« 2007年5月 | トップページ | 2007年7月 »

2007年6月

小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 七

F9a62597_240_3イラスト/小日向そら

右(ライン)左(リドック) 中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

制服の内ポケットに押し込まれた携帯端末が、リドックの心臓の上で激しく振動した。彼はそれを急いで取り出すと、液晶ディスプレイに目を走らせた。

『リドック少佐、直ちに地下三階の第二格納庫へ向かわれたし。少佐の機甲戦車部隊をもって、敵のロボット兵士たちの進行を阻止せよ。』

白黒の画面には、たった二行で、そう書いてあった。

「口で言うのは簡単だよな。あんたらがやるわけじゃないんだから!くそっ」

唾を吐き捨てて、リドックは、階段を急いで駆け下りる。

「ライン・・・・俺は汚れちまった・・・・・・もう・・・・まともな人間には戻れそうにない・・・・でも・・・・お前だけは俺と同じ道は歩むんじゃないぞ・・・」

誰に聞かせるわけでもなく、リドックは、口の中で、言葉を転がした。

敵の接近を知らせるサイレンは、まだやかましく鳴り響くだけであった・・・

「兵器や道具がいくら進化したって、それを使う人間が進化しなきゃ戦争だってなくならないはずだぜ・・・」

若者は、一人、薄暗い基地の通路を、ただ闇雲に通り抜けた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 六

F9a62597_240_2

右(ライン)左(リドック) 中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

「こんな事を言えるのは、恥知らずだと思うし、お前にとって俺たちのしたことは一生消えないとは思うが・・・・・・力を貸してくれ・・・・お前とお前の家族の命は、我がアジア連合軍が保障させてもらう。」

リドックは、何度もラインのほうへ頭を下げたが、ラインはそれに反応せずに、窓の外を見つめていた。

「・・・無理やり俺の体を拘束できないから、泣き落とし作戦か?まったく・・・軍隊という組織には、反吐が出るな・・・・手のひら返しして、俺に媚を売るとはな・・・」

「他の実験に参加した人間は全員死亡した・・・・・お前だけが唯一の成功例なんだ・・・」

「・・・いつから軍関係者の対弁者になったんだ?」

「・・・・・・・・」

ラインの言葉に、リドックは何も返すことができなかった。

「・・・・・?煙・・・・・・?」

「え?演習でもやっているのか?」

急に外が人の声で騒がしくなって、リドックは窓の外へ目を向けた。遠くのほうで、森の間から白煙が天に昇っていくのが、はっきりとリドックの目に映っていた。

「俺たちじゃない・・・・まさか・・・・・・」

「どうやら・・・・第二ラウンドの始まりの合図かもな・・・」

ラインは、皮肉たっぷりに言葉をひねり出す。

「くっ・・・・・」

リドックは、ラインにかまわずに部屋を出ようとすると、突然、部屋にあるスピーカーからサイレンが鳴り響いた。

「緊急警報発令!兵士総員は第一種戦闘配置につけ!目標は基地に急送接近中!数300!ロボット兵士部隊の可能盛大!これは演習ではない!」

ラインとリドックは、顔を見合わせた。まだあたりには、人の悲鳴は聞こえなかった。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 伍

F9a62597_240_1

右(ライン)左(リドック) 中央(セシル

小説 戦いの向こう側へ 前回までのあらすじ

ベットの上で、ラインは静かにまぶたをあけた。目の前には、かつての親友リドックが、静かにラインの顔を凝視している姿が見えた。

「・・・・・・・」

もはやラインは。リドックに言うべき言葉が見つからなかった。彼はリドックのせいで、人生を台無しにされたも同然だからである。ラインは黙ってリドックを睨むとすぐに視線を窓の外に向けた。

