もう流されてて・・・」

「え?どうしたんだ?おい今、どこにいるんだ!返事をしろ!」

「・・・・命綱が切れて・・・・今どこにいるか・・・・うっ・・・・・・・死にたくない・・」

「おい!アーブロ止めろ!止めるんだ!リドックが流された!!早く止めろ!!」

「どうゆうことですか!?今止めたら、ライン君の薬が間に合わなくなりますよ!どうするんです!」

「・・・・キャプテン・・・・・・僕は・・・・もう・・・いいです・・・・ラインに薬を・・・・僕の分まで・・・・・」

「発光信号を打ち上げろ!位置を知らせるんだ!いいな!最後まであきらめるな!ラインもお前も・・・・・・助けてやるから!」

涙で前が見えなかった。絶叫だけが船内をこだまする。

「もう・・・・手が動かなくて・・・・発光信号もなくなってました・・・・・・そろそろ回線を切りますね・・・・声を聞くと・・・・気が狂いそうだから・・・・」

「止めろ!リドック!!船を旋回させるんだ!絶対見つけ出すから!待ってろ!あきらめるなああああああああああああああああああああああ!」

プチッ

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ラインが地球に帰されるまであと15時間半・・・・・

Jupiter_1

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今、この宇宙で想うこと ランデブー編 ⑩

宇宙空間に放り出されても、姿勢制御を怠らなければ、飛ばされることはない。

命綱をつけたリドックは、驚くほど冷静であった。

『地球のプールの中と変わらないや・・・・・不思議だ・・・・感覚が麻痺してる・・』

いつの間にか、真上にあるシャトルも、コンテナも、セシルもラインも、今のリドックにはどうだってよかった。

ああ・・・・・・

なんだ・・・・・・?

上から・・・・・・・・・

あれか・・・・・・・・・・・?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・手が・・・・届かない・・・・

・・・・・・・・自分が・・・・この宇宙の中で・・・溶けてなくなってしまいそうだ・・・

でも・・・・・・・・・

なんか・・・・・・・・・・・・・・

気持ち良い・・・・・・・・・・・・・・・

宇宙って・・・・なんて・・・・気持ち良いんだ・・・・・

「・・・・・・・・馬鹿野郎!!!リドック!!呑まれるんじゃねえ!コンテナが流される前に、軌道を予測して手前で受け取れ!早く・・・・」

・・・・・・・・・・・うるさいな・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やれば・・・・・・・・・いんでしょ・・・・?

セシルさんに・・・・・・・いいとこ・・・・・・・・・ラインに・・・・薬・・・

左隅の空間に流れていた、コンテナを見つけると、身体を回転させて、ゆっくりと近づいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

きた・・・・・・・・・・・・・

「よーし!そのまま、こっちのシャトルに乗せろ・・・・・・・あとはワイヤーでくくりつけるだけだ・・・・いいな?」

ラインが地球に帰るまであと23時間・・・・・

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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ⑨

「いいか、俺が操縦席からマイクで指示を出すから、良いというまでシャトルのドアを開けるんじゃないぞ!」

アーブロがシャトルを動かしながら、前方から来たシャトルとコンタクトをしているのが、リドックの目に映っていた。

「シャトルをゆっくり回せよ・・・・・そうだ!できるじゃないか・・・アーブロ!向こうさんは何て言ってきてるんだ?」

通信マイクのボリュームを抑えながら、エンゲストは前方のディスプレイを凝視していた。

「・・・・・ちょっと待って・・・・え?・・・ノイズがひどくて・・・・5分後に薬を入れたコンテナを切り離すから、受け取ってくれ・・・ご武運を祈る・・・・だそうです。」

リドックたちの前方を横切ったシャトルを、コンピューターが自動的に追尾した結果がレーダーに表示された。

「今・・・・・SES-43だから・・・・距離およそ10キロ・・・離れてるな。もっと推進剤を使えよ!帰りの燃料まで気にしてる場合か!間に合わんぞ!」

「わかってますって。あの白い点がそうでしょ!?あと五分もあれば、相対速度は一致するはずですよ!怒鳴らないで!」

「よし、リドック準備はできたか?命綱を確認しとけよ!ちぎれて漂流しても俺たちはおいていくからな!」

宇宙服のお尻にワイヤーを接続したリドックは、エアロックの前に立った。

壁一枚隔てたそこは 真空

逃げ出したい気持ちを抑え、リドックはその時を待った。

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・ハァ・・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・クッ・・・・・・・・

「相対速度OK!シャトルは真上です。」

「エアロック解除!リドックいいぞ!」

ドウッ

目の前の、扉が消、え、た。

吸い込まれそうな 闇が 目の前に あった。

『上に・・・・何か・・・・あるな・・・・』

視界の上に、大きな白い物体が、シャトルだとわかるのに数十秒かかった。

「ピー・・・・・ガガガッ・・・・聞こえるか・・・リドック・・・・そろそろ、上からコンテナが落ちてくるぞ・・・・・ちゃんと拾えよ・・・・それをワイヤーで固定するだけだ・・・・行け!」

どうにでもなれ!