窓の外では、戦闘バイクや戦車がひっきりなしに演習を行っている姿が見えた。

「ライン、お前はあのこと・・・・覚えているか・・・?」

リドックは、窓の外を見ながら突然口を開いた。

「・・・・・・・」

「ああ・・・・覚えていないだろうな・・・・・・お前がこの基地に潜入して軍に捕まり、拷問を受けたとき、お前の牢屋に傷薬が転がっていたこと・・・」

「・・・・・・・」

ラインは黙っていた。

「そういえば食料もあったな・・・・・あれは誰が差し入れたと思う?」

「・・・・・・・・」

「俺が、軍の倉庫から横領したのを、お前に渡したんだぜ?ま、信じてもらえないだろうがな・・・」

ラインは、何も答えない。

「・・・・・・・なあ・・・・・・ライン・・・・・・今から言うことは、お前にとって屈辱以外の何者でもないと思うが・・・・静かに聴いてくれ・・・・」

リドックは、ラインに顔を向けた。

「俺・・・・いや・・・俺たちはお前にとんでもないことをした・・・・・お前の体を弄繰り回し、新兵器の実験台にした。それにお前の恋人を陵辱し、殺した。これは俺が100回死んだところで償えるようなレベルの罪じゃない。」

「・・・・・・」

「だけど・・・・起こってしまったことをいまさら変えられるほど、俺は神様でもなければ聖人君主でもない・・・・が・・・・・・俺はお前のためにこれから尽くして生きたい。いや・・・・お前のためになんでもする・・・・・だから・・・・」

「だから・・・・?」

ラインは、重い口を開いた。

「だから・・・・・・・力を・・・・・・お前の力を・・・・貸してくれ!」

リドックは、頭をたれて、ラインに哀願をした。

Banner_02_4

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 斯

「リドック隊長、どうしたんです?」

シンは、自分の左義手の調整をしていた。

「なんだ?何かあったのか?」

リドックは急に声をかけられたので、動揺していた。

「こっちは何もないですよ。隊長は何かあったんですか?」

「いや、別に・・・・・・・・部隊の全員は待機しているな?」

「隊長の指示があるまで、部屋に待機してます。」

「わかった。俺は少し用事で席を空けるが、俺がいない間でも整備や武器の点検は怠らないように仲間に言っておいてくれないか?」

「隊長はどこへ?」

「ン・・・・・・・ま、いいじゃないか・・・」

リドックは、シンの作りの物の肩をポンと叩いた。

「リドック少佐、これは、これは。」

白衣を着た科学者たちが、やりなれない敬礼をリドックに向ける。

「ン・・・・・被験者に面会は許されているのかな?」

「ライン元兵士ですか?」

「ああ。」

「彼はまだ電気によるショックで昏睡状態のままですが・・・お会いになりますか?」

「そうか・・・・・なら目覚めるまで待たせてもらう。」

「そんな・・・・・・何時間かかるかわからないのですぞ?」

「我々の運命は、彼が握っている。そんな時間なぞ苦にはならんさ。」

リドックは、パイプ椅子に腰をすえて、博士たちの顔を順番に眺めていた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 参

「仲国軍が我々に反旗をひるがえしたと?」

「まあ・・・・そうゆうことだな・・・・・これで世界は、アメリカ連合勢力と反アメリカ勢力の戦争に突入したといっていい・・・・我々は、アジア連合軍ではなくアメリカ連合軍の傘下に入ったことになる。」

会議室にいた佐官たちは、黙ってエイダスナーを見つめていた。

「我々は、これからどういった戦略を立てていくべきなのですか?我々のこの基地は、中国大陸のど真ん中に位置しているのですぞ?いつ敵が襲ってくるかわからないではないか!」

エダ・リュウ中佐が、エイダスナーに詰め寄る。

「・・・・・・・まだそのことについては返答を差し控えさせてもらう。ショウ・ヤマガタ大将からは、なんの命令も下されてはいない・・・」

リドックは、会議室の雰囲気に呑まれて、何ひとつ言葉を発することができなかった。

「・・・・・・・・しかし・・・・我々にはアメリアという大国の軍隊が味方についてくれた。これは素晴らしいことではないかね?あの軍事大国世界第一位の国と手を結べたことは、我々の実質的な戦争勝利への道につながっていくと私は考えている・・・・それに・・・・」

エイダスナーは、ちらりとリドックに視線を向けた。

「リドック少佐、君があの我が軍の新兵器である「新人造人間」を取り戻してくれた。たいした怪我もなく、部下の犠牲も最小限で抑えてくれた功績は、私は高く評価しているよ。人造人間は、ロボット兵士に対抗できる、我が軍の切り札だからな。」