リドックの 心が 宇宙で 命の鼓動を伝えていたようだった・・・・

ラインが地球に帰されるまであと一日と2時25分・・・・

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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ⑧

宇宙ステーションで、セシルラインに拘束されているなど、超能力者でもない限り、想像することはない。

リドックも、合流ポイントで待機しているシャトルの船内で、自分の宇宙服の最後の点検をしていた。

様は、薬を積んだシャトルが前から来るから追随して、シャトルが切り離した荷物を、宇宙遊泳をしながらリドックが、自分たちのシャトルにワイヤーで縛って固定するだけのことを今からやろうというのだ。

僕が?できるんですか?

「セシルに良い土産話ができるだろ。男らしさをアピールできるじゃないか。」

冗談じゃない・・・・

「僕たちは、シャトルとの相対速度を合わせる仕事があるからね。君しか手が開いていないんだ。」

勝手だよ・・・・大人って・・・・

現実は自分の思い通りに進むことはない。むしろ悪い方向に進む時もある。宇宙遊泳を2、3回経験しても、シャトル上でやるのは初めてである。

『手が・・・・まだ震えてる・・・・・いつも・・・自分の計画性のなさに飽きれるよ・・まったく・・』

あとは、自分の運に賭けるしかなかった。信じるしかない。

「ライン・・・俺やるよ・・・・セシルさん・・・好きだ・・・・また・・あの笑顔を見るまでは・・・死ぬもんか!」

シャトル接近の警報が、静寂の船内を打ち破った!

ラインが地球へ帰されるまであと一日と8時間・・・・

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今、この宇宙で想うこと ランデブー編 ⑦

ゆっくりと静かに、時間が動いていた。このテラスが2人の言葉を吸収するかのように。

「トイレでって・・・・いつのことですか?」

「さっきかな。あなたの声がトイレからしたのよ・・・」

セシルの表情を見ると、怪しいというよりも不思議に思っている感じであった。

「友達ができたのかなって思ったんだけど・・・・いないって言うし。変だなと思って・・・社員寮の近くにいるから昔からの知り合いでもいたの?」

「そっ、そうなんですよ。昔お世話になった知り合いと偶然会いましてね。ついトイレで話していたんです。体の具合も聞かれて。」

嘘を隠すために、舌が饒舌になっているのをラインは感じていた。

「そうなの?仲良い雰囲気のは見えなかったけど・・・・」

心臓が突然鼓動を変えた。今まで飲んでいたコーヒーから手を離すライン。

「なぜ・・・・そう思うんですか?」

核心をつかないでくれと心の中で何度も願っていた。核心をついた瞬間にラインはセシルを・・・・

「だって・・・・持ち出したんでしょ?あの・・・

一瞬の出来事であった。

セシルの後ろにまわり込んだラインは、細くしなやかな彼女の首を2つの手で、絞、め、た。

彼女が意識を失うのに、十秒もかからなかった。うめき声もあげないことに、ラインは心のそこから良かったと感じた。

「少しの間、監禁します。リドックが帰ってくるまでのあいだ・・・。ごめん・・・リドック・・・・恋は叶いそうにないよ・・・・

ラインが地球に帰されるまであと一日と12時間5分・・・

1140942020316

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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ⑥

星空の見えるテラスは、仕事で疲れた社員がほっと一息つける憩いの場として作られた。

「ここっていつも空いてるのよね。みんな見飽きてるのかしら?」

「星よりも自然に飢えてるんじゃないですか?僕は好きですよ。」

セシルは、ストローのついたコーヒーをラインに渡した。

「気分はどう?落ち着いた?」

「解熱剤が効いてるんです。普段はこんな余裕はないですよ。」

セシルやみんなに後ろめたい気持ちを悟られないように、ラインは平静を装っていた。

「そういえば、セシルさんは友達はできましたか?僕はまだ。」

平凡な話題を繰り返して話を終わらせたかった。

「できたけど、男友達が多いわね。同姓には嫌われてるわ。」

「どうしてですか?」

「仕事ができるのが気に食わないんでしょ。男以上にね。それにランチに頻繁に誘われているから・・・」

「もてるんですね。」

「やめてよ。断るので一日終わってしまうわ。別に化粧もロクにしていないのにね。」

油まみれの髪を優しく撫でる姿が、仕事の忙しさを表していた。

「化粧していなくても綺麗ですよ。リドックもそう言ってました。」

「ありがとう。でもシャワーも3日も浴びてないから臭いわ。」

「ははっ。僕もです。臭いからセシルさんの臭いも気にならないです。」

自分のやった事は間違いではなかったかと思う。

仲間を裏切ってまで、目の前のセシルさんを2回も騙してしまった。

彼女は僕のことをどんな目でみているのだろうか?

「ひとつ聞きたいことがあるの。」

「・・・何ですか?」

「トイレで何をしていたの?」

ラインが地球に帰されるまであと一日と20時間・・・

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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ⑤

「何でまたトイレなんだ!書類は俺のポストに入れてくれと言っただろ!」

男子トイレの個室で、男はそう怒鳴っていた。外に漏れない程度の声で。

「状況が変わりました。ここで覚えてここで捨ててください。その方が早いでしょう?」

ラインはそう言いながら、壁の隙間に書類を押し込んだ。

「そうだな。どこも同じか・・・もし見つかったらどうする?」

「その時は、逃げるか、拷問を受ける前に自殺するしかないですね。機密を流してるんだから覚悟は必要でしょう。」

「ああ。まさかこのステーションが、地球にいる人間を随時監視してるなんて誰も気づいてないんだろうな・・・」

「表面上では多目的試験型宇宙ステーションってことになってますからね。テロ行為は迂闊にできないはずです。」

「だから宇宙に上がってしか、レジスタンス組織は行動できないものな。お前も良くやってるよ。」

「地球に戻されば、もう地球は拝めないかもしれません。宇宙不適格者のレッテルを貼られ島流しですよ。」

「それまでに、拾ってやるさ。病気は月のアングラで治してやる。それまで粘れよ!」

男と別れた後、ラインは医務室には戻らず、テラスで外の風景を楽しんでいた。

『・・病気にさえならなければ、こんなに急ぐことはなかった・・・・』

星空を見ながらひとり、テラスに言葉を反射させていた。

ラインのそんな姿を、セシルが見つけたのはトイレの密談から、十分後のことである。

A0023520_205140 ラインが地球に帰されるまであと一日と22時間・・・

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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ④

リドックを乗せた高速シャトルは、もうすぐ別のシャトルとの合流地点まで距離でいうと、半分を切った。

ただし、らしい、としかいえない。

コンピューターがそう知らせてくるだけで、宇宙に目印などはない。だから、今どこを移動しているかは、エンゲストアーブロにもわからない。

リドックは、会話のない船内の息苦しさと自分課せられようとしている大事な任務のことで頭が重かった。

「・・・お前、頭はいいか?」

突然、前の操縦席から声がした。

「僕ですか・・・・?は、はい。入社試験は結構良かったんですよ。まあ、量子力学や宇宙工学は若干ラインのほうがいいですけどね。」

「そうじゃない。論理的にお前は行動しているのか?」

「もちろんですよ。宇宙飛行士の資格も取りましたし、宇宙事業団の株だって所有してるんですよ。」

「それって 自分のため だけだよな?」

「・・・も、もちろんですよ。30過ぎてアピールするものがなければ、職を失いますから・・・今のうちに実績を作りたいんです。」

エンゲストの質問の意図がよくわからなかった。彼は何でこんな質問をするんだろうと。

セシルに男を見せるために、この任務に同行したことも?」

リドックの想いは、当の本人以外仲間にとっくに知れ渡っていた。ラインが話したわけではない。自然に見破られていたのだ。

「ま・・・まあ・・・」

感情や周囲に流されてるじゃないか東洋人の血がそうさせるのか?人間、何に価値を持つのは勝手だが、猿山のボスになりたいなら数学でも勉強するんだな。所詮は猿のやること。独りよがりの生き方でしかないんじゃないのか?」

隣のアーブロに目線を送っていた。

「私に振られても・・・・一度の人生ですから・・・・好きなことできるほうが・・」

でも、全員がオンリーワンになるためには、授賞式が毎日ないと駄目だよな?」

ラインが地球に帰るまであと2日と45分・・・・・

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著者:中井 隆栄
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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ③

二度同じ場所で気絶しているのは不自然だと思われてしまうから、今度は男の部屋まで赴くことに決めたのだった。

『ダミーの手紙と一緒にポストに投函しておいてくれ。読んだらすぐにトイレに捨てておくから。この間のデータはもう送ったから安心してくれ。』

男に言われたとおり、彼の部屋のポストまで自力で行かなければならないのが、今のラインには億劫だった。体のだるさが取れないのだ。

『解熱剤を飲んでも・・体が重いや。5分以内に戻らないと・・・・怪しまれるな・・・』

ハンドグリップで無重力帯を移動しても、病気のせいで体は楽ではない。むしろ、汗がうっすらとラインの額からにじみ出ていていた。

彼の部屋は、もうすぐだった。その角を曲がって・・・2軒目に・・・

そこへ・・・・

「ライン君・・・?どうしてここにいるの?」

なぜか・・・そこに立ち寄るはずのない人が立っていた。

セシルである。

「あっ・・・・・どうしてここにいるんですか?」

「君を探しにきたのよ。帰りが遅いから・・・・道にでも迷ったの?ここは、ステーション社員寮区画よ。あなたは関係ないでしょ?」

「あの・・・方向感覚が狂ってしまって・・・・迷ったんです。はい・・・」

「やっぱりね・・・監視カメラで君の姿を見つけて・・・急いで先回りしたんだから・・・早く帰りましょ。」

そういうとセシルはラインの手をとって、医務室まで連行した。

途中彼女はラインに一言も口を聞かなかった。

『また・・・・トイレで会うか・・・・でもこの人は何であそこに・・・・・いたんだろう?』

セシルに対して後ろめたさだけが、ラインの胸をいっぱいにした。

薬が届くまであと2日と10時間・・・

1139754772647

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今、この宇宙に想うこと ランデブー編 ②

ひとりステーションに残ったセシルは、休憩時間には必ずラインの見舞いに行くことが習慣となっていた。

当たり障りのない性格で、すぐにステーションの中でも友達ができたセシルではあったが、仲間意識が高いここでは、少し浮いた存在になっていた。地球勤務が長いことを知られ、嫉妬の対象になっていたからである。美人なのも災いした。だからラインを看護することで、その問題から逃げようとしていた。