リドックは、ただ、黙ってエイダスナーに頭を下げた。

「・・・・・うん。今日は、これだけを君たちに伝えるために集まってもらった。詳しいことは、後日に改めて報告する。以上!」

エイダスナーは、そういって、会議室を足早に出て行ってしまった。

残された佐官たちは、まだ突然のことで動揺しているのか、席を立つものは、いなかった。

『・・・・・・結婚式どころの話じゃない・・・・・・・これから俺たちはどうなってしまうのか・・・・・』

リドックは、震えの止まらない右足を、手で力いっぱい押さえつけた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 弐

リドックは、シースにキスをすると、彼女の部屋を後にした。

「上手くいっているのか、いないのか・・・・・・」

これまでの自分の人生を振り返って、リドックは一人、、自嘲的な笑みを浮かべていた。

親友の恋人を殺し、親友を組織に売り渡し、自分は恋人と共に安穏とした場所で安全を確保している。

「神がもしいるとしたら、これから罰を受けるのは間違いなく俺だな・・・・・しかし・・・・・・神は、人間のやることなどいちいち反応しているわけにもいかないか・・・」

晴れて少佐となった彼には、第95機甲戦車中隊という部隊指揮官という名誉と30人ほどの部下の命を預かる責任者という立場が両方襲ってきた。

「十分な功績を残した君は、我が軍の誇りだ。中傷なぞ気にする必要はない。」

「ありがとうございます。」

任命式でショウ・ヤマガタ大将からそう言われ、リドックは少し憂鬱な気分が抜けたような気がした。

任命式の後、彼は佐官クラスがあつまる午前会議に出席を命じられて、会議室の門をたたいた。

「いいニュースと悪いニュースがある。まずいいニュースから言ってもよろしいか?」

エイダスナー大佐の目は、遠くを見つめているようだった。

「まず・・・・・アメリア連邦軍との共同戦線をはる条約が結ばれた。まあ、そうせかすなマイス少佐・・・・・このおかげで、軍事技術や物資、補給の面でアメリア軍からの十分な提供があるといっていい。彼らもEU軍やロシアが怖いのだろう・・・・そして悪いニュースは・・・・・仲国が・・・・・アジア連合軍から正式に脱退を表明し、EU軍やロシア軍と手を結んだのだ・・・・」

苦虫を噛み潰したように、エイダスナーは口もとをゆがませながら話を続けた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 加速する世界 壱

「リドック大尉・・・・じゃなかった、リドック少佐だっけ・・・?」

「ああ、今日からな。なんか実感ないけど。」

「任命式は午前九時からだよね?ならまだここにいてもいいんだ?」

「そうだな。まだいるさ。」

「士官学校も出ていないのに、24歳で少佐にまで出世できるなんて、なんか不思議だよね。軍隊も変わってきたのかな?」

シースは、鏡の前で金髪のロングヘアーを紐でまとめていた。リドックはその後姿を眺めて、ずっとこんな風に彼女を眺めていられたらどんなに幸福。なのかをひとり考えていた。

『金髪で、胸が大きくて、太もももボリュームがあって、色白で、俺にとって理想の女性だよな。』

昨晩の情事後にもかかわらず、リドックは、体中から湧き上がる欲情の感覚を必死で振り払おうとしていた。

「どうかした?」

リドックの熱い視線を感じ、シースは振り返った。

「いや何ね、君が生きていてくれて良かったなって・・・・そう思ってね・・・・」

急いでリドックは制服の襟を整えた。階級章は彼の制服の肩や胸に並んでいた。

「初めて会った時は、頼りなくて男らしく見えなかったけど、こうやって制服を着ている姿は、なんだか素敵に見えるよ。」

シースは、リドックの肩にあごを乗せた。

「昔は素敵じゃなかった?」

「う・・・・ん・・・・可愛くてほっとけないタイプだったかな。」

「今は少しでも威厳が出てきたとは思わない?」

自分の顔を見て、やけに皺が多くなったとリドックは痛感した

「そう言っている間は無理ね。人を威圧する眼光がないもの。」

「鬼軍曹じゃないからな。俺は。」

「そうね。体育会系のノリはちょっと苦手なタイプでしょ?」

2人は、静かに笑いあった。

『そうだな・・・・人は愛し合っているからセックスするのであって、セックスしたから愛し合うわけじゃないと思っていたが、俺たちの場合は違うみたいだな。男は後者の考え方が多いみたいだが、少なくとも俺たちは愛が生まれたのはセックスをしたあとであった気がする。体を重ねてお互いに必要な存在となっていったのは・・・・』