「こんちには、ケイス医師。ライン君はおとなしく寝ていますか?」

「おや・・よく君は来るね。熱も少し下がったから、トイレに出かけてるよ。」

「なんか大丈夫じゃないですか?熱も引いたんですよね?」

「この病気は昼間は回復したように見えるだけで、夜はまた熱が上昇するんだよ。だから治ってないんだ。」

「そうですか・・・薬・・・間に合うといいですね。」

「そうだね・・・一応彼の診断書も向こうの業者に送ったし、やることはすべてやったから待つしかないね。あと2日と15時間を・・・」

彼らが出発してからもう一日が過ぎようとしていた。ラインが地球に戻される日まで2日と15時間。彼らは間に合うか?

そして今、ラインもまた・・・・不穏な行動を起こしている最中だった。

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今、この宇宙で想うこと ランデブー編 ①

「こんなことになるとはな・・・・・」

高速シャトルの貨物区で一人、荷物や備品のチエックをさせられているリドックは自分のおかれた状況に、少し後悔をしていた。

ラインの容態が良くないため、特効薬を大至急用意する必要があったが、宇宙ステーションの内部にある薬では効き目がないため、アーブロの知り合いに用意してもらった。

ラインが地球に帰される日まで、間に合わせることができるかは、依然としてわからないまま・・・・

「とりあえず、ポイントαまで俺たちの高速シャトルで向かい、アーブロの知り合いのシャトルを待つ。そこで、向こうのシャトルが見えたら、旋回し並列に進み、薬の受け渡しをスムーズに行う。それが済んだ直後に、エンジンを全開に上げ、宇宙ステーション最短距離を進み短時間で帰還する。 以上だ。」

淡々と今回の任務について述べるエンゲストの顔に、不安の色は見えなかった。しかしよくよく考えると無茶で実現不可能に近い任務でもある。安全の保障や最短で帰還できる策が見当たらないのだ。

「俺の仕事は何ですか?備品チエックだけ・・・・ってわけじゃないですよね?」

書類にチエックを済ませたリドックは、操縦席に流れてきた。アーブロもエンゲストも自動操縦のプログラミングを打ち込んでいる最中だった。

「まあな。セシルの変わりに・・・・ってわけじゃないが・・・お前には男を見せてもらったからな・・・・一番重要な仕事を任せるよ。期待してるぜ。」

「ははっ・・・・そうですか・・・・がんばろうかな・・・・」

引きつった顔をする以外に、リドックは何も言えなかった。

出発する前に、自らこの任務に志願したからだ。

当初は、アーブロとエンゲストに2人で遂行する任務だったのだが、セシルが同行したいと猛烈に嘆願をしてきた。その勢いをまじかで見たリドックは、男としてすぐに決断できない臆病な自分を呪った。

「セ・・・セシルさんは・・・行かなくても・・・いいんじゃないかな・・」

「どうゆうこと?私は役に立たないとでも?」

「そうじゃないんです。僕が行きますから。あいつの傍についていてください。こうゆう仕事はおと・・・男の仕事ですから。」

「今時、そんなこと言うなんて・・・古い考え方ね。」

「友人のために・・・頑張りたいんです。自分の力で・・・・ね?」

「・・・・わかったわ。経験を積んできなさい。私はこれでも看護士の経験もあるからね。」

そういって、セシルの好意を少し上げてきたリドックであった。

だが、プライドだけで行ったことをいまさら後悔していた。この先どんなことが待っているか。

神にしかわからない領域

それが・・・・恐ろしかった。

「エンジン臨界点までカウントダウン 5、4、3、2、1、・・スタート!」

どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

ステーションから飛び出した、高速シャトルは星空のかなたに吸い込まれていった。

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総集編「今、この宇宙に想うこと」を100倍楽しく見る方法!

ステーション編が終わり、次からランデブー編に突入し、ますます物語から目が離せない作品になりつつある「今、この宇宙に想うこと

今日は、途中から読んだから話がよくわかんな~い!って人にこれさえ見れば「今おも」100倍楽しく見る方法を教えちゃうぞ!

これで君も、明日からクラスの人気者になれること山の如し!だよ!!