「んとさ・・・」

「ん?」

「結婚しないか?」

「え?」

シースは目を大きく開けた。

「君を失いたくない。安全な場所で俺の帰りを待っててくれないか?」

「・・・・・・」

「駄目か?」

「・・・・・・・」

「今すぐ・・」

「いいよ。」

「え?」

「うん。ありがとう。ずっと、その言葉を待っていたの・・・・・・」

シースは、大粒の涙を流し、リドックの胸になだれ込んだ。

「もう私・・・・・迷わない・・・・・・・あなただけ信じているから・・・・・」

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ これまでのあらすじ

時は西暦2057年

島国、サン・ブックに住んでいた青年リドックラインは、第三次世界大戦下で、政府が決めた徴兵制で、アジア連合軍(仲国、サン・ブック、堪国、フィリピーナなどの同盟国)の陸軍に配属された。

彼らは戦場で生き残っていくが、ある日敵のEU軍兵器との戦闘中にラインが行方不明のまま死亡扱いとなる。ひとり生き残ったリドックは、アジア連合軍の中で少佐へと昇格。部下を引き連れて戦闘の指揮をとるまでに。

そんな中、リドックは非政府組織「ガーナディアン」の女スパイ、セシル(実はラインの恋人)の尋問を担当。彼女から組織の情報を聞き出そうとするが、そこへ死んだはずのラインが現れる。

ラインは、ガーナディアンのリーダーとしてアジア連合軍基地を襲撃・捕虜奪還作戦を敢行するが失敗。逆に囚われアジア連合軍の新兵器開発の実験台として体を改造される。

人体実験後、ラインは超越的な力を得て、セシルと共にアジア連合軍基地を脱出しようとするも、セシルリドックに撃たれて絶命。ラインは単身、リドック率いる機甲戦車部隊を攻撃するもあと一歩及ばず、彼はまた軍に拘束される。

そして、中国軍がEU軍との停戦・共同を発表。広大な中国大陸の中で、アジア連合軍サンブック基地は窮地に追い込まれることに。

EU軍のロボット兵士軍団に基地を襲われて、孤立を余儀なくされるリドックたち。果たして彼らを待つ運命は?

続きはWeb・・・・じゃなくて本編でね♪\(^w^)/

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ ⅩⅠ

「お前が・・・・セシルを殺したのは事実だ・・・・・・俺は、お前をもう親友だとは思わない・・・・・」

ラインは、憎しみの炎で、自分の理性を焼き尽くしていた。

「がはっ・・・・・・」

リドックは、苦しみにもだえながらも、暗闇の中で何かが自分たちの近くによってくるのを目の端で捉えていた。

「そう・・・か・・・戦場なら仕方がないとは思わないか・・・・?お前の言っていることは詭弁だぞ・・・・?」

フフッとリドックは笑った。

「何ぃ!!」

「戦争・・・・・行為に人道的も非人道的も・・・・・ない・・・・・・と・・・・神は・・・・・・・そう・・・・・俺たちに・・・・・教えてくれた・・・」

リドックは目で、後ろに回るように合図をした。無数の人影が音もなく、ラインたちの後ろに周った。

「俺は・・・・・俺は・・・・・・」

「思い・・・・あ、が・・・・・るなよ・・・・・お前は・・・・・神様にでも・・・・なったつもりか・・・・・・・その力で・・・・・戦争をなくせるほど・・・・・世の中は・・・・・・わかりやすく・・・・・ないってこと・・・・さ!」

リドックは、残っていたすべての力を、肘の神経に伝達した。

「ごほっ!!」

みぞおちに、綺麗にリドックの肘かヒットする。

「今だ!飛び掛れ!」

その声に呼応するように後ろに控えていた影が、ラインとリドック飛び掛った。

「大尉はどいてください!スタンガンを使用します!」

「OK!死なない程度に浴びせてやれ!」

「了解!」

スタンガンの火花が、ラインの体に次々に押し当てられる。

「ぐああああああああああああああああああ!!!!」

魂の絶叫とともに、ラインの体は身動きをすることなく地面に横たわった。

「個人の力がいくら優れていても、平凡な人間のたちの組織力に負けるのとは・・・・数の論理ってやつか・・・・・」

「一万ボルトの電流を流しました。生きているのが不思議なくらいです。どうしますか?」

「とりあえず・・・・・・基地に戻るぞ。」

リドックは、失神したラインの体を、優しく抱きかかえた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅹ

そして夜の静寂が、再び彼らの前に戻ってくると、森や木や動物たちは、いつもの平静な顔で、再び眠りにつこうとしていた。

「空手・・・・・習っていたのか・・・・・?」

「プロレスの首固めを自分なりに解釈したもんだ。亜流だよ。」

「お前がプロレスなんて見てるとはな。初対面の時は、真面目で面白みのない奴だと思ってたがな。」

「軽い奴だと思ってた。女を食い物にして平気な顔をしてる。」

「俺がか?」

「処女を奪うのが楽しみとかいってなかったか?」

「理想はな。もっと純情なやつだぜ?俺は。」

「自分で言うな。」

人間の蛮行に、他の動物たちや自然が付き合う必要などは、どこにもなかった。

「セシルが死んだよ。」

「!?」

リドックは、ラインの手が急に自分の喉ぼとけに食い込んでいくのがわかった。

「く、空襲で死んだのか・・・・・俺も彼女のこと好きだったな・・・・肌が白くて眼が大きくて、胸はそんなにないけど、黒髪が良く似合う子だったな。茶髪が似合わない・・・・いい・・・・・子で・・・」

「お前が殺した・・・・」

「なっ・・・・」

静かにゆっくりと、ラインは言葉を続ける。

「お前らの捕まえた捕虜の女・・・・・・・セシルだった・・・」

「まさか!彼女が・・・・こんな戦場に・・・・・・・来るわけ・・・・・・ない・・・・」

「身分を偽って・・・・・お前・・・・・・・捕虜を・・・・・・虐待・・・・・したよな・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「神様は、お前を許してくれると思うか・・・・?」

ラインの腕が、小刻みに震えた。

「くっ・・・・・・か、神がもしこの世にいるならば・・・・・人間の業など関知するはずがない・・・・と思うが・・・・・」

「人の生き死に興味がない・・・・と?」

「ああ・・・・・・動物の数が減ったほうが・・・・・地球にとっていいことなんだ・・・・だからみんな・・・・・・し、死ぬべき・・・・・なんだ・・・・」

「なら、先にお前を!」

ラインは、すべての力を、両腕に預けた。数分もたてば、リドックの命は、この世から消え去るはずであった・・・・

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅸ

「目標、十字砲火ポイントまであと10m切りました!リドック大尉、一斉砲撃の合図お願いします!」

リドックは、インターカムのマイクをゆっくりと口元まで下ろした。

「了解!全砲塔の角度を水平に維持した後、目標が動かないうちに全機、砲弾を叩き込め!跡形もなく何回でも打ち込むんだ!!生きている状態で捕虜にする必要はない!!」

「OK!」

部下たちの士気と戦意は、リーダーの鶴の一声でひとつになった。

「目標確認!広場に出てきました!」

「よし、打てーーーー!!」

その瞬間、左右に三機ずつ待機していた機甲戦車の砲塔が、中央の広場にいたラインに砲弾を浴びせていた。閃光と煙の渦が雨のように一人の人間に集中していく。そしてかつての親友の姿は、閃光と中へ消えていった。

「よし!もういい。一時撃ち方止め!状況を確認せよ!」

「大尉、目標は熱センサーや赤外線センサーにも反応がありません!やりました!作戦は成功です!」

「・・・・・・・そうか・・・・・みんな・・・・・よくやった・・・・」

「大尉!我々は正しかったから勝てたのですよ!我々に大義があったから・・・」

「正しいとか間違っているとか、そんな高尚なことは神様にでも聞いてくれ・・・・いるならな・・・・」

リドックは、乗っていた戦車上部にある扉を開けて、外へ顔を出した。

「・・・・・・死ぬのって・・・・・・あっけないものだな・・・・・」

月の綺麗な夜空を、リドックはひとり仰いだ。が、その静かな時間は、もう終わりに近づいていた。

「まだ俺は死ねない・・・・人間の業の深さを後世の人に伝えるまでは!!」

リドックの視界の上から、人間の影がまっすぐ舞い降りた。

「指揮官を潰せば、後は烏合の衆でしかない!それは戦術の基本的中の基本だ!」

「おまえ・・・・・・上空に逃げて・・・」

「俺の跳躍力を甘く見たな。」

ラインは背後をつくと、リドックの首を両腕でがっちりと固め、眼では戦車の動きを逐一頭で処理し始めていた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅷ

『ん・・・・?戦車の動きが変わった・・・・陽動でこっちを包囲殲滅しようというのか・・・リドックのやつ・・・・いつからそんな戦術の勉強なんかしたんだ・・・・あいつ、大学の授業もろくに聞かなかったくせに・・・』

ラインは、戦車の動きに呼応することなく、砲塔をむけたまま後退していく機甲戦車の一団を眺めていた。

「なぜ俺が素手で戦車をやれたのかはわからないが、この力、利用しない手はない。」

そばには、車輪と砲塔を潰された戦車の残骸が、身動きできずにラインがいなくなるのをじっと待っているかのようであった。

「外に出たら俺に殺されるからか・・・・?」

そんな風に思っていた、その刹那

『!? 砲弾が11時の方向から来る!!』

と思うと同時に、すでに体は回避運動をとっていた。

ドゴーーーーーン!!!

すさまじい破裂音と振動と閃光が、同時にラインを襲った。彼は即座に頭を地面にこすり付けるように下げ、鼓膜を守るため耳をふさいだ。

「さすがに・・・・・戦車砲にはかなわんかな・・・・・」

煙が舞う中、頭を上げて辺りを見回すと、ラインが潰した戦車のひとつが、砲撃で炎上しているのが見えた。

「確か・・・・・・中に人がいたな・・・・・」

燃え盛る炎は、容赦なく戦車すべてを飲み込んでいった。そして、鉄の棺野中からかすかな人の悲鳴のようなものが、ラインの耳を通って、脳髄に伝達されていった。

「味方の誤射で人生を終えることも、戦場では当たり前の光景・・・・・・ドラマや映画のようには・・・・・いかないか・・・・」

炎は、生物の命を吸って、さらに勢いを増したようだった。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅶ

「体が軽い・・・・砲塔を殴ったのに怪我ひとつしていない・・・・・いける!」

ラインは、セシルの遺体を森の中へ隠しおわると、リドックたちへ突進していった。

「こんな狭い場所で、戦車の機動力を生かせるとでも思ったのか!!」

呆然と立ち尽くしたリドックを尻目に、ラインは次々と機甲戦車のフロント部分へ突撃していった。その姿はまるで、壇ノ浦の戦いで八双飛びで武勲をあげた、源義経のように・・・・

「リドック大尉!我々に指示を!このままだと機甲戦車八機が、たった一人の人間に潰されてしまいます!!あれは、一体何なんですか?」

リドックの装着しているインターカムの奥で、部下の兵士の悲痛な叫びがひっきりなしに響いた。

「・・・・・・これが・・・・・・アジア連合軍の技術の結晶である限界を越えた人間とマシーンの融合体・・・・・なのか・・・・」

瞬時に銃弾の進入角度を首の頚椎センサーで感知し、アウトボクサーのごとく最小限の足のステップで回避運動をしながら、敵のもっとも脆弱な部分を一撃で破壊できる力と速さ・・・・・

「まさに人間の臨機応変能力と機械のような正確さを極限まで追求した新兵器・・・・・・・なのか・・・・・?」

リドックは、ただラインの動きを眼で追うことしかできなかった。その間にも、2機の戦車が、車輪を自動小銃で打ち抜かれて、身動きの取れないまま中に乗っている兵士たちは、顔を出した瞬間にラインに首の骨を折られたまま、息を引き取っていった。

「・・・・・・・リドック大尉!!早くしないと!!」

「・・・・・くっ・・・・全機、距離をあけながら散開し、機銃をつかって奴をけん制せよ!その間に十字砲火のフォーメーションにやつを誘い込め!一発でも当てれば、それで十分だ!」

「でもそれでは生かして捕らえるという命令を無視することになるんじゃ・・・・」

「もう5人も部下が死んでいる・・・・・四の五の言っていられるか!」

戦車対人間の戦いは、若干戦車側がおされているという様相を呈していた。その事実に、リドックは、苦虫をかみ締めるように、インターカムに怒鳴りつづけていた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅵ

「逃げなかったのか・・・・・・ライン・・・・・・」

セシルの亡骸を抱きかかえたラインの周りは、リドックの率いる戦車部隊にいつのまにか囲まれていた。

「・・・・・・・・・」

リドックの指示で、照明の光がラインひとりに集中した。

「・・・・逃走ルートはこちらが押さえた。」

「初めからから逃げられるとは思っていない。それに彼女をひとりで置いていくわけにはいかなかった・・・・・」

ラインは、ゆっくりと彼女のまぶたを閉じてやった。

静かに、ゆっくりと、涙雨が、空から降ってきて、ラインたちを包み始める。

「個人の力で、社会や世界を変えることなんて理想論だよ。俺は・・・・・そうできないからここにいる・・・・お前も・・・・・」

リドックは、戦車から降りて、ラインに歩み寄った。

「俺は・・・・・絶望と不幸の味を知っている・・・・・・この意味が解るか?」

「味・・・・・・?」

「もはや俺は、神以外の存在を恐れはしないということだ!」

ラインは、空へ舞い上がると、まっすぐに機甲戦車のひとつに取り付いた。

「あいつ・・・・・何を!?」

「戦車は砲塔と車輪を潰せば、単なる鉄の棺おけにしかならない!」

肘を、砲塔の長さのちょうど半分の場所へ振り下ろした。

ガツン!

金属音とともに、U字に砲塔が曲がっていった。

「馬鹿な!漫画じゃあるまいし!」

リドックは、ラインのその一連の行動に、人間に秘められた超越的な力の存在を認めざるを得なかった。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅴ

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅴ

「出血が止まらない・・・・・・どうすればいいんだ!!」

セイナを抱きかかえながら、ラインは夜の闇をかけていった。

「・・・・・・・早く止血と輸血をしないと・・・・・体温が下がりはじめている。」

彼女の顔から生気がなくなり、みるみる青く黒く変色していった。

「バイク・・・・・・そうだ!戦闘バイクを盗み出せば・・・・」

ラインは、戦闘バイクが隠してある納屋のほうへ向かっていった。

「君を死なせるわけにはいかない・・・・君は・・・・僕にとって・・・・」

そう言いかけて、ラインはハッと我に返った。

「僕は何を・・・・・僕にはサン・ブックにセシルがいるじゃないか・・・・・」

久しく忘れていた恋人の名前が、急にラインの頭によみがえる。

「似ている・・・・・君は・・・・・セシルに似ている・・・・そうか・・・・・だから・・・俺は君を・・・・・」

「ライン・・・・・・」

「起きていたのか?」

「うん・・・・・私ね・・・・・隠していたことがあったの・・・・・」

「何?」

「私・・・・・・セシルよ・・・・・・」

「え・・・・・?」

「名前を偽って、あなたの元に来ちゃった・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「だって名前を明かしたら、すぐに強制送還されちゃうんだもん。女は足手まといだし、あなたならそれくらいするでしょ・・」

ラインは、突然の彼女の発言に、狼狽した。

「いままで・・・・俺は・・・・・君になんてひどいことを・・・・・・・ごめんね・・・・」

「泣かなくていいよ・・・・・私が選んだ・・・・・人生だから・・・・・・誰のせいでもないの・・・・」

セシルの体が、どんどん冷たくなっていく。

「早く・・・・・病院へ行こう。ベッドで輸血しなくちゃ・・・・・・・そして僕がずっと君の手を握っててあげる・・・・・もう絶対に離しはしないよ・・・・」

セシルの手は、今にも折れそうなくらい細く、そして脆く見えた。

「私の人生は・・・・・・ここで終わりだけど・・・・・・あなたは生きていて・・・・・私の変わりに・・・・・この先の未来を見てきて・・・・・・そして死んだら・・・・天国で私に話してほしいの・・・・・」

「ああ・・・・・・ああ・・・・・・」

ラインは涙で、前が見えなくなっていた。

「・・・・・・・・・・」

そして、彼女は眼を開けることは、一生なかった。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅳ

ダン!