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登場人物相関☆

リドック=マアスは本編の主人公なんだ!左上の黒髪の青年だよセシルさんが大好きっ子で、エリート意識が高い青年なんだ!ラインとはいい友達関係で、よきライバルなんだ!男の友情ってなんか・・・良いよね♪

・ライン=マイアナは大人しく、やさしい青年!現在は、病気になって苦しんでる。でも、何か怪しいんだ・・・・・本編では謎の男と取引してたからね・・・・もしかして・・・・・・・・おっとこれ以上は言えないな金髪の青年だよ

・セシル=シルリーアは美人で気立てがよくて、精神的なケアが凄く上手い理想の女性なんだ!知識も教養も抜群!男に媚びない性格なんだよ?過去にいろいろあったみたい。

・エンゲスト=ウォルドは宇宙事業団メンバーのキャプテンなんだ!若いのに決断力、行動力にすぐれ、部下思いのキャプテンさん。ただ後先考えない単純な性格が玉にキズ!減給されちゃったんだ!

・アーブロ=マイヤーは真面目そうな風貌とは裏腹に、大胆なシャトル操縦テクニックを兼ね備えているんだ!薬剤師の知り合いがいて、ラインの病気を治すための重要な役割を果たすんだ!要チェキ!

・ハーム=ラクスタ主任は宇宙ステーション「ロイド」の主任さん。自分の出世と避暑地巡り以外は何も他人のことは考えていない人なんだ。使えない奴はさっさと切り捨てる人なんだ。

ケイス医師はラインが宇宙病にかかった時に、熱心に治療にあたったお医者さん。彼のおかげでラインは、自分で歩けるまでに回復したよ!

宇宙ステーションを舞台に、交錯する人間関係!

リドックの片思いは成就するのか?

ラインの病気は治るのか?ラインと接触した男の目的とは?

エンゲストのラインの病気を治す作戦とは?

オメガって何?

「今、この宇宙に想うこと」ランデブー編 ①は2月20日から始まるよ!

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連載小説休載のおしらせ

       ・お詫び・

このブログを読んでいる変わった者たち、如何お過ごしでしょうか?

この度、筆者がグアム取材のため、連載小説を休載させていただきます。

関係者ならびに、読者の皆様には多大な迷惑をかけてしまって、心から

お詫びを申し上げます。連載再開は2月20日からを予定しております。

ただし、予定は未定ですので、筆者の独断と偏見により、連載中止もありえます。

その時は、思いっきり叱ってやってください!彼もほめて伸びるタイプですので目が覚めると思います。

まことに勝手ながらここに休載を宣言します。どうか 殿、お許しを・・・・・・

2006年2月14日 チョコがもらえなかった空の下で

セイジ先生の作品が読めるのは、このブログだけ!応援ヨロシク!!

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今、この宇宙に想うこと ステーション編 Ⅷ

リドックは、ラインを医務室に帰した後、エンゲストに呼ばれて食堂に足を運んだ。そこには、セシルアーブロ氏も集まっていた。

「今、ベットで安静にしていますが熱は下がっていませんね。」

「そうか・・・・アーブロの知り合いはいつここへ来るんだ?」

「それがな・・・・どうやら2週間後にステーションに到着するみたいなんだ。」

「間に合わない・・・ってこと?」

「急いで、2週間なんだ。一応、彼に聞く抗生剤も見つけたみたいだがな。」

「ラインだけ新人教育プログラムも遅れてるからな。これ以上は引き伸ばせないか・・・・もって3日だな・・」

「ラインは・・・・地球に帰りたくないと・・・・俺も彼の気持ちわかりますから。倍率120倍の難関を突破して入社したんです。あきらめられるもんじゃないです。」

「私も、薬を早く彼に届けられる手はないんですか?キャプテン!」

エンゲストは何も言わなかった。彼もお見舞いに行った時、ラインから仕事を続けたいとさんざん言われていたからだ。エンゲストが説得する余裕も隙も与えられず、聞き役に徹することしかできなかった。

「知り合いの現在位置は?今どこなんだ?」

「SE-S1459ポイントで進行中です。それが何か?」

みんなはエンゲストの顔を見ながら、次の言葉を待っていた。彼に今までついてきて、自分の判断は間違いはないと確信していたからだ。彼は28という年齢に相応しないリーダーシップを発揮しつつあった。

あっちが来れないなら、俺らが取りに行くぞ!3日以内にな!」

人生の運の量をここで使い果たしてしまおう・・・これは、リスクの大きい賭けであった。親友と一緒に仕事を続けるための・・・

最初で最後のランデブーである・・・・

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今、この宇宙に想うこと ステーション編 Ⅶ

「なんで、僕がトイレにいるってわかったの?」

ラインは、自分を背負って移動しているリドックにそう呟いた。

「勘だよ。お前とはもう地球研修以来の仲だからな。行動パターンが読めるんだよ。」

「え?」

少し、心臓の鼓動が早くなった気がした。

「冗談だって。本気にするなよな。エンゲストキャプテンに監視カメラの設置してないトイレも調べろって念を押されたからさ。行ったら、お前がトイレでぐったりしてたから。エンゲストをちょっと見直したよ。」