銃声が鳴り止んだ後、ラインの腕の中にいた彼女の体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

「あ・・・・・」

彼女の体から流れおちた血液が、血の海へと変わり、ゆっくりと床を侵食していくのが、はっきりとラインの網膜に認識されていった。

「くっ・・・・・・リドック!」

彼女を抱きしめながら、野獣のような眼でラインはリドックを睨み付けた。

「あ・・・・・・・いや・・・その・・・殺すつもりはなかった・・・・まだ医者に見せれば助かるかも・・・・」

リドックは、自分が引き金を引いたことをすっかり忘れているかのように、狼狽していた。

「おまえたちはいつもそうだ!自分は悪くない。自分は命令されただけ。拒否すれば殺されていただの何だの・・・・それが子供の上に立つ大人の言うことか!!」

彼女の血は、ずっと止まることなく流れつづけた。

「俺を・・・・こんな風にした軍隊が悪いよ・・・・俺は学生の頃、虫だって殺せなかった・・・・・」

リドックは、拳銃の向きをラインに修正していた。

「まだ言うのか!」

ラインは、物凄い速さで、ラインに突進していった。

「!?」

その人間を超えた足の速さに、リドックは拳銃を撃つこともできずに固まっていた。

パシーン!

暗闇の中で、何かが転がっていく音が聞こえた。

「・・・・・リドック・・・・・俺はお前は殺さない・・・・・」

「・・・・・・」

「もう・・・・行くよ・・・・・」

悲しい声と共に、ラインは、彼女を抱きかかえて、夜の闇に消えた。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅲ

「どこへ行くんだ?ここは2階だぞ?」

リドックの手の中の拳銃はまっすぐラインの右にある心臓に向けられていた。

「・・・・この高さなら死にはしない。」

ラインは窓の外の闇を凝視し、窓の淵に足をこすり合わせた。

「よせ。お前が逃げたら親友だった俺が真っ先に疑われる。俺の責任になるんだぞ。」

「・・・だからなんだ?」

「だからこのままここにいろ。お前たちは死刑にはしないと約束する。俺が上層部に嘆願してやる。だから・・・」

リドックは、ラインと目を合わせることはしなかった。

「リドック・・・・もういい・・・・俺は人間に心底、絶望した。だからお前たちとは一緒にいられない。」

「お前だって、人間だろうに!!」

銃弾は、ラインの頬をかすめた。

「・・・・・・・・」

「そうだな・・・・俺も人間さ・・・・・でも俺はただの人間じゃなくなったんだ・・・・」

「どうゆうことだ?」

「お前たちの軍隊のモルモットにされた。人体実験のモルモットにな。」

「まさか・・・・新兵器のために捕虜を利用すると・・・」

「お前はそれを知ってて止めようともしなかった。」

ラインは、頬に流れる血を、親指で拭いた。

「俺だって・・・・・俺だって・・・・・・・軍隊で生きていくためには・・・・こうするしか・・・」

「ああ・・・・・その生き方はある面では必要悪かもしれないが、倫理的には許される行為だと思うか?」

「人間が悪いんじゃない!悪いのは人間が生み出したシステムだ!欲望や本能をベースにした資本主義や軍国主義が悪いんだよ!」

そして二発目の弾丸が、ラインの心臓に向けて発射された。

| | コメント (0)

小説 戦いの向こう側へ 正義は閃光とともに・・・ Ⅱ

「セイナ・・・・無事だったか・・・」

「ライン・・・・どうして・・・・・?」

ラインは、セイナの手首に巻きついていたロープをほどき、部屋の隅でうずくまっている男たちの服を脱がずと、セイナにそれを着せた。

「寒かっただろう?痛かっただろう?ごめんな。助けるのが遅くなって・・・」

ラインは、体の震えが止まらないセイナの体を、服で包んだ。

「もう・・・・こんなの嫌・・・・・はやくうちに帰りたい・・・・・あったかい世界に帰りたいよぉ・・・・」

セイナは、ラインの腕の中で、静かに震えていた。

「ああ・・・・そうだ・・・・・こんな虚栄と強欲と欺瞞の世界から抜けだそう・・・俺は、もう、人間という動物が、こんな生き物だったことに、正直がっかりしたんだ。もう、この世界を捨てて、2人で人間のいない場所で暮らそう。」

ラインは、両腕でセイナの体を支えると、歩き出した。

「出口は、あっちか。」

もはや、強靭な肉体と精神力を手に入れたラインを止められるものは誰もいないだろう。

「ライン!」

建物の窓の手すりに足をかけた時、後ろでラインを呼ぶ声がした。

「・・・・・・・リドック・・・」

彼らを阻むもの。それは拳銃を向けたかつての親友リドック以外には以内であろう・・・・

| | コメント (0)

« 2007年5月 | トップページ | 2007年7月 »