そう照れくさそうに、リドックは言った。

「そうか。みんなに迷惑かけちゃったかな・・・大分トイレで気を失ってたから。」

これからも迷惑をかけるのは・・・間違いない。

「地球に帰りたくないんだろ?」

「まあね。人類の未来がかかってる仕事なんだ。途中で辞めたくない。だから病気は気合で治すよ。」

「ほ~う。そういえばアーブロ氏の知り合いが薬剤師でな。もしかしたら特効薬を届けてくれるかもしれない。待てるか?」

「待つさ!リドックほどじゃないけど」

「・・・何のことだよ?」

セシルさんのこと好きなんだろ?ここに入ってから」

リドックは即答しなかった。

「・・・・・・ああ。そうだよ。悪いか?」

少し、リドックの声のトーンが下がった。いつもの彼の声ではないような気がした。彼は本当にセシルが好きなのだ。

「僕も応援するからさ。頑張りなよ。彼女凄くいい人じゃないか。考え方もしっかりしてるし。気がつくしさ。」

ラインも彼女のことはよくわかっていた。

「知ってるよ。俺が一番彼女を知ってるさ・・・・・。病気のお前に心配されるとはね。弱気になってるのかな。俺」

リドックは、悩みを初めて他人に聞いてもらった気がして、うれしかった。

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今、この宇宙に想うこと ステーション編 Ⅵ

基本的に、トイレなどに監視カメラは設置されてはいない。

「・・・・・・・・・・か?」

「・・・・・そうです」

隣の個室から、男の声が聞こえた。年は30くらいだろうか?

「・・・壁越しでよく聞こえないが・・・・例のデータベースは持ち出したか?」

「地球にいた時、ハッキングして・・・・・・取れるだけ・・・・これです。」

下の2センチの隙間から、ディスクをゆっくりと隣へ移動させた。

「すまん・・・・重要な書類は後で、俺の部屋のポストに投函してくれ。覚えてすぐ隠滅するから。」

「は、はい。ゴホッ、すいません。」

「どうした?」

ウィルスに感染したみたいで・・・・今日まで自由に動けませんでした・・」

「薬もってくるか・・・?」

「無理ですよ。ここの薬は一通り試しましたから・・・・。もしかしたら、地球に返されてしまうかもしれないです。」

「まずいな・・・・とりあえず・・・3日後に書類を届けてくれ。ディスクはすぐオメガに渡すから。そうすれば、地球に居座るジジイどもを一掃できるからさ。」

「頼みます・・・・ゴホッ」

「じゃ・・・・」

そう言って男は、男子トイレから姿を消した。

「まだ・・・・・隠れてたほうがいいな・・・・便所に行ってて・・・そのまま気を失ったことにすれば・・・・みんなの目を誤魔化せる・・・」

ラインはそう言って、便器の後ろにもたれかかった。熱は少し下がってはいるが、だるさだけはとれなかった。

リドックがそこへ辿り着くまで、数分の時が流れていた・・・・・・

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今、この宇宙に想うこと ステーション編 Ⅳ

あれから三日経っても、ラインの容態は一向に良くはならなかった。

リドックは、セシルアーブロと違う職場で新人教育を受けていたが、エンゲストの呼びかけでランチだけは皆一緒に食堂で食べていた。地球出身同士、馬が合うことと、シャトルの件がまだ尾を引っ張っていたからだ。

話題はラインの容態について持ちきりだった。

「本当の所どうなんですか?抗生物質が効いてないらしいって・・・」

リドックは、まだ新しい仲間を作れていないことで、寂しさを紛らわすためよく医務室に顔を出していた。エンゲストやセシルともたまにそこで会うのだが、アーブロ氏が見舞いに来たかどうかは怪しかった。

「熱が下がらないんだ。以前よりは少しマシになったが。まだ復帰できそうにないな。」

「宇宙にある新しいウィルスなんですかね?自分たちは大丈夫みたいですけど。」

アーブロ氏はコーヒーをストローで吸い込みながら答えた。

「体質の問題かもな。新しい環境に慣れるのに時間がかかる人間はいくらでもいる。少し様子を見て、長引くようなら、地球の病院に搬送しようと思うが、みんなはどう思う?」

「彼はどう言ってるんです?私は彼の意見を尊重したいですね。」

セシルははっきりとそう言った。アーブロ氏も黙って頷いていた。

「本人は宇宙で仕事をしたいと・・・俺に泣きついてな・・・・ああされると、困ってしまうな・・・リドックは・・・どう考えてる?」

「僕は・・・・同期がいなくなるのは・・・・何というか・・・さびしいですね。やっと宇宙に来れた実感のないまま・・・地球に返されるのはラインだって・・・後悔すると思う。地球に返す以外に方法はないんですか?」

リドックは孤独を誰よりも・・・・恐れていた。

「ここは、医療施設が十分じゃないから・・・・この近くで薬を調達するしか・・・ないな」

「仕事中にですか?」

「難しいな・・・・アーブロ氏は何かいい方法はあるか?」

「どうですかね・・・・知り合いに薬剤師の奴がいるんですけど・・・そいつに頼めば薬は横流ししてくれるかもしれませんね。」

「近くにいるのか?」

「いえ・・・・火星を中心に・・・・商売をしてるもんですから・・・・どうでしょう・・・」

「連絡は取れるのか?もし、地球に寄る用事があるなら呼び寄せてくるんだ!いいな。」

「無駄かもしれませんよ?期待しないでくださいね。」

宇宙ステーションの馴れ合いの空気になじめていないリドックにとって、ラインだけが友達だった。

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今、この宇宙に想うこと ステーション編 Ⅲ

ハーム主任から事情は聞いてるよ。その子かい?」

白衣を着た男の名札には、ケイスとプリントしてあった。

「はい。最初は宇宙酔いかと思ったんですが・・・途中から様子が急変しまして・・・」

エンゲストラインと自分を縛っていた紐を解きながら答えた。

「脈は?」

「かなり早いですよ。熱も39、5度くらいです。」

「・・・宇宙初体験者に良く現れる症状が出ているね。これは。免疫力が低下したところにウィルスが入った可能性がある。」

ベットに寝かされたラインの心音を聞きながら、ケイス医師は慎重に症状を確認していた。

「他の人には感染しますか?」

「大丈夫。それほど感染力はないが、全員消毒室に入ったほうが良いな。」

「彼はどれくらいで回復しますか?新人訓練を伸ばすわけにはいかないので・・・」

エンゲストが一番聞きたいことである。

「そうだね。水分と抗生物質を十分取っていれば、3日で良くなるよ。それより君は大丈夫かね?」

「私が・・・ですか?今のところ何も体の具合は・・・」

「そうじゃない。シャトルの件だよ。ハース主任は自分の出世しか考えてない男だから気をつけたまえよ。」

「・・・・・忘れてましたね・・・すっかり・・・。ヤバイな・・・待たせてるんだっけ・・」

照れ笑いを浮かべながら、ラインの容態で頭がいっぱいだったエンゲストはようやく今になって自分の置かれた状況を知った。

まっ・・・がんばって・・・

そうケイス医師に励まされたが、正直あんまりうれしくはなかった。

「えー、ごほん。無事に我が宇宙ステーションに着艦できた君たち5名をここに歓迎しよう! エンゲストキャプテン率いる宇宙事業本部のスタッフ諸君!だが、少々荒っぽかったのではないかね??久しぶりに喉が潰れたよ。怒ったし・・・・まあ、ライン君の容態を考慮しての判断らしいが、アーブロ氏の操縦に感謝するんだな?この事は上層部には、緊急対策措置法に乗っ取った正しい行為として報告しとく。エンゲストくん、君にはルール違反を犯した罰として、一週間の自室謹慎を言い渡す!いいね?」

「その間の給料は・・・・・・・?もちろん、でないですよね?アハハッ

とりあえず島流しだけは避けられたみたいだった。Bcba1744

次回 「熱が下がらない!!」

見てください!!

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今、この宇宙に想うこと ステーション編 Ⅱ

ハーム=ラクスタ主任はいつものように、管制室のドアをレバーで開けていた。最近電気系統が調子が良くないみたいで、自動ドアも手で開けなければいけないことになっていたが、ステーション6年目のベテランとなれば、楽にこなすことができた。

「もうすぐ地球の事業本社に帰れるんだ。たいした失敗もしていないから、課長代理にはあがれる筈だな・・・こんな離れ小島に来て、使えない部下と一緒に過ごした6年間が報われると思えば、残りわずかなステーション勤務も苦じゃないってもんさ。」

地球帰還まで残り一ヶ月を切ったハームは、今の自分の現状を納得させるために そう 言い聞かせていた。傍では、必死にマイクで怒鳴っているコールスタッフの姿を目で追いながら・・・・

『おまえら、余計な事はするなよ。責任は全部俺に来るんだからな。あと一ヶ月切ったんだ。仕事の引継ぎを早く済ませて、俺は地球で避暑地巡りをするんだからな!』

その時である。

「そこの小型シャトル!!まだ着艦許可は出していない!!速やかに減速せよ!繰り返す!シャトル1022!管制室はまだ着艦許可を出していないんだぞ!!減速せよ!!港には二基のシャトルが待機してるんだぞ!

若い男性コールスタッフがそう怒鳴っているのが、ハームの耳に届いてきた。

「どうしたんだ?何かあったのか?」

振り返った男性スタッフも、初めてのことでどう対処していいかわからないといった顔を、ハームに返してきた

「シャトルの船員に具合の悪い者が出たから、すぐに医務室に連れて行きたいと。着艦許可を待っている時間が惜しいからベイブロック奥に今から入港する。しいては他の船に連絡し進入ルートを我々のために確保されたし です。」

想定外のことが起こると、人間は極度に不安に陥るようだ。

「そんなこと、今すぐにできるかあああああ!もうやつら入口に侵入してきてるんだぞおおおお!俺の評価を下げるつもりかあああ!あのシャトルめ!どこから来たんだ!?」

部下が全員見てる管制室の中で、ハームは主任らしからぬ怒号をあげていた。

衝突事故でもあれば、ハームの首が飛ぶのだ。

声を荒げても、人は動いてはくれない。それがわからない指揮官は有能ではない。今更冷静に対処しようとしても、シャトルの進行を止める術を思いつかず、彼はシャトルが無事に着艦することを見てるだけしかできなかった。

アーブロの操作技術や小型シャトル二隻しか停泊していなかったこともあり、奇跡的に衝突事故もなくリドックたちが乗るシャトルは、着艦することができた。もちろん着艦用フックに先端を接続し、ワイヤーで固定することを忘れはしなかったが・・・・

「ハーム主任が呼んでいる?後にしろ!それよりラインは極度のストレスや疲労による宇宙病にかかってるかもしれんぞ!第5ブロックだな?OK。」

エンゲストは、自分が木星にでも飛ばされる事を覚悟の上で、ラインを助けようと必死だった。

Jupiter 次回 「エンゲストの運命」

    ご期待ください

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今、この宇宙に想うこと ステーション編

「距離400メートル、軌道を7度修正・・・・あと三分で宇宙ステーション06 ロイドに到着します。」

アーブロ氏が操縦するシャトルは、思いのほか揺れていた。彼の外見とは裏腹に、アバウトな運転をする人だなとリドックは少しだけ親しみを覚えた。

「今時、オートマ運転でここまで揺れるかね。マニュアルよりも下手っぴだな。」

リドックは、隣に座るラインにも聞こえないようにそっと呟いた。彼なりのアーブロ氏に対する評価なのだろう。旧式のシャトルタイプなのか推進剤の使い方が悪いのか、シャトルの乗り心地は最悪だった。前者だとすると、旧式のシャトルを扱う羽目になったアーブロ氏の境遇を思えば、少しくらいは我慢しなきゃいけないという心が働くのが大人の度量なのだが・・・

リドックはそこまで大人ではなかった。

「2人とも宇宙酔いはしていない?大丈夫?」

セシルが心配そうな顔をして2人の席へ流れてきた。彼女はメンタル面で人の支えになる素質を十分に持っていた。よく気がつく女性なのだ。

「もうすぐですよね?大丈夫ですよ。これから過酷な任務が待っているのにここで疲れてられませんよ。なあ?ライン?」

「う・・・うん。そ、そうだね・・・リドック・・うっ・・・・・」

ラインの口はそう言っても、顔は明らかに青く変色していた。宇宙酔いをしているのだ。口からかすかに泡を吹き、目は焦点が合っていなかった。

「ライン・・・・?酔ったのか?セシルさん・・この症状・・」

「キャプテン!来てください!ライン君が宇宙酔い特有の症状にかかってます。」

副操縦席に座っていたエンゲストは、ただならぬセシルの声を聞いて、急いで3人の下へ飛んできた。

「脈は?速くなっているな・・・目の焦点もあっていないし・・・早くステーションの医務室へ運んだほうがいい。アーブロ!まだ着かないのか?」

息が荒くなってきたラインを横に寝かせ、操縦席にすわるアーブロに声をかけた。

「今、ステーション ロイドが見えましたよ。減速してるところです!どうしたんですか?」

目の前の作業に集中しながら、アーブロは後ろの情報を知ろうとしてきた。ステーション入港の時はオート操作ではなく、マニュアルに切り替えてベイブロックに入港する決まりになっている。他のシャトルの発進の邪魔にならないようにするためであり、衝突事故を防ぐためだ。

「ライン=マイアナの具合が良くない。宇宙酔いの症状が現れてるんだ!なるべく早く医務室につれていきたい。入港の時間を短縮できないか!?」

「無茶いわないで!今、管制センターの許可待ちです!レーザーロックも出てないんですよ!」

管制室の連絡を待ってる時間はない!!責任は俺が持つから港ブロックに入港するんだ!

「しかし・・・・許可がないと・・・後でどうなるか・・・」

マニュアル通りに現実が起こるものか!宇宙なら億単位の事例ばかりなんだ!!想像するんだよ!早くやれ!俺が責任を取ると伝えろ!

無茶苦茶な論理をまくし立てるエンゲストを横で見ていたリドックは、彼の度胸と勢いに唖然としながらも、なぜか頼もしさを感じていた。

『なぜかこの人といると安心する。これがキャプテンとしての責任と義務か・・俺だったらどうだろうか?・・」

「了解!減速中止。ベイブロックに艦影少数。今から突っ込みます!!」

「なるべくシャトルは傷つけるなよ!地球に帰る時も使うんだからな!」

「そうゆうことは、港にいる艦艇に言ってくださいよ。今から港に入港する!!道をあけろ!!緊急事態なんだー!」

シャトルにあるスピーカーでアーブロはそう怒鳴った。焼けくそである。

南無三!!!!

東洋の侍の国でよく気合を入れるときに使った言葉だなと リドックはなぜか、そんなことを考えていた。

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